【完】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん

文字の大きさ
68 / 90

68 自分勝手

しおりを挟む
「僕がいない間にユリアが他の奴と婚約するかもしれないのなら、僕は他国へなんて行かない」

 あまりにも身勝手な言葉に、私は思わず耳を疑った。

 レスターの他国行きは、フェルをはじめ多くの人間が関わっていることなのに、それを個人の勝手な意見で行かないなどと言い出すなんて。

「レスター! そんなことは許されないわ。貴方一体何を言ってるの⁉︎ せっかくみんなが貴方のためにって他国行きを準備してくれたのに、それを台無しにするつもり⁉︎」

 他国行きを台無しにするというか、それに関わる多くの人達の親切を踏みにじるつもりなのか。

 そんなことをしたら、如何にレスターに同情的なフェルといえども、さすがに許せないと思うに違いない。

 一生動かないと診断された足が、再び動くようになるかもしれない唯一の機会。それだって、オリエル公爵家の伝手を使ったからこそ得られた話であるというのに、レスターはそれすら棒に振ろうというのか。単に私がレスター以外の誰かと婚約してしまうかもしれないというだけで。

「でも私達は、もう婚約者同士でもなんでもないのよ? もしもレスターが他国へ行かないとしても、私は他の人と婚約するかもしれな──」
「させない! 僕が傍にいたら、ユリアに僕以外と婚約なんて絶対にさせない!」

 だったら婚約解消した意味は?

 と頭に浮かんだものの、レスターのあまりの剣幕に、私は椅子に座りながらもたじろいでしまう。

「そんなことを言っても、お父様が婚約をすすめてきたら……」
「なんとかするさ。そもそも僕の父だって、君との婚約解消には反対だったんだ。それを、治療に何年かかるか分からないからと君の父親にゴリ押しされて、無理矢理婚約解消させられたようなものだからね。結局足が不自由になった僕を、サイダース侯爵が見限ったってことなんだろうけど。……君の父親は、何を考えているか昔から本当に分かりやすいから、うちに話をしに来た時に、顔を見てすぐに分かったよ」
 
 言われた瞬間、私は恥ずかしくなって俯いた。

 お父様は普段から自分の気持ちや考えていることが顔に出やすく、内心を隠さなければいけない貴族としては、失格の部類に入る。それでも大きなやらかしはないため未だ侯爵ではいられているが、何かをやらかした時点で降爵させられそうなギリギリのラインにいることは確かだ。

「ユリア……僕はただ、君を失いたくないだけなんだ。ユリアは僕に裏切られたと言ったけど、それは僕だって同じだ。君との将来のためにと懸命に努力してきたつもりだったのに、君を守るためだと自分の心を律してきたのに、ある日突然婚約破棄を言い渡された。それは裏切りじゃないのか?」

 私を見つめるレスターの瞳が、辛そうに歪められる。

 裏切られたのは、私だけだと思っていた。
 
 でもまさか、彼も自分が裏切られたと思っていたなんて、考えもしていなかった。

 婚約破棄の話し合いをした後も、大怪我をして毎日お見舞いに通うようになってからも、レスターはそのことについて何も言ってはこなかったから。

「……意外だった? 凄く驚いた顔をしてる。でも当たり前だろう? 僕は君との将来のために殿下の側近を目指し、これまでの理不尽な扱いにも耐えてきた。おまけに足まで動かなくなって……それでも負傷してからは毎日ユリアがお見舞いに来てくれたから、これで僕達はやり直せるって思った。これからまた少しずつでも、元の関係に戻って行ければって……」

 そうだ、私も同じようなことを思った。

 レスターと婚約者としてやり直そうとは思わなかったけれど、昔の幼馴染の関係に戻れたらって。

 本物の家族になることはできなくとも、お互いの家族同士、以前のように仲良くできたら、って。

「……僕は君とやり直せると思っていたのに、ある日を境に君は一人では邸に来てくれなくなった。そして、僕が治療のために他国へ行くことが決まった途端、婚約解消って……まるで待ってましたと言わんばかりのタイミングじゃないか。これで裏切られたと思わない方がどうかしてる」
「レスター……」

 悔し気に歪められた彼の表情を見て、私は何も言えなくなってしまう。

 私はまた、レスターの気持ちを無視していたんだ。彼が私と婚約者としてやり直そうと思っていただなんて、考えたことすらなかった。私はただ、足が動かなくなって落ち込むレスターを、励ますことに精一杯で──。

「少しでもユリアに良い暮らしをさせてあげたいと思ってた。今まで傷付けてしまった分、ユリアを幸せにしてあげたいとも思った。だから僕は、たとえ少しの間ユリアと離れることになっても、他国へ行って治療を受けようと思ったんだ。だけど、その間にユリアが別の男のものになるなら話は別だ」

 レスターの纏う空気が、不穏なものへと変わる。

 このままではいけない──と思うのに、何を言えば良いのか分からなくて。

「レ、レスター待って……」

 なんとかそれだけを口にして、彼の気持ちを少しでも落ち着けようと、懸命に頭を働かせたのだけれど──。

「ユリア、僕は決めたよ。僕は他国へは行かない。このまま国に残って、今度こそずっと君の傍にいる。もう絶対に君から離れたりしない」

 そう言った彼の瞳は、揺るぎない決意に煌めいていた。

 








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました

音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。 ____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。 だから私は決めている。 この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。 彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。 ……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

処理中です...