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39 密告
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「おい、ちょっと待て!」
颯爽と廊下を歩くパルマークを、後ろからフェルディナントが追いかける。
呼ぶ声に気付いているはずなのに、何故かパルマークは足を止める様子がない。
「おい! 待てって言ってるだろ、おい!」
この俺が呼んでいるのに……という気持ちが一瞬チラつくも、フェルディナントはすぐにその考えを打ち消す。
こんな考えはダメだ。俺はアイツとは違う。
そうは思うも、追いかけているうちに段々と腹が立ってきて、フェルディナントは遂に足を止めると、大声で叫んだ。
「てめぇ! パルマーク•ネーヴラントっていったな⁉︎ しっかり記憶したから、覚悟しておけよ!」
廊下の真ん中でビシッと指をさし、すぐさま向きを変えて走り去る。その背中を呆気にとられたように見送りながら、パルマークは(貴方に名乗った覚えは一度もありませんが……)と、内心でため息を吐いた。
どちらにせよ、彼が自分に近付いて来なくてよかったと思う。
今、不用意に自分へと近付けば、彼も王家からの監視対象に含まれてしまうかもしれない。カーライルの手から確実にユリアを逃がすためには、一人でも多く自由に動ける人間が必要だった。
フェルディナントの呼びかけを無視したのも、そのためだ。
剣の腕以外特に秀でたところのないパルマークが、王太子であるカーライルの側近候補に選ばれた理由は、実のところ剣の腕でも家柄でもなく、単に声が大きいからだった。
カーライルの身に何か大変な事が起こった場合、その誰よりも大きい声で助けを呼び、指示を飛ばしたりすることを目的として選ばれた──というのが表向きの理由。裏の理由としては、地声が大きく隠密向きでないパルマークは、王家にとって監視しやすい人材である、というもの。
王族に侍る人物には、王族の身柄を狙ったり、情報漏洩をすることのないよう、必ず一人に最低一人は監視役がつけられる。けれどレスターとパルマークに関しては、学園内ということもあり、四六時中監視はいらないというカーライルからの申し出があったため、通常であれば一人に一人監視役をつけるところを、特例で二人に一人だけしか監視役がつけられなかったのだ。
しかしながら、当然カーライルの身を心配した国王は素直にその提案を受け入れず、「レスターは優秀だから監視役はいらない」というカーライルの申し出に表面上だけ頷き、その実、実直さだけが取り柄のようなパルマークを密やかに呼び出し、「儂の期待を裏切るな」と告げてきた。
結果として、レスターには普段から王家の監視が張り付き、代わりにパルマークが自由の身になるという、カーライルの思惑とは違う形での学園生活が始まることになったわけだが。
パルマークには監視がついていないからこそ、中庭でユリアと初めて言葉を交わしたあの時、筆談を交えながら会話することができたのだ。監視役が張り付いていたら、たとえ筆談といえどカーライルの話など、とてもできなかっただろう。
だが、レスターが大怪我を負って動けなくなった今、監視の目は間違いなくパルマークへ向くこととなった。
それを知りつつ訓練場でのカーライルの蛮行について話したのは、一種の賭けだ。
訓練場で度々行われるカーライルの蛮行について、国王が知っているのか否か。そして、自分とは違い優秀だと言われているレスターを、一時の感情によって息子である王太子が殺しかけたことについて、国王はどう考えるのか。
その二つについて答えを知りたいと思ったから、敢えて監視役にもその話を聞かせたのだ。
監視役からの報告は、王太子であるカーライルではなく、宰相を経て国王へと直接あがる。だから途中で揉み消すことなど一切不可能。
もし今までのことを既に国王が知っていて、その上でカーライルを庇っているというのであれば、手の打ちようがない。しかし違うというのであれば、国王までもカーライルの被った仮面に今まで騙されていたというなら、話は違ってくるはず。
どちらにしろ、王太子の醜聞を流したとして、パルマークは処罰されるかもしれないが。
学園に入ってまだ日が浅いため、大して友人はできていない。家族は…‥悲しむかもしれないが、騎士として正しいことをしたと理解してくれるだろう。ユリアとは……まだ何も始まってすらいない。
「レスター……目が覚めた時に俺がいなくなっていたら、お前は……怒るだろうな……」
せめて……レスターの目が覚めるまでは待ってくれ──とパルマークは祈るように目を閉じた。
颯爽と廊下を歩くパルマークを、後ろからフェルディナントが追いかける。
呼ぶ声に気付いているはずなのに、何故かパルマークは足を止める様子がない。
「おい! 待てって言ってるだろ、おい!」
この俺が呼んでいるのに……という気持ちが一瞬チラつくも、フェルディナントはすぐにその考えを打ち消す。
こんな考えはダメだ。俺はアイツとは違う。
そうは思うも、追いかけているうちに段々と腹が立ってきて、フェルディナントは遂に足を止めると、大声で叫んだ。
「てめぇ! パルマーク•ネーヴラントっていったな⁉︎ しっかり記憶したから、覚悟しておけよ!」
廊下の真ん中でビシッと指をさし、すぐさま向きを変えて走り去る。その背中を呆気にとられたように見送りながら、パルマークは(貴方に名乗った覚えは一度もありませんが……)と、内心でため息を吐いた。
どちらにせよ、彼が自分に近付いて来なくてよかったと思う。
今、不用意に自分へと近付けば、彼も王家からの監視対象に含まれてしまうかもしれない。カーライルの手から確実にユリアを逃がすためには、一人でも多く自由に動ける人間が必要だった。
フェルディナントの呼びかけを無視したのも、そのためだ。
剣の腕以外特に秀でたところのないパルマークが、王太子であるカーライルの側近候補に選ばれた理由は、実のところ剣の腕でも家柄でもなく、単に声が大きいからだった。
カーライルの身に何か大変な事が起こった場合、その誰よりも大きい声で助けを呼び、指示を飛ばしたりすることを目的として選ばれた──というのが表向きの理由。裏の理由としては、地声が大きく隠密向きでないパルマークは、王家にとって監視しやすい人材である、というもの。
王族に侍る人物には、王族の身柄を狙ったり、情報漏洩をすることのないよう、必ず一人に最低一人は監視役がつけられる。けれどレスターとパルマークに関しては、学園内ということもあり、四六時中監視はいらないというカーライルからの申し出があったため、通常であれば一人に一人監視役をつけるところを、特例で二人に一人だけしか監視役がつけられなかったのだ。
しかしながら、当然カーライルの身を心配した国王は素直にその提案を受け入れず、「レスターは優秀だから監視役はいらない」というカーライルの申し出に表面上だけ頷き、その実、実直さだけが取り柄のようなパルマークを密やかに呼び出し、「儂の期待を裏切るな」と告げてきた。
結果として、レスターには普段から王家の監視が張り付き、代わりにパルマークが自由の身になるという、カーライルの思惑とは違う形での学園生活が始まることになったわけだが。
パルマークには監視がついていないからこそ、中庭でユリアと初めて言葉を交わしたあの時、筆談を交えながら会話することができたのだ。監視役が張り付いていたら、たとえ筆談といえどカーライルの話など、とてもできなかっただろう。
だが、レスターが大怪我を負って動けなくなった今、監視の目は間違いなくパルマークへ向くこととなった。
それを知りつつ訓練場でのカーライルの蛮行について話したのは、一種の賭けだ。
訓練場で度々行われるカーライルの蛮行について、国王が知っているのか否か。そして、自分とは違い優秀だと言われているレスターを、一時の感情によって息子である王太子が殺しかけたことについて、国王はどう考えるのか。
その二つについて答えを知りたいと思ったから、敢えて監視役にもその話を聞かせたのだ。
監視役からの報告は、王太子であるカーライルではなく、宰相を経て国王へと直接あがる。だから途中で揉み消すことなど一切不可能。
もし今までのことを既に国王が知っていて、その上でカーライルを庇っているというのであれば、手の打ちようがない。しかし違うというのであれば、国王までもカーライルの被った仮面に今まで騙されていたというなら、話は違ってくるはず。
どちらにしろ、王太子の醜聞を流したとして、パルマークは処罰されるかもしれないが。
学園に入ってまだ日が浅いため、大して友人はできていない。家族は…‥悲しむかもしれないが、騎士として正しいことをしたと理解してくれるだろう。ユリアとは……まだ何も始まってすらいない。
「レスター……目が覚めた時に俺がいなくなっていたら、お前は……怒るだろうな……」
せめて……レスターの目が覚めるまでは待ってくれ──とパルマークは祈るように目を閉じた。
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