【完】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん

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37 怪我の理由

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 保健室の扉を開けて中に入ると、そこには青白い顔をしてベッドに横たわるレスターの姿があった。

「レスター!」

 叫ぶと同時に彼へと駆け寄り、私はベッドの横に膝をつく。

 彼の頭は包帯で覆われていて、血の気のない顔は生きているのか死んでいるのか、見ただけでは分かりかねるほどの顔色だ。

 何故、こんなことになってしまったのか。一体彼に何があったのか。

 尋ねたくとも、本人がこれでは答えようもない。

「レスター……どうして……」

 彼がこんな風になるなど、信じられなかった。

 レスターは勉強だけでなく、剣の腕も確かで、他の側近候補達より抜きん出て実力があると聞いていた。なのに、その彼がこんな大怪我を負うだなんて。

「レスターはいつ……襲われたんですか?」

 側にいる医師に尋ねるべく、私は視線をそちらへと向ける。

 学園の医務室に運ばれているということは、登園途中に襲われたか、学園内で襲われたということだ。登園途中であれば、護衛の人がついていたと思うし、学園内なら、それこそ他にたくさんの人がいたはず。

 なのにどうしてレスターだけが怪我を負ったのだろう……?

 それがどうにも納得できず、言い淀む医師をじっと見つめると、不意に誰かが私の声に答えた。

「その問いには、俺がお答えします……」

 振り返った視線の先にいたのは、ネーヴラント伯爵令息で。彼はどうやら奥のベッドで手当てを受けていたらしく、彼の纏う衣服もまた、ところどころ血が滲んでいた。

 どうしてこの二人が……? 

 王太子殿下の側近候補である二人が同時に襲われ、ここまでの怪我を負うことなどあるのだろうか。もし、そんなことがあるとしたら──。

 刹那、王太子殿下の顔が脳裏に浮かび、私は思わず声をあげた。

「殿下は⁉︎ 王太子殿下はご無事なんですか⁉︎」

 まさか、殿下に何かあったなんてこと──と、心配したのも束の間。

 突然割り込んできたフェルの声が、私の不安を吹き飛ばした。

「王太子殿下だったらピンピンしてるぜ? あんな奴……心配する価値もない」
「それ……どういうこと……?」

 フェルの言動があまりにも不敬で、私は唖然としてしまう。以前から彼が殿下に良い感情を持っていないことは分かっていたけれど、その言い方はさすがにないだろう。

 私達の目の前には、殿下の側近候補であるネーヴラント様がいるのだ。今回のフェルの言動を殿下に伝えられでもしたら、フェルが罰を受けてしまうかもしれない。

 そう思ったのだけれど──。

「確かに……あの方は、心配する価値などないですね」

 ネーヴラント様までもが、フェルの言葉に同意するようにそう言った。

「だろ? あんたもそう思うよな? そもそも八つ当たりで臣下を殺しかけるなんて……王族として失格だろ」

 瞬間──何気なく告げられたフェルの言葉に、私は心臓が止まりそうになった。

 八つ当たりで殺しかけた? 殿下が? レスターを?

 まさか、そんな、と思うものの、大怪我を負ったレスターと、傷だらけのネーヴラント様の姿を見れば、嘘を言っていないことなど容易に分かる。

 でも、どうして? あの優しそうな殿下が、単なる八つ当たりでレスターを傷つけるなんて。

 とてもじゃないが信じられず「それは本当なの?」と聞けば、申し訳なさそうにネーヴラント様が頷いた。

「カーライル様は……普段は上手く仮面を被っていらっしゃいますが、実はとても癇癪持ちなお方で……爆発すると周囲の物に当たらずにはいられないお方なのです」

 は? それってもの凄く危なくない? そんな人が王太子だなんて危険では?

 と思ったけれど口には出さず、私はネーヴラント様の話に耳を傾ける。

「ですがこれまでは、カーライル様が癇癪を起こすたび、王宮騎士達が相手をすることで収められ、問題にはならなかったんです。ですが今朝……カーライル様は何故かレスターのみを早朝から訓練場へと呼び出されたようで、俺が自主練をするために訓練場へ行った時には、既にレスターは起き上がることすらできぬ状態になっており……」

 そこで彼は口を噤み、悔しそうに唇を噛んだ。

 レスターを助けるのが遅くなってしまったことを、悔やんでいるのだろう。けれど、それは違う。

 彼が自主練をしに訓練場を訪れてくれなかったら、レスターは今頃死んでいたかもしれないのだから。
 
 





 
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