37 / 90
37 怪我の理由
しおりを挟む
保健室の扉を開けて中に入ると、そこには青白い顔をしてベッドに横たわるレスターの姿があった。
「レスター!」
叫ぶと同時に彼へと駆け寄り、私はベッドの横に膝をつく。
彼の頭は包帯で覆われていて、血の気のない顔は生きているのか死んでいるのか、見ただけでは分かりかねるほどの顔色だ。
何故、こんなことになってしまったのか。一体彼に何があったのか。
尋ねたくとも、本人がこれでは答えようもない。
「レスター……どうして……」
彼がこんな風になるなど、信じられなかった。
レスターは勉強だけでなく、剣の腕も確かで、他の側近候補達より抜きん出て実力があると聞いていた。なのに、その彼がこんな大怪我を負うだなんて。
「レスターはいつ……襲われたんですか?」
側にいる医師に尋ねるべく、私は視線をそちらへと向ける。
学園の医務室に運ばれているということは、登園途中に襲われたか、学園内で襲われたということだ。登園途中であれば、護衛の人がついていたと思うし、学園内なら、それこそ他にたくさんの人がいたはず。
なのにどうしてレスターだけが怪我を負ったのだろう……?
それがどうにも納得できず、言い淀む医師をじっと見つめると、不意に誰かが私の声に答えた。
「その問いには、俺がお答えします……」
振り返った視線の先にいたのは、ネーヴラント伯爵令息で。彼はどうやら奥のベッドで手当てを受けていたらしく、彼の纏う衣服もまた、ところどころ血が滲んでいた。
どうしてこの二人が……?
王太子殿下の側近候補である二人が同時に襲われ、ここまでの怪我を負うことなどあるのだろうか。もし、そんなことがあるとしたら──。
刹那、王太子殿下の顔が脳裏に浮かび、私は思わず声をあげた。
「殿下は⁉︎ 王太子殿下はご無事なんですか⁉︎」
まさか、殿下に何かあったなんてこと──と、心配したのも束の間。
突然割り込んできたフェルの声が、私の不安を吹き飛ばした。
「王太子殿下だったらピンピンしてるぜ? あんな奴……心配する価値もない」
「それ……どういうこと……?」
フェルの言動があまりにも不敬で、私は唖然としてしまう。以前から彼が殿下に良い感情を持っていないことは分かっていたけれど、その言い方はさすがにないだろう。
私達の目の前には、殿下の側近候補であるネーヴラント様がいるのだ。今回のフェルの言動を殿下に伝えられでもしたら、フェルが罰を受けてしまうかもしれない。
そう思ったのだけれど──。
「確かに……あの方は、心配する価値などないですね」
ネーヴラント様までもが、フェルの言葉に同意するようにそう言った。
「だろ? あんたもそう思うよな? そもそも八つ当たりで臣下を殺しかけるなんて……王族として失格だろ」
瞬間──何気なく告げられたフェルの言葉に、私は心臓が止まりそうになった。
八つ当たりで殺しかけた? 殿下が? レスターを?
まさか、そんな、と思うものの、大怪我を負ったレスターと、傷だらけのネーヴラント様の姿を見れば、嘘を言っていないことなど容易に分かる。
でも、どうして? あの優しそうな殿下が、単なる八つ当たりでレスターを傷つけるなんて。
とてもじゃないが信じられず「それは本当なの?」と聞けば、申し訳なさそうにネーヴラント様が頷いた。
「カーライル様は……普段は上手く仮面を被っていらっしゃいますが、実はとても癇癪持ちなお方で……爆発すると周囲の物に当たらずにはいられないお方なのです」
は? それってもの凄く危なくない? そんな人が王太子だなんて危険では?
と思ったけれど口には出さず、私はネーヴラント様の話に耳を傾ける。
「ですがこれまでは、カーライル様が癇癪を起こすたび、王宮騎士達が相手をすることで収められ、問題にはならなかったんです。ですが今朝……カーライル様は何故かレスターのみを早朝から訓練場へと呼び出されたようで、俺が自主練をするために訓練場へ行った時には、既にレスターは起き上がることすらできぬ状態になっており……」
そこで彼は口を噤み、悔しそうに唇を噛んだ。
レスターを助けるのが遅くなってしまったことを、悔やんでいるのだろう。けれど、それは違う。
彼が自主練をしに訓練場を訪れてくれなかったら、レスターは今頃死んでいたかもしれないのだから。
「レスター!」
叫ぶと同時に彼へと駆け寄り、私はベッドの横に膝をつく。
彼の頭は包帯で覆われていて、血の気のない顔は生きているのか死んでいるのか、見ただけでは分かりかねるほどの顔色だ。
何故、こんなことになってしまったのか。一体彼に何があったのか。
尋ねたくとも、本人がこれでは答えようもない。
「レスター……どうして……」
彼がこんな風になるなど、信じられなかった。
レスターは勉強だけでなく、剣の腕も確かで、他の側近候補達より抜きん出て実力があると聞いていた。なのに、その彼がこんな大怪我を負うだなんて。
「レスターはいつ……襲われたんですか?」
側にいる医師に尋ねるべく、私は視線をそちらへと向ける。
学園の医務室に運ばれているということは、登園途中に襲われたか、学園内で襲われたということだ。登園途中であれば、護衛の人がついていたと思うし、学園内なら、それこそ他にたくさんの人がいたはず。
なのにどうしてレスターだけが怪我を負ったのだろう……?
それがどうにも納得できず、言い淀む医師をじっと見つめると、不意に誰かが私の声に答えた。
「その問いには、俺がお答えします……」
振り返った視線の先にいたのは、ネーヴラント伯爵令息で。彼はどうやら奥のベッドで手当てを受けていたらしく、彼の纏う衣服もまた、ところどころ血が滲んでいた。
どうしてこの二人が……?
王太子殿下の側近候補である二人が同時に襲われ、ここまでの怪我を負うことなどあるのだろうか。もし、そんなことがあるとしたら──。
刹那、王太子殿下の顔が脳裏に浮かび、私は思わず声をあげた。
「殿下は⁉︎ 王太子殿下はご無事なんですか⁉︎」
まさか、殿下に何かあったなんてこと──と、心配したのも束の間。
突然割り込んできたフェルの声が、私の不安を吹き飛ばした。
「王太子殿下だったらピンピンしてるぜ? あんな奴……心配する価値もない」
「それ……どういうこと……?」
フェルの言動があまりにも不敬で、私は唖然としてしまう。以前から彼が殿下に良い感情を持っていないことは分かっていたけれど、その言い方はさすがにないだろう。
私達の目の前には、殿下の側近候補であるネーヴラント様がいるのだ。今回のフェルの言動を殿下に伝えられでもしたら、フェルが罰を受けてしまうかもしれない。
そう思ったのだけれど──。
「確かに……あの方は、心配する価値などないですね」
ネーヴラント様までもが、フェルの言葉に同意するようにそう言った。
「だろ? あんたもそう思うよな? そもそも八つ当たりで臣下を殺しかけるなんて……王族として失格だろ」
瞬間──何気なく告げられたフェルの言葉に、私は心臓が止まりそうになった。
八つ当たりで殺しかけた? 殿下が? レスターを?
まさか、そんな、と思うものの、大怪我を負ったレスターと、傷だらけのネーヴラント様の姿を見れば、嘘を言っていないことなど容易に分かる。
でも、どうして? あの優しそうな殿下が、単なる八つ当たりでレスターを傷つけるなんて。
とてもじゃないが信じられず「それは本当なの?」と聞けば、申し訳なさそうにネーヴラント様が頷いた。
「カーライル様は……普段は上手く仮面を被っていらっしゃいますが、実はとても癇癪持ちなお方で……爆発すると周囲の物に当たらずにはいられないお方なのです」
は? それってもの凄く危なくない? そんな人が王太子だなんて危険では?
と思ったけれど口には出さず、私はネーヴラント様の話に耳を傾ける。
「ですがこれまでは、カーライル様が癇癪を起こすたび、王宮騎士達が相手をすることで収められ、問題にはならなかったんです。ですが今朝……カーライル様は何故かレスターのみを早朝から訓練場へと呼び出されたようで、俺が自主練をするために訓練場へ行った時には、既にレスターは起き上がることすらできぬ状態になっており……」
そこで彼は口を噤み、悔しそうに唇を噛んだ。
レスターを助けるのが遅くなってしまったことを、悔やんでいるのだろう。けれど、それは違う。
彼が自主練をしに訓練場を訪れてくれなかったら、レスターは今頃死んでいたかもしれないのだから。
1,992
あなたにおすすめの小説
彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました
Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。
どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も…
これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない…
そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが…
5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。
よろしくお願いしますm(__)m
【完結】本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました
音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。
____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。
だから私は決めている。
この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。
彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。
……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。
暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。
リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。
その翌日、二人の婚約は解消されることになった。
急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる