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第六章 旦那様の傍にいたい
国の未来
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私とリーゲル様が公爵邸の中へと入ると、ポルテが目に涙を浮かべながら抱きついてきた。
「奥様ああああああっ! よか……良かった……ううっ、ほんとに……無事で……」
「ええ、私は大丈夫よ。ありがとうポルテ」
啜り泣くポルテを抱きしめ返し、こんなにも心配してくれたのね、と胸を熱くする。
けれど。私はそこで「ん?」と疑問を感じた。
「ところでポルテ、どうして私が危ない目に遭ったことを知っているの?」
外出に同行しなかったポルテが、どうやってさっきまでのことを知ったんだろう? ジュジュが先に帰って知らせていたならともかく、彼女も馬車に乗る前までは確かに私達と一緒にいたのに。
誰かが教えに来たとして……一体誰が?
首を傾げる私に、「まさか……」と言うリーゲル様の呟きが耳に入る。
え、何がまさかなんですか? と私が尋ねるより早く、ポルテはとんでもない事を口にした。
「つい先程王太子殿下がいらっしゃいまして、奥様が破落戸に捕えられたと教えて下さいました」
「シーヴァイス様が!?」
すっかりその存在を忘れていたと、慌てて応接室へと走る。
街へ行く時は四人だったのに、なんだかんだですっかり殿下の存在を忘れ去ってしまっていた。
でも、今現在殿下がこの邸にいるということは、彼は私達より先に街を出たんだろうけれど。
「だったら一言ぐらい言ってくれても……」
誘拐騒ぎのせいで殿下の存在を忘れていた此方にも非はあるかもしれないが、それにしたって無言で帰ることはないと思う。もし私達が王太子殿下の存在を覚えていて、騒ぎの後にでも探し回っていたなら、確実に無駄足となっていたのだ。
王族が勝手に出歩くなんて、本来いけないことなのに……。
それを知りつつ王太子殿下まで誘って街へ出掛けた自分達は、かなりやらかした感がある。だけれど今回の事は、そもそも王女殿下が言い出したことであって、私と王太子殿下は巻き込まれただけ──。
「なんて言い訳、通じる筈ないだろうな……」
肩を落としながら呟き、応接室のドアをノックする。
「入れ」
と、まるでこの邸の主のような返答がされたけれど、実際の主は今、私の隣にいるリーゲル様だ。
思わず私が顔を見つめてしまうと、リーゲル様は諦めたかのように肩を竦めた。
仕方がないから、そのままドアを開け入室すると、そこにはやはり、ふんぞり返って偉そうにソファへと座る王太子殿下がいらっしゃった。
「お帰り。意外と遅かったな」
掛けられた第一声。
なにが「お帰り」よ、なにが「遅かったな」よ。理由を知ってて私達をおいて帰ってきたくせに!
私の身体から、怒りのオーラでも迸っていたんだろうか。不意にリーゲル様に肩を抱き寄せられると、ポンポンと気持ちを落ち着けるように優しく叩かれた。
「リーゲル様……」
「こいつは昔からこういう奴だ。怒るだけ無駄だよ」
そのままソファへと行き、王太子殿下の前に、二人並んで腰をおろす。
「なんだよリーゲル、見せつけるな。私が街でグラディスを口説いていたのを見ていただろうに」
だから何だって言うんですか?
未だ私の肩を抱くリーゲル様に王太子殿下は不満気な顔をするも、リーゲル様は私の肩から手を放さない。
それどころか、穏やかに微笑って言い返す。
「重ね重ね言わせてもらうが、グラディスは私の妻だ。たとえ相手が王太子であろうと、譲るつもりも貸すつもりもないから、諦めることだな」
「なんだよ……妹はお気に召さないようだったから、早々に片付けただろう? なんなら今は、お前の運命の相手とも言うべき令嬢を連れてくる算段をつけているところだ。だから私に意地悪をせず、素直に奥方を渡してくれ。彼女は漸く見つけた私のパートナーなんだからな」
グラディスもそう思うよな? と王太子殿下に問われ、私は首を傾げるしかない。
私が王太子殿下のパートナー? パートナーってなんのこと? というか、何故私なの?
「あの……すみません。ちょっと言ってる意味が理解できなくて……パートナーって何ですか?」
他にも色々重要な事を口にされた気がするけれど、まずは自分に関する疑問から解消したい。
パートナーって、私の知ってる意味であってるわよね? パートナー……協力者、相棒……あと、なんだっけ?
今日は似たようなことばっかり考えさせられているような気がするのは、気のせいかしら?
「パートナーの意味が分からないのか?」
マジで? そんな馬鹿なのか? と考えているのが、ありありと伝わってくる。
仮にも王太子なんだから、もう少し表情に出さない努力をしなさいよね。そんなんじゃ今後不安しかないわ。
と思うけれど、当然ながら口には出さない。
でも、馬鹿だと思われているのは癪だから、私は一言だけ言わせてもらうことにした。
「突然パートナーと仰られても、私がシーヴァイス様に協力できることなんてありませんので……」
だから諦めて下さい──と続けたかったのだけれど。
「違う違う! そうではない!」
そう言った殿下は、サッと私の手をとり──取ろうとしたところでリーゲル様に叩かれ、舌打ちをすると徐に立ち上がった。
そのまま何故か両手を広げ、大仰な仕草でもって語り出す。
「パートナーはパートナーだ。言うなれば伴侶だ。君は私の伴侶になれる権利を得たんだ。凄いだろう? 素晴らしいだろう? 次代の国王の伴侶だぞ? 王妃になれるんだぞ? こんなにも素晴らしいことはないだろう!」
そう言うと王太子殿下は、期待を込めた瞳でじっと私を見つめてくる。
でも、残念なことに私の気持ちは一ミリも動かされてはいない。なんなら逆方向に猛ダッシュだ。
王妃なんてなりたくないし、リーゲル様の妻という今の立場こそが素晴らしいのであって、シーヴァイス様の伴侶なんて何の魅力も感じられない。王妃になりたいご令嬢は確かに沢山いるのだろうけど、誰でもそうだと思い込んではいけないと思うのだ。
しかも私は独身ではない。リーゲル様と婚姻しているという立派な事実があるのに、どうしてこんな無茶振りができるのか。
王族って、こんなのばっかりなのかな……。
今の国王様は賢王として有名だけど。もしかして陛下の血が入ってないってことは……ないわよね?
思わぬことから、国の未来を憂いてしまう私だった。
「奥様ああああああっ! よか……良かった……ううっ、ほんとに……無事で……」
「ええ、私は大丈夫よ。ありがとうポルテ」
啜り泣くポルテを抱きしめ返し、こんなにも心配してくれたのね、と胸を熱くする。
けれど。私はそこで「ん?」と疑問を感じた。
「ところでポルテ、どうして私が危ない目に遭ったことを知っているの?」
外出に同行しなかったポルテが、どうやってさっきまでのことを知ったんだろう? ジュジュが先に帰って知らせていたならともかく、彼女も馬車に乗る前までは確かに私達と一緒にいたのに。
誰かが教えに来たとして……一体誰が?
首を傾げる私に、「まさか……」と言うリーゲル様の呟きが耳に入る。
え、何がまさかなんですか? と私が尋ねるより早く、ポルテはとんでもない事を口にした。
「つい先程王太子殿下がいらっしゃいまして、奥様が破落戸に捕えられたと教えて下さいました」
「シーヴァイス様が!?」
すっかりその存在を忘れていたと、慌てて応接室へと走る。
街へ行く時は四人だったのに、なんだかんだですっかり殿下の存在を忘れ去ってしまっていた。
でも、今現在殿下がこの邸にいるということは、彼は私達より先に街を出たんだろうけれど。
「だったら一言ぐらい言ってくれても……」
誘拐騒ぎのせいで殿下の存在を忘れていた此方にも非はあるかもしれないが、それにしたって無言で帰ることはないと思う。もし私達が王太子殿下の存在を覚えていて、騒ぎの後にでも探し回っていたなら、確実に無駄足となっていたのだ。
王族が勝手に出歩くなんて、本来いけないことなのに……。
それを知りつつ王太子殿下まで誘って街へ出掛けた自分達は、かなりやらかした感がある。だけれど今回の事は、そもそも王女殿下が言い出したことであって、私と王太子殿下は巻き込まれただけ──。
「なんて言い訳、通じる筈ないだろうな……」
肩を落としながら呟き、応接室のドアをノックする。
「入れ」
と、まるでこの邸の主のような返答がされたけれど、実際の主は今、私の隣にいるリーゲル様だ。
思わず私が顔を見つめてしまうと、リーゲル様は諦めたかのように肩を竦めた。
仕方がないから、そのままドアを開け入室すると、そこにはやはり、ふんぞり返って偉そうにソファへと座る王太子殿下がいらっしゃった。
「お帰り。意外と遅かったな」
掛けられた第一声。
なにが「お帰り」よ、なにが「遅かったな」よ。理由を知ってて私達をおいて帰ってきたくせに!
私の身体から、怒りのオーラでも迸っていたんだろうか。不意にリーゲル様に肩を抱き寄せられると、ポンポンと気持ちを落ち着けるように優しく叩かれた。
「リーゲル様……」
「こいつは昔からこういう奴だ。怒るだけ無駄だよ」
そのままソファへと行き、王太子殿下の前に、二人並んで腰をおろす。
「なんだよリーゲル、見せつけるな。私が街でグラディスを口説いていたのを見ていただろうに」
だから何だって言うんですか?
未だ私の肩を抱くリーゲル様に王太子殿下は不満気な顔をするも、リーゲル様は私の肩から手を放さない。
それどころか、穏やかに微笑って言い返す。
「重ね重ね言わせてもらうが、グラディスは私の妻だ。たとえ相手が王太子であろうと、譲るつもりも貸すつもりもないから、諦めることだな」
「なんだよ……妹はお気に召さないようだったから、早々に片付けただろう? なんなら今は、お前の運命の相手とも言うべき令嬢を連れてくる算段をつけているところだ。だから私に意地悪をせず、素直に奥方を渡してくれ。彼女は漸く見つけた私のパートナーなんだからな」
グラディスもそう思うよな? と王太子殿下に問われ、私は首を傾げるしかない。
私が王太子殿下のパートナー? パートナーってなんのこと? というか、何故私なの?
「あの……すみません。ちょっと言ってる意味が理解できなくて……パートナーって何ですか?」
他にも色々重要な事を口にされた気がするけれど、まずは自分に関する疑問から解消したい。
パートナーって、私の知ってる意味であってるわよね? パートナー……協力者、相棒……あと、なんだっけ?
今日は似たようなことばっかり考えさせられているような気がするのは、気のせいかしら?
「パートナーの意味が分からないのか?」
マジで? そんな馬鹿なのか? と考えているのが、ありありと伝わってくる。
仮にも王太子なんだから、もう少し表情に出さない努力をしなさいよね。そんなんじゃ今後不安しかないわ。
と思うけれど、当然ながら口には出さない。
でも、馬鹿だと思われているのは癪だから、私は一言だけ言わせてもらうことにした。
「突然パートナーと仰られても、私がシーヴァイス様に協力できることなんてありませんので……」
だから諦めて下さい──と続けたかったのだけれど。
「違う違う! そうではない!」
そう言った殿下は、サッと私の手をとり──取ろうとしたところでリーゲル様に叩かれ、舌打ちをすると徐に立ち上がった。
そのまま何故か両手を広げ、大仰な仕草でもって語り出す。
「パートナーはパートナーだ。言うなれば伴侶だ。君は私の伴侶になれる権利を得たんだ。凄いだろう? 素晴らしいだろう? 次代の国王の伴侶だぞ? 王妃になれるんだぞ? こんなにも素晴らしいことはないだろう!」
そう言うと王太子殿下は、期待を込めた瞳でじっと私を見つめてくる。
でも、残念なことに私の気持ちは一ミリも動かされてはいない。なんなら逆方向に猛ダッシュだ。
王妃なんてなりたくないし、リーゲル様の妻という今の立場こそが素晴らしいのであって、シーヴァイス様の伴侶なんて何の魅力も感じられない。王妃になりたいご令嬢は確かに沢山いるのだろうけど、誰でもそうだと思い込んではいけないと思うのだ。
しかも私は独身ではない。リーゲル様と婚姻しているという立派な事実があるのに、どうしてこんな無茶振りができるのか。
王族って、こんなのばっかりなのかな……。
今の国王様は賢王として有名だけど。もしかして陛下の血が入ってないってことは……ないわよね?
思わぬことから、国の未来を憂いてしまう私だった。
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