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第六章 旦那様の傍にいたい
暗転
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扉ではなく窓から姿を現したジュジュに、私とリーゲル様の目は釘付けになった。
だって、ここは建物の二階なのよ? 一階であるならまだしも、二階の窓にどうやって辿り着いたというの? しかも扉ではなく、どうして窓から?
ジュジュの行動はあまりにも常識を逸脱していて、私とリーゲル様は思わず顔を見合わせてしまう。
この様子から察するに、リーゲル様もジュジュの不可解な行動について、あまり理解しているわけではなさそうね。ジュジュの雇い主だから、当然知っているものだと思っていたけれど……当てが外れたわ。
何も言えずにいる私達を尻目に、ジュジュは窓枠を蹴って飛び、室内に降り立つ。そうして徐に近づいてきたと思ったら、リーゲル様に寄り添う私を、力づくで引き離した!
「え?」
「奥様いけません! こんな場所で不埒なことをなさっては、今後一生後悔することになってしまいます。旦那様も、もっと時と場所を考えて下さいませ」
リーゲル様を、ギロリと睨むジュジュ。
リーゲル様ってジュジュの雇い主だよね? そんな態度をとって大丈夫なんだろうか。
けれど、私のそんな心配をよそに、リーゲル様はジュジュの言葉を真っ赤になって否定した。
「ち、違う! 私はそんなつもりではない!」
誤解だ! と声をあげ、私をジュジュから奪い返そうとするも、ジュジュがヒラリと身を躱す。
「そんなつもりはないって……ここが何処だか存じていらっしゃいますよね? その上で奥様をここへ連れ込んだとなると……ええ、お二人はご夫婦でいらっしゃいますから、そういった行為に反対するつもりはありません。ですが、奥様が未だに乙女でいらっしゃ──」
「わああああああああ!」
大声でジュジュの言葉を遮り、私は慌てて彼女の口を塞いだ。
どうして突然そんな事を言い出すの!? 恥ずかしいからやめて欲しい。
けれど、ジュジュは私のような複雑な乙女心は理解できないのか、不思議そうに首を傾げると、私の手を自分の口から外し、今度はこんなことを言った。
「ご安心下さい、奥様。そんなに心配なさらなくとも、旦那様も奥様と同じく童て──」
「だああああああああ!」
今度はリーゲル様が発したとはとても思えない大音量で掻き消されたジュジュの声。それに驚いてリーゲル様を見れば、肩で荒く息を吐いていて。
「大丈夫で──っ!?」
彼に駆け寄ろうとした瞬間、ジュジュに腕を引かれて止められ、私は抗議の目を向けた。
「ジュジュ、どうして?」
「奥様は何も知らないでしょうからご説明させていただきますが、ここは連れ込み宿の一室でございます。どういった事情があるにせよ、こんな場所でお二人に初夜を迎えさせるわけには参りません。なので、ここでの触れ合いは断固として! 阻止させていただきます!」
「連れ込み宿って……」
それはつまり、愛し合っている男女が気持ちを確かめ合うために、あれやこれやする場所だということ?
如何わしい想像が頭に浮かび、チラ、とリーゲル様を見た瞬間、私は一気に顔が熱くなるのを感じた。
私は今、絶対に真っ赤な顔をしているわ。もしかしたら、茹で蛸も顔負けってぐらいに赤くなっているかも……。
両手で頬を覆ってなんとか顔の温度を下げようとするも、一向に下がる気配がない。寧ろ余計に熱くなっていく気がする。
リーゲル様は、どうしてこんな場所に私を……?
期待してはいけないと思いつつ、もう一度リーゲル様を見ると、彼も私と同じぐらい赤い顔をしていた。
「だから違うと言っているだろう! 街中でグラディスが気を失い休ませようと思ったら、こんな場所しか思い付かなくて、だから……」
「え~……本当ですか?」
「嘘を言ってどうする! 本当だ!」
まったく、くだらないことを言いやがって……。と、リーゲル様はかなり不機嫌そうにしている。
そうよね、私とは愛のない政略結婚だったんだもの。リーゲル様からしたら、私となんて頼まれたってお断りよね。
うん、大丈夫。分かっているから落ち込んだりなんてしないわ。
「グラディス? どうかしたのか?」
「え? 何がですか?」
リーゲル様にいきなり声をかけられ、私は慌てて顔を上げた。
あんなに熱かった顔の熱は、もうすっかり冷めて、今では逆に冷たさを感じるほどだ。
「いや、なんだか元気がないように見えたから……」
いけない! 気持ちが顔に出てしまっていたわ。こんな時こそ笑顔を浮かべないと!
「失礼致しました。この後どうやって王女殿下達を撒こうかと考えておりましたので。……あ! そういえばお食事がまだでしたよね? 私、食べる物が用意できるか聞いてきますわ」
「でしたら、あたくしが──」
「ジュジュはそこにいて。この部屋で、私とリーゲル様が二人きりになるのはいけないのでしょう?」
「ですが、この場合──」
尚も言い募ろうとするジュジュの言葉を遮るように、私は急いで部屋を出て扉を閉める。
最近リーゲル様との距離が縮んだと思えるようなことが沢山あったせいで、もしかしたら……なんて希望を知らない間に抱いてしまっていた。
リーゲル様は優しい人だから、たとえ政略結婚だとしても、妻にした私に対して冷たくしきれないだけなのに。
そんなことは分かってる。分かっていた筈だったのに。
「くだらないこと……かぁ」
彼の言った何気ない一言が、胸に突き刺さっている。
リーゲル様とあれやこれや、なんて考えてしまった後だから、余計に気持ちが落ち込んでしまう。
彼と結婚できるだけで幸せだと思っていたのに。彼と同じ邸内で過ごせるだけで、至上の喜びを感じていた筈なのに。
私はいつから、こんなに欲張りになったんだろう?
一旦気持ちを落ち着けようと、外に出る。
刹那、男に抱きすくめられ、口に白い布を当てられたと思ったら──目の前が真っ暗になった。
だって、ここは建物の二階なのよ? 一階であるならまだしも、二階の窓にどうやって辿り着いたというの? しかも扉ではなく、どうして窓から?
ジュジュの行動はあまりにも常識を逸脱していて、私とリーゲル様は思わず顔を見合わせてしまう。
この様子から察するに、リーゲル様もジュジュの不可解な行動について、あまり理解しているわけではなさそうね。ジュジュの雇い主だから、当然知っているものだと思っていたけれど……当てが外れたわ。
何も言えずにいる私達を尻目に、ジュジュは窓枠を蹴って飛び、室内に降り立つ。そうして徐に近づいてきたと思ったら、リーゲル様に寄り添う私を、力づくで引き離した!
「え?」
「奥様いけません! こんな場所で不埒なことをなさっては、今後一生後悔することになってしまいます。旦那様も、もっと時と場所を考えて下さいませ」
リーゲル様を、ギロリと睨むジュジュ。
リーゲル様ってジュジュの雇い主だよね? そんな態度をとって大丈夫なんだろうか。
けれど、私のそんな心配をよそに、リーゲル様はジュジュの言葉を真っ赤になって否定した。
「ち、違う! 私はそんなつもりではない!」
誤解だ! と声をあげ、私をジュジュから奪い返そうとするも、ジュジュがヒラリと身を躱す。
「そんなつもりはないって……ここが何処だか存じていらっしゃいますよね? その上で奥様をここへ連れ込んだとなると……ええ、お二人はご夫婦でいらっしゃいますから、そういった行為に反対するつもりはありません。ですが、奥様が未だに乙女でいらっしゃ──」
「わああああああああ!」
大声でジュジュの言葉を遮り、私は慌てて彼女の口を塞いだ。
どうして突然そんな事を言い出すの!? 恥ずかしいからやめて欲しい。
けれど、ジュジュは私のような複雑な乙女心は理解できないのか、不思議そうに首を傾げると、私の手を自分の口から外し、今度はこんなことを言った。
「ご安心下さい、奥様。そんなに心配なさらなくとも、旦那様も奥様と同じく童て──」
「だああああああああ!」
今度はリーゲル様が発したとはとても思えない大音量で掻き消されたジュジュの声。それに驚いてリーゲル様を見れば、肩で荒く息を吐いていて。
「大丈夫で──っ!?」
彼に駆け寄ろうとした瞬間、ジュジュに腕を引かれて止められ、私は抗議の目を向けた。
「ジュジュ、どうして?」
「奥様は何も知らないでしょうからご説明させていただきますが、ここは連れ込み宿の一室でございます。どういった事情があるにせよ、こんな場所でお二人に初夜を迎えさせるわけには参りません。なので、ここでの触れ合いは断固として! 阻止させていただきます!」
「連れ込み宿って……」
それはつまり、愛し合っている男女が気持ちを確かめ合うために、あれやこれやする場所だということ?
如何わしい想像が頭に浮かび、チラ、とリーゲル様を見た瞬間、私は一気に顔が熱くなるのを感じた。
私は今、絶対に真っ赤な顔をしているわ。もしかしたら、茹で蛸も顔負けってぐらいに赤くなっているかも……。
両手で頬を覆ってなんとか顔の温度を下げようとするも、一向に下がる気配がない。寧ろ余計に熱くなっていく気がする。
リーゲル様は、どうしてこんな場所に私を……?
期待してはいけないと思いつつ、もう一度リーゲル様を見ると、彼も私と同じぐらい赤い顔をしていた。
「だから違うと言っているだろう! 街中でグラディスが気を失い休ませようと思ったら、こんな場所しか思い付かなくて、だから……」
「え~……本当ですか?」
「嘘を言ってどうする! 本当だ!」
まったく、くだらないことを言いやがって……。と、リーゲル様はかなり不機嫌そうにしている。
そうよね、私とは愛のない政略結婚だったんだもの。リーゲル様からしたら、私となんて頼まれたってお断りよね。
うん、大丈夫。分かっているから落ち込んだりなんてしないわ。
「グラディス? どうかしたのか?」
「え? 何がですか?」
リーゲル様にいきなり声をかけられ、私は慌てて顔を上げた。
あんなに熱かった顔の熱は、もうすっかり冷めて、今では逆に冷たさを感じるほどだ。
「いや、なんだか元気がないように見えたから……」
いけない! 気持ちが顔に出てしまっていたわ。こんな時こそ笑顔を浮かべないと!
「失礼致しました。この後どうやって王女殿下達を撒こうかと考えておりましたので。……あ! そういえばお食事がまだでしたよね? 私、食べる物が用意できるか聞いてきますわ」
「でしたら、あたくしが──」
「ジュジュはそこにいて。この部屋で、私とリーゲル様が二人きりになるのはいけないのでしょう?」
「ですが、この場合──」
尚も言い募ろうとするジュジュの言葉を遮るように、私は急いで部屋を出て扉を閉める。
最近リーゲル様との距離が縮んだと思えるようなことが沢山あったせいで、もしかしたら……なんて希望を知らない間に抱いてしまっていた。
リーゲル様は優しい人だから、たとえ政略結婚だとしても、妻にした私に対して冷たくしきれないだけなのに。
そんなことは分かってる。分かっていた筈だったのに。
「くだらないこと……かぁ」
彼の言った何気ない一言が、胸に突き刺さっている。
リーゲル様とあれやこれや、なんて考えてしまった後だから、余計に気持ちが落ち込んでしまう。
彼と結婚できるだけで幸せだと思っていたのに。彼と同じ邸内で過ごせるだけで、至上の喜びを感じていた筈なのに。
私はいつから、こんなに欲張りになったんだろう?
一旦気持ちを落ち着けようと、外に出る。
刹那、男に抱きすくめられ、口に白い布を当てられたと思ったら──目の前が真っ暗になった。
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