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第五章 旦那様を守りたい
王女殿下の気持ち
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季節は夏だというのに、私達の席の周りだけが真冬のように冷え切っている。
座っている場所はテラス席であるため、冷房もそこまで効いてはいない筈なのに、極寒の冷気が肌を突き刺す。
さ、寒いわ……。
そっと腕を摩ると、気付いたリーゲル様が優しく上着を掛けてくれた。
うん、その行為はもの凄く嬉しいのですけれど、冷気の出所はあなたですからね?
リーゲル様が怒りを鎮めてくれさえしたら、問題ないんですよ?
なんて事は思っても言えるわけがないから、私は大人しく上着を借りておくことにする。
「……アルテミシア、少しの間グラディスを頼む」
氷の微笑と言えなくもない微笑みでリーゲル様は王女殿下にそう言うと、強制的に王太子殿下を店の外へと連れ出した。
「ま、待てリーゲル! 早まるなっ……」
王太子殿下が何やら喚いていたけれど、リーゲル様は何も聞こえていないかのように、店内にいる人達の視線を独り占めしながら退店していく。
一体どうしたのかしら……。
店の出口を見つめ、呆然としていると、すぐ隣の席に誰かが座る音がした。
「少しやり過ぎてしまったわね。……適当に怒りを発散させたら戻って来ると思うから、先にオーダーしておきましょう?」
貴女は何を頼むの? と、王女殿下が私にメニューを手渡してくる。
どうしてこんなに冷静でいられるんだろう?
「あの……こういうことって、今までも何度かあったりしたんですか?」
いつ何時も品行方正なリーゲル様が、まさかあんな言葉遣いをするなんて。
目の前でその場面を見てしまった今でも、まるで夢であったかのように思えてしまう。
けれど、王女殿下はまったく動揺している様子がないから、彼女的には初めてではないのでしょうね。
という事は、彼女達は過去何度か同じようにリーゲル様を怒らせた事があるということになる。
適当に注文を済ませ、王女殿下の顔を見ると、彼女は小さく一つため息を吐いた。
「まぁ、そうね。回数は片手に満たないぐらいだとは思うけれど、零ではないわ。あまりの怒りに我を忘れると、どうやらあのような言葉が出てしまうみたいで。でも、あのリーゲルがそんなうっかりミスをするとも思えないから、態となんじゃないかと、わたくしは思っているわ」
「なるほど……。では、リーゲル様は何故今あのような状態になったのでしょうか?」
我を忘れる程にリーゲル様が怒るような事……あったかしら?
その質問をした途端、王女殿下の瞳が驚いたかの様に見開かれ、次いで、残念なものを見るような目になった。
そ、その目の理由は何? まさか私? 原因は私なの?
「貴女って……はぁ、なんでもないわ。貴女がそんな調子でいる限り、わたくしにもチャンスが残されているということだし、わたくしは何も言わない。できれば貴女には、わたくしの為にも、ずっとそのままで居てもらいたいものね」
にっこりとした可愛らしい笑顔で、王女殿下にそんなことを言われてしまった。
そんな調子って、どんな調子なんだろう? もうちょっと詳しく説明してもらいたいけれど、聞いたところで教えてもらえないだろう事は流石に分かる。
仕方ないから、私はふっと頭に浮かんだ疑問を口にすることにした。
「そういえば、王太子殿下と王女殿下は、どうして誰とも婚約なさらないんですか? 王族って、その……後継者が必要なのでは?」
言った瞬間、凄い目で睨まれた。美女に睨まれると……変に迫力があって怖い。
思わず謝りそうになると、王女殿下はダン! とテーブルを叩いた。
「わたくしだって、そんなことは百も承知よ。でも、どうしてもリーゲルを諦めることができなくて……家格的に無理なことは分かっているけれど、でも……」
「でも?」
「でもね! だからといって、適当な家柄の男達に襲わせようとするのは違うのではなくて? どこの世界に自分を無理矢理襲った男と結婚しようなどと思う女がいると思いますの!?」
ダンダン! と激しくテーブルを叩き、王女殿下は声を荒げる。
気持ちは分かります。気持ちはものすご~くよく分かりますけど、今は落ち着いて欲しい。
またも店内の視線が集まってきちゃってますから。
「で、でもあの、王女殿下は先日公爵邸に来た際、リーゲル様の私室に行きたがったとお聞きしましたが……」
「そうよ!? お兄様に嵌められて純潔を散らすぐらいなら、せめてリーゲ……っ! んん~~~っ!」
大体の事情が掴めたところで、私は殿下の口に、大き目のパンを突っ込んだ。
申し訳ありません。でも、それ以上のことをこんな場所で話されるわけにはいかないんです!
聞いた私も私だけど、せめて……もう少し気を遣って小さい声で話してくれればまだマシだったのに、興奮したのかどんどん声が大きくなるものだから。
王族──ついでにリーゲル様も──の醜聞を、こんな街中で広めるわけにはいかない。
「ちょっと貴女! わたくしの口に物を突っ込むだなんて不敬──」
「王女殿下の醜聞が広まる方がマシでしたか?」
王女殿下の言葉を遮るかのように早口で尋ねたら、殿下はビクリとして周囲を見回し、俯いて体を縮こませた。
「今のはわたくしの為だったのね……。謝罪するわ、ありがとう」
「ご理解いただければ、私はかまいません」
自分がどれほどの失態を晒しかけていたかという事に気付き、羞恥に赤くなりながら食事に手を伸ばす王女殿下。
リーゲル様が絡んでいる時は意地悪だけど、根っこの部分は意外と良い人だったりする?
座っている場所はテラス席であるため、冷房もそこまで効いてはいない筈なのに、極寒の冷気が肌を突き刺す。
さ、寒いわ……。
そっと腕を摩ると、気付いたリーゲル様が優しく上着を掛けてくれた。
うん、その行為はもの凄く嬉しいのですけれど、冷気の出所はあなたですからね?
リーゲル様が怒りを鎮めてくれさえしたら、問題ないんですよ?
なんて事は思っても言えるわけがないから、私は大人しく上着を借りておくことにする。
「……アルテミシア、少しの間グラディスを頼む」
氷の微笑と言えなくもない微笑みでリーゲル様は王女殿下にそう言うと、強制的に王太子殿下を店の外へと連れ出した。
「ま、待てリーゲル! 早まるなっ……」
王太子殿下が何やら喚いていたけれど、リーゲル様は何も聞こえていないかのように、店内にいる人達の視線を独り占めしながら退店していく。
一体どうしたのかしら……。
店の出口を見つめ、呆然としていると、すぐ隣の席に誰かが座る音がした。
「少しやり過ぎてしまったわね。……適当に怒りを発散させたら戻って来ると思うから、先にオーダーしておきましょう?」
貴女は何を頼むの? と、王女殿下が私にメニューを手渡してくる。
どうしてこんなに冷静でいられるんだろう?
「あの……こういうことって、今までも何度かあったりしたんですか?」
いつ何時も品行方正なリーゲル様が、まさかあんな言葉遣いをするなんて。
目の前でその場面を見てしまった今でも、まるで夢であったかのように思えてしまう。
けれど、王女殿下はまったく動揺している様子がないから、彼女的には初めてではないのでしょうね。
という事は、彼女達は過去何度か同じようにリーゲル様を怒らせた事があるということになる。
適当に注文を済ませ、王女殿下の顔を見ると、彼女は小さく一つため息を吐いた。
「まぁ、そうね。回数は片手に満たないぐらいだとは思うけれど、零ではないわ。あまりの怒りに我を忘れると、どうやらあのような言葉が出てしまうみたいで。でも、あのリーゲルがそんなうっかりミスをするとも思えないから、態となんじゃないかと、わたくしは思っているわ」
「なるほど……。では、リーゲル様は何故今あのような状態になったのでしょうか?」
我を忘れる程にリーゲル様が怒るような事……あったかしら?
その質問をした途端、王女殿下の瞳が驚いたかの様に見開かれ、次いで、残念なものを見るような目になった。
そ、その目の理由は何? まさか私? 原因は私なの?
「貴女って……はぁ、なんでもないわ。貴女がそんな調子でいる限り、わたくしにもチャンスが残されているということだし、わたくしは何も言わない。できれば貴女には、わたくしの為にも、ずっとそのままで居てもらいたいものね」
にっこりとした可愛らしい笑顔で、王女殿下にそんなことを言われてしまった。
そんな調子って、どんな調子なんだろう? もうちょっと詳しく説明してもらいたいけれど、聞いたところで教えてもらえないだろう事は流石に分かる。
仕方ないから、私はふっと頭に浮かんだ疑問を口にすることにした。
「そういえば、王太子殿下と王女殿下は、どうして誰とも婚約なさらないんですか? 王族って、その……後継者が必要なのでは?」
言った瞬間、凄い目で睨まれた。美女に睨まれると……変に迫力があって怖い。
思わず謝りそうになると、王女殿下はダン! とテーブルを叩いた。
「わたくしだって、そんなことは百も承知よ。でも、どうしてもリーゲルを諦めることができなくて……家格的に無理なことは分かっているけれど、でも……」
「でも?」
「でもね! だからといって、適当な家柄の男達に襲わせようとするのは違うのではなくて? どこの世界に自分を無理矢理襲った男と結婚しようなどと思う女がいると思いますの!?」
ダンダン! と激しくテーブルを叩き、王女殿下は声を荒げる。
気持ちは分かります。気持ちはものすご~くよく分かりますけど、今は落ち着いて欲しい。
またも店内の視線が集まってきちゃってますから。
「で、でもあの、王女殿下は先日公爵邸に来た際、リーゲル様の私室に行きたがったとお聞きしましたが……」
「そうよ!? お兄様に嵌められて純潔を散らすぐらいなら、せめてリーゲ……っ! んん~~~っ!」
大体の事情が掴めたところで、私は殿下の口に、大き目のパンを突っ込んだ。
申し訳ありません。でも、それ以上のことをこんな場所で話されるわけにはいかないんです!
聞いた私も私だけど、せめて……もう少し気を遣って小さい声で話してくれればまだマシだったのに、興奮したのかどんどん声が大きくなるものだから。
王族──ついでにリーゲル様も──の醜聞を、こんな街中で広めるわけにはいかない。
「ちょっと貴女! わたくしの口に物を突っ込むだなんて不敬──」
「王女殿下の醜聞が広まる方がマシでしたか?」
王女殿下の言葉を遮るかのように早口で尋ねたら、殿下はビクリとして周囲を見回し、俯いて体を縮こませた。
「今のはわたくしの為だったのね……。謝罪するわ、ありがとう」
「ご理解いただければ、私はかまいません」
自分がどれほどの失態を晒しかけていたかという事に気付き、羞恥に赤くなりながら食事に手を伸ばす王女殿下。
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