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第五章 旦那様を守りたい
幕間 怒りのリーゲル ①
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王太子であるシーヴァイスと、その妹であるアルテミシア。
生まれた時から王族として何不自由なく暮らしてきた二人であるが、その麗しい見目に反して、性格は最悪だった。
親である国王や王妃には、流石に叱られたことぐらいはあるだろう。幾ら息子や娘が可愛いとはいえ、叱ることが一度もないなど、親としてあり得ない。
だが、それ以外の者達にはほぼ叱られることなく、甘やかされるだけ甘やかされて育ってきたであろう二人。
身分の差なく平等にをモットーに掲げる貴族学院時代にもそれは変わらず、周囲は彼等を当然のように優遇し、媚び諂った。それは、筆頭公爵家の嫡男である私に対しても同じであったが、私は家に帰れば厳しい教育が待っていた為、学院でどれほど優遇されようとも驕ることなく、逆にそれを教師に言って諌める程の常識を持ち合わせてもいた。
しかし、王族である二人は違ったのだ。
王族ともなれば、ある程度の年齢──下手をすれば生まれた瞬間から──になれば、親の手を離れて乳母や教育係にその全てが委ねられる。
出自もさることながら、見目麗しく、運動や勉強も卒なく熟す二人を、叱る者などいるわけがない。結果、どのような人間が出来上がるかというと──。
これ、なんだよな……。
店の外へと引っ張り出した王太子──シーヴァイスを適当に放り投げると、私は大きなため息を吐いた。
「おいリーゲル、酷いじゃないか! 私が一体何をしたと言うんだ? 私は王太子──」
「身バレしたら不味いんじゃないか?」
怒りにまかせ、大声で立場を口に出しそうになったシーヴァイスの耳に素早く近付き、囁く。
「うぐっ! そ、それはそうだが……しかしこの扱いは、あまりにも──」
「私の妻の名を呼び、手に触れ、あまつさえ口を手で覆っておいて、私が何も思わないとでも?」
先程は、激しい怒りのせいで言葉がつい乱暴になってしまったが、今は逆に一周回って怒りが振り切れ、落ち着きを取り戻している。
自分の妻にあそこまでのことをされ、怒らない男がいるなら是非連れて来てほしいところだ。
「だ、だがお前はっ! グラディスを好いているわけではないのだろう? アンジェラに婚姻直前で逃げられたから、身代わりとして娶っただけの妻だと聞いたぞ」
またもシーヴァイスが妻の名を口にしたことに怒りを覚えるが、今の問題はそこではない。
どいつもこいつもグラディスのことを身代わりだの、公爵夫人もどきだのと蔑むが、そんなことはないと幾ら言っても誰一人信じないのは何故なのか。
私の婚約者は確かにアンジェラであったが、実際に婚姻したのはグラディスであるし、だからこそ身代わりでも何でもないと思うのだが、自分以外の誰しもがそう捉えていないとは。
先日アルテミシアも同じことを言っていたから、当然兄であるシーヴァイスも、そう思っているだろうことは想像に難くなかった。
「だからといって、あの距離の近さは何なんです? グラディスのことを癒しだなどとほざいていましたが、彼女は私の妻ですからね?」
「そんなことは分かっている! だが……ほら、もしも私がグラディスを娶った場合、国内勢力的にお前とアルテミシアが寄り添える可能性も──」
「そんなもの一ミリだってありませんよ?」
なんなら一ミリと言わず、一ミクロンだってあり得ない。
何故なら私は世界でアルテミシアと二人だけになったとしても、アルテミシアと結婚しなければ命を奪われるのだとしても、それだけは嫌だと断固拒否する気持ちでいるからだ。
無論グラディスと離縁だってしない。
少々変わり者ではあるが、基本的に真っ直ぐで、素直で、世間擦れしておらず、知らずに発揮する天然パワーで癒しすら与えてくれるグラディスを、どうして手放すことができるというのか。
あれほど得難い存在は二人といない。ここ最近グラディスと一緒に過ごすようになり、その事に気付くことができたから、今はなんとかして彼女との距離を縮めようと躍起になっている最中だというのに。
「そもそもあなたは今日、アルテミシアの調教師として同行したんですよね? それなのに、アルテミシアを抑えなければいけないあなたの方が大暴れするというのは、どういうことなんですか?」
きちんと仕事をしていただかないと困るんですが……。
冷ややかな瞳を向けて言うも、目の前の男には何ら響いてはいないらしく「だってさ……」と言って唇を尖らせている。
「これまで何とか婚約者を作らずに逃げて来たけど、アルテミシアが思っていたよりも頑固で、お前以外の男と婚約する事に頷かないんだよ。仕方がないから他の男に襲わせてみようとも思ったが、どいつもこいつも『その後』が怖くて手を出せないとか言う腰抜けばかりで……」
腰抜けというか、それは当たり前の考えなのでは? と思うが、シーヴァイスにはそれが理解できないらしい。
どんな状況であったにしろ、たとえ王太子に唆されたにしろ、王女殿下を襲い、その純潔を散らしたとあっては、その後責任をとって結婚するのは当然のこと。だがそれでも、死ぬまでその罪に苦しめられることは間違いない。
そんなことは当たり前に知っている筈のことであるのにも関わらず、シーヴァイスはたった一人の王位継承者だからか、基本的に何をしても許されてしまう為、そういったことに対する知識を持ち合わせていないのだ。
そのため無理矢理既成事実を作って結婚させるなど出来はしないと私はシーヴァイスに何度も伝えていて、いい加減諦めてお前が結婚しろと言っているのに、彼はいつまで経っても首を縦には振らず、何とかして妹を先に結婚させようといらぬ知恵を振り絞っている。
そうこうしているうちに、兄の凶行に耐えきれなくなったアルテミシアが、私に「わたくしの純潔を奪って!」などと言ってくるようになったのだ。
此方にしてみれば、自分は兄妹の不毛な争いに巻き込まれた犠牲者であり、心の底から迷惑でしかない。
自分には既に妻がいて、最近になって漸く妻の素晴らしさに気が付いたから、遅ればせながら良好な関係を築いていこうと、そしてできれば初夜での発言を撤回させてもらおうとまで考えていた所だったのに。
正直アルテミシアの純潔など欲しくもないし、何処の男に散らされようとどうでもいい。だが、自分がその相手にされることだけは絶対にごめんだ。
妻のいる身での不貞──しかも相手は王女となれば、問答無用で離縁、再婚の未来が視える。そうなったらもう残りの人生は絶望しか残らない。
嫌だ、そんな未来は絶対に避けなければ──。
「もうお前、だれでも良いから結婚しろよ」
なんだかもう面倒くさくなって、不意にそんな言葉が口を衝いて出た。
「は……はああっ!? リーゲルお前、何を言って──」
「このままだとお前、行き遅れの王太子って呼ばれるんだぞ? それどころか、今もしも陛下に何かあったら、行き遅れの国王になるんだぞ? 玉座の隣は空席で、支えとなる妻のいない寂しい国王……。お前、それで良いのか?」
言われて、その場面を想像したのだろう。
シーヴァイスは考え込むような顔をして、う~んと唸り出す。
「何時迄も独り身で、モテモテなのに一切の女遊びをしないことには一定の評価を与えるが、そのせいでお前……男色家って噂が出てるし」
「ちょ、は、それは……っ」
勿論そうでないことは、自分だってよく分かっている。
だが、シーヴァイスのことをよく知らない者達にとっては、何が真実かなど分からない。だからこそ、そんな噂が出回るようになってしまったのだ。
「男色家と疑われたくないなら、女遊びをするのが手っ取り早いと思うが……」
そしてサッサとその女と結婚してしまえ、と黒い考えを持つが、決してそれを表に出すことはない。
「男色家と思われるのは屈辱だ。しかし、私は女達の権力に群がる媚びた顔が、どうしても気持ち悪く思えてしまう。かといって、権力に媚びない女は売約済みばかりで……」
つまりは、権力狙いで王太子妃の座を狙う令嬢は未だに独身を貫いているが、権力に興味がなく、最初から王太子妃になどなる気がなかった令嬢は、行き遅れになる前にさっさと結婚してしまい、既に残っていないということか。
元々あまり結婚に興味がなく、婚約者に縛られることを嫌ったシーヴァイスは婚約に否定的で、後継は妹であるアルテミシアに産ませれば良いと楽観的に考えていた為、今の状況に陥ってしまったのだ。
次期国王のくせに考えが甘いと言わざるを得ないが、筆頭公爵家嫡男として彼の側にいた自分も、そっち関係の話に口を出したことはなかったから、責任がないとは言い切れない。
ある程度の年齢になったら自分が政略結婚させられるように、王族である二人も当然そうなると思っていたから、其方の話題に興味がなかったこともあり、尋ねることはしなかったのだ。
だがこうなってしまうと、今更ながら、貴族院卒業時に婚約者がいない理由を、一言だけでも聞いておけば良かったと思う。
今となっては、どうしようもないが。
「王太子として、男色家という噂だけは何とかして払拭しなければ!」
拳を握り、どうでもいい決意を滲ませるシーヴァイス。
気持ちは分かるが、今はそれどころじゃないだろう……。
王族と友達になんてなるもんじゃない、と、私は最大級のため息を吐いたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ごめんなさい!
一話で終わらせたかったのですが、長くなりそうなので一旦切ります!
次話もリーゲルサイドです。
生まれた時から王族として何不自由なく暮らしてきた二人であるが、その麗しい見目に反して、性格は最悪だった。
親である国王や王妃には、流石に叱られたことぐらいはあるだろう。幾ら息子や娘が可愛いとはいえ、叱ることが一度もないなど、親としてあり得ない。
だが、それ以外の者達にはほぼ叱られることなく、甘やかされるだけ甘やかされて育ってきたであろう二人。
身分の差なく平等にをモットーに掲げる貴族学院時代にもそれは変わらず、周囲は彼等を当然のように優遇し、媚び諂った。それは、筆頭公爵家の嫡男である私に対しても同じであったが、私は家に帰れば厳しい教育が待っていた為、学院でどれほど優遇されようとも驕ることなく、逆にそれを教師に言って諌める程の常識を持ち合わせてもいた。
しかし、王族である二人は違ったのだ。
王族ともなれば、ある程度の年齢──下手をすれば生まれた瞬間から──になれば、親の手を離れて乳母や教育係にその全てが委ねられる。
出自もさることながら、見目麗しく、運動や勉強も卒なく熟す二人を、叱る者などいるわけがない。結果、どのような人間が出来上がるかというと──。
これ、なんだよな……。
店の外へと引っ張り出した王太子──シーヴァイスを適当に放り投げると、私は大きなため息を吐いた。
「おいリーゲル、酷いじゃないか! 私が一体何をしたと言うんだ? 私は王太子──」
「身バレしたら不味いんじゃないか?」
怒りにまかせ、大声で立場を口に出しそうになったシーヴァイスの耳に素早く近付き、囁く。
「うぐっ! そ、それはそうだが……しかしこの扱いは、あまりにも──」
「私の妻の名を呼び、手に触れ、あまつさえ口を手で覆っておいて、私が何も思わないとでも?」
先程は、激しい怒りのせいで言葉がつい乱暴になってしまったが、今は逆に一周回って怒りが振り切れ、落ち着きを取り戻している。
自分の妻にあそこまでのことをされ、怒らない男がいるなら是非連れて来てほしいところだ。
「だ、だがお前はっ! グラディスを好いているわけではないのだろう? アンジェラに婚姻直前で逃げられたから、身代わりとして娶っただけの妻だと聞いたぞ」
またもシーヴァイスが妻の名を口にしたことに怒りを覚えるが、今の問題はそこではない。
どいつもこいつもグラディスのことを身代わりだの、公爵夫人もどきだのと蔑むが、そんなことはないと幾ら言っても誰一人信じないのは何故なのか。
私の婚約者は確かにアンジェラであったが、実際に婚姻したのはグラディスであるし、だからこそ身代わりでも何でもないと思うのだが、自分以外の誰しもがそう捉えていないとは。
先日アルテミシアも同じことを言っていたから、当然兄であるシーヴァイスも、そう思っているだろうことは想像に難くなかった。
「だからといって、あの距離の近さは何なんです? グラディスのことを癒しだなどとほざいていましたが、彼女は私の妻ですからね?」
「そんなことは分かっている! だが……ほら、もしも私がグラディスを娶った場合、国内勢力的にお前とアルテミシアが寄り添える可能性も──」
「そんなもの一ミリだってありませんよ?」
なんなら一ミリと言わず、一ミクロンだってあり得ない。
何故なら私は世界でアルテミシアと二人だけになったとしても、アルテミシアと結婚しなければ命を奪われるのだとしても、それだけは嫌だと断固拒否する気持ちでいるからだ。
無論グラディスと離縁だってしない。
少々変わり者ではあるが、基本的に真っ直ぐで、素直で、世間擦れしておらず、知らずに発揮する天然パワーで癒しすら与えてくれるグラディスを、どうして手放すことができるというのか。
あれほど得難い存在は二人といない。ここ最近グラディスと一緒に過ごすようになり、その事に気付くことができたから、今はなんとかして彼女との距離を縮めようと躍起になっている最中だというのに。
「そもそもあなたは今日、アルテミシアの調教師として同行したんですよね? それなのに、アルテミシアを抑えなければいけないあなたの方が大暴れするというのは、どういうことなんですか?」
きちんと仕事をしていただかないと困るんですが……。
冷ややかな瞳を向けて言うも、目の前の男には何ら響いてはいないらしく「だってさ……」と言って唇を尖らせている。
「これまで何とか婚約者を作らずに逃げて来たけど、アルテミシアが思っていたよりも頑固で、お前以外の男と婚約する事に頷かないんだよ。仕方がないから他の男に襲わせてみようとも思ったが、どいつもこいつも『その後』が怖くて手を出せないとか言う腰抜けばかりで……」
腰抜けというか、それは当たり前の考えなのでは? と思うが、シーヴァイスにはそれが理解できないらしい。
どんな状況であったにしろ、たとえ王太子に唆されたにしろ、王女殿下を襲い、その純潔を散らしたとあっては、その後責任をとって結婚するのは当然のこと。だがそれでも、死ぬまでその罪に苦しめられることは間違いない。
そんなことは当たり前に知っている筈のことであるのにも関わらず、シーヴァイスはたった一人の王位継承者だからか、基本的に何をしても許されてしまう為、そういったことに対する知識を持ち合わせていないのだ。
そのため無理矢理既成事実を作って結婚させるなど出来はしないと私はシーヴァイスに何度も伝えていて、いい加減諦めてお前が結婚しろと言っているのに、彼はいつまで経っても首を縦には振らず、何とかして妹を先に結婚させようといらぬ知恵を振り絞っている。
そうこうしているうちに、兄の凶行に耐えきれなくなったアルテミシアが、私に「わたくしの純潔を奪って!」などと言ってくるようになったのだ。
此方にしてみれば、自分は兄妹の不毛な争いに巻き込まれた犠牲者であり、心の底から迷惑でしかない。
自分には既に妻がいて、最近になって漸く妻の素晴らしさに気が付いたから、遅ればせながら良好な関係を築いていこうと、そしてできれば初夜での発言を撤回させてもらおうとまで考えていた所だったのに。
正直アルテミシアの純潔など欲しくもないし、何処の男に散らされようとどうでもいい。だが、自分がその相手にされることだけは絶対にごめんだ。
妻のいる身での不貞──しかも相手は王女となれば、問答無用で離縁、再婚の未来が視える。そうなったらもう残りの人生は絶望しか残らない。
嫌だ、そんな未来は絶対に避けなければ──。
「もうお前、だれでも良いから結婚しろよ」
なんだかもう面倒くさくなって、不意にそんな言葉が口を衝いて出た。
「は……はああっ!? リーゲルお前、何を言って──」
「このままだとお前、行き遅れの王太子って呼ばれるんだぞ? それどころか、今もしも陛下に何かあったら、行き遅れの国王になるんだぞ? 玉座の隣は空席で、支えとなる妻のいない寂しい国王……。お前、それで良いのか?」
言われて、その場面を想像したのだろう。
シーヴァイスは考え込むような顔をして、う~んと唸り出す。
「何時迄も独り身で、モテモテなのに一切の女遊びをしないことには一定の評価を与えるが、そのせいでお前……男色家って噂が出てるし」
「ちょ、は、それは……っ」
勿論そうでないことは、自分だってよく分かっている。
だが、シーヴァイスのことをよく知らない者達にとっては、何が真実かなど分からない。だからこそ、そんな噂が出回るようになってしまったのだ。
「男色家と疑われたくないなら、女遊びをするのが手っ取り早いと思うが……」
そしてサッサとその女と結婚してしまえ、と黒い考えを持つが、決してそれを表に出すことはない。
「男色家と思われるのは屈辱だ。しかし、私は女達の権力に群がる媚びた顔が、どうしても気持ち悪く思えてしまう。かといって、権力に媚びない女は売約済みばかりで……」
つまりは、権力狙いで王太子妃の座を狙う令嬢は未だに独身を貫いているが、権力に興味がなく、最初から王太子妃になどなる気がなかった令嬢は、行き遅れになる前にさっさと結婚してしまい、既に残っていないということか。
元々あまり結婚に興味がなく、婚約者に縛られることを嫌ったシーヴァイスは婚約に否定的で、後継は妹であるアルテミシアに産ませれば良いと楽観的に考えていた為、今の状況に陥ってしまったのだ。
次期国王のくせに考えが甘いと言わざるを得ないが、筆頭公爵家嫡男として彼の側にいた自分も、そっち関係の話に口を出したことはなかったから、責任がないとは言い切れない。
ある程度の年齢になったら自分が政略結婚させられるように、王族である二人も当然そうなると思っていたから、其方の話題に興味がなかったこともあり、尋ねることはしなかったのだ。
だがこうなってしまうと、今更ながら、貴族院卒業時に婚約者がいない理由を、一言だけでも聞いておけば良かったと思う。
今となっては、どうしようもないが。
「王太子として、男色家という噂だけは何とかして払拭しなければ!」
拳を握り、どうでもいい決意を滲ませるシーヴァイス。
気持ちは分かるが、今はそれどころじゃないだろう……。
王族と友達になんてなるもんじゃない、と、私は最大級のため息を吐いたのだった。
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ごめんなさい!
一話で終わらせたかったのですが、長くなりそうなので一旦切ります!
次話もリーゲルサイドです。
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