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第五章 旦那様を守りたい
やり過ぎた二人
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「リーゲルッ! お兄様! こんな所にいらっしゃいましたのね!?」
凍り付いてしまいそうな程の冷たい空気が場を支配する中、それを一瞬で粉々に粉砕したのは、突如姿を現した王女殿下だった。
「わたくしを独りぼっちにして、こんな所で三人一緒にいるなんて酷いですわ!」
あ、一応私も人数にカウントしてくれるのね。
王女殿下にとって私は邪魔者でしかないだろうから、てっきり居ない者として扱われるのかと思っていたのに、意外だった。
「休憩されるのであれば、是非わたくしも呼んでくださらなくては!」
お兄様の意地悪ぅ……と甘えた声を出し、王女殿下は兄である王太子殿下の首へと抱きつく。
だけれど、それに顔を顰める王太子殿下。
「ぐえっ! しかしお前はまだ元気だろう? だから休憩は必要ないかと思っ──」
「わたくしだって、いっぱい歩き回ってもうヘトヘトなんですよ? どうして今日はそんなに意地悪なんですか? アルテミシアは悲しくなってしまいますぅ」
王女殿下って、こんな喋り方する方だったかしら? 先日公爵邸を訪れた際は、もっと普通の喋り方をされていたと思うけど。
おかしいなと思いつつ、王太子殿下に王女殿下がぎゅうぎゅうとしがみ付く様を見守っていたら、殿下がなんだか苦しそうな顔をしていることに気が付いた。
あれ? もしかして、殿下の首絞まってない!?
「ちょ、アルテミシア様! シーヴァイス様の首が絞まっています!」
思わず立ち上がって言うと、驚いたように手を離す王女殿下。途端に、大きく息を吸い込み、激しく咳き込むシーヴァイス様。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
慌てて側に寄り、背中を摩って差し上げると、ややあって背中に回していない方の手をシーヴァイス様に掴まれた。
ちょっと?
すかさず離れようとしたのに、逆に強い力で手を引き寄せられ、その手に頬擦りされて固まる。
…………は?
シーヴァイス様のあまりにも予想外すぎる行動に、頭の中が真っ白になってしまう。
私は今、何をされているの?
「君はとても優しいね。妹の暴力から勇気を出してこの私を救い出してくれるだなんて、中々出来ることではないよ。それだけ私への気持ちが深いということなのかな?」
いえいえ、別に勇気を出した覚えなんてありませんけど。ていうか、目の前で殺人が行われそうになっていたら、普通止めますよね?
しかも、殿下への気持ちが深いってなんですか? 私はあなたになんの気持ちも抱いてないんですけど……。
と思うのだけれど、言っても聞く耳を持ってもらえなさそうで、どうしようかと考えあぐねる。
リーゲル様ならなんとかしてくれるかも? と、一縷の希望を抱いてリーゲル様を見るも、彼は彼で王女殿下の次なるターゲットに選ばれてしまったようで、とてもそれどころではなさそうだった。
「リーゲル貴方、わたくしを置いて行って許されるとでも思っているの?」
「許されるも何も、王女殿下には護衛がついていますし、私がいなくなった所で問題はありませんよね?」
「んもうっ! またそんな他人行儀な呼び方をして! そんなにわたくしの気を惹きたいの!? 仕方のない人ね」
そう言われ、絶句されるリーゲル様。
本当に……なんて思い込みが強くて、迷惑な兄妹なの!?
王族だからって、人に迷惑をかけても良いわけではないでしょうに。
「ちょっと……!」
あまりにも勝手な言いように腹が立ち、リーゲル様達の方へ行くため、私が足を踏み出そうとした刹那──。
「私がアルテミシアを早く結婚させたい理由……知りたいんだったよね?」
と、王太子殿下に耳元で囁かれた。
何それ。どうして今突然、そんなことを言うわけ?
「今はそんなことどうでも良いです。兎に角王女殿──もがっ!」
「しーーーーーっ!」
王女殿下を止めないと──と叫ぼうとしたら、焦ったように殿下が私の口を大きな手で塞いできた。
わっ……片手で私の顔が軽く掴めちゃうんだ。大きい手……なんて思ってる場合じゃない。
口から手を外そうとすると、殿下が小声で告げてくる。
「私はあまり外へ出ないから、平民に顔を知られていないんだ。だが、ここで正体がバレるのは不味い。頼むから声を抑えてくれ」
「………………」
ガッチリ口を押さえられて声が出せないため、私は無言で何度も頷く。
王太子殿下の手で口を押さえられるなんて、状況が状況でなければ、嬉しさに気絶してしまってもおかしくないぐらいだ。けれど、私は今日一日の外出により、王太子殿下に対する気持ちが下降の一途を辿っているため、悲しいことに嬉しくもなんともない。
ただちょっと、男の人の手って大きいんだなって、若干ときめいただけ。
「グラディス!」
そこで突然リーゲル様に名を呼ばれ、私はハッとして彼の方を向いた。
するとリーゲル様は、王女殿下を腰に巻きつけた状態で、此方へと近付いてくる所だった。
なんだか王女殿下が腰巻きのようになってますけど、お互いにそれで良いんですか? ちょっと異様な光景なんですけど……。
幾ら相手が大好きなリーゲル様とはいえ、これって周りの注目を集めてしまうのでは……と、少々引き気味に見てしまう。
すぐに私の側へとやって来たリーゲル様は、何の前触れもなく、いきなりシーヴァイス様の手を私の口から無理矢理ひっぺがした。
それから徐にナプキンで殿下の掌を拭き、王女殿下の服へと擦り付ける。
ええええええ!?
「おい!」
「なんですの!?」
当然ながら驚いて大声をあげた二人に、リーゲル様は満面の笑顔を向ける。
その笑顔に何故か戸惑う二人に対し、リーゲル様は絶対零度の声でこう言った。
「てめぇら、良い加減にしろよな」
リーゲル様が、そんな言葉遣いをするのは初めてで。
加えて、表情と声がこれほどまでに一致しないことがあるのかと目の前の現実を疑った。
それは、暫く夢に見そう……と思わずに居られない程、強力に脳裏に焼き付くアンバランスさであったのだ──。
凍り付いてしまいそうな程の冷たい空気が場を支配する中、それを一瞬で粉々に粉砕したのは、突如姿を現した王女殿下だった。
「わたくしを独りぼっちにして、こんな所で三人一緒にいるなんて酷いですわ!」
あ、一応私も人数にカウントしてくれるのね。
王女殿下にとって私は邪魔者でしかないだろうから、てっきり居ない者として扱われるのかと思っていたのに、意外だった。
「休憩されるのであれば、是非わたくしも呼んでくださらなくては!」
お兄様の意地悪ぅ……と甘えた声を出し、王女殿下は兄である王太子殿下の首へと抱きつく。
だけれど、それに顔を顰める王太子殿下。
「ぐえっ! しかしお前はまだ元気だろう? だから休憩は必要ないかと思っ──」
「わたくしだって、いっぱい歩き回ってもうヘトヘトなんですよ? どうして今日はそんなに意地悪なんですか? アルテミシアは悲しくなってしまいますぅ」
王女殿下って、こんな喋り方する方だったかしら? 先日公爵邸を訪れた際は、もっと普通の喋り方をされていたと思うけど。
おかしいなと思いつつ、王太子殿下に王女殿下がぎゅうぎゅうとしがみ付く様を見守っていたら、殿下がなんだか苦しそうな顔をしていることに気が付いた。
あれ? もしかして、殿下の首絞まってない!?
「ちょ、アルテミシア様! シーヴァイス様の首が絞まっています!」
思わず立ち上がって言うと、驚いたように手を離す王女殿下。途端に、大きく息を吸い込み、激しく咳き込むシーヴァイス様。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
慌てて側に寄り、背中を摩って差し上げると、ややあって背中に回していない方の手をシーヴァイス様に掴まれた。
ちょっと?
すかさず離れようとしたのに、逆に強い力で手を引き寄せられ、その手に頬擦りされて固まる。
…………は?
シーヴァイス様のあまりにも予想外すぎる行動に、頭の中が真っ白になってしまう。
私は今、何をされているの?
「君はとても優しいね。妹の暴力から勇気を出してこの私を救い出してくれるだなんて、中々出来ることではないよ。それだけ私への気持ちが深いということなのかな?」
いえいえ、別に勇気を出した覚えなんてありませんけど。ていうか、目の前で殺人が行われそうになっていたら、普通止めますよね?
しかも、殿下への気持ちが深いってなんですか? 私はあなたになんの気持ちも抱いてないんですけど……。
と思うのだけれど、言っても聞く耳を持ってもらえなさそうで、どうしようかと考えあぐねる。
リーゲル様ならなんとかしてくれるかも? と、一縷の希望を抱いてリーゲル様を見るも、彼は彼で王女殿下の次なるターゲットに選ばれてしまったようで、とてもそれどころではなさそうだった。
「リーゲル貴方、わたくしを置いて行って許されるとでも思っているの?」
「許されるも何も、王女殿下には護衛がついていますし、私がいなくなった所で問題はありませんよね?」
「んもうっ! またそんな他人行儀な呼び方をして! そんなにわたくしの気を惹きたいの!? 仕方のない人ね」
そう言われ、絶句されるリーゲル様。
本当に……なんて思い込みが強くて、迷惑な兄妹なの!?
王族だからって、人に迷惑をかけても良いわけではないでしょうに。
「ちょっと……!」
あまりにも勝手な言いように腹が立ち、リーゲル様達の方へ行くため、私が足を踏み出そうとした刹那──。
「私がアルテミシアを早く結婚させたい理由……知りたいんだったよね?」
と、王太子殿下に耳元で囁かれた。
何それ。どうして今突然、そんなことを言うわけ?
「今はそんなことどうでも良いです。兎に角王女殿──もがっ!」
「しーーーーーっ!」
王女殿下を止めないと──と叫ぼうとしたら、焦ったように殿下が私の口を大きな手で塞いできた。
わっ……片手で私の顔が軽く掴めちゃうんだ。大きい手……なんて思ってる場合じゃない。
口から手を外そうとすると、殿下が小声で告げてくる。
「私はあまり外へ出ないから、平民に顔を知られていないんだ。だが、ここで正体がバレるのは不味い。頼むから声を抑えてくれ」
「………………」
ガッチリ口を押さえられて声が出せないため、私は無言で何度も頷く。
王太子殿下の手で口を押さえられるなんて、状況が状況でなければ、嬉しさに気絶してしまってもおかしくないぐらいだ。けれど、私は今日一日の外出により、王太子殿下に対する気持ちが下降の一途を辿っているため、悲しいことに嬉しくもなんともない。
ただちょっと、男の人の手って大きいんだなって、若干ときめいただけ。
「グラディス!」
そこで突然リーゲル様に名を呼ばれ、私はハッとして彼の方を向いた。
するとリーゲル様は、王女殿下を腰に巻きつけた状態で、此方へと近付いてくる所だった。
なんだか王女殿下が腰巻きのようになってますけど、お互いにそれで良いんですか? ちょっと異様な光景なんですけど……。
幾ら相手が大好きなリーゲル様とはいえ、これって周りの注目を集めてしまうのでは……と、少々引き気味に見てしまう。
すぐに私の側へとやって来たリーゲル様は、何の前触れもなく、いきなりシーヴァイス様の手を私の口から無理矢理ひっぺがした。
それから徐にナプキンで殿下の掌を拭き、王女殿下の服へと擦り付ける。
ええええええ!?
「おい!」
「なんですの!?」
当然ながら驚いて大声をあげた二人に、リーゲル様は満面の笑顔を向ける。
その笑顔に何故か戸惑う二人に対し、リーゲル様は絶対零度の声でこう言った。
「てめぇら、良い加減にしろよな」
リーゲル様が、そんな言葉遣いをするのは初めてで。
加えて、表情と声がこれほどまでに一致しないことがあるのかと目の前の現実を疑った。
それは、暫く夢に見そう……と思わずに居られない程、強力に脳裏に焼き付くアンバランスさであったのだ──。
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