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第五章 旦那様を守りたい
疲れ果てたリーゲル様
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私がリーゲル様と王女殿下を無事に見つけた時、リーゲル様は疲れ切ってへとへとになっていた。
「リーゲル様!」
駆け寄って寄り添うと、彼は力無い笑みを浮かべる。
「ああ、グラディス……。私ではアルテミシアを抑えきれなくて……情けないな……はは」
近くでお店の人と何やら話している王女殿下はまだまだ元気いっぱいという感じだけれど、リーゲル様だけがどうしてこうも疲れ果てているんだろう?
それ程長い時間二人から離れていなかったと思うけど、時計など見ていないから、実際はかなりの時間が経過していたのだろうか。
内心で首を傾げるも、取り敢えずどこかで休憩しましょうと、私は座れる場所を探した。
「リーゲルは馬鹿だなぁ。大方アルテミシアに無駄な抵抗をして、余計な体力を削られたんだろう」
そんなことしたって逃げられないと分かっていただろうに。と、王太子殿下がリーゲル様に肩を貸し、歩き出す。
「それは……確かにそうですが、四人で……来たのに、二人ずつに別れるという……のはっ……はぁ、はぁ」
「息が切れて喋れないのなら、無理に話すな。言いたいことは分かってる」
大概お前も運動不足だからなぁ、と笑いながら歩く王太子殿下に、リーゲル様はジトっとした目を向ける。
「そもそもアルテミシアと二人で外出する約束をしたのはお前だろう? だったら私達のことなど忘れて楽しめば良かったのに」
「忘れられるわけ……っ、ゲホゲホッ!」
「ほらほら、疲れている時に大声を出すな。余計にしんどくなるぞ」
大声をださせるようなことを言ったのは殿下なのに、しれっとそんなことを言う。
本当にこの方は、人の気持ちを逆撫でするのがお上手だわ。
リーゲル様はよくこんな方と今まで友達を続けられたものね。
感心する気持ちとともに、お優しい方だからなぁ……と、しみじみ思う。
「……あ、ところで殿下──」
「シーヴァイス」
「え? あの──」
「私達はさっき友達になったんだろう? リーゲルを見つけたら終わりじゃないぞ」
ニヤっと笑った王太子殿下に意味あり気な視線向けられて、私はぐっと唇を引き結んだ。
「グラディス?」
心配そうなリーゲル様の声にハッとし、なんでもないという風に微笑む。
リーゲル様に心配をかけるなんて妻失格だわ。ここは、淑女らしく切り抜けないと。
覚悟を決めて、私は意地悪殿下にわざとらしい笑顔を向けた。
「シーヴァイス様、先程のお店にアルテミシア様をおいてきてしまいましたが、よろしかったのですか?」
私の笑顔が本心からでないことぐらい気付いているだろうに、意地悪殿下はにこやかに微笑み返してくる。
くっ、手強い。
「君が心配することはないよ。妹には護衛がついているし、気が済んだら追いかけてくるはずだから」
「そうなんですね……」
なんだか調教師というより、完全にアルテミシア様の生態を把握しているというか、そんな感じ?
それでも、彼女は未だ誰とも婚姻には至っていないのだから、やはり生態を把握していても、アルテミシア様の全てを思い通りにする、というわけにはいかないのでしょうね。
でも、どうして殿下はそこまでアルテミシア様をご結婚させたいのかしら?
ふと浮かんだ疑問が気になり、落ち着いたら聞いてみようと心に決める。
するとタイミング良く、殿下が道のやや先にあるお店を指し示した。
「ああ、ちょうど良い場所にカフェがあるな。腹も減ったし、昼食がてらあそこで休憩することにしよう」
いち早く腰を落ち着ける場所を見つけた殿下に賛同し、私達はそこへ入ったのだけれど──。
「……何故、グラディスの隣が殿下なのですか?」
四人掛けの席で、リーゲル様と私が向かい合って座り、私の隣には王太子殿下が座るという、謎の構図が出来上がっていた。
「何故って、元々はお前とアルテミシア二人だけの外出だったのに、そこへ私とグラディスが混ぜてもらった形なのだから、この配置は何らおかしくはないと思うが?」
「ですが、私とグラディスは夫婦であって──」
「夫婦が必ずしも隣同士に座らなければならないという法律などないだろう」
王太子殿下に言い負かされ、リーゲル様は悔し気に口を閉ざす。
これは……さすが王太子と言うべきなの?
頭も回るし口もよく回る。次期国王として捉えたら頼もしいかもしれないけれど、友達としては……嫌ね。限りなく嫌な感じだわ。
若干体を引き気味にしていたら、私の考えを悟られたらしい。王太子殿下は何もかもを見透かすような目で私を見つめながら、僅かに椅子を此方に寄せてきた。
「そういえば、グラディスは私に何か聞きたいことがあるんじゃないか? 街を歩いている間、ずっとそんな気配を感じていたが」
「えっ!?」
なんでバレたの? というか、どれのこと!? しかも、気配で分かるって怖すぎるんですけど?
一瞬パニックに陥るも、次の瞬間に聞こえてきたリーゲル様の声に、私の意識は完全に持っていかれた。
「殿下……。私の妻を名前で呼ぶのはやめていただきたいのですが……」
聞くだけで凍りついてしまいそうな、冷たい冷気を孕んだ声。
しかもそれだけではなく、目を合わせたら最後、絶対殺られる、といった危険な光を瞳に宿している。
なんで? リーゲル様、一体どうしてしまったの!?
「リーゲル様!」
駆け寄って寄り添うと、彼は力無い笑みを浮かべる。
「ああ、グラディス……。私ではアルテミシアを抑えきれなくて……情けないな……はは」
近くでお店の人と何やら話している王女殿下はまだまだ元気いっぱいという感じだけれど、リーゲル様だけがどうしてこうも疲れ果てているんだろう?
それ程長い時間二人から離れていなかったと思うけど、時計など見ていないから、実際はかなりの時間が経過していたのだろうか。
内心で首を傾げるも、取り敢えずどこかで休憩しましょうと、私は座れる場所を探した。
「リーゲルは馬鹿だなぁ。大方アルテミシアに無駄な抵抗をして、余計な体力を削られたんだろう」
そんなことしたって逃げられないと分かっていただろうに。と、王太子殿下がリーゲル様に肩を貸し、歩き出す。
「それは……確かにそうですが、四人で……来たのに、二人ずつに別れるという……のはっ……はぁ、はぁ」
「息が切れて喋れないのなら、無理に話すな。言いたいことは分かってる」
大概お前も運動不足だからなぁ、と笑いながら歩く王太子殿下に、リーゲル様はジトっとした目を向ける。
「そもそもアルテミシアと二人で外出する約束をしたのはお前だろう? だったら私達のことなど忘れて楽しめば良かったのに」
「忘れられるわけ……っ、ゲホゲホッ!」
「ほらほら、疲れている時に大声を出すな。余計にしんどくなるぞ」
大声をださせるようなことを言ったのは殿下なのに、しれっとそんなことを言う。
本当にこの方は、人の気持ちを逆撫でするのがお上手だわ。
リーゲル様はよくこんな方と今まで友達を続けられたものね。
感心する気持ちとともに、お優しい方だからなぁ……と、しみじみ思う。
「……あ、ところで殿下──」
「シーヴァイス」
「え? あの──」
「私達はさっき友達になったんだろう? リーゲルを見つけたら終わりじゃないぞ」
ニヤっと笑った王太子殿下に意味あり気な視線向けられて、私はぐっと唇を引き結んだ。
「グラディス?」
心配そうなリーゲル様の声にハッとし、なんでもないという風に微笑む。
リーゲル様に心配をかけるなんて妻失格だわ。ここは、淑女らしく切り抜けないと。
覚悟を決めて、私は意地悪殿下にわざとらしい笑顔を向けた。
「シーヴァイス様、先程のお店にアルテミシア様をおいてきてしまいましたが、よろしかったのですか?」
私の笑顔が本心からでないことぐらい気付いているだろうに、意地悪殿下はにこやかに微笑み返してくる。
くっ、手強い。
「君が心配することはないよ。妹には護衛がついているし、気が済んだら追いかけてくるはずだから」
「そうなんですね……」
なんだか調教師というより、完全にアルテミシア様の生態を把握しているというか、そんな感じ?
それでも、彼女は未だ誰とも婚姻には至っていないのだから、やはり生態を把握していても、アルテミシア様の全てを思い通りにする、というわけにはいかないのでしょうね。
でも、どうして殿下はそこまでアルテミシア様をご結婚させたいのかしら?
ふと浮かんだ疑問が気になり、落ち着いたら聞いてみようと心に決める。
するとタイミング良く、殿下が道のやや先にあるお店を指し示した。
「ああ、ちょうど良い場所にカフェがあるな。腹も減ったし、昼食がてらあそこで休憩することにしよう」
いち早く腰を落ち着ける場所を見つけた殿下に賛同し、私達はそこへ入ったのだけれど──。
「……何故、グラディスの隣が殿下なのですか?」
四人掛けの席で、リーゲル様と私が向かい合って座り、私の隣には王太子殿下が座るという、謎の構図が出来上がっていた。
「何故って、元々はお前とアルテミシア二人だけの外出だったのに、そこへ私とグラディスが混ぜてもらった形なのだから、この配置は何らおかしくはないと思うが?」
「ですが、私とグラディスは夫婦であって──」
「夫婦が必ずしも隣同士に座らなければならないという法律などないだろう」
王太子殿下に言い負かされ、リーゲル様は悔し気に口を閉ざす。
これは……さすが王太子と言うべきなの?
頭も回るし口もよく回る。次期国王として捉えたら頼もしいかもしれないけれど、友達としては……嫌ね。限りなく嫌な感じだわ。
若干体を引き気味にしていたら、私の考えを悟られたらしい。王太子殿下は何もかもを見透かすような目で私を見つめながら、僅かに椅子を此方に寄せてきた。
「そういえば、グラディスは私に何か聞きたいことがあるんじゃないか? 街を歩いている間、ずっとそんな気配を感じていたが」
「えっ!?」
なんでバレたの? というか、どれのこと!? しかも、気配で分かるって怖すぎるんですけど?
一瞬パニックに陥るも、次の瞬間に聞こえてきたリーゲル様の声に、私の意識は完全に持っていかれた。
「殿下……。私の妻を名前で呼ぶのはやめていただきたいのですが……」
聞くだけで凍りついてしまいそうな、冷たい冷気を孕んだ声。
しかもそれだけではなく、目を合わせたら最後、絶対殺られる、といった危険な光を瞳に宿している。
なんで? リーゲル様、一体どうしてしまったの!?
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