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第四章 旦那様がグイグイ来ます
微妙な空気
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公爵邸へと帰る道すがらの馬車内で、私とポルテは目配せをし合っていた。
(ねえポルテ、リーゲル様はどうして街へいらっしゃったのかしら?)
(大丈夫ですよ、奥様。邸へ帰ってもきっと王女殿下はもういらっしゃいません)
(理由を聞きたいけれど、私から質問するのは不敬だったりする?)
(思っていたより早く帰って下さったようで、良かったですね)
リーゲル様も一緒のため声が出せず、お互い目配せをし合うのみなのだけれど、内心で好き勝手なことを考えながら、何故か通じ合っているような気になっている。
(やっぱり私から話しかけるのはダメよね?)
(それにしても先程の旦那様は素敵でしたね)
(え、いいの? 私から話しかけてしまっても良いものなの?)
(一見冷たいようで、でも奥様への気持ちが籠っているというか……)
驚いて目を見開く私と、何故かうっとりとしたような顔をするポルテ。
あまりの反応の違いに、そこでようやく私は、ポルテと考えがすれ違っているかもしれない──でもまだ、かもしれない──ことに気が付いた。
それもそうよね。なにせ、お互い口を開かず目だけで会話してるんだもの。
それで完璧に通じ合えるほうが普通に考えたらおかしいわ。
リーゲル様とは向かい合わせに座っているものの、私とポルテは仲良く隣同士で座っている。
だから、小声で話せば、もしかしたらリーゲル様に気付かれず会話できるかもしれない。
……よし。
「──君達」
「ひゃあ!」
私が気合いをいれたと同時にリーゲル様が声を発するものだから、驚いた拍子に叫んでしまった。
「な、なんだ? どうかしたのか?」
私の声に逆に驚き、焦ったように聞いてくるリーゲル様。
すみません、なんでもないんです……。と言ったところで、何でもないのに叫ぶか? って聞かれそう。
でも、あなたの声に驚いて……って言うのは、失礼なような気がする。
さて、どうしよう?
「……グラディス?」
「は、はい!」
言い訳を考えていたら、思いつく前に声をかけられてしまった。そりゃあそうよね。
私ってば色々と考えすぎ。
「えぇと、あの……色々と考え事をしていたら、急に声をかけられたので驚いてしまって──」
よし、何とかなった。この言い訳なら多分大丈夫。
と思ったのは束の間で。
「何を考えていたのか、教えてもらっても?」
「えええええ?!」
予想外に突っ込まれた。
この方はいきなり何を言い出すんだろう?
そんなこと絶対教えられるわけがないのに!
助けを求めてポルテを見ると、ぎこちなく微笑まれる。
これは「ご自分で何とかして下さい」ね、きっと。
こういう時だけ分かってしまうのも悲しいわ。
「何故そんなに驚く? 何か私に知られると不味いようなことでも考えていたのか?」
私の挙動があまりにも怪しかったらしい。
リーゲル様が訝し気に眇められる。
「いえっ! 決してそういうわけではないのですが……」
ですが、目配せでポルテと会話していましたとは、さすがに言えない。
言ったところで「こいつ、頭がおかしいのか?」とかって思われそうな気がする。
しかも、それにポルテが頷いたら、ポルテも頭がおかしいことになるし、否定されたら別の意味で詰む。
ポルテ助けて!
全力で助けを求めていることが分かるよう、限界まで目に力を入れてポルテを見つめる。
なのにポルテは、そうされるのが分かっていたかのように、明後日の方向を向いていて。
「ポルテ……酷いわ……」
思わず泣き言を口にすると、何故かリーゲル様が吹き出した。
「ふはっ!」
「え?」
「ど、どうしたんですか?」
普段ではあり得ない出来事に、ポルテまで口を出す。
なに? 一体何が起こったの?
リーゲル様が笑い声をあげるだけでも珍しいのに、こんな風に吹き出すなんて。
なんだかもの凄く楽しそうに笑っているけど、どうして急に笑い出したの?
ポカンとしつつ隣に座るポルテを見ると、彼女も私同様、ポカンとしている。
そんな私達を横目で見ながら、肩を震わせ、笑い続けるリーゲル様。
「……ポルテ」
「はい、奥様」
「何か笑えるようなこと、あったかしら?」
至極真面目に尋ねる。
彼の笑っている理由が、なんとしても知りたかったから。
けれどポルテは、私の問いに少し考える素振りを見せてから、キッパリと首を横に振った。
「いえ、何もなかったかと」
「では、今リーゲル様が笑っていらっしゃるのは何故なのかしら?」
「さあ……?」
ポルテがそう答えた瞬間、再びリーゲル様が盛大に吹き出した。
「き、君達……ふふっ、いい加減に……して、くれないか……あははははっ」
「いい加減にしろと言われましても……」
「ねえ?」
本当にわけが分からない。
一体何がそんなに面白いと言うのだろうか。
困惑し、顔を見合わせる私とポルテ、一人で笑い転げるリーゲル様を乗せた馬車は、それから暫くして、無事公爵邸へと帰り着いたのだった。
ちなみに、彼は公爵邸へ着くまで笑い転げていて、私とポルテは意味不明で、すん──としている微妙な空気が馬車内を満たしていたことは、言うまでもない。
(ねえポルテ、リーゲル様はどうして街へいらっしゃったのかしら?)
(大丈夫ですよ、奥様。邸へ帰ってもきっと王女殿下はもういらっしゃいません)
(理由を聞きたいけれど、私から質問するのは不敬だったりする?)
(思っていたより早く帰って下さったようで、良かったですね)
リーゲル様も一緒のため声が出せず、お互い目配せをし合うのみなのだけれど、内心で好き勝手なことを考えながら、何故か通じ合っているような気になっている。
(やっぱり私から話しかけるのはダメよね?)
(それにしても先程の旦那様は素敵でしたね)
(え、いいの? 私から話しかけてしまっても良いものなの?)
(一見冷たいようで、でも奥様への気持ちが籠っているというか……)
驚いて目を見開く私と、何故かうっとりとしたような顔をするポルテ。
あまりの反応の違いに、そこでようやく私は、ポルテと考えがすれ違っているかもしれない──でもまだ、かもしれない──ことに気が付いた。
それもそうよね。なにせ、お互い口を開かず目だけで会話してるんだもの。
それで完璧に通じ合えるほうが普通に考えたらおかしいわ。
リーゲル様とは向かい合わせに座っているものの、私とポルテは仲良く隣同士で座っている。
だから、小声で話せば、もしかしたらリーゲル様に気付かれず会話できるかもしれない。
……よし。
「──君達」
「ひゃあ!」
私が気合いをいれたと同時にリーゲル様が声を発するものだから、驚いた拍子に叫んでしまった。
「な、なんだ? どうかしたのか?」
私の声に逆に驚き、焦ったように聞いてくるリーゲル様。
すみません、なんでもないんです……。と言ったところで、何でもないのに叫ぶか? って聞かれそう。
でも、あなたの声に驚いて……って言うのは、失礼なような気がする。
さて、どうしよう?
「……グラディス?」
「は、はい!」
言い訳を考えていたら、思いつく前に声をかけられてしまった。そりゃあそうよね。
私ってば色々と考えすぎ。
「えぇと、あの……色々と考え事をしていたら、急に声をかけられたので驚いてしまって──」
よし、何とかなった。この言い訳なら多分大丈夫。
と思ったのは束の間で。
「何を考えていたのか、教えてもらっても?」
「えええええ?!」
予想外に突っ込まれた。
この方はいきなり何を言い出すんだろう?
そんなこと絶対教えられるわけがないのに!
助けを求めてポルテを見ると、ぎこちなく微笑まれる。
これは「ご自分で何とかして下さい」ね、きっと。
こういう時だけ分かってしまうのも悲しいわ。
「何故そんなに驚く? 何か私に知られると不味いようなことでも考えていたのか?」
私の挙動があまりにも怪しかったらしい。
リーゲル様が訝し気に眇められる。
「いえっ! 決してそういうわけではないのですが……」
ですが、目配せでポルテと会話していましたとは、さすがに言えない。
言ったところで「こいつ、頭がおかしいのか?」とかって思われそうな気がする。
しかも、それにポルテが頷いたら、ポルテも頭がおかしいことになるし、否定されたら別の意味で詰む。
ポルテ助けて!
全力で助けを求めていることが分かるよう、限界まで目に力を入れてポルテを見つめる。
なのにポルテは、そうされるのが分かっていたかのように、明後日の方向を向いていて。
「ポルテ……酷いわ……」
思わず泣き言を口にすると、何故かリーゲル様が吹き出した。
「ふはっ!」
「え?」
「ど、どうしたんですか?」
普段ではあり得ない出来事に、ポルテまで口を出す。
なに? 一体何が起こったの?
リーゲル様が笑い声をあげるだけでも珍しいのに、こんな風に吹き出すなんて。
なんだかもの凄く楽しそうに笑っているけど、どうして急に笑い出したの?
ポカンとしつつ隣に座るポルテを見ると、彼女も私同様、ポカンとしている。
そんな私達を横目で見ながら、肩を震わせ、笑い続けるリーゲル様。
「……ポルテ」
「はい、奥様」
「何か笑えるようなこと、あったかしら?」
至極真面目に尋ねる。
彼の笑っている理由が、なんとしても知りたかったから。
けれどポルテは、私の問いに少し考える素振りを見せてから、キッパリと首を横に振った。
「いえ、何もなかったかと」
「では、今リーゲル様が笑っていらっしゃるのは何故なのかしら?」
「さあ……?」
ポルテがそう答えた瞬間、再びリーゲル様が盛大に吹き出した。
「き、君達……ふふっ、いい加減に……して、くれないか……あははははっ」
「いい加減にしろと言われましても……」
「ねえ?」
本当にわけが分からない。
一体何がそんなに面白いと言うのだろうか。
困惑し、顔を見合わせる私とポルテ、一人で笑い転げるリーゲル様を乗せた馬車は、それから暫くして、無事公爵邸へと帰り着いたのだった。
ちなみに、彼は公爵邸へ着くまで笑い転げていて、私とポルテは意味不明で、すん──としている微妙な空気が馬車内を満たしていたことは、言うまでもない。
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