【完結】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした

迦陵 れん

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第四章 旦那様がグイグイ来ます

まずは採寸から

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 洋装店に初めて訪れた私は、店内の品数の多さに圧倒されていた。

 然程広くない店内に、所狭しと見本のドレスや生地、髪飾りなどが置いてある。

 これだけ数があると、一着のドレスを仕立てるのに必要な物を選ぶだけでも、気の遠くなるような労力が必要そうだわ。

 今までの私のドレスは全て、伯爵家に呼び付けた商人に、『出来るだけ地味な生地で地味なドレスを』という注文をするのみで、他は全部お任せで仕立ててもらっていたから、何もする必要がなくて楽だった。

 なのに、自分で店に足を運んでドレスを仕立てる場合は、こんなに大量にある物の中から全てを選ばないといけないなんて。

 ドレスの形や生地、色、デザインは勿論のこと、それに付随するアレやこれやまで……?

 無理無理! 私には絶対無理! 

 この前の夜会でエルンスト様に言われたことが気になって、地味ではないドレスを試しに仕立ててみようと思ったから、ここまで来たのだけれど。まさかドレス一着を仕立てるのに、材料選びからしなくてはいけないなんて思ってもみなかった。

 実は私はもっと軽く考えていて、店に行けば完成されたドレスが何着か棚に並んでおり、その中から適当に自分の気に入った物を買えば済むと思っていた。

 もちろん、今までに着たことのないようなドレスを買いに来たのだから、色やデザインに悩むだろうということは分かっていたけれど、そこはポルテや店主に助言をもらえば良いと、問題にしていなかった。だけど、それはどうやら考えが甘かったらしい。

「これは、どうしたら……」

 生地から選ぶか、色から選ぶか。

 それすら分からず、眉間に皺を寄せる。

 困って思わずポルテの方を見ると、ようやく店主との話が一区切りついたのか、彼女はちょうど私の元へとやってくるところだった。

「奥様、今日はどういったものを買おうと思って来たんですか?」
「あのね、具体的に『これ』といったものがあるわけではないのだけど……」

 そこで私は、自分がドレスを買おうと思うきっかけになったエルンスト様とのやり取りを、ポルテに話して聞かせる。

「多分だけど、エルンスト様は彼なりに地味な装いの私を褒めてくれたんだと思うのよ? でも、別の視点から考えると、私一人だけが地味で目立つという風にも捉えられるなって思って……」

 私の装いが普段から地味なのは、不幸そうな自分の顔に派手な装いは似合わないということと、一緒にいるリーゲル様を、自らが影になることで更に輝き目立たせようという二つの理由からだ。

 だけど、予想だにしていなかったエルンスト様のお言葉により、煌びやかな人達ばかりがいるパーティー会場で、一人だけ地味な装いの自分は悪目立ちしている可能性もあるということに思い至った。

 所詮身代わりでしかない私が目立つことは好ましくない。

 エルンスト様のように、地味な私を好意的に見てくれる方なら良いけれど、そうでない場合、わざと一人だけ他の人達と違う装いをして目立とうとしている──などと、悪い方向へ捉えられることもあるだろうから。

「お姉様のような美しい令嬢達と違って、私じゃ煌びやかなドレスなんて着こなせないって分かっているんだけど、それでも──」
「そんなことありません!」

 ポルテの力強い声が、店内に響く。

「奥様はお綺麗です。今お持ちの沢山のドレスより、煌びやかな物の方が絶対に似合います。私が保証致しますので、どうか自信をお持ちになって下さい!」
「あ……ありがとう、ポルテ」

 侍女からの圧が凄くて、思わず一歩後ずさる。

 嬉しいんだけど、この熱量は何処からくるのかしら。

「よし! じゃあまずは──」
「採寸でございますね!」

 ポルテが口に出す前に、店員と思われる女性がメジャーを持って唐突に現れた。

 え、何処から現れたの!?

 さっきまで店内にいなかったよね?

「では、此方へどうぞ」
「えっ、ちょ、ちょっと……!」

 私の心の中の問いは口にされることなく、店員に腕を掴まれ、問答無用で店の奥へと連れて行かれる。

「デザイン選びは私とジュジュにお任せ下さい。奥様ごゆっくり~」

 大きく手を振り、私を見送るポルテの隣に、いつの間にやらジュジュの姿もあって。

 なんなの?

 この店は色んな所から人が突然現れるの?

 っていうかジュジュはいつからいたの?

 色んな疑問が頭に浮かんだけれど、女性店員に奥の部屋へと連れ込まれた私は、あっという間に服を脱がされてしまう。

「あ、あのっ、何も全部脱がなくても──」

 ジャッ!!

 抗議とともに脱がされた服を取り戻そうとするも、素早くメジャーを引き出す音によって遮られた。

「正しい寸法を測るためには、服を脱いでいただく必要があるんです。此方と致しましても、中途半端な仕事はしたくありませんので」

 にっこり微笑って言われるも、彼女の瞳は全く笑っていない。

 これは絶対に逆らったらいけないやつだ。

 私は瞬時にそう理解して、

「わ、分かりました……」

 と、大人しく従うことにした。

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