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第二章 赤い魔性
屈辱か拷問か
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「死ねぇぇぇぇっ!」
剣を構えた騎士の男が、猛然と突っ込んでくる。
その気迫に恐怖を感じたラズリは、思わず奏の服の裾を掴んだ。
「そ、奏……」
「大丈夫だって。ラズリは俺が守るって言っただろ?」
赤い瞳に優しく微笑まれ、ラズリはそれに安堵し、小さく頷く。
今、彼の邪魔をしてはいけない。奏ならきっと大丈夫。さっきだって、二人がかりで襲ってきた彼等を吹っ飛ばしたのだから。
そう思うのに、つい不安になって、奏の服の裾を握りしめてしまう。
そのせいで、不安が伝わってしまったのだろうか。
奏は僅かに背後へ振り向くと、早口でラズリにこう告げた。
「怖かったら、俺に掴まってて良いぞ。俺は絶対に大丈夫だから」
騎士は既に奏の目の前にいて、大きく剣を振りかぶろうとしている。
そんなに大きい動作をしていては、簡単に避けられてしまうのでは? と思うが、ラズリのせいで奏がその場から動けないことを知っているのだろう。一撃の威力に重きをおいているようだ。
こんなにも卑怯な人が、本当に王宮騎士なの?
あり得ない──とラズリは思う。
たとえ相手が魔性であろうと、見た目的には自分達人間と何一つ変わらないのに。否、人間とか魔性とか、それすら彼等にはどうでも良いのか。現に彼等は、同じ人間である村人達にも容赦がなかったのだから。
この人達が本当に王宮騎士であるかどうか、いっそのこと王宮へ行って確かめるのも有りかもしれない。
そんな風に考えた時だった。
奏の背中越しに、男の振りかぶった剣が、勢いよく振り下ろされる瞬間が見えたのは。
「きゃあっ!」
その勢いに思わず驚き、ラズリは反射的に目を閉じた──が、衝撃はなく、空気を切る音が聞こえただけだった。
「…………?」
「なっ……どういうことだ⁉︎」
ラズリが目を開けるより早く聞こえてきた、自分の気持ちを代弁するかのような騎士の男の声。
どうしたんだろう? と、ラズリがそっと薄目を開けて見てみると、驚愕も露わに奏の目の前で必死に剣を振り回す騎士の姿があった。
「何故だ? 何故斬れない?」
至近距離で騎士は剣を振り続けるが、全く当たらないようで、奏は平然と立ち続けている。
「どうした? 素振りするだけで実は当てるつもりがないのか? それとも当てられない……なんてことはないよな? なんたってお前は『俺様』なんだし?」
「う、うるせぇ、黙れ!」
明らかに馬鹿にしたような奏の言葉に腹を立てたらしく、騎士の男は再び剣を振り回す。が、当たらない。
よく見ると、騎士と奏との間の空間に歪みのようなものがあり、剣はその歪みのようなものに吸い込まれ、奏の元まで届いていないようだ。
「ねぇ奏、あの歪みって……?」
騎士の男に聞こえないよう小さな声で尋ねると、奏は「さすがラズリ。よく分かったな」と答えてくれた。
「詳しくは、そこの無能を片付けてから教えるから、ちょい待っててな」
「だから、俺様を無能と──!」
それ以上、騎士の男は言葉を発することができなかった。何故なら、突如騎士の首の周りに赤い靄のようなものが発生し、それが彼の首を絞めたからだ。
その靄は、首を絞めることはできるのに実体はないらしく、騎士の男が赤い靄を掴もうと首周りを必死で掻くのに、その指は虚しく首を引っ掻くだけだった。
「……っく、あ……っ」
幾ら首を引っ掻いても何も掴めず、けれど首を絞められている圧迫感を感じるせいで混乱したのか、騎士の目が、助けを求めるかのようにラズリの姿を映した。だが、即座に奏がその視線を遮り、口を開く。
「無能を無能と呼んで何が悪い? 実際お前は俺に一撃も入れられなかっただろう? その時点でお前は無能だ。素直に認めるのが身のためだと思うけどな」
奏の赤い瞳に、剣呑な光が宿る。
「でもまぁ……俺は優しいからな。選択の余地をやろう。自分のことを無能だと認め、謝罪して此方の質問に正直に答えるのならば助けてやらんこともない。だが、そうでないなら助けるのは命だけだ。死んだ方がマシだと思えるような悲惨な目に遭わせる。さぁ……どうする?」
それは果たして、選択と呼んで良いものなのか。
あまりの内容に、ラズリは頭痛を覚え、額を押さえる。
その選択肢であれば、余程の狂人でもない限り、質問に答えるとしか言いようがないと思うのに、それのどこに優しさがあるというのか。しかも、質問に答える場合でも、自分自身を無能と認め、謝罪するというおまけ付きだ。
どちらを選んだとしても、この誇りばかり高そうな騎士の男には、地獄のような苦しみとなるに違いない。
なのに奏は、平然と答えを求めるのだ。
「さぁ、どうする?」
首周りから唐突に赤い靄が消え、呼吸ができるようになった騎士が地面に倒れ込んだ瞬間、奏が肩を踏みつける。
「正直俺はどちらでも構わない。質問する相手なら、向こうにも転がってるからな。ただ俺は、ラズリの前で酷いことをしたくないから、選ばせてやってるだけだ」
無論、選ぶのは最初のやつに決まってるよな? と付け足して。
見下した視線を向けられた騎士の男は、己の敗北を受け入れるしかなかっただろう。唇が切れるかと思うほど、彼は強く己の唇を噛むと、射殺しそうな鋭い瞳で、奏を下から睨み付けた。
──が、そんな虚勢も長くは続かず。
「なんだ、拷問が希望なのか」
と呟くように奏が言った瞬間、もの凄い速さで土下座し、地面に頭を擦り付けた。
剣を構えた騎士の男が、猛然と突っ込んでくる。
その気迫に恐怖を感じたラズリは、思わず奏の服の裾を掴んだ。
「そ、奏……」
「大丈夫だって。ラズリは俺が守るって言っただろ?」
赤い瞳に優しく微笑まれ、ラズリはそれに安堵し、小さく頷く。
今、彼の邪魔をしてはいけない。奏ならきっと大丈夫。さっきだって、二人がかりで襲ってきた彼等を吹っ飛ばしたのだから。
そう思うのに、つい不安になって、奏の服の裾を握りしめてしまう。
そのせいで、不安が伝わってしまったのだろうか。
奏は僅かに背後へ振り向くと、早口でラズリにこう告げた。
「怖かったら、俺に掴まってて良いぞ。俺は絶対に大丈夫だから」
騎士は既に奏の目の前にいて、大きく剣を振りかぶろうとしている。
そんなに大きい動作をしていては、簡単に避けられてしまうのでは? と思うが、ラズリのせいで奏がその場から動けないことを知っているのだろう。一撃の威力に重きをおいているようだ。
こんなにも卑怯な人が、本当に王宮騎士なの?
あり得ない──とラズリは思う。
たとえ相手が魔性であろうと、見た目的には自分達人間と何一つ変わらないのに。否、人間とか魔性とか、それすら彼等にはどうでも良いのか。現に彼等は、同じ人間である村人達にも容赦がなかったのだから。
この人達が本当に王宮騎士であるかどうか、いっそのこと王宮へ行って確かめるのも有りかもしれない。
そんな風に考えた時だった。
奏の背中越しに、男の振りかぶった剣が、勢いよく振り下ろされる瞬間が見えたのは。
「きゃあっ!」
その勢いに思わず驚き、ラズリは反射的に目を閉じた──が、衝撃はなく、空気を切る音が聞こえただけだった。
「…………?」
「なっ……どういうことだ⁉︎」
ラズリが目を開けるより早く聞こえてきた、自分の気持ちを代弁するかのような騎士の男の声。
どうしたんだろう? と、ラズリがそっと薄目を開けて見てみると、驚愕も露わに奏の目の前で必死に剣を振り回す騎士の姿があった。
「何故だ? 何故斬れない?」
至近距離で騎士は剣を振り続けるが、全く当たらないようで、奏は平然と立ち続けている。
「どうした? 素振りするだけで実は当てるつもりがないのか? それとも当てられない……なんてことはないよな? なんたってお前は『俺様』なんだし?」
「う、うるせぇ、黙れ!」
明らかに馬鹿にしたような奏の言葉に腹を立てたらしく、騎士の男は再び剣を振り回す。が、当たらない。
よく見ると、騎士と奏との間の空間に歪みのようなものがあり、剣はその歪みのようなものに吸い込まれ、奏の元まで届いていないようだ。
「ねぇ奏、あの歪みって……?」
騎士の男に聞こえないよう小さな声で尋ねると、奏は「さすがラズリ。よく分かったな」と答えてくれた。
「詳しくは、そこの無能を片付けてから教えるから、ちょい待っててな」
「だから、俺様を無能と──!」
それ以上、騎士の男は言葉を発することができなかった。何故なら、突如騎士の首の周りに赤い靄のようなものが発生し、それが彼の首を絞めたからだ。
その靄は、首を絞めることはできるのに実体はないらしく、騎士の男が赤い靄を掴もうと首周りを必死で掻くのに、その指は虚しく首を引っ掻くだけだった。
「……っく、あ……っ」
幾ら首を引っ掻いても何も掴めず、けれど首を絞められている圧迫感を感じるせいで混乱したのか、騎士の目が、助けを求めるかのようにラズリの姿を映した。だが、即座に奏がその視線を遮り、口を開く。
「無能を無能と呼んで何が悪い? 実際お前は俺に一撃も入れられなかっただろう? その時点でお前は無能だ。素直に認めるのが身のためだと思うけどな」
奏の赤い瞳に、剣呑な光が宿る。
「でもまぁ……俺は優しいからな。選択の余地をやろう。自分のことを無能だと認め、謝罪して此方の質問に正直に答えるのならば助けてやらんこともない。だが、そうでないなら助けるのは命だけだ。死んだ方がマシだと思えるような悲惨な目に遭わせる。さぁ……どうする?」
それは果たして、選択と呼んで良いものなのか。
あまりの内容に、ラズリは頭痛を覚え、額を押さえる。
その選択肢であれば、余程の狂人でもない限り、質問に答えるとしか言いようがないと思うのに、それのどこに優しさがあるというのか。しかも、質問に答える場合でも、自分自身を無能と認め、謝罪するというおまけ付きだ。
どちらを選んだとしても、この誇りばかり高そうな騎士の男には、地獄のような苦しみとなるに違いない。
なのに奏は、平然と答えを求めるのだ。
「さぁ、どうする?」
首周りから唐突に赤い靄が消え、呼吸ができるようになった騎士が地面に倒れ込んだ瞬間、奏が肩を踏みつける。
「正直俺はどちらでも構わない。質問する相手なら、向こうにも転がってるからな。ただ俺は、ラズリの前で酷いことをしたくないから、選ばせてやってるだけだ」
無論、選ぶのは最初のやつに決まってるよな? と付け足して。
見下した視線を向けられた騎士の男は、己の敗北を受け入れるしかなかっただろう。唇が切れるかと思うほど、彼は強く己の唇を噛むと、射殺しそうな鋭い瞳で、奏を下から睨み付けた。
──が、そんな虚勢も長くは続かず。
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