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第二章 赤い魔性
ムカつく騎士
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最初はなんとなく、声に聞き覚えがあるような気がしただけだった。
ミルド以外の王宮騎士達は、全員同じ甲冑に兜、同色のマントという出立ちであることから、見た目だけで区別することは出来ない。だから襲い掛かって来た時には、あの時の騎士であったなんて、ラズリは思ってさえいなかった。
けれど、独り言を呟く騎士の声を繰り返し聞くうち、疑念が浮かび上がってきて。
自分はこの騎士の声を知っているような気がする。でも、どうして? どこでこの人の声を聞いたのだろう?
考えてみれば、答えは一つしか導き出されなかった。
そして、それをどうやって確かめようかと思案していたら、騎士の男と目が合ったのだ。
何も言葉を発さず見つめていたら、男は厭らしく顔を歪めて気持ちの悪いことを口にした。自分が彼に一目惚れするなど、天地がひっくり返ってもあり得ないというのに。
だが、おかげで確信を持つ事ができた。
あの男の、人を小馬鹿にしたような態度と、厭らしい物言い。間違いなく、この騎士の男は自分を村から連れ出した男だ。そして同時に、罪もない村人達に暴力を振るった酷い男。
この男が、みんなを……。
その時の光景を思い出し、激しい怒りに、ラズリは身を震わせた。
どうせ殺すつもりなら、あんな風に痛めつけなくとも良かったはずだ。村人達のことなど気にせず自分を外へ連れ出せば、それだけで事を成すことができただろう。
なのにこの男は、わざわざ村人達を煽り、傷付け、絶望させて放置するといった暴挙に出た。それも、自分が楽しむためだけという、自分勝手すぎる理由で。
そんなの許せる筈がない。許して良いわけがない。
恐らくこの男は、過去にも同じようなことを何度も繰り返しているのだろう。疑いようもなくそう思えてしまうほど、彼の行動には迷いがなく、また、残虐性があった。
「……私を村から連れ出したのは、あなたなのよね?」
分かっていながら、確証を得るべく、ラズリは騎士の男にそう尋ねた。
しかし、それに対し男が見せた反応は、僅かに目を見張るぐらいで。認めることも、否定することもない。ただ単に、曖昧な笑みを浮かべて肩を竦めるだけ。
何故、彼は答えないのか。誤魔化してどうするつもりなのか。こちらはもう、答えを知っているも同然なのに。
「どうして答えないの? 私を連れ出したのは、あなたなんでしょ? 素直に認めたらどうなの⁉︎」
苛ついて問いを重ねるも、男は何も答えない。ただラズリを馬鹿にしているかのように、ニヤニヤ笑って見せるだけだ。
なんなのこの人⁉︎ こんなにムカつく人、今まで見た事ない!
激しい怒りに支配され、ラズリが思わず足を一歩、前へ踏み出した時だった。
待ってましたとばかり、騎士の男が、もの凄い速さでラズリへ掴み掛かってきたのだ!
「…………っ!」
腕を掴まれる寸前、奏によって身体を後ろへと引かれなければ、ラズリは完全に捕まっていただろう。それぐらい、男の行動は素早かった。
「……チッ、本当に邪魔な奴だな。てめぇさえいなけりゃ、そこの女を確実にひっ捕まえられてたっつーのに」
忌々し気に、男が呟く。
問い掛けに対し、何も答えずにいたのは、わざとだったのだろう。男の舌打ちとぼやきに、ラズリは自分がまんまと乗せられたことを知った。
どうして、こんな男に……。
村人達だけではない。まさか自分までもが、良いように扱われるなんて。
咄嗟に言い返そうとしたラズリだったが、それより早く、奏の声が耳を打った。
「ばーか。ラズリがそんなだから、助け甲斐があるんだろーが。俺的には助けを必要としない女なんて、面白くも何ともないぞ? だから、これぐらいがちょうど良いってもんだ」
褒められているのか、貶されているのか。
言い方的に、喜んで良いのか悪いのか判断に迷う所ではあるけれども、少なくとも貶されているわけではなさそうだったので、取り敢えずラズリは口を閉ざしておこうと思った。
「あいつらが何を企もうと、何をしようと、俺が絶対に守ってやるから安心しろ。俺って実は最強だからさ」
後ろを振り返った奏が、悪戯っ子のような笑顔でそう言う。
彼が最強かどうかはともかくとして、自分を元気づけようとしてくれているような言動と笑顔に、ラズリは心から奏に出逢えて良かったと思った。
ミルド以外の王宮騎士達は、全員同じ甲冑に兜、同色のマントという出立ちであることから、見た目だけで区別することは出来ない。だから襲い掛かって来た時には、あの時の騎士であったなんて、ラズリは思ってさえいなかった。
けれど、独り言を呟く騎士の声を繰り返し聞くうち、疑念が浮かび上がってきて。
自分はこの騎士の声を知っているような気がする。でも、どうして? どこでこの人の声を聞いたのだろう?
考えてみれば、答えは一つしか導き出されなかった。
そして、それをどうやって確かめようかと思案していたら、騎士の男と目が合ったのだ。
何も言葉を発さず見つめていたら、男は厭らしく顔を歪めて気持ちの悪いことを口にした。自分が彼に一目惚れするなど、天地がひっくり返ってもあり得ないというのに。
だが、おかげで確信を持つ事ができた。
あの男の、人を小馬鹿にしたような態度と、厭らしい物言い。間違いなく、この騎士の男は自分を村から連れ出した男だ。そして同時に、罪もない村人達に暴力を振るった酷い男。
この男が、みんなを……。
その時の光景を思い出し、激しい怒りに、ラズリは身を震わせた。
どうせ殺すつもりなら、あんな風に痛めつけなくとも良かったはずだ。村人達のことなど気にせず自分を外へ連れ出せば、それだけで事を成すことができただろう。
なのにこの男は、わざわざ村人達を煽り、傷付け、絶望させて放置するといった暴挙に出た。それも、自分が楽しむためだけという、自分勝手すぎる理由で。
そんなの許せる筈がない。許して良いわけがない。
恐らくこの男は、過去にも同じようなことを何度も繰り返しているのだろう。疑いようもなくそう思えてしまうほど、彼の行動には迷いがなく、また、残虐性があった。
「……私を村から連れ出したのは、あなたなのよね?」
分かっていながら、確証を得るべく、ラズリは騎士の男にそう尋ねた。
しかし、それに対し男が見せた反応は、僅かに目を見張るぐらいで。認めることも、否定することもない。ただ単に、曖昧な笑みを浮かべて肩を竦めるだけ。
何故、彼は答えないのか。誤魔化してどうするつもりなのか。こちらはもう、答えを知っているも同然なのに。
「どうして答えないの? 私を連れ出したのは、あなたなんでしょ? 素直に認めたらどうなの⁉︎」
苛ついて問いを重ねるも、男は何も答えない。ただラズリを馬鹿にしているかのように、ニヤニヤ笑って見せるだけだ。
なんなのこの人⁉︎ こんなにムカつく人、今まで見た事ない!
激しい怒りに支配され、ラズリが思わず足を一歩、前へ踏み出した時だった。
待ってましたとばかり、騎士の男が、もの凄い速さでラズリへ掴み掛かってきたのだ!
「…………っ!」
腕を掴まれる寸前、奏によって身体を後ろへと引かれなければ、ラズリは完全に捕まっていただろう。それぐらい、男の行動は素早かった。
「……チッ、本当に邪魔な奴だな。てめぇさえいなけりゃ、そこの女を確実にひっ捕まえられてたっつーのに」
忌々し気に、男が呟く。
問い掛けに対し、何も答えずにいたのは、わざとだったのだろう。男の舌打ちとぼやきに、ラズリは自分がまんまと乗せられたことを知った。
どうして、こんな男に……。
村人達だけではない。まさか自分までもが、良いように扱われるなんて。
咄嗟に言い返そうとしたラズリだったが、それより早く、奏の声が耳を打った。
「ばーか。ラズリがそんなだから、助け甲斐があるんだろーが。俺的には助けを必要としない女なんて、面白くも何ともないぞ? だから、これぐらいがちょうど良いってもんだ」
褒められているのか、貶されているのか。
言い方的に、喜んで良いのか悪いのか判断に迷う所ではあるけれども、少なくとも貶されているわけではなさそうだったので、取り敢えずラズリは口を閉ざしておこうと思った。
「あいつらが何を企もうと、何をしようと、俺が絶対に守ってやるから安心しろ。俺って実は最強だからさ」
後ろを振り返った奏が、悪戯っ子のような笑顔でそう言う。
彼が最強かどうかはともかくとして、自分を元気づけようとしてくれているような言動と笑顔に、ラズリは心から奏に出逢えて良かったと思った。
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