天涯孤独になった筈が、周りで奪い合いが起きているようです

迦陵 れん

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第一章 回り出した歯車

侵入者

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 ラズリの目の前にいたのは、見知らぬ三人の男達だった。

 一人は青いマントを羽織り、艶やかな黒髪をなびかせた、どこか気品の漂う人物。 あとの二人は、なんだかよく分からない頑丈そうなもの──甲冑──に全身を包みこんでいて、顔すら窺い知ることはできない。 

 初めて見る格好の、明らかに村の空気にそぐわない三人。
   
「どうして、知らない人がここに……?」 

 目の前の事実が俄かには信じられず、ラズリは何度も目を瞬いた。

 産まれてからずっとこの村で生きてきて、これまで一度たりとも村人以外の人間を見かけた事はなかった。

 村の外は危ないからと、外へ出してもらったこともなく。同様に、外の人間は危険だから、外部の人間は村への出入りを禁止にしているとも聞いていた。

 その為、万が一にも村の存在が知られる事のないように、外部との繋がりを一切断ち、食料を含む全ての物を、すべて自給自足で賄ってきたのだ。

 村の入口は森の木々で巧妙に隠されているらしく、外からは絶対に分からない──だからこそ、一度外に出たら二度と戻れないと言われていた──ため、何があろうと外へ出てはいけない、と祖父から言い含められてもいた。

 それなのにこの人達は、どうやってここへ入ってきたのだろうか?

 もう何年、もしかしたら十年以上もの間、出入りされなかった村と森との境目は、既に区別など完全につかなくなっている筈。その出入り口をどうやって見つけ、村に入り込んで来たというのだろうか。

 鬱蒼と茂る森の奥深くの、普通であれば誰も立ち入らないような場所にある、名も無き村に。

 と、そこまで考えた時、ラズリは再び自分へと掛けられた男の声によって、思考を強制的に中断させられた。

「……お嬢さん? よければ道案内を頼みたいのだが……」

 聞こえているか? と膝を折り、男は視線の高さを合わせるようにして、顔を覗き込んでくる。

 恐らくだが、無言のまま身じろぎもしないラズリに、焦れたのだろう。

 けれどラズリは、初めて見る外部の人間に、頭の中が真っ白になってしまって。

「っ……!」

 気付けば、彼等から逆方向へと、脱兎のごとく逃げ出していた。

「おい、待て……!」

 後ろから、咎めるような声が聞こえてきたが、待てと言われて待つぐらいなら、最初から逃げ出してなどいない。見知らぬ男達は重そうなものを身につけていたから、たとえ追われても捕まることはないだろう。

 初めて会った、外部の人間。

 ラズリはとにかく彼等から距離をとるべく、全力で村内を駆けた。



※※※



「……逃げられましたね」
「ああ、そうだな」

 青いマントを羽織った男は、呆然とした響きを宿した部下の言葉に、苦虫を噛み潰したかのような顔で頷いた。

「せっかく丁度良い所で案内役を見つけたと思ったのだが、まさかあそこまで勢い良く逃げられるとは……」
 
 立場上、女性から逃げられた事などない彼にとって、あの娘の行動はある意味衝撃的だった。

 無体を働こうとしたならともかく、まさか声を掛けただけで逃げられるとは。

「……私の顔は、それ程までに凶悪であったか?」

 自分の顔にある程度の自信を持っていたのだが、まさか自信過剰であったのか? と若干不安になり、部下へ問い掛ける。

「いえ……。兜を着けている状態でなら分かりませんが、隊長のご尊顔は決して女性に怖がられるようなものではないかと」
「だよな? だとしたら、何故あの娘は私から逃げたのだろうか……」

 答えた部下の声に偽りがないのを感じ取り、だったら何故? と首を傾げる。

 どこの町でも、自分に声を掛けられた娘達は、みな一様に嬉しそうな顔をしたのに……。

 釈然としない気持ちを抱えながらも、青いマントの男は周囲を見廻し、他に声を掛けられそうな人影を探した。

 できれば案内人は女性が好ましい──自分が男であるが故に──が、この際どちらでも構わない。

 かなりの苦労をしてこの村へと辿り着いたのだ。手ぶらで帰ることだけはしたくなかった。









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