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第八章 黒い靄
手に入れた武器
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「後は、これをどうするかだけど……」
なんとか体内から取り出した黒い靄を見つめ、ラズリは頭を悩ませる。
武器として使えたら便利だな──ぐらいの考えで取り出してみたは良いけれど、そもそもどうやったら使えるのか、どうしたらこの靄を自在に動かせるのか、それが分からなければ話にならない。
こんな簡単なことすら思い当たらず、行き当たりばったりで行動するなんて危険だな……と今更思ったり。
とはいえ、既に身体の外へ出してしまったし、もう一度体内に戻すのは絶対嫌だし、どうにかしなければいけないのは確かで。
「どうしよう……。取り敢えず、動け!」
と命令してみるも、黒い靄に変化はない。
ただラズリの掌の上で、もやもやとしているだけだ。
「う~ん……予想通りといえば予想通りなんだけど……困ったな」
これから武器を買いに街へ出ないといけないし、いつまでも靄に拘っているわけにもいかないしで、靄を一時的にしまっておけそうな物はないかとラズリは室内を見回す。
「あ、そうだ」
そこで目についた物の中に黒い靄を突っ込むと、ラズリは上機嫌で街へと繰り出した。
未だに姿を見せない奏のことは気に掛かっていたものの、いつまでも気にして落ち込んでいても仕方がないし、今はとにかく自分の体内の異物を取り出せたことが嬉しくて。
「奏に頼らなくても、私って意外と一人でもいけるかも……」
そんな風にすら思いながら──。
一先ず武器屋を目指したラズリは、そこで短剣を見せてもらっていた。
最初は試しに長剣を見せてもらったのだが、手に持った時の重さから、自分にはとても自由に振り回せるような代物ではないということに気付き、あっさり短剣へとシフトチェンジしたのだ。
どうせ買うなら、使えないと意味ないし……。
「でも、武器って結構高いのね……」
値段を見ながら思わず呟くと、武器屋の店主が声を掛けてくれた。
「そりゃあまぁ、武器っていうのは身を守る為や、生きる為に動物を殺す為、色々な場面で必要だからな。しかもその材料費が結構かかるし、剣を打つ職人の手間賃なんかもいるしで、どうしたって高くなっちまうのさ」
「そう……そうなのね」
ならば値段が高いのも納得だが、いくら理由に納得したとはいえ、それだけの金額を払えるかどうかは別問題だ。
基本的にお金の管理を奏に任せていたラズリは、あまり現金を持っていなかった。
うう、勢い込んで出てきたのに、お金がなくて買えないなんて……。
短剣を見つめ、財布の中身を確認し、もう一度短剣を見てため息を吐く。
そんなラズリを見ていた店主が、何故かラズリを店の奥へと招いてきた。
「奥に何かあるんですか?」
「使い物にならなくなって、処分するつもりの剣が何本かな。処分品だから正規品のようには使えないが、物によっちゃまだ幾らか使えそうなもんもあるし、そういったので良かったら一本プレゼントするぜ」
「ええっ!? いいんですか!?」
店主からの思わぬ申し出に、ラズリは顔を輝かせる。
以前立ち寄った街でもそうだったが、街に住んでいる人は親切な人が多い。
なのにどうして王宮騎士は……。
不意に思考が暗い方向へ向かいそうになり、ラズリは頭を振って、すぐさまその考えを振り払った。
「ほら。こん中からどれでも好きなの一本だけ、持って行ってもいいぞ」
ガチャン! と音を立てて、大きな樽に入れられた短剣の束が置かれる。
確かに言われた通り、樽の中にある何本かは折れたり錆びたりして、まったく使い物にならなさそうだ。
でもよく見ると、辛うじてまだ使えそうな剣が何本かある。
いらない剣を樽から出して横に並べつつラズリが剣を選んでいると、店主は軽く手を上げて踵を返した。
「そんじゃあ俺は店に戻ってるから、選んだら片付けておいてくれ。ごゆっくり」
「あ、ありがとうございます!」
全力で店主に頭を下げ、ラズリは短剣選びへと戻る。
あれでもない、これでもないと剣を次々に樽から出しつつ選んでいたラズリは、そこでふと手に持った剣に、何かを感じた。
「なんだろう? これ……。何か感じる?」
ような気がするというのが正しい。
ハッキリと何かを感じるわけではなく、ただ何かを感じるような気がする。
けれど、なんとなくその剣が気になったラズリは、折角だからとその剣をもらって帰ることにした。
外に出した剣を全て綺麗に樽の中へと収め、苦労して樽を元あった場所へと戻す。
そうして店へと戻り、店主に見つけた短剣を見せれば、彼はにっこり笑ってくれた。
「気にいるもんがあって良かったな。この先どんだけ使えるかは分からねぇが……剣を使う練習ぐらいにはなるだろ」
「はい。この剣で頑張って練習します。本当にありがとうございました」
丁寧にお辞儀をし、ラズリは足取り軽く武器屋を後にする。
貰ったばかりの短剣を、大事に抱きかかえながら。
しかしラズリが店を出て行った後、その店の店主は不思議そうに首を傾げていた。
「あんなマトモな剣、樽の中にあったか……?」
無論、ラズリが店の剣を盗んだなどと思ったわけではない。
ラズリが手にしていた剣は、店主もこれまで見たことのない物であったからだ。
「処分品として受け取った時に、紛れてたのかもしれねぇな……」
その一言で、彼はこの一件を終わりにすることにした。
もう過ぎたことだ。
売り物でなくなってしまった剣は、武器屋の店主にとって、何の価値もない物なのだから──。
なんとか体内から取り出した黒い靄を見つめ、ラズリは頭を悩ませる。
武器として使えたら便利だな──ぐらいの考えで取り出してみたは良いけれど、そもそもどうやったら使えるのか、どうしたらこの靄を自在に動かせるのか、それが分からなければ話にならない。
こんな簡単なことすら思い当たらず、行き当たりばったりで行動するなんて危険だな……と今更思ったり。
とはいえ、既に身体の外へ出してしまったし、もう一度体内に戻すのは絶対嫌だし、どうにかしなければいけないのは確かで。
「どうしよう……。取り敢えず、動け!」
と命令してみるも、黒い靄に変化はない。
ただラズリの掌の上で、もやもやとしているだけだ。
「う~ん……予想通りといえば予想通りなんだけど……困ったな」
これから武器を買いに街へ出ないといけないし、いつまでも靄に拘っているわけにもいかないしで、靄を一時的にしまっておけそうな物はないかとラズリは室内を見回す。
「あ、そうだ」
そこで目についた物の中に黒い靄を突っ込むと、ラズリは上機嫌で街へと繰り出した。
未だに姿を見せない奏のことは気に掛かっていたものの、いつまでも気にして落ち込んでいても仕方がないし、今はとにかく自分の体内の異物を取り出せたことが嬉しくて。
「奏に頼らなくても、私って意外と一人でもいけるかも……」
そんな風にすら思いながら──。
一先ず武器屋を目指したラズリは、そこで短剣を見せてもらっていた。
最初は試しに長剣を見せてもらったのだが、手に持った時の重さから、自分にはとても自由に振り回せるような代物ではないということに気付き、あっさり短剣へとシフトチェンジしたのだ。
どうせ買うなら、使えないと意味ないし……。
「でも、武器って結構高いのね……」
値段を見ながら思わず呟くと、武器屋の店主が声を掛けてくれた。
「そりゃあまぁ、武器っていうのは身を守る為や、生きる為に動物を殺す為、色々な場面で必要だからな。しかもその材料費が結構かかるし、剣を打つ職人の手間賃なんかもいるしで、どうしたって高くなっちまうのさ」
「そう……そうなのね」
ならば値段が高いのも納得だが、いくら理由に納得したとはいえ、それだけの金額を払えるかどうかは別問題だ。
基本的にお金の管理を奏に任せていたラズリは、あまり現金を持っていなかった。
うう、勢い込んで出てきたのに、お金がなくて買えないなんて……。
短剣を見つめ、財布の中身を確認し、もう一度短剣を見てため息を吐く。
そんなラズリを見ていた店主が、何故かラズリを店の奥へと招いてきた。
「奥に何かあるんですか?」
「使い物にならなくなって、処分するつもりの剣が何本かな。処分品だから正規品のようには使えないが、物によっちゃまだ幾らか使えそうなもんもあるし、そういったので良かったら一本プレゼントするぜ」
「ええっ!? いいんですか!?」
店主からの思わぬ申し出に、ラズリは顔を輝かせる。
以前立ち寄った街でもそうだったが、街に住んでいる人は親切な人が多い。
なのにどうして王宮騎士は……。
不意に思考が暗い方向へ向かいそうになり、ラズリは頭を振って、すぐさまその考えを振り払った。
「ほら。こん中からどれでも好きなの一本だけ、持って行ってもいいぞ」
ガチャン! と音を立てて、大きな樽に入れられた短剣の束が置かれる。
確かに言われた通り、樽の中にある何本かは折れたり錆びたりして、まったく使い物にならなさそうだ。
でもよく見ると、辛うじてまだ使えそうな剣が何本かある。
いらない剣を樽から出して横に並べつつラズリが剣を選んでいると、店主は軽く手を上げて踵を返した。
「そんじゃあ俺は店に戻ってるから、選んだら片付けておいてくれ。ごゆっくり」
「あ、ありがとうございます!」
全力で店主に頭を下げ、ラズリは短剣選びへと戻る。
あれでもない、これでもないと剣を次々に樽から出しつつ選んでいたラズリは、そこでふと手に持った剣に、何かを感じた。
「なんだろう? これ……。何か感じる?」
ような気がするというのが正しい。
ハッキリと何かを感じるわけではなく、ただ何かを感じるような気がする。
けれど、なんとなくその剣が気になったラズリは、折角だからとその剣をもらって帰ることにした。
外に出した剣を全て綺麗に樽の中へと収め、苦労して樽を元あった場所へと戻す。
そうして店へと戻り、店主に見つけた短剣を見せれば、彼はにっこり笑ってくれた。
「気にいるもんがあって良かったな。この先どんだけ使えるかは分からねぇが……剣を使う練習ぐらいにはなるだろ」
「はい。この剣で頑張って練習します。本当にありがとうございました」
丁寧にお辞儀をし、ラズリは足取り軽く武器屋を後にする。
貰ったばかりの短剣を、大事に抱きかかえながら。
しかしラズリが店を出て行った後、その店の店主は不思議そうに首を傾げていた。
「あんなマトモな剣、樽の中にあったか……?」
無論、ラズリが店の剣を盗んだなどと思ったわけではない。
ラズリが手にしていた剣は、店主もこれまで見たことのない物であったからだ。
「処分品として受け取った時に、紛れてたのかもしれねぇな……」
その一言で、彼はこの一件を終わりにすることにした。
もう過ぎたことだ。
売り物でなくなってしまった剣は、武器屋の店主にとって、何の価値もない物なのだから──。
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