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第七章 不可思議な力
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それは、初めて目にする物だった。
長年魔性として生きてきた死灰栖でさえ、そのような物を見るのは初めてであった。
「我の力を吸収した? 馬鹿な……」
目の前の光景が信じられず、死灰栖は思わず口元を引き攣らせる。
魔性の力を吸収するなどあり得ない。そんな物がある筈はない。
そう思うのに、彼が一心に見つめる先では、今まさに人間の男へと貸し与えた力が、もう一人の人間によって吸い取られている最中だ。
死灰栖が人間に与えた力は、その黒い靄を纏う人間の憎悪や怒りによって絶対量がかなり増えているのだが、吸収する力はそれすら問題にしないようで、際限なく人間の男から黒い靄を引き剥がしていく。
あれは一体どういう物なのか、どういった原理で魔性の力を吸い取るのか、見ているだけでは何も分からない。
「それに……」
気になることは、もう一つあった。
魔性の女が、何故人間などと共にいるのかということだ。
操られているようにも見えない。かといって、共にいる人間を好いているようにも見受けられない。
ならば何故、あの女は人間などと共にいる?
不明点を解明するのは暇潰しに最適な行為であり、その答えが知れた時の爽快感は何物にも代え難いが、如何せん。
同時に幾つもの疑問が発生するのを、死灰栖は良しとしていなかった。
「優先順位としてはまず……」
アラン、ミルド、氷依の順に視線を移し、死灰栖は考えるように顎へ手を当てる。
目下、今一番知りたいと思うのは、今なお自分の力を吸い取り続ける紙切れのことだ。
しかし同時に、それが一番解明しづらいであろうことも理解している。
何せ魔性の力を吸収する紙だ。下手をすれば触るだけで死灰栖の力は吸い取られてしまうだろう。
吸収量に上限がないとは思えないが、その上限がどこにあるのか、それが分からなければ容易に触れることはできない。
だが、放置しておくとそれもまた、魔性の世界を脅かしかねないと感じるのだ。
「正直魔性の世界などはどうでも良いが……」
死灰栖を魔神として認めない世界など、いっそ滅んでも構わない、とすら思う。
しかし現実問題、魔性の世界がなくなってしまえば、魔神として君臨することに意味がなくなってしまうのも確かだ。
治める者達のいない王など、何の価値もない……。
ただ一人、自分だけしか居ない世界で王になったところで、神になったところで、何の意味があるというのか。
従える者がいてこそ、自分を崇める者がいてこそ神なのだ。
故にあの紙切れの存在は捨て置けない。
どれ程の枚数あれがあるのかは分からぬが、間違いなくあれは魔性への脅威となるだろう。
今ある魔性と人間との関係性を覆す、最も恐ろしいものになる可能性すらある。
「だが、どうすれば良い?」
今の自分には、配下の一人すらいない。手駒とできる者もない。
そんな状況で、どのようにすればあの紙切れの正体を知ることができる?
「あやつを使うか……?」
目をつけたのは、人間達と共にいる女魔性。
全身を青に染め、然る魔神の配下であることを知らしめながら、人間と行動を共にする不可思議な存在。
「何故あれを放置しているのかは分からぬが……」
自らの配下が人間などと共にいる事実だけでも侮辱だろうに、野放しにしておく理由はなんなのか。
何かの目的があり、わざとそうしているのか、はたまた配下が多過ぎるが故に一々構っていられないのか、そのどちらがであろうが。
「なんせあのお方は飛び抜けて配下の数が多いからな……」
実力的には自分と同等と思っている魔神に、死灰栖は普段敬意を払ったりはしない。
しかし今回、敢えてあのお方と口にしたのは、単にその魔神が束ねる配下の多さ故、だ。
配下が多過ぎるほどいるが故に、どこにその者の配下がいるか、耳があるか目があるか、分かったものではない。
無用な争いなどは面倒だし、ここで魔神と諍いなど起こせば、死灰栖が魔神となる道は更に遠くなるだろう。
だからこそ、今揉めるわけにはいかず、敬意を払った物言いをしたのだ。
魔性の本質として、敬意を持たぬ相手に対しそういった態度を取ることは、屈辱と同じ。
しかし死灰栖は、いつか自分が魔神となる為、その最短距離を歩む為であれば、たとえ一欠片の敬意すら抱いていない相手に表面上の敬意を払ったとて、何も感じることなどなかったのである──。
長年魔性として生きてきた死灰栖でさえ、そのような物を見るのは初めてであった。
「我の力を吸収した? 馬鹿な……」
目の前の光景が信じられず、死灰栖は思わず口元を引き攣らせる。
魔性の力を吸収するなどあり得ない。そんな物がある筈はない。
そう思うのに、彼が一心に見つめる先では、今まさに人間の男へと貸し与えた力が、もう一人の人間によって吸い取られている最中だ。
死灰栖が人間に与えた力は、その黒い靄を纏う人間の憎悪や怒りによって絶対量がかなり増えているのだが、吸収する力はそれすら問題にしないようで、際限なく人間の男から黒い靄を引き剥がしていく。
あれは一体どういう物なのか、どういった原理で魔性の力を吸い取るのか、見ているだけでは何も分からない。
「それに……」
気になることは、もう一つあった。
魔性の女が、何故人間などと共にいるのかということだ。
操られているようにも見えない。かといって、共にいる人間を好いているようにも見受けられない。
ならば何故、あの女は人間などと共にいる?
不明点を解明するのは暇潰しに最適な行為であり、その答えが知れた時の爽快感は何物にも代え難いが、如何せん。
同時に幾つもの疑問が発生するのを、死灰栖は良しとしていなかった。
「優先順位としてはまず……」
アラン、ミルド、氷依の順に視線を移し、死灰栖は考えるように顎へ手を当てる。
目下、今一番知りたいと思うのは、今なお自分の力を吸い取り続ける紙切れのことだ。
しかし同時に、それが一番解明しづらいであろうことも理解している。
何せ魔性の力を吸収する紙だ。下手をすれば触るだけで死灰栖の力は吸い取られてしまうだろう。
吸収量に上限がないとは思えないが、その上限がどこにあるのか、それが分からなければ容易に触れることはできない。
だが、放置しておくとそれもまた、魔性の世界を脅かしかねないと感じるのだ。
「正直魔性の世界などはどうでも良いが……」
死灰栖を魔神として認めない世界など、いっそ滅んでも構わない、とすら思う。
しかし現実問題、魔性の世界がなくなってしまえば、魔神として君臨することに意味がなくなってしまうのも確かだ。
治める者達のいない王など、何の価値もない……。
ただ一人、自分だけしか居ない世界で王になったところで、神になったところで、何の意味があるというのか。
従える者がいてこそ、自分を崇める者がいてこそ神なのだ。
故にあの紙切れの存在は捨て置けない。
どれ程の枚数あれがあるのかは分からぬが、間違いなくあれは魔性への脅威となるだろう。
今ある魔性と人間との関係性を覆す、最も恐ろしいものになる可能性すらある。
「だが、どうすれば良い?」
今の自分には、配下の一人すらいない。手駒とできる者もない。
そんな状況で、どのようにすればあの紙切れの正体を知ることができる?
「あやつを使うか……?」
目をつけたのは、人間達と共にいる女魔性。
全身を青に染め、然る魔神の配下であることを知らしめながら、人間と行動を共にする不可思議な存在。
「何故あれを放置しているのかは分からぬが……」
自らの配下が人間などと共にいる事実だけでも侮辱だろうに、野放しにしておく理由はなんなのか。
何かの目的があり、わざとそうしているのか、はたまた配下が多過ぎるが故に一々構っていられないのか、そのどちらがであろうが。
「なんせあのお方は飛び抜けて配下の数が多いからな……」
実力的には自分と同等と思っている魔神に、死灰栖は普段敬意を払ったりはしない。
しかし今回、敢えてあのお方と口にしたのは、単にその魔神が束ねる配下の多さ故、だ。
配下が多過ぎるほどいるが故に、どこにその者の配下がいるか、耳があるか目があるか、分かったものではない。
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だからこそ、今揉めるわけにはいかず、敬意を払った物言いをしたのだ。
魔性の本質として、敬意を持たぬ相手に対しそういった態度を取ることは、屈辱と同じ。
しかし死灰栖は、いつか自分が魔神となる為、その最短距離を歩む為であれば、たとえ一欠片の敬意すら抱いていない相手に表面上の敬意を払ったとて、何も感じることなどなかったのである──。
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