天涯孤独になった筈が、周りで奪い合いが起きているようです

迦陵 れん

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第六章 因縁

邪魔者

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 ラズリを抱え、遠方を見やる奏の元に、緋色の影が姿を現す。

「面白くなってきた……といったところでしょうか?」

 問われた言葉と奏の表情は正反対で、彼はつまらなさそうに首を振る。

「面白くなったというより、面倒になった、って言う方が正解なんじゃねぇか?」

 ほんの一瞬だけ感じた僅かな気配を、奏は見逃さなかった。

 命の危機に瀕したことで覚醒しかけた、ミルドの奥底にある、隠れた残滓を。

 通常の魔性であれば、今の展開は闇の言う通り、面白いものであるのだろう。次から次へと新しい問題が出てくる様は、普段から暇を持て余している魔性にとっては、願ってもない状況ともいえるものだ。

 ただ、奏に限ってはそれが当てはまらないというだけで。

 そもそも彼は魔性の中でも珍しい性格をしていて、通常の魔性達とは感性も違えば、考え方もまったく違った。

 所謂異端と言われてもおかしくない存在なのだが、本人にとってそれはどうでも良いことであるため、特に気にしたことはない。

 他の魔性達のように群れることもせず、特定の主も持たない奏にとっては、周りの目など気にもならないからだ。そんなものを気にしたところで疲れるだけだし、得することなど一つもないのだから。

 故に奏はいつも好き勝手、自分の思うがままに行動していたのだが──今回ばかりは、あまりにも邪魔が多すぎて、そのことに苛ついていた。

 本来であれば、奏は他の魔性達とは目の付け所が違うため、殆どの遊びに邪魔が入ることなどない。

 それでも極稀に妙な感性を持つ者がいて、あわや一触即発──という事態に陥りかけたこともないではないが、そういった時であっても、奏が一度やると決めたことを覆されることはほぼ皆無だった。

 だからこそ今回も、ラズリを手に入れるに当たって、簡単に、これといった邪魔が入ることもなく目的を達成できる筈だったのだ。

 虐待されていたラズリを助け出し、適当な年齢になるまで人間に育てさせ、頃合いを見計らって自分の手元へと招き寄せる。そこからは奏がラズリを独占し、したいようにする──それが当初からの彼の計画であった。

 なのに蓋を開けてみれば、その計画は全てにおいて先回りされていて。

 虐待されていたラズリを助けに行くと、既に他の魔性から手を付けられた後だった。

 それに気付いた瞬間、奏は怒りのままにその痕跡を消去しようとしたのだが、それはラズリの意識の奥底に上手く封じ込められており、安易に手を出すことはできない状態となっていた。

 余程上手いことやらなければ、ラズリの精神を傷付けてしまうかもしれない……。

 そう思ったら、とてもじゃないが手を出すことなどできなくて。

 なんでだ? こんな器用な真似、誰にやられた?

 自分が関わった痕跡を僅かでも残せば、他の魔性の気を惹くかもしれないという懸念から、奏はラズリに接触したことはなかったし、術なども掛けたりはしていなかった。

 だからこそ、ラズリが他の魔性に手を出されたことに、気付くことができなかったともいえる。

 せめて、他の魔性が近付いたら分かるぐらいには対策しておけば良かったか……。

 そう思っても、所詮後の祭りである。

 ラズリに手を出した魔性のことを腹立たしく思いながら、それでもラズリを諦める気にはなれなかったから、奏は取り敢えず彼女をその時いた場所から連れ出し、辺鄙な場所にある村の人間に予定通り育てさせたのだが。

 手頃な年齢となったところで迎えに行ってみれば、今度は王宮からの遣いなどという人間の騎士達が、ラズリへと群がっていた。

 なんなんだよ、これは。どうしてこんなに邪魔ばかり入る?

 自分の邪魔をしたばかりか、ラズリの住んでいた村に火まで放った騎士達に、奏は燃え上がる炎と同等以上の怒りを覚えたが、先ずは目的のものを手に入れるのが先決だと、ラズリの所へと向かったのだ。

 その時顔を合わせたミルドからは、何も感じることはできなかった。

 王宮から遣わされた邪魔者──その程度の認識でしかなかった。

 だが、つい先程感じた、彼の身体の奥底に感じたものは。あれは間違いようもなくのするものだった。

「あいつは一体……」
「なんなんでしょうね?」

 呟かれた奏の言葉を引き継ぎ、闇が言う。

 今回はあまりにも、不可解なことが多過ぎた。
 








 
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