20 / 94
第二章 赤い魔性
光る剣先
しおりを挟む
ふと、ミルドの目がラズリの横にいる赤い髪の青年を捉えた。瞬間、彼は腰の剣を抜き放つ。
「ラズリ殿! その者は魔性です! 離れてください!」
だが、間髪入れず、ラズリはそれに言い返した。
「嫌よ!」
「えっ⁉︎」
ぽかんとするミルドに、ラズリはまるで見せ付けるかのように、奏の手を強く握って見せる。
「魔性だからなんだって言うの? 私は全然構わない!」
奏が魔性だということは、つい先程、本人の口から聞いたばかりだ。
けれどそれが、一体なんだというのだろう?
彼は拘束を解いてくれたばかりか、夢現な状態であった自分を村の上空へと連れて行き、現実を目の当たりにさせてくれた。
村人達に暴力を振るい、放火までした騎士達とは、それだけでも全然違う。
なのに、魔性だから? 人間じゃないから、なんだって言うの?
容赦なく人を殺した時点で、騎士達だって魔性と同じではないか。……いや、魔性の事をよく知りもしないのに、こんな最低な人達と同じように考えるのは、魔性に対して失礼になるかもしれない。
魔性だとか人間だとか、そんな事はどうだって良い。大事なのは、自分にとって害があるかないか、それだけ。
しかしミルドはそんなラズリの考えが理解できないらしく、額に青筋を立て、大声で怒鳴りつけてきた。
「ラズリ殿! 何を言っているのですか⁉︎ その者は魔性なのですよ! 今すぐ離れて下さい! そして此方に!」
「さあ!」と言って手を差し出されるが、ラズリは首を横に振って後ずさる。
ただ人間でないというだけで、どうしてああも頑なに、自分と引き離そうとするのだろう。
自分に親切にしてくれる彼から離れて、酷いことばかりをする騎士達の元へ行くなど冗談じゃない。そんなのは頭のおかしい人間のする事だ。
だから行かない。ミルドの元へなど行くものか。
「あなた達の所へ行くのなんてお断りよ! そっちへ行くぐらいなら、彼と一緒にいる方がよっぽど良いわ!」
「なっ……」
ラズリの返答に、ミルドは言葉を失ったようで、すぐには言い返してこなかった。が、彼は一瞬顔色を無くした後、剣を握る手に力を込めると、殺気のこもった瞳で此方を睨み付けてきた。その視線の鋭さに、ラズリは思わず足を一歩、後ろへと引いてしまう。
「ラズリ殿! 貴女は自分が何を仰っているか理解しておられるのですか? 魔性とは、人間に害を為す生き物なのです。今は優しくされているとしても、それは必ず何か企みがあってのこと。どうか惑わされないで下さい! お願いですから、どうか此方に!」
今度は低姿勢になって、懐柔しようと企てたようだ。
しかし、ミルドのその言葉に、返事をしたのは奏だった。口を開きかけたラズリを背後に隠し、ずい、とばかりに前へ乗り出す。
「な~にが『魔性は人間に害を為す生き物なのです』だ。だったらお前らはなんだ? ラズリの住んでた村に火を放ち、そこに住んでた奴等を皆殺しにしたお前らは、害がないって言うのか? 俺に言わせりゃ企みを持って害を為してるのは、俺じゃなくてお前らだろうが」
「う、うるさい! 魔性風情が王宮騎士である私に口答えするな!」
真っ赤な顔でミルドは怒鳴るが、奏の態度は揺るがない。
「ふん……魔性風情だって? そっちこそ、人間風情のくせに、よく言う」
村への放火について言い返さないあたり、ミルドら王宮騎士達が村に火を放ったのは間違いないのだろう。
自分達のした事を棚に上げ、魔性だからという理由だけで奏を貶すなんて、最低にもほどがある。
しかも、奏のことを魔性風情などと言ったけれど、どう考えても魔性は人間が敵う相手ではないのに、何を考えてそんな言葉を口にしたのだろうか。それともまさか王宮騎士達は、魔性をも上回る強さを持っているとでもいうのだろうか?
だったらこの後、二人はどうなってしまうんだろう……。
避けられない戦いの予感に、ラズリは思わず生唾を飲み込む。
同じ予感をミルドも感じているのか、彼の握った剣が、カタカタと音をたてていた。
気付けば、彼の背後にいる騎士もまた、剣を抜き放っている。恐らく二人同時に、奏へ襲い掛かるつもりなのだろう。
「奏……気を付けて」
後ろから声を掛ければ、余裕綽々といった笑みを返された。
その瞬間を、ミルド達は好機と捉えたのか。
ラズリと奏が目を合わせたその瞬間、一気に距離を詰めて来た!
「死ねぇぇぇぇぇぇっ‼︎」
「…………っ‼︎」
左右に分かれ、殺気を漲らせて振り下ろされる騎士二人の刃に、ラズリは目を見張ることしかできなかった。
ゆっくりと、まるでスローモーションのように、鋭い二つの剣が奏へ向かって同時に振り下ろされていく。
今更逃げることも、避けることもできない──背後にラズリを庇っている為──奏を、ラズリはただじっと見つめていた。
「ラズリ殿! その者は魔性です! 離れてください!」
だが、間髪入れず、ラズリはそれに言い返した。
「嫌よ!」
「えっ⁉︎」
ぽかんとするミルドに、ラズリはまるで見せ付けるかのように、奏の手を強く握って見せる。
「魔性だからなんだって言うの? 私は全然構わない!」
奏が魔性だということは、つい先程、本人の口から聞いたばかりだ。
けれどそれが、一体なんだというのだろう?
彼は拘束を解いてくれたばかりか、夢現な状態であった自分を村の上空へと連れて行き、現実を目の当たりにさせてくれた。
村人達に暴力を振るい、放火までした騎士達とは、それだけでも全然違う。
なのに、魔性だから? 人間じゃないから、なんだって言うの?
容赦なく人を殺した時点で、騎士達だって魔性と同じではないか。……いや、魔性の事をよく知りもしないのに、こんな最低な人達と同じように考えるのは、魔性に対して失礼になるかもしれない。
魔性だとか人間だとか、そんな事はどうだって良い。大事なのは、自分にとって害があるかないか、それだけ。
しかしミルドはそんなラズリの考えが理解できないらしく、額に青筋を立て、大声で怒鳴りつけてきた。
「ラズリ殿! 何を言っているのですか⁉︎ その者は魔性なのですよ! 今すぐ離れて下さい! そして此方に!」
「さあ!」と言って手を差し出されるが、ラズリは首を横に振って後ずさる。
ただ人間でないというだけで、どうしてああも頑なに、自分と引き離そうとするのだろう。
自分に親切にしてくれる彼から離れて、酷いことばかりをする騎士達の元へ行くなど冗談じゃない。そんなのは頭のおかしい人間のする事だ。
だから行かない。ミルドの元へなど行くものか。
「あなた達の所へ行くのなんてお断りよ! そっちへ行くぐらいなら、彼と一緒にいる方がよっぽど良いわ!」
「なっ……」
ラズリの返答に、ミルドは言葉を失ったようで、すぐには言い返してこなかった。が、彼は一瞬顔色を無くした後、剣を握る手に力を込めると、殺気のこもった瞳で此方を睨み付けてきた。その視線の鋭さに、ラズリは思わず足を一歩、後ろへと引いてしまう。
「ラズリ殿! 貴女は自分が何を仰っているか理解しておられるのですか? 魔性とは、人間に害を為す生き物なのです。今は優しくされているとしても、それは必ず何か企みがあってのこと。どうか惑わされないで下さい! お願いですから、どうか此方に!」
今度は低姿勢になって、懐柔しようと企てたようだ。
しかし、ミルドのその言葉に、返事をしたのは奏だった。口を開きかけたラズリを背後に隠し、ずい、とばかりに前へ乗り出す。
「な~にが『魔性は人間に害を為す生き物なのです』だ。だったらお前らはなんだ? ラズリの住んでた村に火を放ち、そこに住んでた奴等を皆殺しにしたお前らは、害がないって言うのか? 俺に言わせりゃ企みを持って害を為してるのは、俺じゃなくてお前らだろうが」
「う、うるさい! 魔性風情が王宮騎士である私に口答えするな!」
真っ赤な顔でミルドは怒鳴るが、奏の態度は揺るがない。
「ふん……魔性風情だって? そっちこそ、人間風情のくせに、よく言う」
村への放火について言い返さないあたり、ミルドら王宮騎士達が村に火を放ったのは間違いないのだろう。
自分達のした事を棚に上げ、魔性だからという理由だけで奏を貶すなんて、最低にもほどがある。
しかも、奏のことを魔性風情などと言ったけれど、どう考えても魔性は人間が敵う相手ではないのに、何を考えてそんな言葉を口にしたのだろうか。それともまさか王宮騎士達は、魔性をも上回る強さを持っているとでもいうのだろうか?
だったらこの後、二人はどうなってしまうんだろう……。
避けられない戦いの予感に、ラズリは思わず生唾を飲み込む。
同じ予感をミルドも感じているのか、彼の握った剣が、カタカタと音をたてていた。
気付けば、彼の背後にいる騎士もまた、剣を抜き放っている。恐らく二人同時に、奏へ襲い掛かるつもりなのだろう。
「奏……気を付けて」
後ろから声を掛ければ、余裕綽々といった笑みを返された。
その瞬間を、ミルド達は好機と捉えたのか。
ラズリと奏が目を合わせたその瞬間、一気に距離を詰めて来た!
「死ねぇぇぇぇぇぇっ‼︎」
「…………っ‼︎」
左右に分かれ、殺気を漲らせて振り下ろされる騎士二人の刃に、ラズリは目を見張ることしかできなかった。
ゆっくりと、まるでスローモーションのように、鋭い二つの剣が奏へ向かって同時に振り下ろされていく。
今更逃げることも、避けることもできない──背後にラズリを庇っている為──奏を、ラズリはただじっと見つめていた。
10
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

竜王の花嫁は番じゃない。
豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」
シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。
──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる