天涯孤独になった筈が、周りで奪い合いが起きているようです

迦陵 れん

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第二章 赤い魔性

光る剣先

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 ふと、ミルドの目がラズリの横にいる赤い髪の青年を捉えた。瞬間、彼は腰の剣を抜き放つ。

「ラズリ殿! その者は魔性ましょうです! 離れてください!」

 だが、間髪入れず、ラズリはそれに言い返した。

「嫌よ!」
「えっ⁉︎」

 ぽかんとするミルドに、ラズリはまるで見せ付けるかのように、奏の手を強く握って見せる。

「魔性だからなんだって言うの? 私は全然構わない!」

 奏が魔性だということは、つい先程、本人の口から聞いたばかりだ。

 けれどそれが、一体なんだというのだろう?

 彼は拘束を解いてくれたばかりか、夢現な状態であった自分を村の上空へと連れて行き、現実を目の当たりにさせてくれた。

 村人達に暴力を振るい、放火までした騎士達とは、それだけでも全然違う。

 なのに、魔性だから? 人間じゃないから、なんだって言うの?

 容赦なく人を殺した時点で、騎士達だって魔性と同じではないか。……いや、魔性の事をよく知りもしないのに、こんな最低な人達と同じように考えるのは、魔性に対して失礼になるかもしれない。

 魔性だとか人間だとか、そんな事はどうだって良い。大事なのは、自分にとって害があるかないか、それだけ。

 しかしミルドはそんなラズリの考えが理解できないらしく、額に青筋を立て、大声で怒鳴りつけてきた。

「ラズリ殿! 何を言っているのですか⁉︎ その者は魔性なのですよ! 今すぐ離れて下さい! そして此方に!」
 
「さあ!」と言って手を差し出されるが、ラズリは首を横に振って後ずさる。

 ただ人間でないというだけで、どうしてああも頑なに、自分と引き離そうとするのだろう。

 自分に親切にしてくれる彼から離れて、酷いことばかりをする騎士達の元へ行くなど冗談じゃない。そんなのは頭のおかしい人間のする事だ。

 だから行かない。ミルドの元へなど行くものか。

「あなた達の所へ行くのなんてお断りよ! そっちへ行くぐらいなら、彼と一緒にいる方がよっぽど良いわ!」
「なっ……」
 
 ラズリの返答に、ミルドは言葉を失ったようで、すぐには言い返してこなかった。が、彼は一瞬顔色を無くした後、剣を握る手に力を込めると、殺気のこもった瞳で此方を睨み付けてきた。その視線の鋭さに、ラズリは思わず足を一歩、後ろへと引いてしまう。

「ラズリ殿! 貴女は自分が何を仰っているか理解しておられるのですか? 魔性とは、人間に害を為す生き物なのです。今は優しくされているとしても、それは必ず何か企みがあってのこと。どうか惑わされないで下さい! お願いですから、どうか此方に!」

 今度は低姿勢になって、懐柔しようと企てたようだ。

 しかし、ミルドのその言葉に、返事をしたのは奏だった。口を開きかけたラズリを背後に隠し、ずい、とばかりに前へ乗り出す。

「な~にが『魔性は人間に害を為す生き物なのです』だ。だったらお前らはなんだ? ラズリの住んでた村に火を放ち、そこに住んでた奴等を皆殺しにしたお前らは、害がないって言うのか? 俺に言わせりゃ企みを持って害を為してるのは、俺じゃなくてお前らだろうが」
「う、うるさい! 魔性風情が王宮騎士である私に口答えするな!」

 真っ赤な顔でミルドは怒鳴るが、奏の態度は揺るがない。

「ふん……魔性風情だって? そっちこそ、のくせに、よく言う」

 村への放火について言い返さないあたり、ミルドら王宮騎士達が村に火を放ったのは間違いないのだろう。

 自分達のした事を棚に上げ、魔性だからという理由だけで奏を貶すなんて、最低にもほどがある。

 しかも、奏のことをなどと言ったけれど、どう考えても魔性は人間が敵う相手ではないのに、何を考えてそんな言葉を口にしたのだろうか。それともまさか王宮騎士達は、魔性をも上回る強さを持っているとでもいうのだろうか?

 だったらこの後、二人はどうなってしまうんだろう……。

 避けられない戦いの予感に、ラズリは思わず生唾を飲み込む。

 同じ予感をミルドも感じているのか、彼の握った剣が、カタカタと音をたてていた。

 気付けば、彼の背後にいる騎士もまた、剣を抜き放っている。恐らく二人同時に、奏へ襲い掛かるつもりなのだろう。

「奏……気を付けて」

 後ろから声を掛ければ、余裕綽々といった笑みを返された。

 その瞬間を、ミルド達は好機と捉えたのか。

 ラズリと奏が目を合わせたその瞬間、一気に距離を詰めて来た!

「死ねぇぇぇぇぇぇっ‼︎」
「…………っ‼︎」

 左右に分かれ、殺気を漲らせて振り下ろされる騎士二人の刃に、ラズリは目を見張ることしかできなかった。

 ゆっくりと、まるでスローモーションのように、鋭い二つの剣が奏へ向かって同時に振り下ろされていく。

 今更逃げることも、避けることもできない──背後にラズリを庇っている為──奏を、ラズリはただじっと見つめていた。








 
 



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