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第二章 赤い魔性
抜け落ちた記憶
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音がする。
何かが爆けるような、大きな物が崩れるような。
この音は何──?
意識を失い、村からやや離れた場所に寝かされていたラズリは、意識が覚醒してくると同時に聞こえてきた音に、耳をすませていた。
なんだか焚き火の音に似ているような気がするけれど、それよりももっと大きな……ううん、そんな事より、どうしてこんな音が聞こえるんだろう?
覚醒したといっても意識はまだぼんやりとしている為、状況を把握できない。
体はピクリとも動かせず、目を開けようにも、瞼は痙攣するばかりで。
どうして、こうなったんだろう?
今、自分の置かれている状況を把握しようと、ラズリは意識を失う前の状況について、ゆっくりと考えを巡らせ始める。
先ず、あの時何があった?
あの時は確か……突然知らない男の人の声が聞こえてきて……それで……その後は? どうしたんだっけ?
どうにも、その先の事が思い出せず、ラズリは懸命に記憶を辿る。
知らない男の声は何て言った? どうして何も覚えてないの?
思い出せないと言うより、ぽっかりと記憶がそこだけ抜け落ちているかのような、何とも言えない気持ちの悪い感覚。まるで誰かに強制的に忘れさせられでもしたかのような、納得のいかない忘れ方。
今まで一度もこんな事はなかった。ついさっきあった出来事を、何も覚えていないだなんて。
一体誰が、どうして?
本当にそんな事ができるかは分からない。けれどラズリは、第三者の関与を疑わずにはいられなかった。
これまでは、おかしな事なんてなかったのに……。
王宮騎士達が村にやって来てから、急に色々とおかしな事が起こっているような気がする。
原因は絶対にあの人達だ。けれど、それを証明する術が見つからない。
こんな状態で、本当に彼等と一緒に王宮へなんて行っても良いの……?
ラズリがそう考えた時だった。
耳をつんざくかのような轟音が周囲に響き渡り、それによってラズリの思考は否応無く分断され、不鮮明だった意識が無理やり引き摺り起こされた。
「…………っ!」
あまりの衝撃に驚いたせいか、痙攣していた瞼が開く。すると、金縛りにあっていたかのように動かせなかった身体も、まるで解放されたかのように軽くなった。
今のは何?
漸く現実へと戻った瞳で、ラズリは音の原因を突き止めようと、身体の向きを変える。
瞬間、そこにあった光景に息を呑んだ。
なに、あれ……。
視線の先には、炎の海が広がっていた。
炎はどす黒い煙を吐き出しながら空高く燃え上がり、生き物のように揺らめいている。
時折り風に煽られて小さくなるも、次の瞬間には威力をいや増し、勢力を拡大するべく次々と周囲の木々を屠っているかのようだ。立派に育った木々は炎に焼かれ、倒れ、彼方此方で地響きを立てている。
あまりにも信じがたい光景に、ラズリは瞬きすらも忘れ、食い入るように炎を見つめた。
どうして? なんで?
意識を失う前と後とで、あまりにも状況が違い過ぎて、理解が追い付かない。
説明を求めて周囲を見回すも、誰の姿も見えず、教えてもらうことはできなさそうだ。
どうして誰もいないの? 燃えてるのは森? それとも……。
一瞬嫌な考えが脳裏に浮かぶも、ラズリはすぐさま、その考えを振り払った。
大丈夫、私達の村のわけがない。ここはきっと村から離れた森のどこかで、王宮へ行く途中で山火事に遭遇しただけよ。私が置き去りにされているのは、騎士達が消火しに行ってるからで……。
自分に言い聞かせるかのようにそう考えるが、嫌な予感を拭い去る事ができない。
大丈夫……大丈夫よね?
誰とは無しに内心で問うてみるものの、無論、答える人はなく。自分で確かめに行こうにも、未だ両手足が縛られた状態のため、動く事もままならなかった。
どうせ置き去りにするなら、縄を解いて行ってくれれば良いのに……。
と言っても、彼等は間違いなく自分の所へと戻るつもりでいるため、そのままにして行ったのだろうが。
目が覚めたら突然独りぼっちって……かなり衝撃的なんですけど。
つい、愚痴りたくなってしまう。
しかも、目の前は炎の海だ。もし自分一人の時に、炎がここまで届いてしまったら、丸焦げになる危険性だってないわけではない。
大事にされているのか、いないのか、分かりかねて、ラズリは眉間に皺を寄せてしまう。
……とにかく、この縄と布。この二つを何とかしない事には……。
地面に転がったまま、身体を左右に激しく揺らし、どうにか拘束を解こうと試みる。
「…………っ! うう……っ!」
身体を捻り、転がり、また揺らし──ラズリが懸命に格闘していると、いきなり両手足が自由になった。
「え……っ」
同時に口の中に詰められていた布も消え失せたようで、ラズリは思わず呆然としてしまう。
なんで……急に?
何かが爆けるような、大きな物が崩れるような。
この音は何──?
意識を失い、村からやや離れた場所に寝かされていたラズリは、意識が覚醒してくると同時に聞こえてきた音に、耳をすませていた。
なんだか焚き火の音に似ているような気がするけれど、それよりももっと大きな……ううん、そんな事より、どうしてこんな音が聞こえるんだろう?
覚醒したといっても意識はまだぼんやりとしている為、状況を把握できない。
体はピクリとも動かせず、目を開けようにも、瞼は痙攣するばかりで。
どうして、こうなったんだろう?
今、自分の置かれている状況を把握しようと、ラズリは意識を失う前の状況について、ゆっくりと考えを巡らせ始める。
先ず、あの時何があった?
あの時は確か……突然知らない男の人の声が聞こえてきて……それで……その後は? どうしたんだっけ?
どうにも、その先の事が思い出せず、ラズリは懸命に記憶を辿る。
知らない男の声は何て言った? どうして何も覚えてないの?
思い出せないと言うより、ぽっかりと記憶がそこだけ抜け落ちているかのような、何とも言えない気持ちの悪い感覚。まるで誰かに強制的に忘れさせられでもしたかのような、納得のいかない忘れ方。
今まで一度もこんな事はなかった。ついさっきあった出来事を、何も覚えていないだなんて。
一体誰が、どうして?
本当にそんな事ができるかは分からない。けれどラズリは、第三者の関与を疑わずにはいられなかった。
これまでは、おかしな事なんてなかったのに……。
王宮騎士達が村にやって来てから、急に色々とおかしな事が起こっているような気がする。
原因は絶対にあの人達だ。けれど、それを証明する術が見つからない。
こんな状態で、本当に彼等と一緒に王宮へなんて行っても良いの……?
ラズリがそう考えた時だった。
耳をつんざくかのような轟音が周囲に響き渡り、それによってラズリの思考は否応無く分断され、不鮮明だった意識が無理やり引き摺り起こされた。
「…………っ!」
あまりの衝撃に驚いたせいか、痙攣していた瞼が開く。すると、金縛りにあっていたかのように動かせなかった身体も、まるで解放されたかのように軽くなった。
今のは何?
漸く現実へと戻った瞳で、ラズリは音の原因を突き止めようと、身体の向きを変える。
瞬間、そこにあった光景に息を呑んだ。
なに、あれ……。
視線の先には、炎の海が広がっていた。
炎はどす黒い煙を吐き出しながら空高く燃え上がり、生き物のように揺らめいている。
時折り風に煽られて小さくなるも、次の瞬間には威力をいや増し、勢力を拡大するべく次々と周囲の木々を屠っているかのようだ。立派に育った木々は炎に焼かれ、倒れ、彼方此方で地響きを立てている。
あまりにも信じがたい光景に、ラズリは瞬きすらも忘れ、食い入るように炎を見つめた。
どうして? なんで?
意識を失う前と後とで、あまりにも状況が違い過ぎて、理解が追い付かない。
説明を求めて周囲を見回すも、誰の姿も見えず、教えてもらうことはできなさそうだ。
どうして誰もいないの? 燃えてるのは森? それとも……。
一瞬嫌な考えが脳裏に浮かぶも、ラズリはすぐさま、その考えを振り払った。
大丈夫、私達の村のわけがない。ここはきっと村から離れた森のどこかで、王宮へ行く途中で山火事に遭遇しただけよ。私が置き去りにされているのは、騎士達が消火しに行ってるからで……。
自分に言い聞かせるかのようにそう考えるが、嫌な予感を拭い去る事ができない。
大丈夫……大丈夫よね?
誰とは無しに内心で問うてみるものの、無論、答える人はなく。自分で確かめに行こうにも、未だ両手足が縛られた状態のため、動く事もままならなかった。
どうせ置き去りにするなら、縄を解いて行ってくれれば良いのに……。
と言っても、彼等は間違いなく自分の所へと戻るつもりでいるため、そのままにして行ったのだろうが。
目が覚めたら突然独りぼっちって……かなり衝撃的なんですけど。
つい、愚痴りたくなってしまう。
しかも、目の前は炎の海だ。もし自分一人の時に、炎がここまで届いてしまったら、丸焦げになる危険性だってないわけではない。
大事にされているのか、いないのか、分かりかねて、ラズリは眉間に皺を寄せてしまう。
……とにかく、この縄と布。この二つを何とかしない事には……。
地面に転がったまま、身体を左右に激しく揺らし、どうにか拘束を解こうと試みる。
「…………っ! うう……っ!」
身体を捻り、転がり、また揺らし──ラズリが懸命に格闘していると、いきなり両手足が自由になった。
「え……っ」
同時に口の中に詰められていた布も消え失せたようで、ラズリは思わず呆然としてしまう。
なんで……急に?
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