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誰も知らない森
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古来より
その森に近付くと災いを招くという言い伝えがあった。
近付いてはならぬ。薪のために森の樹木を切り払ってはならぬ。どんなに美味そうに見えても成っている実を取ってはならぬ。小川の水を飲んではならぬ。…
まことしやかに流布されたそれらの禁忌事項。
実は引退した帝国のある人嫌いの魔術師が森の奥に隠棲する庵を結び、大嫌いな「ヒト」を遠ざけるために広めたものだった。
入り口にある湧き水に細工をしておき、それを飲んだ旅人が腹を壊し
うまい具合に噂が拡散されたのもあってその森に近付く人間はいなくなった。
その魔術師も没してから永い時間が経った。
帝国の古参の魔術師でさえ、この異端の魔術師のことを知る者は少ない。
書庫の隅にあった、この魔術師について書かれた書を読んだウベルが
ぼやかして書いてあったこの森のことを読み解いた。
その魔術師には、彼を慕う変わり者の弟子がいた。書は弟子が残した記録だった。
◇
ウベルは、意識を失った息子エデルを抱きかかえ この森まで転移してきた。
(尊敬する先達よ
我々がここに足を踏み入れることをお許し下さい ────…)
◆
森の奥にある洞窟。森の周辺は農地にもならないような痩せた土地で付近には大昔に開拓者が出ていった寂れた廃墟の村しかない。街道からも遠く離れている。
おそらくこの洞窟を知る者はいないだろう。
頭を低く下げないと入っていけないような狭い入り口。
そこからさらに奥へと進んでいくと、そこに不思議な2人がいた。
────いいや、【いた】というのは正しくないかもしれない。
その2人は生きているの死んでいるのかさえ分からなかった。
◇
透明で固い何かの中に男2人が固められていた。
巨大な水晶のような、ガラスのような。
年嵩の男のほうが、若いほうの男を両手で支えて軽く抱きしめるように立っている。
2人とも目を瞑っている。その口元には笑みが浮かんでいた。
永い永い時間が過ぎて、いつか誰かがこれを発見する時が来るのかもしれない。
だが、その者はここにいるウベルとエデルの物語までは知ることはないだろう。
- 完 -
ーーーーー
お読みいただきありがとうございました。これにて完結です。
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