【完結】戦争から帰ったら妻は別の男に取られていましたが 上官だった美貌の伯爵令嬢と恋をする俺の話

スコブル

文字の大きさ
上 下
51 / 52

最終話 【本編完結】

しおりを挟む
 フランツとトルーデが離れ離れになって一年。 フランツが王都に帰ってきました。

ーーーーー




 1年間、新基地建設に携わり魔道技術士の資格を得てフランツは王都に帰ってきた。


 元の建設資材の商会に復帰し、建設魔道技術士として新たに勤務することとなった。他の現場から声が掛かれば助っ人にも行く。
 今はまだまだ未熟だが、経験を積みいずれは独立して商会を立ち上げる予定である。


 フランツは、ヴィリーの妻ミラの実家に形だけ養子にしてもらい、貴族籍を得、それからトルーデと結婚した。





 トルーデとフランツは結婚の届出を教会に出して、ケストナー家の家族親族+トルーデの知人友人とフランツの友人知人だけのこじんまりとした結婚パーティーを開いた。

 人数がそう多くないからか、新郎新婦と皆が話をし、笑い合い、気安い、非常に楽しく素晴らしく皆の心に残るパーティーとなった。

 白いシルクのドレスはシンプルで決して大仰でなく動きやすいデザイン。
 二の腕と肩から首にかけての立派な筋肉をレースで隠す案もあった。

 が、新婦フランツによる「?なんで?美しいものを隠す必要なんて無いのに」
 の一言によって ノースリーブでデコルテも品よく見せる白いドレスに決まった。

 フランツのその言葉を聞いたトルーデが、無言でフランツに抱きつき肩口に頭をグリグリしてしばらく離れなかった様子を見て
 周囲の者たちがほんわかした空気に包まれたのは言うまでもない。

 令嬢らしからぬお嬢様の筋肉が肯定されて嬉しかったのは、本人だけではなかった。



 トルーデの美しく長い金髪はふんわり巻いておろしてある。そこに被せられた可憐な花冠。

 淡い色のさまざまな花で作られたブーケを持ったトルーデは、どこの女神かと思うほど美しく光輝いている。

 フランツは、エプシュタインから贈られた婚礼用のスーツを着用していた。髪はかっちりと固められ、いつもとは別人のようだ。
 フランツの胸元には、トルーデの持つブーケとお揃いの花のブートニア。

 愛し合う二人は常に相手を見つめ合い、隙あらばキスを交わし、そして声をあげて笑い合った。




「さて 皆の前でひとこと挨拶と、誓いの言葉をどうぞ。お二人さん」

 ヴィリーが促す。皆のおしゃべりが止まる。にこにこしながら二人に注目する。

 手を取り合い、二人が立ち上がる。

 トルーデから口を開く。

「皆さん…本当にありがとうございます ────…愛する人と結婚出来るのは、皆のおかげです。本当にありがとう…」

 そう言い、フランツに向き直る。

「そしてフランツ……フランツ・ヴェルテ、あなたを一生愛することを、ここに誓います」

 握る手に、グッと力が込められた。

 次はフランツ。
 愛妻の力強い言葉を受けて、誓いを繋げる。

「 ────皆さん、ほんとうにありがとうございます」

 そしてトルーデに向き直って

「トルーデ・ケストナー、私は一生あなたを愛することを誓います。
 あなたを、世界中の誰よりも幸せにすることを誓います。

 そして ────……あなたより先に死なないことを、皆の前で誓います」

 その約束を守れるかどうかは神のみぞ知るところ。
 しかし「そうしたい」という意思こそが大事なのだ、とフランツは強く思っていた。

 『自分は愛するトルーデより先に逝かない、先に死なない』宣言である。

 父のオットーは、その言葉を聞いて息を呑んで娘婿を見やった。それは兄のヴィリーも同様だった。

 そう出来るかもしれないし出来ないかもしれない。
 そんなことは、ここにいる大人たちは皆分かっていた。
 でも、それでいい。



 トルーデの母・カトリンは、病気で、トルーデが10歳になる前に天国へと旅立っていった。

 フランツの両親と弟妹は、病気ではなく戦争で命を奪われた。

 先の戦争で亡くなった人達の中には、愛する者より先に死ななければならなかった者も多いだろう。

 いつだって、人の命はあっさりと失われる。


 だがそれでも。


 人間には、望む力がある。

 世界はいつも理不尽だが、ちっぽけな人間には、意思の力が備えられているのだ。


 トルーデの頬に、ひとすじ涙がすうっと流れ

「…約束だぞ?絶対だぞ…?」と、泣いたまま笑った。

「ああ、約束だ」

 新婦フランツが、その涙を指で拭おうとする。


「あー もう、お嬢様ったら…お化粧が崩れちゃうから泣いちゃダメです!」

 オルガとハンナがハンカチを持って駆け寄ってくる。
 父のオットーと、執事のエトムントと、しばらく前に引退した「爺」の3人は既にボロボロと大泣きしていた。

 テーブルの上には、トルーデの母カトリンの小さな肖像画が立てて置かれていた。
 大人の手のひらを広げたくらいの大きさの油絵は、カトリンの死後にオットーが絵師に発注したものだ。

 新しい額縁に入れられたその肖像画のかたわらには
 シャンパンの入ったグラスと花束とケーキ。

 カトリンが絵の中で、祝福するかのように微笑んでいた。




 トルーデは結婚して3年後、軍を退官した。軍人を辞め、フランツが立ち上げた商会の女主人になる道を選んだ。

 ヴェルテ商会は、本業の建設魔道技術士の仕事のほかに、土を改良して作った野菜も大ヒットした。
 商会は建設のみならず農業分野のほうにも注力していく。

 「農は国の礎」が口癖の若き商会長は、妻と共に商会を堅実に運営した。驕らず偉ぶらず、商売を必要以上に拡大することもなく。

 やがて二人は子供を授かり、十月十日(とつきとおか)ののちに、丸々とした赤ん坊が生まれた。

 男の子だ。

「トルーデ…」

 ゼエゼエと息の上がった妻の頰に手を当て、汗で濡れたひたいにキスをする。

「わたしたちの…息子よ…あなたに似た髪色の」

 そう言ってにっこり笑う。ぐったりしながらも、その顔は喜びに満ちていた。

「うん…うん」

 なんと言っていいか分からないでいたら
 助産師様が、トルーデに抱かれていた赤ん坊をいったん抱き上げて、こちらに抱かせてくれる。

「はい お父さん」

 赤ん坊はあったかくて、小さくて柔らかくて…ずしりと重さがあった。心地よい重さだ。元気に大声で泣いていた。

 フランツは胸がいっぱいになった。じわぁ…と泣けてきた。





 前世で死んでこっちの世界に生まれ変わり、戦争が始まり、家族の中で自分だけ生き残って、結婚したと思ったら今度は戦争に従軍させられ…


 でもその戦争で君に出会えた。トルーデ。俺の愛するひと。


 そして可愛い息子まで産んでくれた。 家族が増えた幸せを噛みしめながら、フランツは今までの来し方を思った。

 人間はいつか死ぬ。だからこそ生は愛おしい。限られた時を、出来るだけ上機嫌で生きる。

 それしか、人間には出来ないんだ。





 俺は、一生君に恋をし続ける。

 フランツは、心の中でそっと妻に誓った。


ーーーーー

 【本編完結】この後、一話ウベルとエデル父子の後日談のようなものを差し込みます。それ以上の追加はしない予定です。

 お読みいただいた方、お気に入りに登録してくださった方々、誠にありがとうございました。

「小説になろう」様から「アルファポリス」様へ 改稿しながらの投稿という形での原稿見直しの作業は
恥ずかしさを覚えつつ存外に楽しいものになりました。

 書くこと、読んでいただくことも、純粋に楽しいですね。

 私に書く喜びを思い起こさせてくれて、書く場を与えて下さったアルファポリス様に改めて感謝申し上げます。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

処理中です...