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眠れぬ夜のプロポーズ
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能動か受動か…
ーーーーー
あれから二人はそれぞれに眠れない夜を過ごしていた。
フランツはフランツで、トルーデはトルーデで、それぞれ、この先の人生に思いを馳せる。
◆
フランツは、前回の結婚の時はフランツ側からの求婚。イレーネとの関係性と彼女の性格上、そうすることが自然かな、という判断もあった。
(こっちの世界だと女性からのプロポーズも珍しくないんだよな…まあ俺は前回は自分からしたんだけど)
◆
トルーデもまたプロポーズについて、ぐるぐる考える。
「物に頼るやつはやめるか…準備期間もないことだし。ストレートにいくべきか、捻っていくべきか…、あ、そういえば、あれがあった」
引き出しを開ける。久々に目にするそれをケースから出し親指と人差し指で挟んで、目の高さに持ち上げる。
◆
コンコン。
真夜中。フランツが住む離れを訪ねたトルーデ。
「ごめん もう寝てた?」
「いいや」
首を横に振るフランツ。
「 ────眠れなくて起きてた」
「私も」
「冷えるから早く入って」
「ん」
フランツに肩を抱かれ離れの部屋に招き入れられるトルーデ。
二人して、ベッドに並んで座る。窓の外は月のない夜。星が瞬いていた。
小さなランプだけを灯して話をすることにした。
◆
「こないだはごめん」
「こっちこそごめん…ロクに話も聞かずに泣いたりして、フランツを困らせてしまった」
「…いや俺も悪かった、俺『が』悪かった……大事なことなのに、一人でわーーって決めてしまって」
「うん……でも、フランツはやりたいんだろ?技術者に繋がる仕事。兄上にも言われたよ…将来の未来図や人生を考えてみろって」
「ヴィリー様が…」
「一年だろう?会えないのは辛いけど…辛いけど…我慢する」
「トルーデ…」
「休みには帰って来て欲しい ────、でも…遠いよね…」
悲しそうな顔をして俯くトルーデの手を、フランツがぎゅっと握る。
「ホントごめん…ごめんな…でも俺……」
「ううん、謝らないでいいの。応援する────もう、あんな風に言わない…」
「トルーデ…」
自分は、どれだけ彼女に我慢を強いてしまうのか。フランツはこみあげる想いにグッと奥歯を噛んだ。
気を取り直したようにトルーデが口調を少し変える。
「あの、あのさ…友達のプロポーズを参考にしようと思ったんだけど ────
……リーゼがやったっていう薔薇100本のプロポーズも、エミリアの家宝の宝石付き指輪を渡すやつも、自分には向かないかもって思って、なんていうか人の真似ではどうかと思って…」
トルーデの話すことを聞いていたフランツの思考が固まる。
(へ?薔薇100本のプロポーズ?家宝の宝石??そのお友達も凄いな……お嬢様達の気合いの入ったプロポーズ…)
「私が今フランツに捧げられるものは、真心しかない…」
なにか、意を決したようなトルーデが一度目をつむってからカッと開く。
◆
トルーデはベッドから降りて、フランツの前に片膝をついて跪き手を取りその指の背にキスをする。
歌劇のワンシーンのようである。
フランツは、目の前の恋人の熱のこもった眼差しに、ゾクっとする。
トゥンク…
(え……うわわ…心臓がバクバクする…)
トルーデが真剣な瞳でフランツを見上げる。
「フランツ、必ず幸せにする…いいや、一緒に幸せになろう 私と、結婚してほしい」
トルーデは、ポケットから石の無いシルバーの指輪を取り出すとフランツの左手の薬指にスッと嵌める。
驚くことにその指輪は彼にピッタリだった。
「良かった…!母上は割と指が太めだったから見た感じでもサイズは大丈夫だと思ってた────…
これ、母上の形見でね 若い頃、父上がくれたものだと言って…亡くなる前に愛する人にあげなさいと言って渡された指輪なんだ」
「っ …そんな大事な指輪、」
『そんな大事なもの受け取れない』と、続けようとしたフランツを目で制するトルーデ。
「フランツだから、受けとって欲しいんだ …愛する人だから」
懇願するように、眉をちょっと寄せるトルーデ。
(あ~~ も~~ そういう顔、反則!)
キューピッドの愛の矢が、再びフランツのハートに、とすっと刺さる音が聞こえた気がした。
トルーデの背景に薔薇が見える…光の粒子みたいなのが舞っているような気も。
いつもの何倍も彼女が光り輝いて見える。
だがこれは魅了の魔法ではない。純然たる愛だ。彼女と彼との間を相互に行き交う『愛』。
(ああ……好きな相手からこんなにも気持ちを向けられるからか
……めちゃくちゃときめいた…される側のプロポーズ…初めての体験だぁ…)
顔を赤らめ
「は、はい…」
とフランツが頷くと トルーデがパッと顔を明るくする。
「フランツ!」
立ち上がり強く抱き合う二人。
「実は怖かったんだ ────もしも断られたらどうし…」
喋り続けようとするトルーデの口を、フランツがキスで塞ふさぐ。
「んっ…」
長いキスの後、顔を見合わせて笑い合う二人。
「断るわけない…嬉しいよ プロポーズ」
こうして、軍人伯爵令嬢側からのプロポーズは成功したのだった。
◆
その後、トルーデとフランツとの間で婚約の文書が交わされ、ケストナー家にも承認され二人は正式な婚約者同士になった。
親族の貴族家の養子になるのは一旦おいといて、先に婚約だけした形にした。
養子の件はヴィリーが請け負ってくれて、結婚は、フランツが王都に帰ってきてからという話になった。
◆
そしてフランツは、ザゴルノ・ズラバフ新基地の建設の為に王都を離れて旅立っていった。
ーーーーー
お読みいただきありがとうございます!
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あれから二人はそれぞれに眠れない夜を過ごしていた。
フランツはフランツで、トルーデはトルーデで、それぞれ、この先の人生に思いを馳せる。
◆
フランツは、前回の結婚の時はフランツ側からの求婚。イレーネとの関係性と彼女の性格上、そうすることが自然かな、という判断もあった。
(こっちの世界だと女性からのプロポーズも珍しくないんだよな…まあ俺は前回は自分からしたんだけど)
◆
トルーデもまたプロポーズについて、ぐるぐる考える。
「物に頼るやつはやめるか…準備期間もないことだし。ストレートにいくべきか、捻っていくべきか…、あ、そういえば、あれがあった」
引き出しを開ける。久々に目にするそれをケースから出し親指と人差し指で挟んで、目の高さに持ち上げる。
◆
コンコン。
真夜中。フランツが住む離れを訪ねたトルーデ。
「ごめん もう寝てた?」
「いいや」
首を横に振るフランツ。
「 ────眠れなくて起きてた」
「私も」
「冷えるから早く入って」
「ん」
フランツに肩を抱かれ離れの部屋に招き入れられるトルーデ。
二人して、ベッドに並んで座る。窓の外は月のない夜。星が瞬いていた。
小さなランプだけを灯して話をすることにした。
◆
「こないだはごめん」
「こっちこそごめん…ロクに話も聞かずに泣いたりして、フランツを困らせてしまった」
「…いや俺も悪かった、俺『が』悪かった……大事なことなのに、一人でわーーって決めてしまって」
「うん……でも、フランツはやりたいんだろ?技術者に繋がる仕事。兄上にも言われたよ…将来の未来図や人生を考えてみろって」
「ヴィリー様が…」
「一年だろう?会えないのは辛いけど…辛いけど…我慢する」
「トルーデ…」
「休みには帰って来て欲しい ────、でも…遠いよね…」
悲しそうな顔をして俯くトルーデの手を、フランツがぎゅっと握る。
「ホントごめん…ごめんな…でも俺……」
「ううん、謝らないでいいの。応援する────もう、あんな風に言わない…」
「トルーデ…」
自分は、どれだけ彼女に我慢を強いてしまうのか。フランツはこみあげる想いにグッと奥歯を噛んだ。
気を取り直したようにトルーデが口調を少し変える。
「あの、あのさ…友達のプロポーズを参考にしようと思ったんだけど ────
……リーゼがやったっていう薔薇100本のプロポーズも、エミリアの家宝の宝石付き指輪を渡すやつも、自分には向かないかもって思って、なんていうか人の真似ではどうかと思って…」
トルーデの話すことを聞いていたフランツの思考が固まる。
(へ?薔薇100本のプロポーズ?家宝の宝石??そのお友達も凄いな……お嬢様達の気合いの入ったプロポーズ…)
「私が今フランツに捧げられるものは、真心しかない…」
なにか、意を決したようなトルーデが一度目をつむってからカッと開く。
◆
トルーデはベッドから降りて、フランツの前に片膝をついて跪き手を取りその指の背にキスをする。
歌劇のワンシーンのようである。
フランツは、目の前の恋人の熱のこもった眼差しに、ゾクっとする。
トゥンク…
(え……うわわ…心臓がバクバクする…)
トルーデが真剣な瞳でフランツを見上げる。
「フランツ、必ず幸せにする…いいや、一緒に幸せになろう 私と、結婚してほしい」
トルーデは、ポケットから石の無いシルバーの指輪を取り出すとフランツの左手の薬指にスッと嵌める。
驚くことにその指輪は彼にピッタリだった。
「良かった…!母上は割と指が太めだったから見た感じでもサイズは大丈夫だと思ってた────…
これ、母上の形見でね 若い頃、父上がくれたものだと言って…亡くなる前に愛する人にあげなさいと言って渡された指輪なんだ」
「っ …そんな大事な指輪、」
『そんな大事なもの受け取れない』と、続けようとしたフランツを目で制するトルーデ。
「フランツだから、受けとって欲しいんだ …愛する人だから」
懇願するように、眉をちょっと寄せるトルーデ。
(あ~~ も~~ そういう顔、反則!)
キューピッドの愛の矢が、再びフランツのハートに、とすっと刺さる音が聞こえた気がした。
トルーデの背景に薔薇が見える…光の粒子みたいなのが舞っているような気も。
いつもの何倍も彼女が光り輝いて見える。
だがこれは魅了の魔法ではない。純然たる愛だ。彼女と彼との間を相互に行き交う『愛』。
(ああ……好きな相手からこんなにも気持ちを向けられるからか
……めちゃくちゃときめいた…される側のプロポーズ…初めての体験だぁ…)
顔を赤らめ
「は、はい…」
とフランツが頷くと トルーデがパッと顔を明るくする。
「フランツ!」
立ち上がり強く抱き合う二人。
「実は怖かったんだ ────もしも断られたらどうし…」
喋り続けようとするトルーデの口を、フランツがキスで塞ふさぐ。
「んっ…」
長いキスの後、顔を見合わせて笑い合う二人。
「断るわけない…嬉しいよ プロポーズ」
こうして、軍人伯爵令嬢側からのプロポーズは成功したのだった。
◆
その後、トルーデとフランツとの間で婚約の文書が交わされ、ケストナー家にも承認され二人は正式な婚約者同士になった。
親族の貴族家の養子になるのは一旦おいといて、先に婚約だけした形にした。
養子の件はヴィリーが請け負ってくれて、結婚は、フランツが王都に帰ってきてからという話になった。
◆
そしてフランツは、ザゴルノ・ズラバフ新基地の建設の為に王都を離れて旅立っていった。
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お読みいただきありがとうございます!
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2月3日にアルファポリス様連載分を完結致しました。お読みいただいた皆様、お気に入り登録して下さった皆様、本当にありがとうございます!誠に勝手ながら作者都合で感想欄は閉じております。誤字脱字等が一部にあり大変申し訳ございません。随時直していきます。小説家になろう様にも投稿しております。 https://ncode.syosetu.com/n1893ha/アルファポリス様投稿分とは細部で違いがあります。大筋は変わりません。
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