【完結】戦争から帰ったら妻は別の男に取られていましたが 上官だった美貌の伯爵令嬢と恋をする俺の話

スコブル

文字の大きさ
上 下
46 / 52

王都から遠く離れたところへ

しおりを挟む
 過去に2人の上官だった&軍犯罪捜査局でちょびっとの期間だけ上司だった、エプシュタインさんの登場回です。

ーーーーーー



 王国軍犯罪捜査局 主任エプシュタインの部屋。 

「おかげさまで良くなりました。何度も見舞いにも来て頂いて…本当に色々ありがとうございました」

 フランツは、差し入れの入った紙袋を差し出す。

「良かったな、顔色もいいし…ホントに良かった良かった…それにしてもお前さんは相変わらず硬かてえな!」

 と言って、フランツの背中をバッシバシと叩く。

 [エプシュタイン主任、まるで下町のおっちゃんのような言葉遣いであるが、これはチームで仕事を円滑に進める為の主任なりのちょっとしたテクニックの一つであった]




 ふと、壁に鋲で留めてある紙が目に入った。

「これ…新基地が出来るんですか?」

「ん?ああ、ザゴルノ・ズラバフ基地か」

「ここ、確か帝国軍が最初に上陸した街でしたっけ」

「抑止の役割としてある程度の大きさの基地を建てることになったんだと。
 まあ王都からはかなり遠方なだけに、軍人連中はあそこに配属される人事異動が発令されたら悪夢だと戦々恐々としてる」

「遠いですね」

 地図を見ながら相槌を打つフランツ。

「やっと王都に帰ってきたのに、またそんな遠いところにってな。

 …とにかく人手不足らしい。そんな中で建設するってんだから、個人的にはちょっとどうかとも思うけど」

「うちの商会でも最近資材が大きく動いてます」

「需要が増えて、値上がりしてるよな…
 そういや、建築資材の商会だっけ?いずれそっちの商会にも技術者や技術者見習いの募集が行くかもしれん」

「技術者見習い…」

「ええと確か…建設分野の土魔法の魔道士の下で働く人員が必要なんだと。

 魔道士の指導で、魔力の少ない者でも出力アップしてそれを業務に活かすとかなんとか ────建築に関する技術者を育成をやっちまおうっていう一石二鳥の策でもあるらしい。国も、民間も、人の育成は急務だよな~ 先の戦争で亡くなった技術者も多くてどこでも人が足りてねえのよ」

「魔力の少ない者でも出力アップ…」

 フランツは、エプシュタインの言葉を反芻する。

(こどもの頃、故郷の村の教会で魔力調べがあった時、母さんが熱出して倒れて俺は教会に行けなかったんだよな。父さんは「どっちの家系も、水をぬるま湯にするレベルの人間しかいないから鑑定する意味ない」とか言って)

 この王国、平民に職業選択の自由が無いわけではない。

 しかし大部分が、親の生業を引き継ぐか親族などの紹介で働く人達。固定化された社会からは抜け出せず、そこで働く人がほとんどだったのである。

 起業する人もいるにはいるが、既存の枠組みがガッチリ決まっており、その業界の末席に加えてもらうまでが遠い道のりであった。

 フランツの場合、トルーデとケストナー家の口利きで今の商会での仕事にありつけたが
 働いてみたら同僚には貴族の第二子や第三子がゴロゴロ。平民もいるにはいるが少数。

 要するに貴族の冷や飯食いが、報酬を得る為に働くような職場だったのだ。

 口利きが無ければ、平民のフランツが働くことなど不可能だっただろう。

「例えば地質調査やなんかで、穴を掘ったりするだろ?あれを、統括魔道士1人でやるのは骨が折れるんだってよ」

 熱すぎる紅茶を行儀悪くふーふーしながら、エプシュタインが言う。

(地質調査…ボーリングみたいなことか…)

 考え込む様子のフランツ。

「あ、そういえば 消えた犯人と【帝国の青蛇】の親子の件は聞いた?」

「はい。聞きました。一向に行方は分からないままだとか…」

「ホントによ……どこ行っちまったんだろな」

 もしフランツが居た、あの次元にいるのなら もう誰の手も届かない ──── ────。



 【ザゴルノ・ズラバフ新基地建設計画】

 ザゴルノ・ズラバフはゼル半島の東海岸に位置した王国領の街である。5年戦争の時、帝国軍による侵攻の最初の上陸地だ。

 王都から見ると、国の端っこ。僻地であった。軍の小規模な駐留地はあるが、そこに配属されることは左遷も同様。

 街は、住宅密集地と広々とした空き地が広がる地域とに大別される。その広々とした地域の内、農地整備を施した地域以外が王国軍新基地建設が計画されている地域だ。

 敵国の上陸を許したザゴルノ・ズラバフは、帝国軍によって詳細に調査されていた。その資料を元に再調査した上で王国軍の新基地を建設することになった。勿論、防衛線の強化の為である。


 予算要求資料には「有効な抑止が無ければ 帝国が地域における王国の権益を奪い取るだろう」、の記述。地域の安定を取り戻す為に新基地建設が必要とされた。

 5年戦争は、停戦協定が締結され一応の終結と相なった。この停戦状態を維持する為には、今の時点では 双方の国が軍備を増強してバランスを保っていくしか道は無かった。

 停戦協定を経て王国軍の対帝国軍事戦略も大幅に変更され、停戦監視委員会が設置された。



========

「俺…ここで働きたいな…」

「え」
 驚くエプシュタイン。

 心の中で呟いたはずが、声に出てしまったようだ。


「 ────…これからの人生を考えて 俺もいつまでもケストナー家に世話になるわけにもいかないと思って。今の話聞いて、建築関係に関われないかなと…」

「あの家の離れに住んでたんだったな」

「はい。今の職場もケストナー家の紹介でして」

「なるほどな…しかし、いいのか?トルーデと付き合ってるんだろ。離れ離れになっちまうぞ」

 心配そうにそう言うエプシュタイン。

「……ですよねえ…」





 さあこれから、という時に自ら離れていこうとするフランツ。さてお嬢様の反応や 如何に。
 


ーーーーー

お読みいただきありがとうございます。
しおりを挟む
2月3日にアルファポリス様連載分を完結致しました。お読みいただいた皆様、お気に入り登録して下さった皆様、本当にありがとうございます!誠に勝手ながら作者都合で感想欄は閉じております。誤字脱字等が一部にあり大変申し訳ございません。随時直していきます。小説家になろう様にも投稿しております。 https://ncode.syosetu.com/n1893ha/アルファポリス様投稿分とは細部で違いがあります。大筋は変わりません。

あなたにおすすめの小説

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~

八重
恋愛
【全32話+番外編】 「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」  伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。  ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。  しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。  そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。  マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。 ※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい

麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。 しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。 しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。 第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。

処理中です...