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目覚めたフランツ
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しばらくして魔道士、薬師、軍捜査局の関係者、屋敷の使用人ら、大勢の人間が部屋に入ってきた。
もちろんその中にはエプシュタイン主任の姿もあった。
「尾行対象のウベルから強制転移の魔法をかけられてなーー…済まなかった…上司である俺の責任だ ────…」
「ハイハイ、どいてどいて~」
フランツの身体をケアしてきた魔道士のターソが薬師と共に皆を押しのけてベッドサイドにやってくる。
「ちょっと見るねー まぶしいけど我慢して」
ターソ魔道士は指先から弱い光を出すと、それをフランツの目にかざして丹念に見、その後身体のあちこちを調べて、色々と問診をした。
「 ────あちらの気配はしませんな。彼の魂は完全にこちら側に戻ってきたようです」
心配していた面々がワッと湧く。良かった良かったと肩を叩き合う。
「おぉ…神よ…!感謝致します…」
トルーデはフランツの頬に熱烈なキスをした。
(……て、照れる…)
フランツ本人には、嬉しさと気恥ずかしさが同時に来たが
周囲の者の多くは、2人が「両片想い」だと知っている。
知らない者は伯爵令嬢のこの振る舞いにギョッとはしたが、使用人らが「当然ですねー」というような表情で笑っているのを見て婚約者か恋人かな?と思い勝手に納得した。
そして「神」と聞いて、[夢魔の次元]でリヒャルトが語っていたことを思い出す。
──── ────…俺は、こっちに、なんで戻ってこられたんだ?
⌘⌘⌘
ターソ魔道士が、皆を部屋から追い出しにかかる。
「患者は「こっち」に戻ったばかりだし まだまだ本調子じゃない。薬師様といろいろ処置をするからいったん皆は出てくれ」
積もる話は患者が回復してからにして、と言われて皆は部屋を出て行く。
「…あ、あの…事件はどうなりました?」
フランツがエプシュタインにそう問うたら、ターソ魔道士はため息をついて事件の話を少しだけなら、と会話を許された。
「ゴダードを刺殺した犯人は捕まったよ」
「…そうですか…」
「第二の被害者、ゴダードの傍らで死んでいたヨアヒムは、ゴダードによる暴行が死因だった。
それと────お前さんに強制転移魔法をかけたウベルって帝国人は取り逃してしまった すまん…
この件があっても、上からのお達しで捜査は終結ということにはなったんだが、肝心の犯人が、な…」
「犯人が…?」
「犯人はエデル・カウフマンという若い男だったんだが今、意識不明状態で…」
「 ────…??!エデル…?犯人はエデルという名前なんですか?」
フランツは、驚きのあまり身体を起こそうとしたが、体力もなく、更にはターソ魔道士に肩を押さえられて制止された。
「起きたらダメだ」
「ーーー…犯人を知っているのか?」
知ってるかと問われて、『あっちで会いました、しかも子供の姿のエデルに』とも言えずに黙ってしまったフランツだったが、
「事件の話は後でしろ」とターソ魔道士に言われて、話はそこまでになった。
(エデルが… 犯人────…「あっち」でエデルと関わったことは何らかの意味があったということなのか……?)
更には、エデルからの連想で妹のポリーナーと弟のマチアスのことも思い出された。
(まさか会えるとは…)
あの邂逅を、幻覚や妄想だとは思わない。「今は苦しくない」と言っていた弟妹たち。
失った痛みは消えはしないが、あの言葉はじわじわと自分の中に染み入っていき、自分を変えていくような気がする。
視界の隅に、ハンナに羽交い締めにされて嫌々部屋から引きずり出されていくトルーデの姿が見えた。
ターソ魔道士が苦笑する。
「あのお嬢様が、療養の妨げにならないといいんですがね」
「ハハハハハ…」
⌘⌘⌘⌘⌘
目をつむるとフランツは先ほどのトルーデの唇の柔らかさを思い出した。
( ────…トルーデのキスで目覚めるとか俺って「眠り姫」みたいだな?…むーん…トルーデとの初めてのキスはさ、なんつうかこう、場所を選んでしたかったよね……いやいや片方に意識がない状態でのキスはキスとは言わないんじゃないか?しかし目覚める直前に俺の側に、彼女からキスされてる感覚はあったわけで……)と、ぐるぐる考えるフランツであった…
⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘
「お嬢様、少しは落ち着いて下さいませ」
さっきからソワソワしたり立ったり座ったり、戸棚を開け閉めしたりブツブツ言ったり、落ち着かないことこの上ないトルーデを、使用人たちが呆れて眺める。
フランツ様が意識を無くしてから10日。やっと目覚められたフランツ様のおそばに行きたいのだろう。
それにしてもお嬢様のキスが、フランツ様を目覚めさせたような形になった…?
執事のエトムントは、実際に目撃していただけに感慨もひとしおであった。
騒ぎの中で、キス→目覚めだと知った使用人達の驚きもまた大きかった。お嬢様の想い人の目覚めがキスきっかけとか。
砕けた言い方をすれば
【お嬢様たち、もう結婚しちゃえばいいのに!カタチだけどっかの貴族の養子にしてもらってさー】
…というのが別邸勤めの使用人たちの総意であった。
ケストナー家には既婚のトルーデの兄という後継がいる。代替わりした後は兄夫婦が伯爵家を立派にやっていくだろうし、ケストナー家当主のトルーデ父もトルーデの結婚に反対はしないだろう。
ーーーーー
お読みいただきありがとうございます。
もちろんその中にはエプシュタイン主任の姿もあった。
「尾行対象のウベルから強制転移の魔法をかけられてなーー…済まなかった…上司である俺の責任だ ────…」
「ハイハイ、どいてどいて~」
フランツの身体をケアしてきた魔道士のターソが薬師と共に皆を押しのけてベッドサイドにやってくる。
「ちょっと見るねー まぶしいけど我慢して」
ターソ魔道士は指先から弱い光を出すと、それをフランツの目にかざして丹念に見、その後身体のあちこちを調べて、色々と問診をした。
「 ────あちらの気配はしませんな。彼の魂は完全にこちら側に戻ってきたようです」
心配していた面々がワッと湧く。良かった良かったと肩を叩き合う。
「おぉ…神よ…!感謝致します…」
トルーデはフランツの頬に熱烈なキスをした。
(……て、照れる…)
フランツ本人には、嬉しさと気恥ずかしさが同時に来たが
周囲の者の多くは、2人が「両片想い」だと知っている。
知らない者は伯爵令嬢のこの振る舞いにギョッとはしたが、使用人らが「当然ですねー」というような表情で笑っているのを見て婚約者か恋人かな?と思い勝手に納得した。
そして「神」と聞いて、[夢魔の次元]でリヒャルトが語っていたことを思い出す。
──── ────…俺は、こっちに、なんで戻ってこられたんだ?
⌘⌘⌘
ターソ魔道士が、皆を部屋から追い出しにかかる。
「患者は「こっち」に戻ったばかりだし まだまだ本調子じゃない。薬師様といろいろ処置をするからいったん皆は出てくれ」
積もる話は患者が回復してからにして、と言われて皆は部屋を出て行く。
「…あ、あの…事件はどうなりました?」
フランツがエプシュタインにそう問うたら、ターソ魔道士はため息をついて事件の話を少しだけなら、と会話を許された。
「ゴダードを刺殺した犯人は捕まったよ」
「…そうですか…」
「第二の被害者、ゴダードの傍らで死んでいたヨアヒムは、ゴダードによる暴行が死因だった。
それと────お前さんに強制転移魔法をかけたウベルって帝国人は取り逃してしまった すまん…
この件があっても、上からのお達しで捜査は終結ということにはなったんだが、肝心の犯人が、な…」
「犯人が…?」
「犯人はエデル・カウフマンという若い男だったんだが今、意識不明状態で…」
「 ────…??!エデル…?犯人はエデルという名前なんですか?」
フランツは、驚きのあまり身体を起こそうとしたが、体力もなく、更にはターソ魔道士に肩を押さえられて制止された。
「起きたらダメだ」
「ーーー…犯人を知っているのか?」
知ってるかと問われて、『あっちで会いました、しかも子供の姿のエデルに』とも言えずに黙ってしまったフランツだったが、
「事件の話は後でしろ」とターソ魔道士に言われて、話はそこまでになった。
(エデルが… 犯人────…「あっち」でエデルと関わったことは何らかの意味があったということなのか……?)
更には、エデルからの連想で妹のポリーナーと弟のマチアスのことも思い出された。
(まさか会えるとは…)
あの邂逅を、幻覚や妄想だとは思わない。「今は苦しくない」と言っていた弟妹たち。
失った痛みは消えはしないが、あの言葉はじわじわと自分の中に染み入っていき、自分を変えていくような気がする。
視界の隅に、ハンナに羽交い締めにされて嫌々部屋から引きずり出されていくトルーデの姿が見えた。
ターソ魔道士が苦笑する。
「あのお嬢様が、療養の妨げにならないといいんですがね」
「ハハハハハ…」
⌘⌘⌘⌘⌘
目をつむるとフランツは先ほどのトルーデの唇の柔らかさを思い出した。
( ────…トルーデのキスで目覚めるとか俺って「眠り姫」みたいだな?…むーん…トルーデとの初めてのキスはさ、なんつうかこう、場所を選んでしたかったよね……いやいや片方に意識がない状態でのキスはキスとは言わないんじゃないか?しかし目覚める直前に俺の側に、彼女からキスされてる感覚はあったわけで……)と、ぐるぐる考えるフランツであった…
⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘
「お嬢様、少しは落ち着いて下さいませ」
さっきからソワソワしたり立ったり座ったり、戸棚を開け閉めしたりブツブツ言ったり、落ち着かないことこの上ないトルーデを、使用人たちが呆れて眺める。
フランツ様が意識を無くしてから10日。やっと目覚められたフランツ様のおそばに行きたいのだろう。
それにしてもお嬢様のキスが、フランツ様を目覚めさせたような形になった…?
執事のエトムントは、実際に目撃していただけに感慨もひとしおであった。
騒ぎの中で、キス→目覚めだと知った使用人達の驚きもまた大きかった。お嬢様の想い人の目覚めがキスきっかけとか。
砕けた言い方をすれば
【お嬢様たち、もう結婚しちゃえばいいのに!カタチだけどっかの貴族の養子にしてもらってさー】
…というのが別邸勤めの使用人たちの総意であった。
ケストナー家には既婚のトルーデの兄という後継がいる。代替わりした後は兄夫婦が伯爵家を立派にやっていくだろうし、ケストナー家当主のトルーデ父もトルーデの結婚に反対はしないだろう。
ーーーーー
お読みいただきありがとうございます。
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2月3日にアルファポリス様連載分を完結致しました。お読みいただいた皆様、お気に入り登録して下さった皆様、本当にありがとうございます!誠に勝手ながら作者都合で感想欄は閉じております。誤字脱字等が一部にあり大変申し訳ございません。随時直していきます。小説家になろう様にも投稿しております。 https://ncode.syosetu.com/n1893ha/アルファポリス様投稿分とは細部で違いがあります。大筋は変わりません。
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