【完結】戦争から帰ったら妻は別の男に取られていましたが 上官だった美貌の伯爵令嬢と恋をする俺の話

スコブル

文字の大きさ
上 下
38 / 52

夢魔は語る③

しおりを挟む
  パチン。リヒャルトが指を鳴らすと、リヒャルトが消えて、見知らぬ小さな子どもが目の前に出現した。

 リヒャルトの声だけがあたりに響く。《そのガキの願いを聞いてやれ》

 願い?

 もじゃもじゃ頭の、くりくりっとしたまん丸なキレイな緑色の目をしたこども。キョロキョロして周りを見回している。フランツの姿を認識すると、身体を縮こませてビクッとした。両腕で自分を抱きしめてブルブル震え出した。短いボトムから覗く脚がガリガリに痩せている。

 おびえてる…

「……きみの、きみの名前は?…ぼくはフランツっていうんだよ きみの名前をおしえて…?」
 なるたけやさしく言ってみた。

 その子は長いこともじもじもじもじして、黙りこくっていたがしばらくしてやって蚊の鳴くような声で

「 ────ぼ…ぼく…ぼく…エデル…」

 と、答えてくれた。ホッ。意思疎通第一段階通過。

「あの……あのね、おにいちゃんの後ろにいる子たちは、だ…だれ…?」やっぱりもじもじしながらエデルが問いかけてきた。

(ん…?後ろ?)

 自分の後ろを振り向いたフランツは息が止まりそうになった。

 そこにいたのは、あの空襲で亡くなった弟と妹だった。なぜか2人とも5歳ぐらいの子供時代の姿だった。

「マチアス!!ポリーナー!!!なっ…なんで、なんでここに…っ…」

 そこまで言って、もうあとは言葉にならず、しゃがんだフランツは子供の姿の弟と妹を2人まとめてガッシと強く抱きしめる。

「兄ちゃん!」
「おにい、やっと会えた」

 妹のポリーナーは、友だちの真似をして「おにい」と自分を呼んでたことを思い出す。弟のマチアスは「兄ちゃん」呼び。思い出がぶわぁっと蘇ってきてフランツはもうなにがなんだか分からない。

 さっき夢魔のやつは、リヒャルトは、ここが夢魔の次元で、彼岸と此岸の境目でもあるって言ってたっけ……

 とすると、死後の世界からやってきた?夢の中に、亡くなった人が出てくる話は前世でも今世でも聞くが…。

「あのね、僕たちが死んだ時は熱くて苦しかったけど、今は全然苦しくないんだよ」
「そうそう。とっても素敵なところにいるんだよ。 ────だからさ、おにいはもう気に病まないで」

「っ…!ポリーナー…マチアスっ……お前たち、っ……」

 実際に弟たちが死んだ時の年齢は10代半ばだった。帝国の魔法戦闘機で爆撃されたあの街からは、軍は黒焦げの遺体しか収容出来なかった。

 幻影か?幻影なのか?……俺だけが生き残った罪悪感から、夢魔は俺に、こんな幻影を見せて言わせているのか?
 でも、幻影でもいい…別れを言えなかった弟と妹がここにいる。

 リヒャルトの声だけがまた聞こえた ────《それは間違いなくお前のきょうだいたちの魂だぞ。信じるか信じないかはお前次第だがな》

⌘⌘⌘⌘⌘⌘

 ポリーナーが背後のエデルに気付く。
「ねえねえ、その子はだあれ? ────こんにちは!」

 エデルがビクッとした。

 フランツは、ポリーナーに向かって「この子はエデルっていうんだ。…おにいのともだちだよ」と言った。

 流れで、エデルを紹介するようなテイになったがまあいいだろう。知り合ったのは確かに自分が先かもしれない。
 エデルが、フランツを見上げてビックリしている。

「エデルっていうのね!素敵な名前!それに、あなたのその緑の目もとてもキレイ」

 そう言われたエデルが、しばしポカンとした後、パアアッと笑った。

 ああ、ポリーナーはいつもこんなふうに近所の年下の子たちを仲間にして楽しそうに遊んでいたっけ…一個歳が上のマチアスのほうが少しだけ人見知りで、引っ込み思案なんだ……

 知らず、心の奥に封じていた筈の弟妹の記憶が次から次へと浮かんできてフランツの鼻の奥がツンとした。

⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘
しおりを挟む
2月3日にアルファポリス様連載分を完結致しました。お読みいただいた皆様、お気に入り登録して下さった皆様、本当にありがとうございます!誠に勝手ながら作者都合で感想欄は閉じております。誤字脱字等が一部にあり大変申し訳ございません。随時直していきます。小説家になろう様にも投稿しております。 https://ncode.syosetu.com/n1893ha/アルファポリス様投稿分とは細部で違いがあります。大筋は変わりません。

あなたにおすすめの小説

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~

八重
恋愛
【全32話+番外編】 「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」  伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。  ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。  しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。  そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。  マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。 ※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい

麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。 しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。 しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。 第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。

処理中です...