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夢魔は語る③

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  パチン。リヒャルトが指を鳴らすと、リヒャルトが消えて、見知らぬ小さな子どもが目の前に出現した。

 リヒャルトの声だけがあたりに響く。《そのガキの願いを聞いてやれ》

 願い?

 もじゃもじゃ頭の、くりくりっとしたまん丸なキレイな緑色の目をしたこども。キョロキョロして周りを見回している。フランツの姿を認識すると、身体を縮こませてビクッとした。両腕で自分を抱きしめてブルブル震え出した。短いボトムから覗く脚がガリガリに痩せている。

 おびえてる…

「……きみの、きみの名前は?…ぼくはフランツっていうんだよ きみの名前をおしえて…?」
 なるたけやさしく言ってみた。

 その子は長いこともじもじもじもじして、黙りこくっていたがしばらくしてやって蚊の鳴くような声で

「 ────ぼ…ぼく…ぼく…エデル…」

 と、答えてくれた。ホッ。意思疎通第一段階通過。

「あの……あのね、おにいちゃんの後ろにいる子たちは、だ…だれ…?」やっぱりもじもじしながらエデルが問いかけてきた。

(ん…?後ろ?)

 自分の後ろを振り向いたフランツは息が止まりそうになった。

 そこにいたのは、あの空襲で亡くなった弟と妹だった。なぜか2人とも5歳ぐらいの子供時代の姿だった。

「マチアス!!ポリーナー!!!なっ…なんで、なんでここに…っ…」

 そこまで言って、もうあとは言葉にならず、しゃがんだフランツは子供の姿の弟と妹を2人まとめてガッシと強く抱きしめる。

「兄ちゃん!」
「おにい、やっと会えた」

 妹のポリーナーは、友だちの真似をして「おにい」と自分を呼んでたことを思い出す。弟のマチアスは「兄ちゃん」呼び。思い出がぶわぁっと蘇ってきてフランツはもうなにがなんだか分からない。

 さっき夢魔のやつは、リヒャルトは、ここが夢魔の次元で、彼岸と此岸の境目でもあるって言ってたっけ……

 とすると、死後の世界からやってきた?夢の中に、亡くなった人が出てくる話は前世でも今世でも聞くが…。

「あのね、僕たちが死んだ時は熱くて苦しかったけど、今は全然苦しくないんだよ」
「そうそう。とっても素敵なところにいるんだよ。 ────だからさ、おにいはもう気に病まないで」

「っ…!ポリーナー…マチアスっ……お前たち、っ……」

 実際に弟たちが死んだ時の年齢は10代半ばだった。帝国の魔法戦闘機で爆撃されたあの街からは、軍は黒焦げの遺体しか収容出来なかった。

 幻影か?幻影なのか?……俺だけが生き残った罪悪感から、夢魔は俺に、こんな幻影を見せて言わせているのか?
 でも、幻影でもいい…別れを言えなかった弟と妹がここにいる。

 リヒャルトの声だけがまた聞こえた ────《それは間違いなくお前のきょうだいたちの魂だぞ。信じるか信じないかはお前次第だがな》

⌘⌘⌘⌘⌘⌘

 ポリーナーが背後のエデルに気付く。
「ねえねえ、その子はだあれ? ────こんにちは!」

 エデルがビクッとした。

 フランツは、ポリーナーに向かって「この子はエデルっていうんだ。…おにいのともだちだよ」と言った。

 流れで、エデルを紹介するようなテイになったがまあいいだろう。知り合ったのは確かに自分が先かもしれない。
 エデルが、フランツを見上げてビックリしている。

「エデルっていうのね!素敵な名前!それに、あなたのその緑の目もとてもキレイ」

 そう言われたエデルが、しばしポカンとした後、パアアッと笑った。

 ああ、ポリーナーはいつもこんなふうに近所の年下の子たちを仲間にして楽しそうに遊んでいたっけ…一個歳が上のマチアスのほうが少しだけ人見知りで、引っ込み思案なんだ……

 知らず、心の奥に封じていた筈の弟妹の記憶が次から次へと浮かんできてフランツの鼻の奥がツンとした。

⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘
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