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事件⑤ side ヨアヒム(被害者その2)
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~裏路地にて~ 被害者 ヨアヒム・ユルゲンス視点の回です
前々回のストーリーを、被害者目線で描いた回です。
※ 暴力的な描写があります。ご注意下さい。
ーーーーーー
ドゴッ ゴスッ ドッ ゲボッ
「やめっ… ごふっ なあ、頼…むよ?もう殴らないでくれ…」
痛い痛い痛い痛い…2、3発殴られて終わるかと思ってたのに、このがっしりしたガタイのいい酔っぱらいは俺をサンドバッグみたいに殴り続けている。
こんな奴に遭遇するなら、いつものあっちの路地を行けば良かったなーーーー…俺は運が悪い。
「へへっ…へへっ…」
大男は髪を振り乱してブツブツ何ごとかを呟き続ける。
「…靄もやがよ…追いかけてくんだよ…靄に追いつかれると…追いつかれちゃダメなんだよ…」
なんだこいつ。イカれてやがる。
ただの酔っぱらいじゃねえ。
「やめろ…やめろーーー痛えよ……痛えよ…殴んなよもう…」
大男に抵抗しようとしたが、荒事の苦手な俺に敵うわけもなく。少ない通行人も、俺たちを遠巻きに見てるだけ。
「うあああああーーーーっっ…!」
なんだなんだなんだ…通り過ぎようとした若い男が、大声で叫ぶ。そして頭をおさえてその場にうずくまった。しばらくしてその男は、俺を殴り続ける酔っぱらいに近づくと
「やめろ」
酔っぱらいの肩を掴んでぐいと、俺からそいつを引き剥がそうとした。
「あぁ?なんだてめえ…」
「ーーーーオヤジ…?」
ん?あれ?もしかして、親子?あんた、この酔っぱらいの息子?じゃあ止めてくれや…引き取ってってくれよ。
「オヤジ、なの…か?」
「はあ?なんだおめえ…知らねえよ 離せよ」
なーんだ…親子じゃないのかよ。しかしてめえの父親を見間違えるか?なんじゃこのやり取り…。
酔っぱらいは若い男を振り払い、また目の前の俺を殴りつける。
あーいてえな~…なんかもう抵抗する気力もねえわ…体じゅう痛くて痛くてもうなんも考えられねえ…。鉄錆の味がする。俺、どうなるんだろ………
「やめろ!いくらなんでもそんな小さな子を…」
ん?「小さな子」?誰のことを言ってるんだ?
若い男は酔っぱらいにつかみかかった。
また振り払われ、俺を殴り続けようとする酔っぱらい。
「やめろっつってんだろ!!!」
若い男はショボいナイフを取り出した。刃の部分だけが妙に光る。ナリはショボいがすげえ研いでる感じだな。こんな状況なのにそんな細かいことが妙に気になった。
「…はっ そんなもん屁でもねえーーーー…随分とチャチなシロモンだなあ?おにーさんよぉ…」
「その子を殴るのを今すぐやめろ」
「ーーーそんな持ち方で刺せっかよ…へっぴり腰だなあ~ いいか、教えてやらあ、実戦じゃな、お前みたいな弱っちいやつが真っ先に敵に殺されるんだ」
酔っぱらいは嘲るように言った。ああ、コイツ、戦争でどうにかなったクチか…。
貧民街に流れ着いてきたのな多分。
酔っぱらいが俺の胸ぐらから手を離した。俺は地面に倒れ込む。
俺はもう起き上がれない。地面に打ち捨てられたぼろ切れみたいになっていた。
ふたりが喋るのをぼんやりと聞いている。
「やめろ やめないと…」
「おーおー 刺してみろよ?ホラ、度胸があるならな?」
酔っぱらいは両手を広げてそいつを挑発した。
一瞬だけ、ためらいがあったがその後ナイフごと男が向かっていった。
「ぐうッッ…」
刺した勢いでふたりは地面に倒れ込む。
酔っぱらいは地面に倒れた時に頭を強く打ちつけたのか、一瞬ピクリとして、それから動かなくなった。酔っぱらいのシャツは白っぽくて、刺されたところが紅く滲んでいた。
酔っぱらいの身体の上に乗っかった若い男は、無表情で、あらぬところを見ているようだった
こいつも大概ヤベエ奴だ…
「あ…あ…ああああ…」知らず、喉から声が出てしまった。
若い男がゆっくりとこちらを見る。
そいつは、酔っぱらいに刺したナイフを引き抜いた。
薄く笑っている。背筋が寒くなる。
「大丈夫か…?いま手当てしてやるからな…」
若い男は俺に血だらけの手を伸ばしてきた。俺は咄嗟に身を引く。
「さっきの、金髪の兄ちゃんはどこ行った?お前はどこから来たんだ?」
はあ??さっきから「小さいこども」だの、一体何を言ってる…俺がその金髪の兄ちゃんだっつーの……いやコイツ怖い、得体の知れない怖さがある…
そんな俺をじっと見ていた男だが、向こうの通りを見ていたかと思うと急にパッと笑った。なんだ?誰か知ってる人間でもいたのか?
「いいか、ここで待ってろ。な?」
男はタッと駆け出していった。自分が刺した男と、俺をそのままに。ーーーーなんだそりゃ。いや、はなっから見ず知らずのあんたに助けてもらおうなんて思っちゃいねえけどよ…
俺はなんとかし建物の壁を利用してよろよろと立ち上がった2、3歩進んだが、すぐまた倒れてしまった。だぶんどっか折れてる…ああ、もういいか…クソみたいな人生が、酔っぱらいに殴られて終わるのか…どうでもいいや………
ヨアヒム・ユルゲンスは、その後絶命した。
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次回は、被害者その1=酔っぱらいのゴダード視点の回です。
前々回のストーリーを、被害者目線で描いた回です。
※ 暴力的な描写があります。ご注意下さい。
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ドゴッ ゴスッ ドッ ゲボッ
「やめっ… ごふっ なあ、頼…むよ?もう殴らないでくれ…」
痛い痛い痛い痛い…2、3発殴られて終わるかと思ってたのに、このがっしりしたガタイのいい酔っぱらいは俺をサンドバッグみたいに殴り続けている。
こんな奴に遭遇するなら、いつものあっちの路地を行けば良かったなーーーー…俺は運が悪い。
「へへっ…へへっ…」
大男は髪を振り乱してブツブツ何ごとかを呟き続ける。
「…靄もやがよ…追いかけてくんだよ…靄に追いつかれると…追いつかれちゃダメなんだよ…」
なんだこいつ。イカれてやがる。
ただの酔っぱらいじゃねえ。
「やめろ…やめろーーー痛えよ……痛えよ…殴んなよもう…」
大男に抵抗しようとしたが、荒事の苦手な俺に敵うわけもなく。少ない通行人も、俺たちを遠巻きに見てるだけ。
「うあああああーーーーっっ…!」
なんだなんだなんだ…通り過ぎようとした若い男が、大声で叫ぶ。そして頭をおさえてその場にうずくまった。しばらくしてその男は、俺を殴り続ける酔っぱらいに近づくと
「やめろ」
酔っぱらいの肩を掴んでぐいと、俺からそいつを引き剥がそうとした。
「あぁ?なんだてめえ…」
「ーーーーオヤジ…?」
ん?あれ?もしかして、親子?あんた、この酔っぱらいの息子?じゃあ止めてくれや…引き取ってってくれよ。
「オヤジ、なの…か?」
「はあ?なんだおめえ…知らねえよ 離せよ」
なーんだ…親子じゃないのかよ。しかしてめえの父親を見間違えるか?なんじゃこのやり取り…。
酔っぱらいは若い男を振り払い、また目の前の俺を殴りつける。
あーいてえな~…なんかもう抵抗する気力もねえわ…体じゅう痛くて痛くてもうなんも考えられねえ…。鉄錆の味がする。俺、どうなるんだろ………
「やめろ!いくらなんでもそんな小さな子を…」
ん?「小さな子」?誰のことを言ってるんだ?
若い男は酔っぱらいにつかみかかった。
また振り払われ、俺を殴り続けようとする酔っぱらい。
「やめろっつってんだろ!!!」
若い男はショボいナイフを取り出した。刃の部分だけが妙に光る。ナリはショボいがすげえ研いでる感じだな。こんな状況なのにそんな細かいことが妙に気になった。
「…はっ そんなもん屁でもねえーーーー…随分とチャチなシロモンだなあ?おにーさんよぉ…」
「その子を殴るのを今すぐやめろ」
「ーーーそんな持ち方で刺せっかよ…へっぴり腰だなあ~ いいか、教えてやらあ、実戦じゃな、お前みたいな弱っちいやつが真っ先に敵に殺されるんだ」
酔っぱらいは嘲るように言った。ああ、コイツ、戦争でどうにかなったクチか…。
貧民街に流れ着いてきたのな多分。
酔っぱらいが俺の胸ぐらから手を離した。俺は地面に倒れ込む。
俺はもう起き上がれない。地面に打ち捨てられたぼろ切れみたいになっていた。
ふたりが喋るのをぼんやりと聞いている。
「やめろ やめないと…」
「おーおー 刺してみろよ?ホラ、度胸があるならな?」
酔っぱらいは両手を広げてそいつを挑発した。
一瞬だけ、ためらいがあったがその後ナイフごと男が向かっていった。
「ぐうッッ…」
刺した勢いでふたりは地面に倒れ込む。
酔っぱらいは地面に倒れた時に頭を強く打ちつけたのか、一瞬ピクリとして、それから動かなくなった。酔っぱらいのシャツは白っぽくて、刺されたところが紅く滲んでいた。
酔っぱらいの身体の上に乗っかった若い男は、無表情で、あらぬところを見ているようだった
こいつも大概ヤベエ奴だ…
「あ…あ…ああああ…」知らず、喉から声が出てしまった。
若い男がゆっくりとこちらを見る。
そいつは、酔っぱらいに刺したナイフを引き抜いた。
薄く笑っている。背筋が寒くなる。
「大丈夫か…?いま手当てしてやるからな…」
若い男は俺に血だらけの手を伸ばしてきた。俺は咄嗟に身を引く。
「さっきの、金髪の兄ちゃんはどこ行った?お前はどこから来たんだ?」
はあ??さっきから「小さいこども」だの、一体何を言ってる…俺がその金髪の兄ちゃんだっつーの……いやコイツ怖い、得体の知れない怖さがある…
そんな俺をじっと見ていた男だが、向こうの通りを見ていたかと思うと急にパッと笑った。なんだ?誰か知ってる人間でもいたのか?
「いいか、ここで待ってろ。な?」
男はタッと駆け出していった。自分が刺した男と、俺をそのままに。ーーーーなんだそりゃ。いや、はなっから見ず知らずのあんたに助けてもらおうなんて思っちゃいねえけどよ…
俺はなんとかし建物の壁を利用してよろよろと立ち上がった2、3歩進んだが、すぐまた倒れてしまった。だぶんどっか折れてる…ああ、もういいか…クソみたいな人生が、酔っぱらいに殴られて終わるのか…どうでもいいや………
ヨアヒム・ユルゲンスは、その後絶命した。
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次回は、被害者その1=酔っぱらいのゴダード視点の回です。
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