上 下
21 / 52

別れさせられたふたり sideイレーネ①

しおりを挟む
 女性達や子供達が共同生活する施設で暮らすようになった元妻・イレーネの話です。


書いていて、これは「ざまぁ」に該当するのか?という疑問が浮かんできましたが自分でもよく分かりません…

※フランツの元妻の話です
※虐め等の胸糞描写アリ 苦手な方注意




 [ここは夫を亡くした女性や戦争で家族や住むところを失った女性と子どもたちが集団生活をする国の施設。市街地からは遠く離れている。古い教会を急遽改築し更に隣の空き地に新たに建物が何棟か建設された。そこで50~60人もの多くの人間が共同生活を送っている。] 


 ビシャッ

(うわ…)

「ごっめーん 手が滑っちゃったー」

 空から水が降ってきた。しかも泥水のようだ。ざらざらしたものが混じっている。おおかた畑の土でも混ぜたか…。

 上を見上げると、二階の窓から見知った女が2人、ニヤニヤしている。

(またか…)
 イレーネはウンザリしながら顔を手で拭った。大雨の中を歩いたみたいに全身ずぶ濡れ。服はぐっしょりと濡れて重い。
 桶に入った泥水をあの窓から落としたのだろう。まあまあ重いだろうに、ご苦労なことだ。
 イレーネが下を通るタイミングに合わせて。

(まったく…よくもまあ飽きないもんだわね…)
 無言のイレーネ。
 状況的に、ここで言い返すのは良策とはいえない。それがここの施設でイレーネが学んだことだった。

 彼女たちは、自分が定めた標的が狼狽え嘆き反応する姿を見て楽しみたいのだ。

 その2人は、イレーネに嫌がらせが効いていない様子なのが悔しいのか、不快そうにイレーネを煽ってくる。
「アンタ、余計に美人になったよ!」
 ギャハハという笑い声。

 イレーネは、黙ったままスタスタと歩いてその場を去る。のっぺりした無表情を顔に貼り付け、心を無にして。

===

 ここに来て割とすぐ、一部の女たちからイレーネに対する嫌がらせが始まった。
 どこで聞いたのか、イレーネの今までのいきさつを知ったらしい。

===


《イレーネ視点》


 食堂。夕食時。

「あんた、夫がいながら若い男と浮気してたんだって?」

 食事中に隣の女が言う。

「………」

「ちょっと。黙ってないでなんとか言ったら?上のほうから聞いてあたしはなんでも知ってるんだからね」
「あらぁ- ホント最低~」
 加勢する女が出てきた。

 テーブルに座る他の女たちは、耳をそば立てて興味津々といった感じ?遠巻きに見てる感じかしら…?
 私は考える。
(私が夫を裏切って不貞行為をしたのは事実だもの)
 非難されても仕方ないことを、した。

 人様がそれを不快に思うのも仕方ないのかもしれない。
 最初の頃こそ、うろたえて、人前でちょっと泣いてしまったりしたものだが今はもう、何を言われても反論しない。大風に吹かれる葦のように。

 私が黙っているものだから、向こうが実力行使に出てくる。
「なんとか言いなさいよ このあばずれがッ」

 腕をグイッと乱暴に掴まれる。

「痛っ…」

 食堂が騒然とした空気に包まれる。

 そんな中、赤毛ショートカットの1人の中年女性が口を開いた。

「いいかげんにして。食事がまずくなる」

 そのキッパリとした物言いに、わたしの腕を掴んでいた女はたじろいだ。

「その人が何をしてたとしても、それがあんたに何の関係があんのさ」
「っ……」

 舌打ちすると渋々手を離す。彼女らは食堂から出ていく。つかまれていた腕が痛い。

 「…ええと…すみません…あ、ありが…」
 語尾がゴニョゴニョとなってしまう。

「ーーーー早く食べちゃいなさいよ…片付かないから」

 彼女は、そっけなく言うと残りの硬いパンをスープに浸すと口をもぐもぐさせながら空になった食器を重ねて厨房へ持って行ってしまった。
 赤毛の彼女は背が高かった。

 彼女が去った後
 他の女たちの、なんともいえない視線を感じながら私は残りの野菜スープを口に詰め込んだ。

 うん、味がしない。こういうことがあると、いつも以上に食事の味がしなくなる。
 嫌がらせをされるようになってからずっと、食べ物に塩味を感じない。
 他の人たちは文句も言わず食べているので、味付けされていないわけではないのだ。

 私は誰にも聞こえないよう小さくため息をついた。

===


 ルディは、夕食が済むまでは隣の保育施設に預かってもらっている。昼間は様々な業務に勤しむ女性らの子どもたちは、教会のシスターたちや国から委託された村の婆様たちが世話をしている。

 幼い子どもがいる女たちは、夜泣きのこともあって別施設である保育施設の中の部屋で寝起きしていた。
 ルディを引き取って狭い自室に戻ってくるとやっと呼吸が楽に出来るようになる。

 窓から月が見えた。

 明日のことなんかもう考えたくないな…。
しおりを挟む
2月3日にアルファポリス様連載分を完結致しました。お読みいただいた皆様、お気に入り登録して下さった皆様、本当にありがとうございます!誠に勝手ながら作者都合で感想欄は閉じております。誤字脱字等が一部にあり大変申し訳ございません。随時直していきます。小説家になろう様にも投稿しております。 https://ncode.syosetu.com/n1893ha/アルファポリス様投稿分とは細部で違いがあります。大筋は変わりません。

あなたにおすすめの小説

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 番外編は思いついたら追加していく予定です。 <レジーナ公式サイト番外編> 「番外編 相変わらずな日常」 レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

処理中です...