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別れさせられたふたり sideガベーレ
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《ガベーレ視点》
辺境にあるという療養先へと走る馬車の中。
すっかり痩せ細り、視線の定まらぬ隣の妻・リオニーを見やる。
……教会で、正式に結婚を認めて貰おうだなんて考えるんじゃなかった…あのまま、イレーネとルディと3人で暮らしていればよかったんだ…っ…僕はなんてバカだったんだ。
「お前はリオニー様の側にいて一生世話をしろ」
「慰謝料を請求されたが、お前が行けばあちらは支払いを免除してくださると」
家族から言われた言葉が脳裏に蘇る。
…ーーーーーー、なに現実逃避をしてるんだ…。元はといえば婚約者がいる僕が、この人を、リオニーを裏切ったのが発端じゃないか…。
イレーネと出会い、なにくれとなく世話を焼いているうちに、同情が愛情に変わって…
違うな、最初からあれは愛情だったのではないか。
自分は最初から異性としてイレーネに惹かれていたのではないか。
…ふふ…彼女の夫より、僕のほうが先に出会ってたらなあ…そんな益体もないことばかり考えてしまうよ、この頃は特に。
ほら、今だって、辺境への長い時間の道行きに、妻であるリオニーとおしゃべりも出来やしない。
でも、リオニーをこんなふうにしたのは僕。
イレーネに頻繁に会いに行くようになって、彼女を好きな気持ちを抑えられなくなってきていたのは分かっていた。
彼女には夫がいることも分かっていた。だから最初は、お互いに距離を保っていた。
僕は色んな口実を作っては、入手した食料を届けに行ったり、買ったものを運ぶのを手伝ったり…顔が見たかったんだ。彼女は友達なんだと言い訳しながら、下心が無かったとは言えない。
でも、無理に迫るようなことはしたくなかった。彼女にとって僕が、欠かせない存在にならないものだろうか、と、実にムシのいいことを考えていたんだ。ハハッ、バカだね僕って。
ある日彼女が「実は僕がくるのを心待ちにしている」と恥ずかしそうに言ってくれた時は、飛び上がらんばかりに嬉しかったっけ。
戦時中の、灰色の生活の中に、パッと光が差し込んだような気がした。
「淋しいのよね……毎日毎日ひとりで家にいるとおかしくなりそう…夫との間に、子供がいればなあ、なんて思う時もあるわ。子供が出来ないままに夫は戦地に行ってしまった…あなたがここに来てくれると、寂しさが薄れるわ。ーーー友達って大事ね。わたしの友達はみんな他の領に避難してしまって、王都には誰もいない…」
イレーネは、女友達にでも呟くように窓際に座って外を眺めながら喋る。
彼女の口から、夫との子供だの、子供がいたら、だの聞きたくなかった。
ある時僕はイレーネに、思い切って自分の気持ちを伝えた。
「友達なんかじゃない、僕は君を愛してる!この気持ちを…どうか、どうか」
「駄目よ。私には夫がーーー」
「っ……、そんなことは分かってる、でも君を好きになってしまったんだ」
「でも」
尚も言い募ろうとするイレーネを強く抱きしめる。いったん身体を離して彼女を見ると、
彼女は頷いてくれた。
その夜、僕らはひとつになった。
===
僕らが、世間で言うところの「許されないこと」をした自覚はある。いま、その責任を取っているんだ…。
馬車は征く。最初から関係が破綻している成り立てホヤホヤの夫婦を乗せてーーーーー。
◆
馬車の中のガベーレの胸中はどんなんだろう…と考えていたら浮かんできたものです。
「いけませんわおよしになって」の、ベタな『人妻に言い寄る色男』もちょっと描いてみました。
お読みいただきありがとうございます。
辺境にあるという療養先へと走る馬車の中。
すっかり痩せ細り、視線の定まらぬ隣の妻・リオニーを見やる。
……教会で、正式に結婚を認めて貰おうだなんて考えるんじゃなかった…あのまま、イレーネとルディと3人で暮らしていればよかったんだ…っ…僕はなんてバカだったんだ。
「お前はリオニー様の側にいて一生世話をしろ」
「慰謝料を請求されたが、お前が行けばあちらは支払いを免除してくださると」
家族から言われた言葉が脳裏に蘇る。
…ーーーーーー、なに現実逃避をしてるんだ…。元はといえば婚約者がいる僕が、この人を、リオニーを裏切ったのが発端じゃないか…。
イレーネと出会い、なにくれとなく世話を焼いているうちに、同情が愛情に変わって…
違うな、最初からあれは愛情だったのではないか。
自分は最初から異性としてイレーネに惹かれていたのではないか。
…ふふ…彼女の夫より、僕のほうが先に出会ってたらなあ…そんな益体もないことばかり考えてしまうよ、この頃は特に。
ほら、今だって、辺境への長い時間の道行きに、妻であるリオニーとおしゃべりも出来やしない。
でも、リオニーをこんなふうにしたのは僕。
イレーネに頻繁に会いに行くようになって、彼女を好きな気持ちを抑えられなくなってきていたのは分かっていた。
彼女には夫がいることも分かっていた。だから最初は、お互いに距離を保っていた。
僕は色んな口実を作っては、入手した食料を届けに行ったり、買ったものを運ぶのを手伝ったり…顔が見たかったんだ。彼女は友達なんだと言い訳しながら、下心が無かったとは言えない。
でも、無理に迫るようなことはしたくなかった。彼女にとって僕が、欠かせない存在にならないものだろうか、と、実にムシのいいことを考えていたんだ。ハハッ、バカだね僕って。
ある日彼女が「実は僕がくるのを心待ちにしている」と恥ずかしそうに言ってくれた時は、飛び上がらんばかりに嬉しかったっけ。
戦時中の、灰色の生活の中に、パッと光が差し込んだような気がした。
「淋しいのよね……毎日毎日ひとりで家にいるとおかしくなりそう…夫との間に、子供がいればなあ、なんて思う時もあるわ。子供が出来ないままに夫は戦地に行ってしまった…あなたがここに来てくれると、寂しさが薄れるわ。ーーー友達って大事ね。わたしの友達はみんな他の領に避難してしまって、王都には誰もいない…」
イレーネは、女友達にでも呟くように窓際に座って外を眺めながら喋る。
彼女の口から、夫との子供だの、子供がいたら、だの聞きたくなかった。
ある時僕はイレーネに、思い切って自分の気持ちを伝えた。
「友達なんかじゃない、僕は君を愛してる!この気持ちを…どうか、どうか」
「駄目よ。私には夫がーーー」
「っ……、そんなことは分かってる、でも君を好きになってしまったんだ」
「でも」
尚も言い募ろうとするイレーネを強く抱きしめる。いったん身体を離して彼女を見ると、
彼女は頷いてくれた。
その夜、僕らはひとつになった。
===
僕らが、世間で言うところの「許されないこと」をした自覚はある。いま、その責任を取っているんだ…。
馬車は征く。最初から関係が破綻している成り立てホヤホヤの夫婦を乗せてーーーーー。
◆
馬車の中のガベーレの胸中はどんなんだろう…と考えていたら浮かんできたものです。
「いけませんわおよしになって」の、ベタな『人妻に言い寄る色男』もちょっと描いてみました。
お読みいただきありがとうございます。
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