【完結】戦争から帰ったら妻は別の男に取られていましたが 上官だった美貌の伯爵令嬢と恋をする俺の話

スコブル

文字の大きさ
上 下
20 / 52

別れさせられたふたり sideガベーレ

しおりを挟む
《ガベーレ視点》



 辺境にあるという療養先へと走る馬車の中。


 すっかり痩せ細り、視線の定まらぬ隣の妻・リオニーを見やる。

 ……教会で、正式に結婚を認めて貰おうだなんて考えるんじゃなかった…あのまま、イレーネとルディと3人で暮らしていればよかったんだ…っ…僕はなんてバカだったんだ。

「お前はリオニー様の側にいて一生世話をしろ」

「慰謝料を請求されたが、お前が行けばあちらは支払いを免除してくださると」

 家族から言われた言葉が脳裏に蘇る。

 …ーーーーーー、なに現実逃避をしてるんだ…。元はといえば婚約者がいる僕が、この人を、リオニーを裏切ったのが発端じゃないか…。
 イレーネと出会い、なにくれとなく世話を焼いているうちに、同情が愛情に変わって…

 違うな、最初からあれは愛情だったのではないか。
 自分は最初から異性としてイレーネに惹かれていたのではないか。

 …ふふ…彼女の夫より、僕のほうが先に出会ってたらなあ…そんな益体もないことばかり考えてしまうよ、この頃は特に。

 ほら、今だって、辺境への長い時間の道行きに、妻であるリオニーとおしゃべりも出来やしない。
 でも、リオニーをこんなふうにしたのは僕。

 イレーネに頻繁に会いに行くようになって、彼女を好きな気持ちを抑えられなくなってきていたのは分かっていた。
 彼女には夫がいることも分かっていた。だから最初は、お互いに距離を保っていた。

 僕は色んな口実を作っては、入手した食料を届けに行ったり、買ったものを運ぶのを手伝ったり…顔が見たかったんだ。彼女は友達なんだと言い訳しながら、下心が無かったとは言えない。
 でも、無理に迫るようなことはしたくなかった。彼女にとって僕が、欠かせない存在にならないものだろうか、と、実にムシのいいことを考えていたんだ。ハハッ、バカだね僕って。

 ある日彼女が「実は僕がくるのを心待ちにしている」と恥ずかしそうに言ってくれた時は、飛び上がらんばかりに嬉しかったっけ。

 戦時中の、灰色の生活の中に、パッと光が差し込んだような気がした。

「淋しいのよね……毎日毎日ひとりで家にいるとおかしくなりそう…夫との間に、子供がいればなあ、なんて思う時もあるわ。子供が出来ないままに夫は戦地に行ってしまった…あなたがここに来てくれると、寂しさが薄れるわ。ーーー友達って大事ね。わたしの友達はみんな他の領に避難してしまって、王都には誰もいない…」

 イレーネは、女友達にでも呟くように窓際に座って外を眺めながら喋る。

 彼女の口から、夫との子供だの、子供がいたら、だの聞きたくなかった。

 ある時僕はイレーネに、思い切って自分の気持ちを伝えた。

「友達なんかじゃない、僕は君を愛してる!この気持ちを…どうか、どうか」

「駄目よ。私には夫がーーー」
「っ……、そんなことは分かってる、でも君を好きになってしまったんだ」
「でも」

 尚も言い募ろうとするイレーネを強く抱きしめる。いったん身体を離して彼女を見ると、
 彼女は頷いてくれた。

 その夜、僕らはひとつになった。

===

 僕らが、世間で言うところの「許されないこと」をした自覚はある。いま、その責任を取っているんだ…。

 馬車は征く。最初から関係が破綻している成り立てホヤホヤの夫婦を乗せてーーーーー。





馬車の中のガベーレの胸中はどんなんだろう…と考えていたら浮かんできたものです。

「いけませんわおよしになって」の、ベタな『人妻に言い寄る色男』もちょっと描いてみました。

お読みいただきありがとうございます。
しおりを挟む
2月3日にアルファポリス様連載分を完結致しました。お読みいただいた皆様、お気に入り登録して下さった皆様、本当にありがとうございます!誠に勝手ながら作者都合で感想欄は閉じております。誤字脱字等が一部にあり大変申し訳ございません。随時直していきます。小説家になろう様にも投稿しております。 https://ncode.syosetu.com/n1893ha/アルファポリス様投稿分とは細部で違いがあります。大筋は変わりません。

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~

八重
恋愛
【全32話+番外編】 「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」  伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。  ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。  しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。  そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。  マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。 ※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...