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河原にて

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 ~戦時中の出来事~

 トルーデとフランツの回

※ 過去の話です


ーーーーーーー



 森のそば、簡素な昼食の後のひとときの休憩時間。

 テントから出たトルーデ、
他の兵士たちが座って休んでる中、フランツが、草むらにしゃがんで何かを採取している姿を見つける(目ざとい!)。

「それはなんだ?」

 いつの間にフランツの隣に来ていたトルーデ。

「わわわ ビックリした!!あ、申し訳ありません」

 ザルをひっくり返しかけるフランツ。

「すまん、急に声をかけてしまった …雑草を摘んでいるのか?」

「ああ、これは薬草です。
 どこにでも生えてますけど、乾かして炒ってから煎じて飲むとと身体にいいんですよ。あまり苦くないですし」

「ほう…」

「あ、一応、食事当番のおっちゃん…食事当番の方にもちゃんとチェックしてもらってますんで!」

 トルーデがクスッと笑う。

「いや そんな心配をしてるわけじゃなくて… 君は、いろんなことに詳しいんだな」

「詳しいってほどじゃ…。食える草やキノコの知識は、親や近所の人たちから教えてもらいました。ちょっと行くと山や森があるような環境で育ったからでしょうかね」

「キノコを、自分で取ってくるのか?」

「ええ、まあ。判別が容易な基本的なやつだけですけど…。それでも街に戻ってから隣家の詳しい婆さんに確認してもらってから食べてましたねー 中にはヤバいのもあるんで。キノコ採りは、秋の楽しみっスよ」

 いつの間にか、砕けた口調が混じってしまうフランツ。

 平民の生活のあれやこれやの話など、彼に聞き、その答えを聞いてると妙に楽しい気持ちになるトルーデであった。

 フランツの表情はくるくる変わる。

 笑うと、目尻がキュッとなる。

 黒い瞳は、近くで見ると茶色がかっている。……







~また別の日~ とある河原。



《フランツ視点》

ーーー



 下っ端兵士みなで、川の水で服や布や幌やいろんなもんを洗う。木のあいだに張られたロープにそれらを干す。

 天気が良いから、今日の乾かし具合は期待出来そうだ。

 作業が一段落した俺。ふと脇の薮に目をやると、前世でいう笹のような葉っぱの植物が生えていた。
(こちらの世界では笹という名前ではないが、俺的に「笹」。)

 端を折って、3つに割いて、端を端に差し込んで~~…笹舟の完成!

 手のひらに乗せて

《ふふっ これは、チビが好きだったっけなー》
 と、思い出して笑う。

「それはなんだ?」

 わっっっ !!ビックリしたあああ!!急に出て来られると心臓に良くない!

 河原に吹くそよ風に、結った金髪がなびいている。青い目がいたずらっぽく輝いている。

 …少尉殿、退屈なのだろうか?

 気を取り直して…。

「ええと これはですね、子どもが遊ぶような玩具、といいますか…葉っぱで作る舟です」

「舟」

 キョトンとする少尉殿。

「はい、玩具の舟です。こうやって水に浮かべます」

 水面に、笹舟をそっと乗せると水流に乗ってスー~っと進む。

 トルーデが目を見開いた。

「…なんとも可愛らしい舟だな!私にも作ってくれ」

 えー?こんなもんを??子供か!!いや、少年の心を失ってない的な?少尉殿は女性だけどな!‼︎

 まあ、ちまちまコレを作ってた俺が言えた義理じゃねえか………

 貴族の方だから、庶民の物が、珍しいのかな?

 葉をちぎり、2個ばかりをササっと作る。笹だけにね!いかんオヤジギャグが。

 出来た笹舟を、キラキラした目で見るトルーデ。

 なんだか、この少尉殿、弟の小さい頃みたい。俺みたいな下っ端に、こんなんでいいんかね…仮にも尉官様が。


「弟や妹たちが小さい頃は、こんなもんでも、作ってやると喜びましてね」

「君には弟さんや妹さんがいるのか?」

「あー、いた、と言いますか…開戦の時のあの爆撃で自分以外、全員…。自分はあの街の出身で、あの晩たまたま街にいなくて、生き残ってしまって」

「…すまない。話しにくいことを」

「いえ。 ───そういえば故郷の、もっと山奥の村では、川に人形を流して、子供に降りかかる災いから守る身代わりにするんだそうです。昔、近所の長老に聞いたことがあります」

 前世の日本の『雛流し』と似た風習だった。

 俺は、出来た笹舟をひとつ川にそっと浮かべる。弟と妹の笑顔を思い浮かべながら。

「災い、災い…。…………少尉殿…戦闘機による爆撃って『災い』なんですかね?
 弟や妹は、なんで死ななきゃならなかったんだろう……あ、も、申し訳ありません!上官殿にこんなことを…」

 ヤバい、いつも思ってることが口から出ちまった。

「いや、謝らないでくれ。ただの雑談だーーー、そういえばこないだは毒を吸ってくれて助かった」

 ああ、寛容な上官で助かった…。

「いえ、そんな。応急処置だけで」

「君のあのポーチは、色々入ってたな!ちょっと見せてくれないか?

…ふむふむ小型の水筒、布、メモ帳、ペン、小瓶、ナイフ、薬草軟膏、口がスーッとする乾燥ハーブ、飴…」

 俺、おばちゃんみたい…。





 (ちょっと低い声、落ち着いた話し方、悲しい過去を話す時の暗い目。こちらがなにか聞けば、丁寧に答えてくれる。
 話しかけると、こちらをまっすぐに見てくれる。

 恋情でもなく、何らかの欲がある目でもなく、女と侮る目でもなく、ただ普通に接してくれる。)

 トルーデは、そのことが嬉しかったのかもしれない。

 過去、軍の中においても、美貌の少尉トルーデに対して、ちょっかいや誘いをかける連中はいた。どんなに強いか知ってる同期と上官は「バカな奴等だな…」と冷たい目で眺めていたが。

 トルーデが彼を観察しているといろんなことが分かった。

 フランツは、手が空けばいつも手を動かし、こまごまといろんなことをしているようだ。

 薬草を摘んできて鉄鍋で炒ったり、乾いた包帯を巻き直す手伝いをしたり。仲間と雑談しながらの腹筋、木にぶら下がって懸垂しているところも見たことがある。

 少しもじっとしていない。



《トルーデ視点》

 なんだろう、話していると楽しい。いつまでも話していたい。なんでもないような雑談も楽しいし、あとその、服の上からでも分かる素晴らしい胸筋の作り方について、新しいやり方を知っていたら教えてほしい…!

 、にしても、彼は聞き上手で説明上手でもある。色んなことを知ってる。

 ほう、愛妻家なのか。それは残念。正直彼を、ちょっと気になってはいたのだがな。

 配偶者がいる者に、劣情をいだいてはいけないだろう。

 世の中に、「禁断の~」や「二股三股」や「愛人」関係は溢れているが
 わたくしは「誰かから奪う」関係は嫌だ。

 なぜなら過去に、婚約者に浮気されて婚約破棄に至った経験を持つからである。

 思い出すだけでムカムカするような婚約破棄だった…あのクズ男、あれからどうなったんだろう?
 あの男に微塵も興味はないが。
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