【完結】戦争から帰ったら妻は別の男に取られていましたが 上官だった美貌の伯爵令嬢と恋をする俺の話

スコブル

文字の大きさ
上 下
8 / 52

毒矢

しおりを挟む
~戦時中の出来事~

フランツとトルーデの初接触。

※ 過去の話です

ーーーーー

~今から数年前~

 最前線。国境近く。王国軍に突然の攻撃。矢が振ってくる。

「うわっ!」
 結界は張っていた。前兆など無かった。魔道士も察知出来なかった。

 どうやって結界を弱めたのか…ともかくも、こちらは、必死の防戦でほとんどの矢を防いだ。

 だが、そのうちの一本が運悪く トルーデの左手の甲をかすった。

 たまたま手袋を外していたという最悪のタイミング。

 「つっ…!」

 流血。

「少尉ッ!」トルーデの従卒の、ハンスが叫んだ。

「かすり傷だ」

 その様子を見ていたある二等兵が、怖い顔をして つかつかとトルーデに近づき
 トルーデの手首を掴んだ。

「何をする!」

 トルーデは思わず声を上げるが、その二等兵はそれには答えず傷口を凝視した。

 矢に射られた部分は紫色になっていた。

 その無礼な二等兵・フランツは「痛いですよ」と言うやいなやその傷口を、小さなナイフで薄く切り裂いた。

「っ…!」

「我慢して下さい」

 その切り口に、フランツは自分のくちびるを押し当てから、毒を吸い込むと

 それを唾液ごと、頭から取ってひっくり返した自分の帽子にぺっと吐き出した。

 その後、腰のポーチから小さな瓶を取り出すとその液体を口に含み、それも同様に
 ぺっ と、帽子に吐き出した。


 その後、瓶の液体をトルーデの傷口に直接ざばざばとかけた。滲みたのか、

 トルーデが「うっ…」と小さく呻いた。どうやら強い蒸留酒かなにかで消毒したようだ。

 次にフランツは、これまた腰のポーチから、清潔な布を出して

 トルーデの手の甲にくるくると巻いて結んだ。

 あまりにも手際が良くて、みなあっけに取られていた。

 数分?せいぜい5分か?

 フランツ「ご無礼をお許しください。おそらく毒矢だと思います。紫色に変色していましたので」

 トルーデ「毒にはだいぶ身体を慣らしているつもりなのだが…」

 フランツ「貴族の方たちが慣らす毒とは、違う種類のものかもしれません…敵国は、魔物の肝から、致死性の毒物を生成すると聞きました」

 トルーデ「一体、どこからそんな情報を…?」

 フランツ「故郷の詳しい人に色々教えてもらってきました」

 〔フランツは、商売上得た知識を持つ商人のおっさんや庭師の爺さんから、役に立ちそうな知識を聞き、集めてきていた〕

フランツが、帽子に吐き出した毒物と唾液は、シュウシュウと音を立てていた。

 トルーデ「……なるほど…毒矢だな、これは確かに」

 二等兵の咄嗟の行動に、誰もが驚いた。

 エプシュタイン大尉も、その1人だった。

 紙切れ一枚で強制的に召集された平民兵士など、やる気の無い者ばかりだと思っていたが……なかなかどうして、大した者もいたものだ。

 間諜の名簿にも載っていなかった者でもあるし…。大尉はヴェルテ二等兵をまじまじと見つめた。

 むむ、そういえば此奴は印象が、妙にきちんとしているな。先程も、腰のポーチから、消毒薬代わりの酒と、布をすぐ出したぞ。

 大尉のエプシュタインは、ヴェルテ二等兵=〔フランツのこと〕を、「器用」「怠惰ではない」兵士だと分類した。

 射られた矢を回収し、魔道士に分析させたら、相当ヤバい毒だったそうな。


 ◆


【その後のトルーデ視点】

 おぉ…びっくりした…びびびっくりした……手の甲に、手の甲に、く、唇が当たって…

 いやあれは毒を吸い出しただけだ、うん。

 ああ、理解しているとも。少し動揺しただけだ。

 あの二等兵に、手を掴まれた時も、唇で毒を吸い出された時も、不思議と嫌悪感は無かったな…

 彼のあの明るい茶色の髪と、つむじが、脳裏に蘇る。

 お茶を運んできた従卒のハンスが
「少尉殿?大丈夫ですか?まだどこか具合でもお悪いのではないですか?」と気遣わしげに聞いてきた。

「あ、いや、なんでもない」

 気のせいだ、うん、気のせい。疲れてるんだな、きっと。




《フランツ視点》

 あの、金髪の少尉殿、大丈夫かな。

 俺が手当てした後、なんか変な顔してたが…。

 毒の影響かと思って、もっと何か聞こうと思ったけど よく考えたら俺だって薬師でも専門家でもないし。

 たまたま下っ端兵士である俺が出しゃばって応急処置しただけのことだ。


 それにしても顔の整った、綺麗な人だった……。少尉殿、強いだけじゃないのかよ。まさに、天は二物を与えた…的な?

 士官の人にあんなに近付いたのは初めてだった。

 あ、あと、なんかやけに良い匂いがした…
しおりを挟む
2月3日にアルファポリス様連載分を完結致しました。お読みいただいた皆様、お気に入り登録して下さった皆様、本当にありがとうございます!誠に勝手ながら作者都合で感想欄は閉じております。誤字脱字等が一部にあり大変申し訳ございません。随時直していきます。小説家になろう様にも投稿しております。 https://ncode.syosetu.com/n1893ha/アルファポリス様投稿分とは細部で違いがあります。大筋は変わりません。

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~

八重
恋愛
【全32話+番外編】 「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」  伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。  ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。  しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。  そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。  マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。 ※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。

石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。 ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。 ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。 母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...