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毒矢
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~戦時中の出来事~
フランツとトルーデの初接触。
※ 過去の話です
ーーーーー
~今から数年前~
最前線。国境近く。王国軍に突然の攻撃。矢が振ってくる。
「うわっ!」
結界は張っていた。前兆など無かった。魔道士も察知出来なかった。
どうやって結界を弱めたのか…ともかくも、こちらは、必死の防戦でほとんどの矢を防いだ。
だが、そのうちの一本が運悪く トルーデの左手の甲をかすった。
たまたま手袋を外していたという最悪のタイミング。
「つっ…!」
流血。
「少尉ッ!」トルーデの従卒の、ハンスが叫んだ。
「かすり傷だ」
その様子を見ていたある二等兵が、怖い顔をして つかつかとトルーデに近づき
トルーデの手首を掴んだ。
「何をする!」
トルーデは思わず声を上げるが、その二等兵はそれには答えず傷口を凝視した。
矢に射られた部分は紫色になっていた。
その無礼な二等兵・フランツは「痛いですよ」と言うやいなやその傷口を、小さなナイフで薄く切り裂いた。
「っ…!」
「我慢して下さい」
その切り口に、フランツは自分のくちびるを押し当てから、毒を吸い込むと
それを唾液ごと、頭から取ってひっくり返した自分の帽子にぺっと吐き出した。
その後、腰のポーチから小さな瓶を取り出すとその液体を口に含み、それも同様に
ぺっ と、帽子に吐き出した。
その後、瓶の液体をトルーデの傷口に直接ざばざばとかけた。滲みたのか、
トルーデが「うっ…」と小さく呻いた。どうやら強い蒸留酒かなにかで消毒したようだ。
次にフランツは、これまた腰のポーチから、清潔な布を出して
トルーデの手の甲にくるくると巻いて結んだ。
あまりにも手際が良くて、みなあっけに取られていた。
数分?せいぜい5分か?
フランツ「ご無礼をお許しください。おそらく毒矢だと思います。紫色に変色していましたので」
トルーデ「毒にはだいぶ身体を慣らしているつもりなのだが…」
フランツ「貴族の方たちが慣らす毒とは、違う種類のものかもしれません…敵国は、魔物の肝から、致死性の毒物を生成すると聞きました」
トルーデ「一体、どこからそんな情報を…?」
フランツ「故郷の詳しい人に色々教えてもらってきました」
〔フランツは、商売上得た知識を持つ商人のおっさんや庭師の爺さんから、役に立ちそうな知識を聞き、集めてきていた〕
フランツが、帽子に吐き出した毒物と唾液は、シュウシュウと音を立てていた。
トルーデ「……なるほど…毒矢だな、これは確かに」
二等兵の咄嗟の行動に、誰もが驚いた。
エプシュタイン大尉も、その1人だった。
紙切れ一枚で強制的に召集された平民兵士など、やる気の無い者ばかりだと思っていたが……なかなかどうして、大した者もいたものだ。
間諜の名簿にも載っていなかった者でもあるし…。大尉はヴェルテ二等兵をまじまじと見つめた。
むむ、そういえば此奴は印象が、妙にきちんとしているな。先程も、腰のポーチから、消毒薬代わりの酒と、布をすぐ出したぞ。
大尉のエプシュタインは、ヴェルテ二等兵=〔フランツのこと〕を、「器用」「怠惰ではない」兵士だと分類した。
射られた矢を回収し、魔道士に分析させたら、相当ヤバい毒だったそうな。
◆
【その後のトルーデ視点】
おぉ…びっくりした…びびびっくりした……手の甲に、手の甲に、く、唇が当たって…
いやあれは毒を吸い出しただけだ、うん。
ああ、理解しているとも。少し動揺しただけだ。
あの二等兵に、手を掴まれた時も、唇で毒を吸い出された時も、不思議と嫌悪感は無かったな…
彼のあの明るい茶色の髪と、つむじが、脳裏に蘇る。
お茶を運んできた従卒のハンスが
「少尉殿?大丈夫ですか?まだどこか具合でもお悪いのではないですか?」と気遣わしげに聞いてきた。
「あ、いや、なんでもない」
気のせいだ、うん、気のせい。疲れてるんだな、きっと。
■
《フランツ視点》
あの、金髪の少尉殿、大丈夫かな。
俺が手当てした後、なんか変な顔してたが…。
毒の影響かと思って、もっと何か聞こうと思ったけど よく考えたら俺だって薬師でも専門家でもないし。
たまたま下っ端兵士である俺が出しゃばって応急処置しただけのことだ。
それにしても顔の整った、綺麗な人だった……。少尉殿、強いだけじゃないのかよ。まさに、天は二物を与えた…的な?
士官の人にあんなに近付いたのは初めてだった。
あ、あと、なんかやけに良い匂いがした…
フランツとトルーデの初接触。
※ 過去の話です
ーーーーー
~今から数年前~
最前線。国境近く。王国軍に突然の攻撃。矢が振ってくる。
「うわっ!」
結界は張っていた。前兆など無かった。魔道士も察知出来なかった。
どうやって結界を弱めたのか…ともかくも、こちらは、必死の防戦でほとんどの矢を防いだ。
だが、そのうちの一本が運悪く トルーデの左手の甲をかすった。
たまたま手袋を外していたという最悪のタイミング。
「つっ…!」
流血。
「少尉ッ!」トルーデの従卒の、ハンスが叫んだ。
「かすり傷だ」
その様子を見ていたある二等兵が、怖い顔をして つかつかとトルーデに近づき
トルーデの手首を掴んだ。
「何をする!」
トルーデは思わず声を上げるが、その二等兵はそれには答えず傷口を凝視した。
矢に射られた部分は紫色になっていた。
その無礼な二等兵・フランツは「痛いですよ」と言うやいなやその傷口を、小さなナイフで薄く切り裂いた。
「っ…!」
「我慢して下さい」
その切り口に、フランツは自分のくちびるを押し当てから、毒を吸い込むと
それを唾液ごと、頭から取ってひっくり返した自分の帽子にぺっと吐き出した。
その後、腰のポーチから小さな瓶を取り出すとその液体を口に含み、それも同様に
ぺっ と、帽子に吐き出した。
その後、瓶の液体をトルーデの傷口に直接ざばざばとかけた。滲みたのか、
トルーデが「うっ…」と小さく呻いた。どうやら強い蒸留酒かなにかで消毒したようだ。
次にフランツは、これまた腰のポーチから、清潔な布を出して
トルーデの手の甲にくるくると巻いて結んだ。
あまりにも手際が良くて、みなあっけに取られていた。
数分?せいぜい5分か?
フランツ「ご無礼をお許しください。おそらく毒矢だと思います。紫色に変色していましたので」
トルーデ「毒にはだいぶ身体を慣らしているつもりなのだが…」
フランツ「貴族の方たちが慣らす毒とは、違う種類のものかもしれません…敵国は、魔物の肝から、致死性の毒物を生成すると聞きました」
トルーデ「一体、どこからそんな情報を…?」
フランツ「故郷の詳しい人に色々教えてもらってきました」
〔フランツは、商売上得た知識を持つ商人のおっさんや庭師の爺さんから、役に立ちそうな知識を聞き、集めてきていた〕
フランツが、帽子に吐き出した毒物と唾液は、シュウシュウと音を立てていた。
トルーデ「……なるほど…毒矢だな、これは確かに」
二等兵の咄嗟の行動に、誰もが驚いた。
エプシュタイン大尉も、その1人だった。
紙切れ一枚で強制的に召集された平民兵士など、やる気の無い者ばかりだと思っていたが……なかなかどうして、大した者もいたものだ。
間諜の名簿にも載っていなかった者でもあるし…。大尉はヴェルテ二等兵をまじまじと見つめた。
むむ、そういえば此奴は印象が、妙にきちんとしているな。先程も、腰のポーチから、消毒薬代わりの酒と、布をすぐ出したぞ。
大尉のエプシュタインは、ヴェルテ二等兵=〔フランツのこと〕を、「器用」「怠惰ではない」兵士だと分類した。
射られた矢を回収し、魔道士に分析させたら、相当ヤバい毒だったそうな。
◆
【その後のトルーデ視点】
おぉ…びっくりした…びびびっくりした……手の甲に、手の甲に、く、唇が当たって…
いやあれは毒を吸い出しただけだ、うん。
ああ、理解しているとも。少し動揺しただけだ。
あの二等兵に、手を掴まれた時も、唇で毒を吸い出された時も、不思議と嫌悪感は無かったな…
彼のあの明るい茶色の髪と、つむじが、脳裏に蘇る。
お茶を運んできた従卒のハンスが
「少尉殿?大丈夫ですか?まだどこか具合でもお悪いのではないですか?」と気遣わしげに聞いてきた。
「あ、いや、なんでもない」
気のせいだ、うん、気のせい。疲れてるんだな、きっと。
■
《フランツ視点》
あの、金髪の少尉殿、大丈夫かな。
俺が手当てした後、なんか変な顔してたが…。
毒の影響かと思って、もっと何か聞こうと思ったけど よく考えたら俺だって薬師でも専門家でもないし。
たまたま下っ端兵士である俺が出しゃばって応急処置しただけのことだ。
それにしても顔の整った、綺麗な人だった……。少尉殿、強いだけじゃないのかよ。まさに、天は二物を与えた…的な?
士官の人にあんなに近付いたのは初めてだった。
あ、あと、なんかやけに良い匂いがした…
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