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瓦礫の中で
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フランツ視点です。
ーーーーーーーーーーーー
どうも、フランツです。
ちょっとばかし昔の話でもしようか。
俺とイレーネが結婚したのは、5年戦争の開戦のキッカケになった帝国の戦闘機の大規模爆撃が俺の故郷の街を襲った年のこと。
◆
街が破壊され、日常が失われた中
「結婚なんかしてどうなる」とも言われたよ。
でもじゃあ、いつならいいんだ?
戦闘機がやってきて、街がめちゃくちゃに爆撃され、人が大勢死ぬようなこの現実は、いつ無くなるんだ?
生まれた家の家族は全員死んだ。俺だけが生き残った。自分ひとりだけがこの現世に残され、何が起こったのかを受け入れたくなかったのかもしれない。
俺はあの時、何日もただうつろな目をしていた、と後からイレーネが言っていた。
ふと気がつくと、俺の隣で心配そうに俺を見る幼なじみで恋人の彼女が居た。
俺は、その時に世界がちょっと色を取り戻したような気がしたんだ。
生きてるな‥生きてる、まだ、生きてる。
俺は、一応生きてるよな、なんでかわかんねえけど、と。
そしていずれは結婚しようと考えていた恋人との将来を思った。
ある美しい月夜に、俺はイレーネに言った。
「結婚しよう」
イレーネは、それまで心細かったのだろうか、「はい、はい…フランツ、ずっと私のそばにいてね?」とボロボロ泣いた。
そんな彼女と、月の光の下で抱き合い、しばらく泣いた。
彼女の香りを感じながら、ああ、俺もまた心細かったんだなと気付いたんだ。
守る相手に、俺もまた、守られている。
誰かがいてくれるその、ぬくみ。人肌のこのあたたかさ。
生き残ったイレーネの父親は、俺たちの結婚に賛成してくれた。
彼女の家族親族も、多数死んだ。
夥しい死者が出たその年に、俺たちは「家族」になった。
■
遺体の収容は、軍がやってくれた。
死臭が漂う中、軍服の彼らは自分の汚れも厭わずに黙々と働いていた。
心の中で感謝した。
破壊され、瓦礫だらけの街の中で、イレーネの存在だけが、ただひとつの希望のように思えた。
■
家族を弔った後、戦時ということもあり 服喪期間も置かずに、すぐ教会で承認だけの簡素な結婚式を行った。
俺たちは夫婦になった。
その次の年、「兵士が足りない」と、一般国民からも徴兵されることになった。
王国から、召集の知らせが来た。
ああ、俺も戦争に行かねばならないのか……。
■
一年にも満たない結婚生活だった。
だが、今思えば
その結婚生活は何もかもが光輝いていた。
イレーネは優しく、可愛らしく、時々強くて、ちょっと抜けたところもあって。
彼女の茶色い髪と緑の眼も、すらりとした身体も、どこの誰よりも素敵に思えた。
家族を失った痛みも、心に開いた大きな穴も、ふさがりはしなかったが
愛するイレーネとの日々は、毎日が楽しかった。
いずれ子供も持つのだろうな、と考えてワクワクもした。
父親の雇用主の商人が、屋敷に雇ってくれた。
屋敷の修繕に男手が必要だったり、塀の修復の仕事などもあった。
雑用でもなんでもやった。
皆の助けで、生活はなんとかなった。イレーネも、仕事を見つけてきた。2人してよく働いた。
食卓には、粗末なものしか上げられなかったがとりあえず食べていくことは出来ていた。
安上がりで満腹になる工夫も、いろいろと試行錯誤した。(楽しい思い出だ)
働いて、家に帰り、2人で食事をして、笑い合って、愛し合って、眠る。
それだけのことなのに、なんと素晴らしい日々だったのだろう。
それだけ、じゃないな。「ふつうの」暮らしそのものが奇跡みたいなもんだったのかもしれない。
■
父親の雇い主でもあった商人のおっさんは、俺が戦争に召集されていくのを知って嘆いた。
「働き手の若い男も中年になりかけの男も、みーんな戦争に取られちまってよう、この国はどうなるんだ」
おっさんの息子たちも徴兵されるとのことで、俺の召集も、泣いてくれた。
最終日、庭師の爺さんも厨房の婆さんも泣いて見送ってくれた。
「死ぬなよ」と。
あの頃の俺は、戦争をおっぱじめやがった国に対して強い憤りを感じていた。
徴兵してまで、まだ戦争を続けようとしてることにも……。
ーーーーーーーー
イレーネは可愛い系。パステルカラーが似合います。フランツとは、幼馴染みで同い年。
お読みいただきありがとうございます!
ブックマークして下さった方、誠にありがとうございます。
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どうも、フランツです。
ちょっとばかし昔の話でもしようか。
俺とイレーネが結婚したのは、5年戦争の開戦のキッカケになった帝国の戦闘機の大規模爆撃が俺の故郷の街を襲った年のこと。
◆
街が破壊され、日常が失われた中
「結婚なんかしてどうなる」とも言われたよ。
でもじゃあ、いつならいいんだ?
戦闘機がやってきて、街がめちゃくちゃに爆撃され、人が大勢死ぬようなこの現実は、いつ無くなるんだ?
生まれた家の家族は全員死んだ。俺だけが生き残った。自分ひとりだけがこの現世に残され、何が起こったのかを受け入れたくなかったのかもしれない。
俺はあの時、何日もただうつろな目をしていた、と後からイレーネが言っていた。
ふと気がつくと、俺の隣で心配そうに俺を見る幼なじみで恋人の彼女が居た。
俺は、その時に世界がちょっと色を取り戻したような気がしたんだ。
生きてるな‥生きてる、まだ、生きてる。
俺は、一応生きてるよな、なんでかわかんねえけど、と。
そしていずれは結婚しようと考えていた恋人との将来を思った。
ある美しい月夜に、俺はイレーネに言った。
「結婚しよう」
イレーネは、それまで心細かったのだろうか、「はい、はい…フランツ、ずっと私のそばにいてね?」とボロボロ泣いた。
そんな彼女と、月の光の下で抱き合い、しばらく泣いた。
彼女の香りを感じながら、ああ、俺もまた心細かったんだなと気付いたんだ。
守る相手に、俺もまた、守られている。
誰かがいてくれるその、ぬくみ。人肌のこのあたたかさ。
生き残ったイレーネの父親は、俺たちの結婚に賛成してくれた。
彼女の家族親族も、多数死んだ。
夥しい死者が出たその年に、俺たちは「家族」になった。
■
遺体の収容は、軍がやってくれた。
死臭が漂う中、軍服の彼らは自分の汚れも厭わずに黙々と働いていた。
心の中で感謝した。
破壊され、瓦礫だらけの街の中で、イレーネの存在だけが、ただひとつの希望のように思えた。
■
家族を弔った後、戦時ということもあり 服喪期間も置かずに、すぐ教会で承認だけの簡素な結婚式を行った。
俺たちは夫婦になった。
その次の年、「兵士が足りない」と、一般国民からも徴兵されることになった。
王国から、召集の知らせが来た。
ああ、俺も戦争に行かねばならないのか……。
■
一年にも満たない結婚生活だった。
だが、今思えば
その結婚生活は何もかもが光輝いていた。
イレーネは優しく、可愛らしく、時々強くて、ちょっと抜けたところもあって。
彼女の茶色い髪と緑の眼も、すらりとした身体も、どこの誰よりも素敵に思えた。
家族を失った痛みも、心に開いた大きな穴も、ふさがりはしなかったが
愛するイレーネとの日々は、毎日が楽しかった。
いずれ子供も持つのだろうな、と考えてワクワクもした。
父親の雇用主の商人が、屋敷に雇ってくれた。
屋敷の修繕に男手が必要だったり、塀の修復の仕事などもあった。
雑用でもなんでもやった。
皆の助けで、生活はなんとかなった。イレーネも、仕事を見つけてきた。2人してよく働いた。
食卓には、粗末なものしか上げられなかったがとりあえず食べていくことは出来ていた。
安上がりで満腹になる工夫も、いろいろと試行錯誤した。(楽しい思い出だ)
働いて、家に帰り、2人で食事をして、笑い合って、愛し合って、眠る。
それだけのことなのに、なんと素晴らしい日々だったのだろう。
それだけ、じゃないな。「ふつうの」暮らしそのものが奇跡みたいなもんだったのかもしれない。
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父親の雇い主でもあった商人のおっさんは、俺が戦争に召集されていくのを知って嘆いた。
「働き手の若い男も中年になりかけの男も、みーんな戦争に取られちまってよう、この国はどうなるんだ」
おっさんの息子たちも徴兵されるとのことで、俺の召集も、泣いてくれた。
最終日、庭師の爺さんも厨房の婆さんも泣いて見送ってくれた。
「死ぬなよ」と。
あの頃の俺は、戦争をおっぱじめやがった国に対して強い憤りを感じていた。
徴兵してまで、まだ戦争を続けようとしてることにも……。
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イレーネは可愛い系。パステルカラーが似合います。フランツとは、幼馴染みで同い年。
お読みいただきありがとうございます!
ブックマークして下さった方、誠にありがとうございます。
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2月3日にアルファポリス様連載分を完結致しました。お読みいただいた皆様、お気に入り登録して下さった皆様、本当にありがとうございます!誠に勝手ながら作者都合で感想欄は閉じております。誤字脱字等が一部にあり大変申し訳ございません。随時直していきます。小説家になろう様にも投稿しております。 https://ncode.syosetu.com/n1893ha/アルファポリス様投稿分とは細部で違いがあります。大筋は変わりません。
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