【完結】妻は知っていた

スコブル

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〜それを純愛とは呼ばず〜

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女目線の回です


ーーーーー


一年以上前のこと────
 ギルド長は、それまで私の周りでは見たことのない見目の良い美しい男だった。

 がっしりとした体躯、朗々と響く良い声、ちょっと長めの栗色の髪に、キリッとした眉。目元は涼やかで切れ長。

 採用された次の日から口説かれた。面接の時から、なんか視線が絡まるなぁ~とは思ってた。
 既婚者のギルド長に口説かれてあっさり不倫関係になった。もちろん罪悪感はあった。でも『愛し合う』うちに、愚かにも私たちはそれを「純愛」だと思うようになった。
 「出会う順番が違っただけ」なのだと。そして駆け落ちの相談までするようになっていった。彼が私に溺れているのは分かった。
 私も、あまり深く考えていなかった。

 ギルド長は言った。

「君と新たな人生を築きたい 王都を出よう」
「…奥さんとお子さん達はいいんですか?」
「いいんだ。妻とは冷え切ってる」

 彼には、奥さんとの間に二人目の息子が生まれたばかりだった。

 私たちは、私は、本当にバカだった。







 副料理長が話を漏らしたのか、それとも噂はとっくに出回っていたのかそれは分からないが
 レストランを辞めてからも私が「不倫女」だということで周囲から白眼視され続けた。

 仕事を探そうとしても「ウチの職場でもまた既婚者を狙うのか」と言われたり。
 男たちからは、タチの悪い誘いをされることも増えた。

 いつしか心を病み、私は家に引きこもった。

「弱ってるお前に改めて言うのは酷だがな、自業自得でもあるんだぞ…自分がどんなに奥さんを傷つけたか振り返って考えてみろ」

 父親は私にそんなふうに言ったわ。そうね「自業自得」。

「どんなに愚かなことをしようと私たちの可愛い娘であることに変わりはない ───、だが自分の行いを省みてほしい」

 厳しい言葉だった。でも底に愛情が流れていることが分かった。

 両親の前で私はえぐえぐと泣いた。




 両親は私を山奥の親戚のもとに行かせることにした。もうどこに住んでも同じよ…と思っていたので大人しく従った。

 会ったこともなかった「山奥の親戚」は、母方の遠い親戚の老婆。
 街道からも遠く離れた山奥の住まいまで送ってくれた父親は
「身体に気を付けるんだぞ」と半泣きだった。

 老婆は、無口だったが悪い人ではなかった。山奥で、その土地でしか育たない薬草を栽培して生計を立てていた。
 その薬草はその土地の土でしか育てることが出来ず、土だけ持ち出してもよその土地では育たない。どうやら土地そのものと深く結びついた薬草であるらしかった。専門家もいまだ解明出来ない謎であった。

 王都の専門家が幾度か栽培のために移り住んできたこともあるがあまりに不便な生活なのと、山奥の夜の不気味さに恐れをなし逃げ帰ることが重なり…
 今は誰も住みたがらないんだそうだ。
 遠縁の老婆が委託を受けて栽培し、王都の薬商に卸している。

 私は、その薬草栽培の仕事を手伝った。夜は怖かったが、人間がいないということは、誰も何も噂をしないということだ。
 実家のある街も、人口はそこそこ多かった。
 だが山奥のここには、遠縁の老婆と自分の二人きり。(女ふたりというのは不用心のように思えたが、不審者除けと動物除けに小屋の周囲に結界が張られている。)

 過去の自分は賑やかな街が好きだったが、(自業自得とはいえ)白い目に晒された後では山奥の人の少なさがこの静けさがありがたかった。




 当時の妻(バカな男だけど、やっぱり好きなのよね……バカだから好きなのかしら?
 彼女が黙って居なくなっただけじゃ、たいしたお仕置きにならないかもしれないけど。もしも「次」があって、あたしの気持ちが冷めていたら、キツいお灸を据えてあげましょうね?あなた。)




※浮気相手が自分に黙って姿を消した後
当時のギルド長は当然彼女の行方を探そうとしましたが、妻が浮気相手関係の書類を破棄した為、住所等が分からずに彼女の故郷までは探しに行けませんでした。

※ギルド長の妻(=ばあさん)が当時の夫に経緯を話さなかったのは、真実が分からずに苦しむほうが罰になると考えたからです。

※ちなみにばあさんの『生きがい』『生きる甲斐』は、歌劇団の舞台観賞です。不貞、不倫ではありません。

お読みいただきありがとうございます。
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お読みいただきまして誠にありがとうございます。新たにざまぁ部分を加筆いたしました。お読みいただいた方、ブクマして下さった方、ありがとうございます。

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