上 下
97 / 99
第四章

出発の朝

しおりを挟む
 ヨハンナがイクサカ地方に発つ日が来るまで、セキとコクが呆れるほど、アランとヨハンナは時間を惜しむように二人で過ごした。

 庭のハララの花壇を二人で眺めおしゃべりをしたり、市場に出かけて色とりどりの飴を買いに行ったり、カフェにも行った。

 ヨハンナは初めてだったらしく、店内に入るところからおどおどとしてアランの袖をつかみ、でもケーキが運ばれてくると目を輝かせた。

 その姿があんまりかわいいのでついアランが笑うと、ヨハンナははっと気がついて、真っ赤になった。

「ほら」

 フォークでケーキを一口大に切って口元へ持っていってやると、ヨハンナは周りをキョロキョロ見回し、誰も見ていない隙にとパクリと食べた。

 瞬間、ほころんだヨハンナの顔を、たぶんアランは一生忘れないだろう。

 夜には飽くことなくヨハンナを抱いた。

 ヨハンナがこの行為にもう恐怖心を感じていないことは感じ取っていたが、アランはいつも慎重にヨハンナに触れた。ヨハンナは、はじめこそ不慣れな様子だったが、今ではアランが腰を動かすたび、可愛い声が漏れる。

 セヴェリはヨハンナを可愛がったと言っていた。
 それもレイモンと共に。

 セヴェリからそう聞いたとき、アランはセヴェリを殴りつけたい衝動を抑えるのに必死だった。

 ヨハンナはきっと泣き叫んで嫌がっただろう。怖かったに違いない。そう思うと、テンドウの里から帰った当初、アランが触れようとすると反射的に避けてしまうヨハンナのことを、それも仕方がないと考えた。

 しばらくは無理に触れず、ゆっくりと時間をかけてヨハンナの心を溶かそうと心に決めた。

 ヨハンナは徐々にアランとの触れ合いに慣れていった。
 
 初めてヨハンナが達したのを感じたとき、アランは嬉しかった。寝所で女を達かせるなんて、いつもしていたこと。よがって喜ぶ女に、自身も興奮したものだが、ヨハンナに感じるそれは全くの別物だ。

 ヨハンナと出会ってから、他の女を抱く気は失せた。今はヨハンナしか欲しくはない。

 初めて奪ったヨハンナの中はやはり狭く、指だけでもきつかった。とても男のものを受け入れたことのある体ではなかった。

 アランはセヴェリのあの時の言葉がただ、アランを苦しめるためのものだと確信した。おそらく、指は受け入れたのだろう。あの夜の様子から、もしかしたら慣らすために張り型も使われたかもしれない。

 でもそれ以上は何もなかったのだ。衝動のままにあの時セヴェリを殴っていたら、あいつの思う壺だった。


 


 


 明日出発という前夜。

 アランはいつものようにヨハンナと寝台に入った。
 この触れ合いも今日で最後かと思うと、アランはヨハンナをきつく抱きしめ唇を奪い、夜着を乱すとヨハンナの体中にキスを落とした。

 同時に指で胸や陰部を愛撫し、十分に濡れたところで足を大きく開かせ、細い腰を引き寄せて自身を突き入れた。
 ヨハンナは息をつめたが、しばらくすると中も十分に潤みだした。

 なるべく性急になるのを抑え、アランはヨハンナの中から自身をゆっくりと引き出すと、またゆっくりと中に挿れた。そうして何度も注挿を繰り返した。

「……んっ……。………んっ……。」

 ヨハンナはアランの動きに合わせて声を漏らし、耐え難いように身を捩り、アランの腕にしがみついた。

「……ヨハンナ…」

 そのしぐさも可愛くて、アランは愛おしさに髪に触れ、口づけを落とした。

 ヨハンナは潤んだエメラルドの瞳でアランの目をとらえ、何度も「アラン、アラン…」と名を呼んだ。
 アランがヨハンナの感じやすい箇所に丁寧に愛撫を施し中をつくと、ヨハンナは体をビクリとさせ、耐え難そうに息を詰めた。

 それでも何度か繰り返しているとヨハンナの内壁が絡みつくように収縮した。奥深くで達した体は、長く余韻を残したのか、ヨハンナはいつも以上に体をはねさせた。

 縋るように伸ばされた手が愛おしく、アランは荒々しく口付け、舌で口腔内をまさぐり、更に奥深くへと腰を打ちつけた。

 その後は夢中だった。

 角度を変え、何度もヨハンナの奥を穿った。ヨハンナはその度声をあげ、健気にアランの与える刺激に反応した。
 
 その様子にまたアランは自身が猛るのを感じ、ただ夢中でヨハンナの中に自分の欲を放った。

 二つの身体が溶け合って、一つになっていく。自分の身体も溶け出すような心地よい錯覚にアランも呻き、飽くことなくヨハンナを抱きしめ続けた。









 出発の朝は、驚くほどいつも通りだった。

 ヨハンナはいつも通りの時間に目を覚ました。

 体にはアランの腕が絡みついている。しばらく見ていると、琥珀色の瞳がゆっくりと現れ、その目にヨハンナだけを映した。

 いつも通りに身支度を整え、家令のテッドはじめ、屋敷の人達に頭を下げ、庭のハララに別れを告げた。

 アランは、牧羊や畑仕事にも向く実用的な服装をヨハンナに用意してくれていた。他にも当面の食料や、生活用品まで。

 しかもイクサカ地方の領主に既に連絡を入れてくれており、住む家の手配から、羊の仕入れ先まで押さえてくれているとの話。

 何から何まで至れりつくせりで、イクサカ地方までも家令のテッドが馬車で送り届けてくれるという。

「ほんとは俺が送っていきたかったんだがな……」

 雪解けと共に、北方の属国の一つが反旗を翻した。すでに先鋒となる部隊は首都を出発している。じき、アランも参軍する予定だという。

 また会おうと、アランは曇りのない琥珀の瞳でヨハンナを見つめた。

 ヨハンナは馬車の踏み台にかけていた足をおろし、アランに駆け寄った。その広い背に腕を回して抱きしめ、「必ず……」と約束した。

 アランは強くヨハンナを抱きしめ返すと、そっと腕を離し、馬車へと押し出した。

「元気で、ヨハンナ」

 アランの琥珀の瞳が、見る間に滲んでぼやけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【R18】義弟ディルドで処女喪失したらブチギレた義弟に襲われました

春瀬湖子
恋愛
伯爵令嬢でありながら魔法研究室の研究員として日々魔道具を作っていたフラヴィの集大成。 大きく反り返り、凶悪なサイズと浮き出る血管。全てが想像以上だったその魔道具、名付けて『大好き義弟パトリスの魔道ディルド』を作り上げたフラヴィは、早速その魔道具でうきうきと処女を散らした。 ――ことがディルドの大元、義弟のパトリスにバレちゃった!? 「その男のどこがいいんですか」 「どこって……おちんちん、かしら」 (だって貴方のモノだもの) そんな会話をした晩、フラヴィの寝室へパトリスが夜這いにやってきて――!? 拗らせ義弟と魔道具で義弟のディルドを作って楽しんでいた義姉の両片想いラブコメです。 ※他サイト様でも公開しております。

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

完結 R18 媚薬を飲んだ好きな人に名前も告げずに性的に介抱して処女を捧げて逃げたら、権力使って見つけられ甘やかされて迫ってくる

シェルビビ
恋愛
 ランキング32位ありがとうございます!!!  遠くから王国騎士団を見ていた平民サラは、第3騎士団のユリウス・バルナムに伯爵令息に惚れていた。平民が騎士団に近づくことも近づく機会もないので話したことがない。  ある日帰り道で倒れているユリウスを助けたサラは、ユリウスを彼の屋敷に連れて行くと自室に連れて行かれてセックスをする。  ユリウスが目覚める前に使用人に事情を話して、屋敷の裏口から出て行ってなかったことに彼女はした。  この日で全てが終わるはずなのだが、ユリウスの様子が何故かおかしい。 「やっと見つけた、俺の女神」  隠れながら生活しているのに何故か見つかって迫られる。  サラはどうやらユリウスを幸福にしているらしい

前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる

KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。 城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

処理中です...