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第二章

アランの恋煩い 3

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「へ? 違うのか?」

 グロリアーナ嬢は関係ないというアランの答えに、ランドルフは間の抜けた顔をし、摘んでいた木の実を取り落とした。

 実際、ランドルフから話が出るまで、グロリアーナ嬢のことは忘れていた。

 ランドルフは一瞬呆けたような顔をしたが、すぐに立ち直り、顔ににやにや笑いを浮かべた。

「なんだよなんだよ。俺の友アランの心をついに射止めた女がいるのか? どこの誰だ? その稀有な女は。誰にも本気にならずに、ふらふらと二十五になるまで遊んでいるようなおまえが、女遊びまで放り出して思い煩うなんてな」
 
 早く白状しろとランドルフはアランをせっつく。二十五になるまで遊んでいるのはランドルフも同じだが、そこは上手い具合に忘れているようだ。

「おまえの知らない女だよ」
「俺は年頃の貴族の子女の顔ならたいてい知ってるぞ。言ってみろ。きっとわかる」
「無理だよランドルフ」

 アランはしつこく吐けと食い下がるランドルフに首を振る。

「オシ街の宿屋で働いていた娘だからな」
「オシ街? 宿屋? 働いているだって?」

 ランドルフは一つ一つ確かめるように鸚鵡返しにアランの言を繰り返した。
 しばらくランドルフの中で咀嚼したのだろう。ややあって声を絞り出した。

「そりゃまた毛色の変わったところにいったな。オシ街っていえばこないだの任務で行った港町だよな。しかも宿屋で働いているって、宿屋の娘さんか?」

「そうじゃないだろうな。下働きだろう。こき使われているみたいだったからな。腕に鞭で打たれた跡があったしな」

 ランドルフは絶句した。

「おまえ、そりゃ……。なんていうか、同情、しただけじゃないのか。可哀想だとか。気にはなるだろうが、それは恋とは言わないだろう?」

 するとアランはランドルフの最もな意見に苦笑しながらも、「同情じゃないよ」と否定する。もしアランがランドルフに同様のことを聞かされれば、同じように意見しただろう。

「とっても可愛い子だったんだ。ほんとは連れて帰りたいくらいだったけど、さすがにそれはできなかった……」

「当たり前だ。そんなことをしてみろ。黄帝城中大騒ぎだぞ。よほどの美人だったのか?」

「美人は美人だったけど、なんだろうな。それだけじゃない。何かを感じたんだ」

 たった数時間の邂逅でヨハンナの何がわかるのかという思いももちろんある。
 それでもまた会いたいアランは切実に思ったし、その思いは今も続いている。
 
「でも。いなくなったんだ……」

 アランは、北方への任務の帰り、ヨハンナに会いに行った話をランドルフにした。

 ヨハンナは宿屋を辞めていて、もう会う手立てがないと言うと、ランドルフは「そりゃなんとも……。気の毒っていうか…」とアランを慰めた。
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