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第四章
孤独な緑龍 2
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「ヨハンナ!」
セキとコクは両側からぎゅうっとヨハンナの腰に抱きついた。
「よかった。無事で。全く兄様はなんてことをしてくれるんだよ。セヴェリなんかとつるんでさ。まさかヨハンナを連れ去っちゃうなんて信じられないよ」
セキが鼻の穴を膨らませ憤慨する。
そして今気がついたとでも言うようにヨハンナに絡みつく緑龍へと視線を転じた。
『母様、ご機嫌よう。そういうわけなんでヨハンナは連れて帰るよ。ヨハンナは、ほんとはここに来たくなかったんだ。それを無理矢理兄様が連れてきたんだ』
『そうです、母様。セキの言う通りです。なのでご機嫌よう』
にべもなくセキとコクは緑龍にそう告げると、ヨハンナを抱く腕に力を込めた。
そのとき、部屋の扉が開きニクラスが姿を現した。白い神官服を着たままのニクラスは「それは困るな」とセキとコクを睨んだ。
「あの男の目を盗み、ヨハンナを連れ去るのは骨が折れる。二度も同じことをするのは困る」
「困っているのはこっちなんだ。なんだって兄様はヨハンナの気持ちを無視して勝手に事をすすめるんだよ」
コクがそう言えば、ニクラスはキィキィ吠える弟を鼻であしらう。
「なぜって、ヨハンナは母様のための存在だ。父様のいない今、母様を慰めることができるのはヨハンナだけだ」
「そんなの兄様がすればいいだろう? 僕たちだっているんだ。何もヨハンナである必要はないだろ」とセキ。
「おまえらは何もわかっちゃいない。母様の加護を受けたヨハンナにしか、母様の心をお慰めすることはできないんだよ。そんなこともうとっくにわかっていたことじゃないか。父様が死んでから、僕たちがどれだけ母様をお慰めしても無駄だった。母様のお嘆きは深く、どんな言葉も届かなかった。それが、母様の加護を受けた子が側にいるだけで、母様は元気になった。僕たちではだめなんだよ」
「でもヨハンナはだめだよ!」とセキ。
「そうだよ。母様はヨハンナが不幸になってもいいの?」とコク。
あくまで連れて帰ると意志固く白龍と緑龍にくってかかる。
セキとコクがいればアランのもとへ帰れるかもしれない。
そんな淡い期待を抱いたヨハンナだが、その時ヨハンナを囲っていた緑龍が一声嘶いた。
空気がびりびりと震え、ヨハンナに抱きついていたセキとコクの腕の力が抜け、くたりとその場に崩れた。
「セキ! コク!」
ヨハンナは慌てて二人を助け起こした。
二人は「へへ」と力なく笑い、未だ力の入らない足腰のまま緑龍を睨んだ。
「ずるいぞ母様! 僕たちの力を削ぐなんてさ」とセキ。
コクも悔しそうに緑龍を見据えている。
地を震わす声だったが、ヨハンナにはなんとも無い。けれどさきほどの緑龍の声には、何か子龍の力を削ぐものがあるらしい。
緑龍はわが子達の罵りを平然と受け、ぐわっと威嚇するように口を開いた。
『誰にも邪魔はさせぬ。ヨハンナは我が愛し子。我と共に有る者ぞ』
セキとコクに一喝し、美しい肢体をくねらせ、ヨハンナに擦り寄る。
『どこにも逃がさぬ。決して手放さぬ。我はヨハンナを決して側から離さぬ。我はいつでも見ておるぞ』
緑龍はそう言うと、再び肢体をくねらせ、湖へと戻っていった。
緑龍が湖へと姿を消すと、足腰の力が戻ったのか、セキとコクが立ち上がった。
「ちぇっ。何なんだよ母様。ひどいことするんだから」
「コク。これからどうする?」
「どうするったって……」
セキとコクは途方にくれたように顔を見合わせた。
その様子は、セキとコクにはここからヨハンナを連れ出すことはできないのだということを如実に語っていた。
セキとコクは両側からぎゅうっとヨハンナの腰に抱きついた。
「よかった。無事で。全く兄様はなんてことをしてくれるんだよ。セヴェリなんかとつるんでさ。まさかヨハンナを連れ去っちゃうなんて信じられないよ」
セキが鼻の穴を膨らませ憤慨する。
そして今気がついたとでも言うようにヨハンナに絡みつく緑龍へと視線を転じた。
『母様、ご機嫌よう。そういうわけなんでヨハンナは連れて帰るよ。ヨハンナは、ほんとはここに来たくなかったんだ。それを無理矢理兄様が連れてきたんだ』
『そうです、母様。セキの言う通りです。なのでご機嫌よう』
にべもなくセキとコクは緑龍にそう告げると、ヨハンナを抱く腕に力を込めた。
そのとき、部屋の扉が開きニクラスが姿を現した。白い神官服を着たままのニクラスは「それは困るな」とセキとコクを睨んだ。
「あの男の目を盗み、ヨハンナを連れ去るのは骨が折れる。二度も同じことをするのは困る」
「困っているのはこっちなんだ。なんだって兄様はヨハンナの気持ちを無視して勝手に事をすすめるんだよ」
コクがそう言えば、ニクラスはキィキィ吠える弟を鼻であしらう。
「なぜって、ヨハンナは母様のための存在だ。父様のいない今、母様を慰めることができるのはヨハンナだけだ」
「そんなの兄様がすればいいだろう? 僕たちだっているんだ。何もヨハンナである必要はないだろ」とセキ。
「おまえらは何もわかっちゃいない。母様の加護を受けたヨハンナにしか、母様の心をお慰めすることはできないんだよ。そんなこともうとっくにわかっていたことじゃないか。父様が死んでから、僕たちがどれだけ母様をお慰めしても無駄だった。母様のお嘆きは深く、どんな言葉も届かなかった。それが、母様の加護を受けた子が側にいるだけで、母様は元気になった。僕たちではだめなんだよ」
「でもヨハンナはだめだよ!」とセキ。
「そうだよ。母様はヨハンナが不幸になってもいいの?」とコク。
あくまで連れて帰ると意志固く白龍と緑龍にくってかかる。
セキとコクがいればアランのもとへ帰れるかもしれない。
そんな淡い期待を抱いたヨハンナだが、その時ヨハンナを囲っていた緑龍が一声嘶いた。
空気がびりびりと震え、ヨハンナに抱きついていたセキとコクの腕の力が抜け、くたりとその場に崩れた。
「セキ! コク!」
ヨハンナは慌てて二人を助け起こした。
二人は「へへ」と力なく笑い、未だ力の入らない足腰のまま緑龍を睨んだ。
「ずるいぞ母様! 僕たちの力を削ぐなんてさ」とセキ。
コクも悔しそうに緑龍を見据えている。
地を震わす声だったが、ヨハンナにはなんとも無い。けれどさきほどの緑龍の声には、何か子龍の力を削ぐものがあるらしい。
緑龍はわが子達の罵りを平然と受け、ぐわっと威嚇するように口を開いた。
『誰にも邪魔はさせぬ。ヨハンナは我が愛し子。我と共に有る者ぞ』
セキとコクに一喝し、美しい肢体をくねらせ、ヨハンナに擦り寄る。
『どこにも逃がさぬ。決して手放さぬ。我はヨハンナを決して側から離さぬ。我はいつでも見ておるぞ』
緑龍はそう言うと、再び肢体をくねらせ、湖へと戻っていった。
緑龍が湖へと姿を消すと、足腰の力が戻ったのか、セキとコクが立ち上がった。
「ちぇっ。何なんだよ母様。ひどいことするんだから」
「コク。これからどうする?」
「どうするったって……」
セキとコクは途方にくれたように顔を見合わせた。
その様子は、セキとコクにはここからヨハンナを連れ出すことはできないのだということを如実に語っていた。
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