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第3章

ゴール到達(2)

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「まさか…あなたのようなホムンクルスがいるだなんて、信じられませんの」

 冷静に現状を分析するテンネブリスは、男の言葉にNOを突きつける。普通であれば、こんな人間臭いホムンクルスが存在するはずがない。

「信じる信じないはお主の自由であるが、事実であるぞ」
「何か、証拠はありますの?」
「うーんむ、証拠と言われても困るのである…オリジナルとなる人間の構造に基づいている故、体の構造は人間と変わらぬ。敢えて挙げるとしたら、至高の主によって完璧に整えられた体内魔力であろうか」

 お主にこれが感じられるだろうか、と顎に手を当て思案顔で返されれば、テンネブリスも少しイラッとくる。

 確かに、男から感じる魔力は整っている、整いすぎていると言っても良い。プレッシャーに圧倒されたこともあり今まで気づかなかった。あまりにも自然で、逆に不自然。
 それを認識し、テンネブリスは眼前の男がホムンクルスであることを認めた。実際の所、相手が人間だろうとホムンクルスだろうと、どちらでも良いのだ。今、重要なことは別にある。

「それで、ホムンクルスがわたくしを拘束してどうするつもりですの。お姉さまはどこですの、その主とやらがお姉さまを誑かしておりますの、お姉さまは一体今どうなっていますの!?」

「おおっと、矢継ぎ早に質問攻めであるな。ふんむっ、しかして吾輩は確かにホムンクルスではあるのであるが、ホムンクルスと呼ばれるのは些か心外であるな。まずはそれを直してもらおうか」

「では、なんとお呼びすれば良いですの?」
「ふんむっ、ではホムンクルスなのでホムちゃ――」
「お断りしますわ」

 言い切る前に即答だった。
 ホムちゃんはない、どうみてもテンネブリスの眼前にいる180cm以上あろう長身の男はホムちゃんではない。百歩譲って、ホムさんだ。

「ふんむっ、ではJCと呼んでくれたまえ」
「JC…なんだか違和感がある呼び名ですの」

 たまに会う、父方の叔父さんによく言われる単語だ。その時のねっとりとした視線がどうにも気持ち悪く好きになれない叔父のことを、どうしても思い出してしまう。

「我が主からはそう呼ばれているのでな。吾輩のオリジナルの名前に依るらしい」

 男の名前の由来など興味もないし、これ以上どうこう言っても仕方がないと話を切り上げテンネブリスは再度問う。

「それでJC、わたくしの質問には答えていただけますの?」
「ふんむっ、ではまず1つ目の質問の答えであるが、吾輩は我が主の命により、お忙しい主に変わってお主の相手をするべくここにいるのである。」
「それはどうもですの。お相手なんてしていただかなくて結構ですので、早くこの拘束を解いていただけませんの?」

 軽口を叩き、虚勢を張るテンネブリス。

「ふんむ…お主はまだ自分の立場が分かっておらぬのだろうか?」

 カツカツ、と男が足音を立てて近寄ってくる。

「いや、分かっているからこその強がりであるか」

 テンネブリスの顔に近づき、強がりつつも微かに震える表情を舐めるように見ながら言う。
 その後、くるりと回転しテンネブリスの腹を裏拳で軽く小突く。

「ほぐうううぅぅぅぅ!?ぐげっ、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 軽くノックするような、軽く触れるだけの拳からものすごい衝撃が伝わってきた。
 テンネブリスはたまらず叫び、嗚咽をあげる。
 嘔吐物がかからぬ程度に距離をとった男が、何もなかったかのように話を続ける。

「お主にはここでダンジョンを脱出するための最終試練を受けてもらうのである」
「ぐげっ…あぁ……乙女のお腹をいきなり殴るだなんて、ひどいですわ…」

「ふんむっ、軽く撫でただけのつもりであるが。そんなひ弱さで最終試練に耐えられるのであるか?」
「そう思うなら、少しは優しくしてくださいませんこと…。はぁ…はぁ…ッ…それより、いったい何をさせるつもりですの」

 テンネブリスが何度か荒く息を吐き呼吸を整える。痛みと吐き気も治まってきた。
 だが今の一撃で、彼我の実力差は明白だ。まともに戦ったらまず勝てないし、逃げれるかどうかも怪しい。

「それは、この後で説明するのである」

 答えが得られず、不安と恐怖で身体が竦む。だが、それを表に出さないように、テンネブリスも必死にこらえる。

(今はどうにもできませんの…とにかく耐えて、チャンスを待つしかありませんわ)

「次に我が主と輝山茉莉香との関係についてであるが、まずもって概ねお主の理解で正しいのではないかと推測するのである」
「回りくどいですわね、つまりどういうことですの」

 持って回った言い回しに、不審そうな様子のテンネブリス。

「詳しいことは、吾輩には伝わっておらんのである。吾輩の知る限り、輝山茉莉香は我が主の奴隷となっておる。呪印を刻まれ、魔術的な隷属状態にあるというのが正しい現状である。お主の言う誑かすという状況に、大凡合致しているのであろう」

「奴隷!?魔術的隷属状態…まさかお姉さまが……!?」

 テンネブリスは予想外の事実に驚きを隠せない。
 彼女は、征司と茉莉香の関係を未だ正確には把握していなかった。せいぜい、何かの弱みにつけこまれ、弄ばれているのだと思いこんでいた。魔法少女の中で屈指の実力を持つ茉莉香、プリズマシャインが呪印により奴隷と化しているなど想像もしていなかった。

 呪印で奴隷化するには、少なくともプリズマシャインに匹敵するほどの魔法技術が必要である。そんな力を持った存在など、早々いるはずがない。現に普段の学園での征司の様子からは、とても実現できるとは思えなかったのだ。

(ですが、このホムンクルスを創れるほどの錬金術師ならばありえますの……)

 これで、単純に茉莉香を連れ出したり、主となっている錬金術師を倒せば良いという話ではなくなってしまった。奴隷化する魔法の中には、主人から逃げ出すと奴隷に害が及ぶものや、主人に害が及べば奴隷に影響するものもあるからだ。魔術で奴隷化されたものは、その魔術を解かない限り自由はない。

(まずは茉莉香お姉さまの状態を確認して、解呪の方法を確保しなければいけませんわ)

 だが、だからといって簡単に諦めるテンネブリスではない。
 次の一手を考えるためにも、最後の質問、その答えをJCから聞き出さなければ。

「それで…お姉さまは、今どこにいらっしゃいますの」

 改めて、JCに問いただす。
 ふむ、と頷きしばらく間を置いて。

「彼女は今、我が主から吾輩が預かっているのである」

 またもやテンネブリスの予想外の答え。

「ならば教えなさい、お姉さまはどこですの!!」

 男が、少女の正面から横に動く。
 少女の視界に気味の悪い肉の塊が大きく映る。
 視界の端に立った男が答える、その続きが致命的。

「輝山茉莉香、魔法少女プリズマシャインならば、お主の目の前にいるのである」
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