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第3章
ゴール到達(1)
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「ん………ぁ………くっ……」
苦しげな呻き声をあげてテンネブリスが目を覚ます。
手足を引っ張られ吊られているような感覚。
少女は両手を上げ、足も広げ、空中にX字で固定されていた。
手足を動かそうとしても、拘束され動かすことができない。
「ここ…は…」
大きな部屋、ホールのように天井が高い。
部屋の奥に上へ昇る階段が見える。
(確か、目的地は最上層の大広間って言っていましたわ。ここがその大広間ですの?)
階段を登ればダンジョンの出口なのだろうか。それを確かめようにも、拘束されたままでは確かめようがない。
それよりも、目の前に佇む肉でできた巨大な繭に目が行く。
何かを孕んでいるようにドクンドクンと脈打ち、大広間の中で圧倒的存在感を示している。
テンネブリスはそれに生理的恐怖と嫌悪感を抱いた。
だが逃げようにも壊そうにも、まずは拘束を解かなければ。
(身体の痛みがない、傷が治っていますの。魔法は…やっぱり使えませんわね)
身体の自由と共に、魔法も封じられていた。
このダンジョンで回復されるのは何度目か、乳首とクリトリスを除いて完璧に身体の傷が治されている。
「お目覚めのようであるな」
背後から男の声がし、ゾクリと背筋が凍る。
全く気配を感じなかったのだ。
斥候タイプで、気配に敏感なテンネブリスがだ。
カツカツ、と革靴が地面を叩く音が広間に木霊する。
現れたのは、執事服を着た長身の優男。
180cm以上あるだろうか、空中に拘束されたテンネブリスと目線が然程変わらない。 まぁイケメンと言えなくもない顔立ち。
ただしテンネブリスの趣味ではない、というか茉莉香以外に興味はない彼女にとって男の顔などどれも似たようなものだ。
細身で引き締まった身体、笑顔を浮かべるその男は、一見すると強そうには見えない。
しかし、全身から放つプレッシャーが段違い。ダンジョン内で戦ったオークなど比較にもならない圧力。これまでテンネブリスが戦ったどの魔獣よりも強い、強者のオーラを放っていた。
(この男、強い…もしかしたらお姉さまよりも……まさか!)
「あなたが、このダンジョンの主…!茉莉香先輩を…お姉さまを誑かす極悪錬金魔術師ですの!!?」
ハッと気付き、思わず大声で掴みかかるように問いかける。
このダンジョンに乗り込む前に、テンネブリスはある程度の調査を行っている。
学園内で茉莉香に手を出していたのは同じ学園の生徒、松崎征司だということは把握していた。だが、彼からは輝山茉莉香を、プリズマシャインを従えられるほどの力を感じなかったのだ。
そこへきて、ダンジョン最奥で現れたこの男。
「まさか、あなたのような黒幕がいたとは思いませんでしたわ。あんな冴えない男に学園でお姉さまを辱めさせて、一体どういうつもりですの!!」
疑問が解けたと言わんばかりに、断定口調で続ける。
「ふむ…」
顎に手を当て、どうしたものかと思案する執事服の男。
「茉莉香お姉さまはどこですの!早くわたくしの拘束を解きなさい!!」
手足に力を込め、開放しろと主張する。だが魔法でできた拘束具にビクともせず、鎖のように音を立てることもない。
無駄だと分かっても、抵抗する意思を見せつけるべく力を込め続け、キッと男を睨みつける。
「お主はどうも勘違いをしているようであるな」
腕を組み、人差し指をトントンと叩きながら落ち着いた声色で男が返す。
「まず、吾輩はお主の言う所の黒幕などではないし、輝山茉莉香を誑かしてもおらんのである」
「そんな見え透いた嘘を…」
「嘘などではないのである」
きっぱりと言い切る男。
「ならあなたは一体何者だというんですの」
「ふんむっ。何者かと問われれば、答えねばなるまい」
スイッチが入ったようにくっくっく、と笑いながら額に人差し指と中指を当ていかにもな角度に首を反らしながら高らかに。
「吾輩はこのダンジョンの管理者にして、至高の主が創りしホムンクルス!」
「ホムン…クルス!!?」
驚愕の声を上げるテンネブリス。
「いい反応をありがとう、美少女よ!!」
テンネブリスの反応に満足そうに頷く男。
確かに、中二病感満載の男にお似合いの返答だった。
気を良くした執事服の男はノリノリで話を続ける。
「お主が驚くのも無理はない。ホムンクルス、生命の創造となれば錬金術でも最高位の御業!高位の錬金術師であろうとも、例え創れたとしても、小人のような子供に毛の生えた程度の知性しか持ち合わせぬ者がせいぜい!!」
確かに、テンネブリスの知識にあるホムンクルスは、命令された作業を繰り返す人形のような小人だったし、現にこの世界におけるホムンクルスとはその程度の存在だ。魔法で作り出したゴーレムよりは複雑な処理ができ、子供程度の知能は持っているのだが、その製造難易度とコストの割に見返りが少なく魔法の世界でも珍しい存在。ごく一部の趣味人のような錬金術師が娯楽で創り使役している程度で、一般、ここで言うところの魔法少女やその他の魔法関係者に出回ることは殆どない。
「だが吾輩は違う!人と変わらぬ頭脳を持ち、魔法少女にも劣らぬ魔力を、力を持った人類史上最高のホムンクルスなのであぁンる!!」
劇場公演のように、大きな身振り手振りで語る。
さながら主演男優だ。
穴息荒くドヤ顔の執事服。
その様子、思考や行動はちょっと変だが普通の人間と変わりない。
苦しげな呻き声をあげてテンネブリスが目を覚ます。
手足を引っ張られ吊られているような感覚。
少女は両手を上げ、足も広げ、空中にX字で固定されていた。
手足を動かそうとしても、拘束され動かすことができない。
「ここ…は…」
大きな部屋、ホールのように天井が高い。
部屋の奥に上へ昇る階段が見える。
(確か、目的地は最上層の大広間って言っていましたわ。ここがその大広間ですの?)
階段を登ればダンジョンの出口なのだろうか。それを確かめようにも、拘束されたままでは確かめようがない。
それよりも、目の前に佇む肉でできた巨大な繭に目が行く。
何かを孕んでいるようにドクンドクンと脈打ち、大広間の中で圧倒的存在感を示している。
テンネブリスはそれに生理的恐怖と嫌悪感を抱いた。
だが逃げようにも壊そうにも、まずは拘束を解かなければ。
(身体の痛みがない、傷が治っていますの。魔法は…やっぱり使えませんわね)
身体の自由と共に、魔法も封じられていた。
このダンジョンで回復されるのは何度目か、乳首とクリトリスを除いて完璧に身体の傷が治されている。
「お目覚めのようであるな」
背後から男の声がし、ゾクリと背筋が凍る。
全く気配を感じなかったのだ。
斥候タイプで、気配に敏感なテンネブリスがだ。
カツカツ、と革靴が地面を叩く音が広間に木霊する。
現れたのは、執事服を着た長身の優男。
180cm以上あるだろうか、空中に拘束されたテンネブリスと目線が然程変わらない。 まぁイケメンと言えなくもない顔立ち。
ただしテンネブリスの趣味ではない、というか茉莉香以外に興味はない彼女にとって男の顔などどれも似たようなものだ。
細身で引き締まった身体、笑顔を浮かべるその男は、一見すると強そうには見えない。
しかし、全身から放つプレッシャーが段違い。ダンジョン内で戦ったオークなど比較にもならない圧力。これまでテンネブリスが戦ったどの魔獣よりも強い、強者のオーラを放っていた。
(この男、強い…もしかしたらお姉さまよりも……まさか!)
「あなたが、このダンジョンの主…!茉莉香先輩を…お姉さまを誑かす極悪錬金魔術師ですの!!?」
ハッと気付き、思わず大声で掴みかかるように問いかける。
このダンジョンに乗り込む前に、テンネブリスはある程度の調査を行っている。
学園内で茉莉香に手を出していたのは同じ学園の生徒、松崎征司だということは把握していた。だが、彼からは輝山茉莉香を、プリズマシャインを従えられるほどの力を感じなかったのだ。
そこへきて、ダンジョン最奥で現れたこの男。
「まさか、あなたのような黒幕がいたとは思いませんでしたわ。あんな冴えない男に学園でお姉さまを辱めさせて、一体どういうつもりですの!!」
疑問が解けたと言わんばかりに、断定口調で続ける。
「ふむ…」
顎に手を当て、どうしたものかと思案する執事服の男。
「茉莉香お姉さまはどこですの!早くわたくしの拘束を解きなさい!!」
手足に力を込め、開放しろと主張する。だが魔法でできた拘束具にビクともせず、鎖のように音を立てることもない。
無駄だと分かっても、抵抗する意思を見せつけるべく力を込め続け、キッと男を睨みつける。
「お主はどうも勘違いをしているようであるな」
腕を組み、人差し指をトントンと叩きながら落ち着いた声色で男が返す。
「まず、吾輩はお主の言う所の黒幕などではないし、輝山茉莉香を誑かしてもおらんのである」
「そんな見え透いた嘘を…」
「嘘などではないのである」
きっぱりと言い切る男。
「ならあなたは一体何者だというんですの」
「ふんむっ。何者かと問われれば、答えねばなるまい」
スイッチが入ったようにくっくっく、と笑いながら額に人差し指と中指を当ていかにもな角度に首を反らしながら高らかに。
「吾輩はこのダンジョンの管理者にして、至高の主が創りしホムンクルス!」
「ホムン…クルス!!?」
驚愕の声を上げるテンネブリス。
「いい反応をありがとう、美少女よ!!」
テンネブリスの反応に満足そうに頷く男。
確かに、中二病感満載の男にお似合いの返答だった。
気を良くした執事服の男はノリノリで話を続ける。
「お主が驚くのも無理はない。ホムンクルス、生命の創造となれば錬金術でも最高位の御業!高位の錬金術師であろうとも、例え創れたとしても、小人のような子供に毛の生えた程度の知性しか持ち合わせぬ者がせいぜい!!」
確かに、テンネブリスの知識にあるホムンクルスは、命令された作業を繰り返す人形のような小人だったし、現にこの世界におけるホムンクルスとはその程度の存在だ。魔法で作り出したゴーレムよりは複雑な処理ができ、子供程度の知能は持っているのだが、その製造難易度とコストの割に見返りが少なく魔法の世界でも珍しい存在。ごく一部の趣味人のような錬金術師が娯楽で創り使役している程度で、一般、ここで言うところの魔法少女やその他の魔法関係者に出回ることは殆どない。
「だが吾輩は違う!人と変わらぬ頭脳を持ち、魔法少女にも劣らぬ魔力を、力を持った人類史上最高のホムンクルスなのであぁンる!!」
劇場公演のように、大きな身振り手振りで語る。
さながら主演男優だ。
穴息荒くドヤ顔の執事服。
その様子、思考や行動はちょっと変だが普通の人間と変わりない。
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