錬金魔導師、魔法少女を奴隷調教する

濡れ雑巾と絞りカス

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第3章

戦闘 ―テンネブリス対オーク戦(5)―

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「――――――ぷげっ!…………ぁ………あ゛……あぁ……………」

 地面に打ち捨てられる敗北魔法少女。
 魔力はまだあり、変身も解けていないことが幸いして…いや、これが幸いなのかは疑問の余地があるが、魔法少女衣装に付与された自動回復効果が発動した。
 征司の薬のように、目に見えるほどの効果は発揮できないが、死にかけた少女の命をつなぎ痛みを和らげ少しずつ身体を治していく。

「フゴオオォ!フゴオオォ!!」

 大の字でうつ伏せのまま、失禁しながら痙攣するテンネブリス。
 その様子にオークが興奮したのか、ダンダンと威嚇するように激しく地を踏む。

 既にテンネブリスは、抵抗は愚かまともに意識を保つこともできない。回復魔法が発動しているとはいえ、小一時間は動くことも難しいだろう。
 だと言うのに、オークの追撃は容赦なく執拗に続く。

「おぉ………お゛……ぁ………ぷ…………っ……………」

 ドスドス、と足音を立て二匹のオークがテンネブリスの左右に立つ。
 手に握った棍棒を同時に天高く振り上げるが、テンネブリスがそれに気づくことはない。
 数瞬の溜め時間。万全のテンネブリスであれば目をつぶってでも避けられるような大ぶりの一撃。それが、2発動時に無防備な少女へ降りかかる。

 ――ベキグチャ!!

「―――――――――――――――――――――!?い゛き゛やあああぁあぁぁぁぁぁぁぁあ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!?あ゛あ゛あ゛ッ!!あ゛あ゛あ゛ッ!!あ゛お゛お゛ア゛ア゛ッ!!」

 反射的にのたうちまわろうとするが、テンネブリスの四肢は激痛を生じるだけで彼女の意思では動かない。衝撃に飛び跳ね、神経に流れる電流が少女の身体をビクビクと震わせる。

 振り下ろされた棍棒に、少女の両膝の骨は無残に粉砕されていた。
 一撃で歩行機能など発揮しうる状態では無くなった、にもかかわらず暴虐は続く。

「ギヤァァ!!あ゛あ゛ッ!!ぐ、うううぅッ!!……あ゛ぁッ…ぁぁ……ア゛ッ!!う゛ぅぅあ゛あ゛ぁ゛ぁ゛………ッ゛…!!お゛あ゛…ッ!!あ゛ぁぁ…っ!!があ゛っ……!う゛グッ…!ウがッ、ぎいいいぃ!!」

 膝から下に何度も棍棒を振り下ろされ、きれいな少女の足が潰されていく。

「ンギッ!?あァッ!!うぎっ…!や゛ッ、あ゛ッ!!イ゛だッ、い゛ぃ゛ぃ゛!!ぎィィ、やあ゛あぁぁぁぁッッ!!」

 逃げなければ、そう思っても動けない。這って逃げようにも既に潰された両腕は自由にならず、脚を粉砕される痛みに震えるだけ。

「あ゛ぁッ!うごっ…ギギッ、動…け、うげぇぇっ!!逃げっ、アがっ!?お゛ぐっぎぎぎぎ……ッ!誰か、助け…い゛ぎああああぁぁぁあぁぁ!!」

 防御力の高い魔法少女衣装のソックスに包まれたおかげで、オークの力では、ちぎれたりぺしゃんこになったりすることはなかった。だが、当然内出血程度では収まらず、膝同様に骨がひび割れ折られていく。

「ぐぎっ……がっ……あ゛ぁッ!お……お……ぉ……ぎぃ………!」

 次第にテンネブリスは悲鳴を上げることすらなくなる。それでも続いていたオークの暴力、それもついには止んだ。

「あぁ…っ…!あ……ぁぁ……!お……ぁ…………………」

 手足こそ未だに身体についているが、指先や関節は人間の可動域を超えたあらぬ方向へ向いている。
 痛みを通り越し感覚は麻痺し、ただただ全身が熱い。目は回りっぱなしで耳鳴りがやまない。そんな中、心臓の音だけが異様に大きく聞こえる。

 皮肉にもそれが少女に生を実感させていた。

(わたくし……まだ…生きて、ますの……)

 だがやはり手足は動かそうにも動かない。
 ぼんやりとまだソレがあることだけは感じられる。

「フゴッ、フゴッ、ブブッ!!」

 オークが棍棒を投げ捨て、足を後ろに引く。

「…………げはああああっ!!!」

 丸太のように野太い足が、うつ伏せの少女の腹を下から思いっきり蹴り上げた。
 ぼんぼん、と土の地面をバウンドしながら吹き飛んでいくテンネブリス。

「ぐ……ッ……!かひっ……」

 蹴られた衝撃で息が止まる。肺が痙攣し呼吸ができない。

「ひゅー…ひゅー…げばあっ!ぐほっ、げほっ、げほっ!がああぁ………」

 窒息しかけ酸素を求めて喘ぐ。奇跡的に息を吸い込むことができたが、直後に吐き出されたのは空気だけではなかった。

 喀血。

 腹パンのラッシュでひび割れていた肋骨が、今の蹴りで折れ肺に刺さったのだろう。

「げほっ、げほっ!かひゅー、かひゅぅーーー」

 粘質の高い血液が喉に絡む。口についた血を拭おうにも、骨の折れた手は動かない。
 まさに満身創痍の少女のもとに、二匹のオークが近づいてくる。

(あぁ…わたくし……このまま、嬲り殺しにされてしまいますのね……)

 地面から響く足音が、処刑へのカウントダウンに聞こえる。

(申し訳ありません、おねぇ…さま……)

「うぐっ…ぎ……ぁ……あぁッ!」

 今度は、頭を掴まれ持ち上げられた。
 虚ろな瞳に、醜悪なオークの顔面が映し出される。
 ぺろりと固くザラザラした舌が、テンネブリスの頬を撫でる。

(気持ち悪いですわ…くっ……こんな…ブサイクな、化け物に……ッ)

 顔を舐められる感覚がやけに鮮明に感じる。全身を覆い尽くす痛みとは違う感覚だからだろうか。

 湧き上がる嫌悪感と怒り。

 魔法少女である自分が、このような醜悪な魔獣に良いように嬲られ殺されようとしている現実。受け入れられない、納得などできようはずもない。

(せめて……この小汚い豚ども、だけでも…)

 生命の危機に瀕した少女は、かつて無いほど集中していた。
 重症過ぎて痛みが麻痺していたことも幸いだ。

 体内に残った魔力をかき集め、一つの魔法を発現する。と同時に、頬を舐めるオークの舌に噛み付いた。

 オークの舌に血がにじむ。

「グギャッ!!ブゴオォォォ!!」

 オークは堪らずテンネブリスを投げ飛ばす。

「がァッ!!………ぐっ」

 もう一匹のオークにぶつかり、はたき落とされた。
 動かぬ手足では受け身も取れず、テンネブリスは血を吐きながら地に伏す。
 それでもなお、少女は最後の力を振り絞り、オークの足首に噛み付いた。

「ブモオォッ!!」

 太く硬い皮膚の表面をえぐり、わずかばかりオークの血がにじむ。

「―――――ぐがッ!!……ぉ……ぁ……」

 しかし反撃もそこまで。
 テンネブリスは噛み付いたオークに、もう一匹のオークの足元まで蹴り飛ばされた。

「ブギャアァァァァ!!」

 咆哮と共に掴み上げられ、もう一匹のオークに腹を差し出す形で肢体を掲げられる。
 この後どうなるかは容易に予想がついた。だがそれを逃れるだけの力は、今の少女にはない。

 ――ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!

「ぐげぇぇっ!!ぷぎっ!ぐばっ!!…………がああぁぁぁぁ!!お゛お゛お゛ごッ!ぎぐッガガ!!…………おごおおぉぉ!!あぎおおぉぉぉ…………!!!ぐばあぁぁぁ!!」

 殴られる度に、口から漏れる空気に血がまじる。
 そろそろ本当に死にそうだ。

 だがやれることはやった。
 心の中で小さく、テンネブリスはほくそ笑む。
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