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第3章

生きているダンジョン?

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「ちょっとちょっとっ!何よあれ!」

 テンネブリスが辛うじてブラッドファングを倒した直後、それを画面越しに見ていた茉莉香が征司に詰め寄る。

「本物の魔獣よね!?あんな狭くてなにもないところで戦わせたら、一歩間違えばあの娘死んじゃうわよ!!」

「そのへんの攻略難易度は適当にダンジョンが調整してくれるから、気を抜かなければ多分大丈夫だぞ」

「ダンジョンが調整って何!?それに適当、とか多分、とか怖すぎるわよ!!」

「あの魔犬、どう…したんですか?」

 興奮する茉莉香とは対象的に無表情でクールな梨姫が別の質問を投げかける。詰め寄る茉莉香に面倒くさそうな視線を投げつつ、征司が梨姫に反応した。

「ダンジョンが勝手に拾ってきた」

「勝手に拾ってきたって何!?あのダンジョン生きてるの!?!」

 あっけらかんとした征司の答えに、さらに身を乗り出して茉莉香が突っ込む。

「自動修復とか構造改変とかするし、まぁ生きてるっちゃぁ生きてる…と言えなくもないか?」

 どうどう、と茉莉香を抑えながら征司が続ける。

「この間、お前らが仕事してないと街に魔獣があふれる、って話があっただろ。あの後さすがにそれはまずいかと思ってこの辺一帯に魔獣が湧いたら自動的にあのダンジョン内へ転送される結界を貼ったんだよ」

 一応俺にも良心というものがあるんだ、と横行に言う天才錬金魔導師。

「……はい?」

「正確には街を覆う転送結界を展開する魔道具を作ったんだけどな」

 と補足して征司が説明を続ける。原理としてはテンネブリスをダンジョンへ飛ばした罠と同様だが、効果範囲が桁違いだ。

「で、侵入者用に作ってあったダンジョンの罠として、そこで魔獣を飼うことにしたんだ」

「お願いちょっとまって。街を覆うほどの転送結界とか、意味がわからないレベルの高位魔道具は、あなたのことだからとりあえず置いておくとして…。罠用?飼ってる…の??えっ、魔獣って飼えるの???」

 彼女たち魔法少女にとって魔獣とは人に害をなす、討伐する対象でしかない。それを飼うという発想自体が、飲み込み理解できていない。

「飼ってる、というか閉じ込めている、が正しいな」

「どういう…こと?」

 梨姫も違いがよくわからないといった様子で問いかける。

「餌やったり躾たりとかはしてないっていうことだな」

「餌をあげないで、どうやって生きていくのよ?」

「餓死したらそのまま死ぬし、複数匹魔獣がいれば共食いとかするんじゃないか?」

 詳しくはわからん、と言う雰囲気で征司が答える。

「半分は街中に魔獣が湧かないようにすることが目的だから死んだら死んだで良いんだよ。侵入者用って言っても、他に罠とかいくらでもあるし」

 ちなみに死んだらダンジョンが吸収して勝手に処分してくれる、と思い出したように付け加えられる。

「なる…ほど?」

 なまじ魔法に関する知識があるせいで話のスケールについていけず、頭にはてなを浮かべながらも茉莉香が頷く。

「あれ、でも共食いするほどの魔獣ってものすごく飢えているんじゃぁ……?」

「共食い、した…魔獣、すごく、強そう」

 茉莉香のつぶやきに反応し、ボソっと梨姫が漏らした。

「そうよ、魔獣が魔獣を倒すと強くなるって聞いたことがあるわ!稀に進化する場合もあるって!!飢えてて凶暴化した魔獣が共食いして、進化までしてたらっ!?」

「侵入者用の罠としては最適だな!」

 征司が笑顔で親指を立てる。絶対にわざとだ。

「違う違うっ!クロエが死んじゃうじゃない!!あの娘、直接戦闘は苦手なのよ!」

「あぁまぁ、死んでも平気だから」

「―――ッ!!?」

 流れるように軽く答える征司に、茉莉香が息を呑み鬼の形相で征司をにらみつける。
 しばしの沈黙。
 その瞳を見つめ返し、冷静な口調で征司が返す。

「錬金術師のアトリエに侵入してきたんだ、それくらい当然だろう」
「…………ッ!」

「それに、あのダンジョン内で死んでも生き返れるからな」
「……はっ?」

「そのへんも、ダンジョンが勝手にやってくれる」

 鬼の形相が一転、目を点にする茉莉香。

「まっ、程々に反省させたら出してやるよ。うちのダンジョンの実践テストもしてもらうわけだからな」

 征司はこれまでと変わらない軽い口調で言うと、ダンジョン攻略を進める画面内の少女へ視線を移す。

「あの…松崎君って、もしかして、死者蘇生とか…できるんでしょうか?救急救命的なのじゃなくて、バラバラ死体とかの…蘇生とか……」

 茉莉香が急に敬語になり問いかける。

「ん?むしろできないと思ってたのか?」

 少年の答えに唖然とする茉莉香。一方、横で話を聞いていた梨姫は驚いた様子もなく当然のこととして受け取っていた。
 当たり前だが、回復・援護専門の魔法少女でも、死者蘇生などできない。破格の回復性能を持つ最上位霊薬エリクサーでも、心臓が止まりたてで生死の境を彷徨っている者ならば助かるかも知れない程度の回復力だ。

「なんだよ、ほんとにできないと思ってたのか。死んでも生き返らせてやるっていつも言ってるだろ?」

「それは、その…AED的な救命救急のようなものかと…思っていたんです…けど」

(えっ、いや普通そうでしょ?!死んだ人間を生き返らせられるとか普通思わないよね!?私がおかしいの?!!)

 どうして私が非常識なような目で見られないといけないのか、と目の前の錬金魔道士に抗議したいところだったが、何を言ってもそれによって悪い未来が起こる気がして言葉が出てこない。

「まぁ生き返らせ方によっては色々条件はあるけどな。そういやお前まだ一度も死んでなかったな。なんなら今度死ぬまで拷問してから生き返らせてやるよ」

「いえ、ごめんなさい、結構です間に合ってます」

 結局何も言わなくても起こる未来は変わらなさそうだ。

「死にたてほやほやなら神聖霊薬ネクタルエリクサーとかサクッと作れる薬で生き返らせれるから遠慮するなよ」

「いえ、ごめんなさい、本当に間に合ってます。あと、神聖霊薬なんて聞いたこともないですサクッと作らないでください…」

 笑いながら言う征司に茉莉香は真顔で拒否し続ける。聞いたこともないヤバそうな薬の名前が出てきて、多分人間が簡単に作れるものじゃないんだろうなぁ…と生気を失った目で自分の未来を案じながら、ダンジョン攻略を進める後輩を見つめていた。

「あの、ダンジョン…犯されて、殺されて、生き返って、犯されて、殺されて、生き返って…ループ、でき…る、最高の…環境?」

 ぼそっと梨姫がエゲツないことを言い出す。
 最高かどうかは人によるだろうが、実際に起こる現象はその通りだ。

 どうやら、黒髪の後輩魔法少女はとんでもない場所へ捕らわれてしまったようだ。
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