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第2章
幕間―噂―
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梨姫との拷問勝負が終わり、後片付けを終えた征司は胸元に少女を抱きかかえ、拷問部屋を後にした。
「ぁ…………ん………」
気を失っている間に制服に着せ替えられた梨姫。リビングまで戻ってきたタイミングで身動ぎし、意識を取り戻した。
「……ご主、人…様……わた…し…」
「もう気がついたか。まだ無理をするな」
征司は、胸に手を置いて起き上がろうとする梨姫を優しく抑えそのままソファへと歩きだす。
梨姫もすぐに抵抗をやめ抱きつくように征司の首に手を回し、胸に顔をうずめ大人しく運ばれていく。
「スゥーー…はぁー……すぅーー……はぁー………」
(征司さんの、匂い…)
「こら、人の首筋をスーハーするな」
「ん……バレた…いい匂い」
梨姫は照れたように一度顔を上げ征司と目が合う。嬉しそうな顔をしつつ、征司の視線に耐えきれず、すぐにほんのりと赤らんだ表情を隠す様にそっぽをむいてしまった。
征司は梨姫をソファに座らせると、額をコツンと突いてからダイニングへ向かう。
「しかしお前、あれだけやられといてもう目が覚めるとか、頑丈すぎるだろ」
「うん…そこは、自信…ある」
冷えた炭酸水とグラスを2つ持って戻ってきた征司に、梨姫が答える。
「それに、ご主人様を…信じてた、から」
「まぁ負けは負けだ。お前が昨日泊まった部屋、今日から好きに使っていいぞ」
「やたっ♡」
梨姫は小さな声だが嬉しそうに呟き、右手で控えめなガッツポーズを作る。
「それと、一つ言うことを聞いてやるって約束だったから、それも叶えてやらないとな。何が良い?」
やっぱりなぶるちゃん2号機に入りたいとかか?とグラスに炭酸水を注ぎながら、征司が問いかける。
「ん……それは、また今度で、良い」
なぶるちゃんは頼まなくてもそのうち入れてもらえるだろうと思い、梨姫はそれ以外の要望を考えていた。
「じゃぁ、何がいいんだ?まだ決まってなかったらまた今度でもいいが」
「ううん、決まってる」
両手でグラスを持ち、注がれた炭酸水を控えめにこくこく飲む梨姫。
喉を駆け抜ける清涼感。
くぴっと小さくガスを吐き出してから、梨姫が続ける。
「明日、デート…して」
「はぁ!?」
想定外の要望に、素っ頓狂な声をあげる征司。
「いや、おま、えっ?良いけど、なんでまた、俺と?」
「ここで、生活、するのに、色々と…買い物、したい」
「あぁ、そりゃ必要な物は好きに買って良いが……」
「だから、明日、買い物…に、付き合って」
「なんだ、そういうことか。買い物したいなら普通にそう言えよ。良いぜ、付き合ってやる」
「お買い物…デート」
財布兼荷物持ちが欲しいと言うことかと納得する征司に、デートと主張する梨姫。
梨姫は相当嬉しいのか、普段無表情な梨姫の表情がほころび、犬が尻尾を振るようにソファに座ったまま足をパタパタと動かしていた。
その時。
――リーンリーン
部屋の中に、鈴の音が響き渡る。
「客か…?」
訝しげに征司がリビングの壁一面にかけられたカーテンを開ける。
窓の外、木の板が張り巡らされたバルコニーはちょっとした庭ほどの広さがあり、落下防止の柵の前には整えられた草木が茂っている。都会の中の空中庭園、ベンチでも置いてあれば陽気のいい日には気持ちよく昼寝ができそうな空間だ。
その空中庭園の真ん中に、マントを羽織った黒いビキニ姿の美女が立っていた。西洋人特有の鼻筋の高い整った容姿に綺麗なブロンド髪を風になびかせ、頭には広い鍔付きのトンガリ帽子、肩に黒猫を乗せている。
一言で表現するなら、露出度の高い西洋の魔女だ。
「ネヴィア、あんたか」
征司が窓を開け、声をかけると魔女は室内へと入ってきた。
「こんばんは、元気そうね」
室内へ足を踏み入れると同時に、黒いストッキングに包まれた細い御御足(おみあし)から魔女のブーツが消える。
ぺこりと頭を下げた梨姫が、魔女流の靴の脱ぎ方だろうかと観察していると、征司と魔女のやり取りが始まった。
「どうしたんだ、急に?」
「急じゃないわよ。昨日の昼過ぎ、こっちの時間だと朝方かしら、連絡入れておいたわよ」
「そうか……すまない忙しくて気がついていなかった」
ポケットから取り出したスマホをいじり、メッセージを確認してから謝る征司。
そこの連絡スマホなんだ…と心の中でつぶやく梨姫を差し置き、二人のやり取りが続く。
「そうみたいね。噂の魔法少女と遊んでたのかしら?」
「噂のって、なんだそれ?誰がそんな…」
「さぁ?日本(こっち)の方で聞いた風の噂よ。【中立の万能屋】が魔法少女を手に入れたって、私のところに届くくらいには広まっているわ」
あいつらだろうか…と呟きながら、征司は茉莉香を捕らえた時の取引相手を思い浮かべる。征司が魔法少女を捕らえたことを知っている人物で真っ先に思いつくのは、彼らくらいだ。しかし、学園や街中でもプリズマシャインを連れて遊んでいた。一般人向けの隠蔽はしていたが、こちらの世界の人間のことはあまり気にしていなかった征司はさほどの隠蔽対策をしていない。
元々バレたところで何かされることもないだろうと高をくくっていたのだ。誰にも察されていないかというと、征司にもそこまでの自信はなかった。
耳ざといネヴィアに伝わる程度に情報が流れていることに驚きつつ、問題があるようならば後で情報源をシバキに行こうと決め、今は眼前の魔女の要件を片付けようと征司は気持ちを切り替えた。
「その話はまぁいい。それで、今日買いたいって言っている物品だが…」
「うちのパトロンからの依頼でね、いつもの最上位霊薬(エリクサー)と精神回復薬(アストラルポーション)を10本いただきたいの。それと高純度の魔法聖銀(ミスリル)を1kgほど融通していただけないかしら。属性剤もお願い、聖水風雷火を10本ずつね、すぐ用意できる?」
精神回復薬はその名の通り、精神を回復するための薬だ。最上位霊薬と並んで征司の店の主力商品で、廃人化した人間ですら一瞬で元の正常な精神状態に戻すことができる。魔法聖銀は錬金術でのみ作り出せる魔法金属、属性剤は魔道具作成の基礎となる素材だ。
「あぁ、在庫はあるよ。しかし最上位霊薬(エリクサー)に魔法聖銀(ミスリル)に、景気が良いな?」
征司はその注文内容に驚きながら、異空間の収納庫から言われたアイテムを取り出す。彼が売り出している価格で、軽く安い戦闘機程度なら買えてしまうほどの金額になる。
「あの豚(へんたい)、新しい奴隷(おもちゃ)を手に入れて張り切っちゃってるのよ。ミスリルはまた別件ね。こっちも最近物騒で、魔法少女からの宝具作成依頼」
「っと、ほらよ、これで全部だ、確認してくれ」
「えぇ、確かに」
並べられた物品の品質を確かめて、魔女が頷く。
「それにしたって最上位霊薬と精神回復薬10本は多すぎだろ、普通の人間なら分けて使えば100人は蘇生できるぞ」
「あれは真正のサディストですもの…好みの奴隷を手に入れてから、毎日焼いたり斬ったり潰したり、やりたい放題楽しんでいるみたいよ。この間なんて隷属化した食人蟲を大量によこせとか言われて、流石に引いたわ」
喰わせたのだろうか……一瞬その様相を想像しかけて、あまり気持ちのようものではないなとそれ以上は思いとどまった征司である。
「この調子だと、またすぐ最上位霊薬と精神回復薬をよこせって言ってきそうよ」
だろうなぁ、と相槌を打つ。聞いた限りでは、最上位霊薬10本でも少なすぎる。
「そりゃまた…その奴隷さん方には災難だがこちらとしては嬉しい収入だな」
「一人は東洋人の少女らしいわ。あの強欲豚、そのうちあなたが捕まえた魔法少女をよこせって言い出さないか心配ね」
複数人いるのかよ、と突っ込みつつ不遜な態度で答える征司。
「そうなったら、そいつの命運もそこまでだったってことだな」
「はぁ……そうね。最近そろそろ別のパトロンを探したほうが良いんじゃないかと本気で思っているわ」
深い溜め息を吐きながら、魔女は受け取ったアイテムを異空間へ収納していく。
「ところで、噂に聞いていたのとは随分違うわね」
ソファに座ったまま成り行きを見守っていた梨姫を見やり、閑話休題といった様子で魔女が問いかけた。
「あぁ、多分そりゃもう一人の方だろう、こいつはこの間押しかけてきた別の変態(魔法少女)だ」
「あら、そうなの。ふ~ん、こういうのが好みなの?」
何気ない魔女の問いかけに、突如矛先が向いた梨姫がビクリと反応し、征司の答えを恐る恐る伺うように視線を送る。
「まぁ、嫌いじゃないな」
「あら、素直じゃないのね」
「素直な感想だ」
何を言っている、と心外そうな顔をしている征司。
あらそう、とそれ以上魔女も話をふくらませるつもりは無さそうだ。
「それで、支払いは?」
「今回は現金で良いかしら?半分は豚(パトロン)のお使いですから。良ければいつもの口座に振り込ませていただくわ」
金づるの呼び方に悪意を混ぜつつ問われ、苦笑いしつつ征司が答える。
「おーけー、それで」
「ありがとう。それじゃぁ、私はこれで失礼するわね」
魔女は振り向きざまにウインクをして、窓からバルコニーへ跳ねるように飛び出し、空中へ二歩三歩階段を昇るようにステップすると、その姿がかき消えた。
「空間、転移…?」
「普通に光学迷彩と魔力隠遁で姿隠して、箒で飛んでったぞ」
「……私たち(魔法少女)に、認識、できない、隠遁は…普通、じゃない。今の、人は…?」
「『西の魔女』、ヨーロッパ中心に活動している天然(ナチュラル)魔術師(メイガス)だ」
「魔術、師…」
「あぁ、呪術と宝具作成が得意な高位魔術師(ハイメイガス)だな」
「ヨーロッパから、来たの…?」
「じゃねぇのかな。あの人、お手製の箒で飛ぶとマッハ超えるから。世界中回ってて、割とうちにもよく来てくれるお得意様だ、顔くらい覚えとけ」
隠遁術も移動も並の魔法少女を超える能力だ。天然物ではありえない能力の高さに梨姫が驚く。
元々『西の魔女』は欧州地方でも由緒ある魔女の流れをくみ、世界中でも5指に入るほどの大魔法使いだ。それが、征司が売りつけた高純度の魔術素材を使った魔力増幅器(タリスマン)などのチート装備をふんだんに使った結果が、梨姫にも認識できない隠遁とマッハ超えの超速移動である。
と、窓を閉めながら征司が説明し、征司の作った道具ならば当然だと梨姫が納得したところで話が戻る。
「話が途中だったな」
征司が一枚のカードを取り出した。
「ほら、家の鍵だ。後でマンション入り口を開けるための生体認証も登録しにいくぞ」
「ありがとう、ございます?」
生体認証という言葉に、語尾が疑問系の梨姫。
征司の住むマンションは、入り口のオートロックが静脈センサーか顔認証でも開けられる。そのための住民登録のことを言っていたのだが、まぁやれば分かるだろうと彼は説明を端折った。
「細かいことは明日にして、まずはお前の家から必要な物を持ってくるか。動けそうならついてこい」
「はい…行きます」
その後、征司の転移魔法と異空間収納魔法で梨姫の引っ越しは1時間もしないうちに終了した。
「ぁ…………ん………」
気を失っている間に制服に着せ替えられた梨姫。リビングまで戻ってきたタイミングで身動ぎし、意識を取り戻した。
「……ご主、人…様……わた…し…」
「もう気がついたか。まだ無理をするな」
征司は、胸に手を置いて起き上がろうとする梨姫を優しく抑えそのままソファへと歩きだす。
梨姫もすぐに抵抗をやめ抱きつくように征司の首に手を回し、胸に顔をうずめ大人しく運ばれていく。
「スゥーー…はぁー……すぅーー……はぁー………」
(征司さんの、匂い…)
「こら、人の首筋をスーハーするな」
「ん……バレた…いい匂い」
梨姫は照れたように一度顔を上げ征司と目が合う。嬉しそうな顔をしつつ、征司の視線に耐えきれず、すぐにほんのりと赤らんだ表情を隠す様にそっぽをむいてしまった。
征司は梨姫をソファに座らせると、額をコツンと突いてからダイニングへ向かう。
「しかしお前、あれだけやられといてもう目が覚めるとか、頑丈すぎるだろ」
「うん…そこは、自信…ある」
冷えた炭酸水とグラスを2つ持って戻ってきた征司に、梨姫が答える。
「それに、ご主人様を…信じてた、から」
「まぁ負けは負けだ。お前が昨日泊まった部屋、今日から好きに使っていいぞ」
「やたっ♡」
梨姫は小さな声だが嬉しそうに呟き、右手で控えめなガッツポーズを作る。
「それと、一つ言うことを聞いてやるって約束だったから、それも叶えてやらないとな。何が良い?」
やっぱりなぶるちゃん2号機に入りたいとかか?とグラスに炭酸水を注ぎながら、征司が問いかける。
「ん……それは、また今度で、良い」
なぶるちゃんは頼まなくてもそのうち入れてもらえるだろうと思い、梨姫はそれ以外の要望を考えていた。
「じゃぁ、何がいいんだ?まだ決まってなかったらまた今度でもいいが」
「ううん、決まってる」
両手でグラスを持ち、注がれた炭酸水を控えめにこくこく飲む梨姫。
喉を駆け抜ける清涼感。
くぴっと小さくガスを吐き出してから、梨姫が続ける。
「明日、デート…して」
「はぁ!?」
想定外の要望に、素っ頓狂な声をあげる征司。
「いや、おま、えっ?良いけど、なんでまた、俺と?」
「ここで、生活、するのに、色々と…買い物、したい」
「あぁ、そりゃ必要な物は好きに買って良いが……」
「だから、明日、買い物…に、付き合って」
「なんだ、そういうことか。買い物したいなら普通にそう言えよ。良いぜ、付き合ってやる」
「お買い物…デート」
財布兼荷物持ちが欲しいと言うことかと納得する征司に、デートと主張する梨姫。
梨姫は相当嬉しいのか、普段無表情な梨姫の表情がほころび、犬が尻尾を振るようにソファに座ったまま足をパタパタと動かしていた。
その時。
――リーンリーン
部屋の中に、鈴の音が響き渡る。
「客か…?」
訝しげに征司がリビングの壁一面にかけられたカーテンを開ける。
窓の外、木の板が張り巡らされたバルコニーはちょっとした庭ほどの広さがあり、落下防止の柵の前には整えられた草木が茂っている。都会の中の空中庭園、ベンチでも置いてあれば陽気のいい日には気持ちよく昼寝ができそうな空間だ。
その空中庭園の真ん中に、マントを羽織った黒いビキニ姿の美女が立っていた。西洋人特有の鼻筋の高い整った容姿に綺麗なブロンド髪を風になびかせ、頭には広い鍔付きのトンガリ帽子、肩に黒猫を乗せている。
一言で表現するなら、露出度の高い西洋の魔女だ。
「ネヴィア、あんたか」
征司が窓を開け、声をかけると魔女は室内へと入ってきた。
「こんばんは、元気そうね」
室内へ足を踏み入れると同時に、黒いストッキングに包まれた細い御御足(おみあし)から魔女のブーツが消える。
ぺこりと頭を下げた梨姫が、魔女流の靴の脱ぎ方だろうかと観察していると、征司と魔女のやり取りが始まった。
「どうしたんだ、急に?」
「急じゃないわよ。昨日の昼過ぎ、こっちの時間だと朝方かしら、連絡入れておいたわよ」
「そうか……すまない忙しくて気がついていなかった」
ポケットから取り出したスマホをいじり、メッセージを確認してから謝る征司。
そこの連絡スマホなんだ…と心の中でつぶやく梨姫を差し置き、二人のやり取りが続く。
「そうみたいね。噂の魔法少女と遊んでたのかしら?」
「噂のって、なんだそれ?誰がそんな…」
「さぁ?日本(こっち)の方で聞いた風の噂よ。【中立の万能屋】が魔法少女を手に入れたって、私のところに届くくらいには広まっているわ」
あいつらだろうか…と呟きながら、征司は茉莉香を捕らえた時の取引相手を思い浮かべる。征司が魔法少女を捕らえたことを知っている人物で真っ先に思いつくのは、彼らくらいだ。しかし、学園や街中でもプリズマシャインを連れて遊んでいた。一般人向けの隠蔽はしていたが、こちらの世界の人間のことはあまり気にしていなかった征司はさほどの隠蔽対策をしていない。
元々バレたところで何かされることもないだろうと高をくくっていたのだ。誰にも察されていないかというと、征司にもそこまでの自信はなかった。
耳ざといネヴィアに伝わる程度に情報が流れていることに驚きつつ、問題があるようならば後で情報源をシバキに行こうと決め、今は眼前の魔女の要件を片付けようと征司は気持ちを切り替えた。
「その話はまぁいい。それで、今日買いたいって言っている物品だが…」
「うちのパトロンからの依頼でね、いつもの最上位霊薬(エリクサー)と精神回復薬(アストラルポーション)を10本いただきたいの。それと高純度の魔法聖銀(ミスリル)を1kgほど融通していただけないかしら。属性剤もお願い、聖水風雷火を10本ずつね、すぐ用意できる?」
精神回復薬はその名の通り、精神を回復するための薬だ。最上位霊薬と並んで征司の店の主力商品で、廃人化した人間ですら一瞬で元の正常な精神状態に戻すことができる。魔法聖銀は錬金術でのみ作り出せる魔法金属、属性剤は魔道具作成の基礎となる素材だ。
「あぁ、在庫はあるよ。しかし最上位霊薬(エリクサー)に魔法聖銀(ミスリル)に、景気が良いな?」
征司はその注文内容に驚きながら、異空間の収納庫から言われたアイテムを取り出す。彼が売り出している価格で、軽く安い戦闘機程度なら買えてしまうほどの金額になる。
「あの豚(へんたい)、新しい奴隷(おもちゃ)を手に入れて張り切っちゃってるのよ。ミスリルはまた別件ね。こっちも最近物騒で、魔法少女からの宝具作成依頼」
「っと、ほらよ、これで全部だ、確認してくれ」
「えぇ、確かに」
並べられた物品の品質を確かめて、魔女が頷く。
「それにしたって最上位霊薬と精神回復薬10本は多すぎだろ、普通の人間なら分けて使えば100人は蘇生できるぞ」
「あれは真正のサディストですもの…好みの奴隷を手に入れてから、毎日焼いたり斬ったり潰したり、やりたい放題楽しんでいるみたいよ。この間なんて隷属化した食人蟲を大量によこせとか言われて、流石に引いたわ」
喰わせたのだろうか……一瞬その様相を想像しかけて、あまり気持ちのようものではないなとそれ以上は思いとどまった征司である。
「この調子だと、またすぐ最上位霊薬と精神回復薬をよこせって言ってきそうよ」
だろうなぁ、と相槌を打つ。聞いた限りでは、最上位霊薬10本でも少なすぎる。
「そりゃまた…その奴隷さん方には災難だがこちらとしては嬉しい収入だな」
「一人は東洋人の少女らしいわ。あの強欲豚、そのうちあなたが捕まえた魔法少女をよこせって言い出さないか心配ね」
複数人いるのかよ、と突っ込みつつ不遜な態度で答える征司。
「そうなったら、そいつの命運もそこまでだったってことだな」
「はぁ……そうね。最近そろそろ別のパトロンを探したほうが良いんじゃないかと本気で思っているわ」
深い溜め息を吐きながら、魔女は受け取ったアイテムを異空間へ収納していく。
「ところで、噂に聞いていたのとは随分違うわね」
ソファに座ったまま成り行きを見守っていた梨姫を見やり、閑話休題といった様子で魔女が問いかけた。
「あぁ、多分そりゃもう一人の方だろう、こいつはこの間押しかけてきた別の変態(魔法少女)だ」
「あら、そうなの。ふ~ん、こういうのが好みなの?」
何気ない魔女の問いかけに、突如矛先が向いた梨姫がビクリと反応し、征司の答えを恐る恐る伺うように視線を送る。
「まぁ、嫌いじゃないな」
「あら、素直じゃないのね」
「素直な感想だ」
何を言っている、と心外そうな顔をしている征司。
あらそう、とそれ以上魔女も話をふくらませるつもりは無さそうだ。
「それで、支払いは?」
「今回は現金で良いかしら?半分は豚(パトロン)のお使いですから。良ければいつもの口座に振り込ませていただくわ」
金づるの呼び方に悪意を混ぜつつ問われ、苦笑いしつつ征司が答える。
「おーけー、それで」
「ありがとう。それじゃぁ、私はこれで失礼するわね」
魔女は振り向きざまにウインクをして、窓からバルコニーへ跳ねるように飛び出し、空中へ二歩三歩階段を昇るようにステップすると、その姿がかき消えた。
「空間、転移…?」
「普通に光学迷彩と魔力隠遁で姿隠して、箒で飛んでったぞ」
「……私たち(魔法少女)に、認識、できない、隠遁は…普通、じゃない。今の、人は…?」
「『西の魔女』、ヨーロッパ中心に活動している天然(ナチュラル)魔術師(メイガス)だ」
「魔術、師…」
「あぁ、呪術と宝具作成が得意な高位魔術師(ハイメイガス)だな」
「ヨーロッパから、来たの…?」
「じゃねぇのかな。あの人、お手製の箒で飛ぶとマッハ超えるから。世界中回ってて、割とうちにもよく来てくれるお得意様だ、顔くらい覚えとけ」
隠遁術も移動も並の魔法少女を超える能力だ。天然物ではありえない能力の高さに梨姫が驚く。
元々『西の魔女』は欧州地方でも由緒ある魔女の流れをくみ、世界中でも5指に入るほどの大魔法使いだ。それが、征司が売りつけた高純度の魔術素材を使った魔力増幅器(タリスマン)などのチート装備をふんだんに使った結果が、梨姫にも認識できない隠遁とマッハ超えの超速移動である。
と、窓を閉めながら征司が説明し、征司の作った道具ならば当然だと梨姫が納得したところで話が戻る。
「話が途中だったな」
征司が一枚のカードを取り出した。
「ほら、家の鍵だ。後でマンション入り口を開けるための生体認証も登録しにいくぞ」
「ありがとう、ございます?」
生体認証という言葉に、語尾が疑問系の梨姫。
征司の住むマンションは、入り口のオートロックが静脈センサーか顔認証でも開けられる。そのための住民登録のことを言っていたのだが、まぁやれば分かるだろうと彼は説明を端折った。
「細かいことは明日にして、まずはお前の家から必要な物を持ってくるか。動けそうならついてこい」
「はい…行きます」
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