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第2章

少女と少年の差

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 征司が右指をパチンと弾く。
 すると呪印による束縛の一切が無くなり、茉莉香の本来の力が開放された。

「なっ!?」
「ついでにこれもやるよ」

 虚空から取り出したポーションを茉莉香に投げて寄越す。

「最上位霊薬(エリクサー)……」

 受け取った茉莉香は、一瞬躊躇するがすぐにそれを飲み干した。
 魔力、体力ともに全快し、少女の人生で最高潮のコンディションが訪れる。

「1分間、お前の攻撃を全部受けてやる。自分の無力をもう一度身を持って思い知れ」

 完全な状態の魔法少女を目の前にして、征司の余裕は一切揺るがない。
 少女の力を最大限まで開放させ、その上でねじ伏せる。少年の圧倒的な自信の現れだ。

「馬鹿にして…!」

「妥当な評価だろう。もし傷一つでもつけられたら、今日から1週間なにもしないでやるよ」

 思い返せば、少年と茉莉香はまともに戦えたことがない。
 一度目は初撃で堕とされ、二度目はアクアブロンテに倒された。
 プリズマシャインは、松崎征司に攻撃を当てたことすらなかった。

 彼の強さを知った今、正面から戦えば征司に勝てるとは思っていない。
 しかし、茉莉香も以前は天才とまで呼ばれていた魔法少女だ。攻撃を当てさえすれば多少のダメージは与えられる、という自信は未だに失っていなかった。

 征司の思惑を裏切り、少しでも抵抗する。性調教で堕ちかけていた心に活を入れ、ニヤつく少年に立ち向かう。
 空になったポーション容器を投げ捨て、魔法少女プリズマシャインに変身した茉莉香は、愛剣を召喚し構えた。

 彼女に可能な極限まで、魔力が込められた剣は長さを変え1m以上あるロングソードへと変化する。
 その刀身が光り輝く。

「死んでも、知らないわよ」

「どうせ傷一つ付かないから構わず来いよ」

(霊薬のおかげ?前よりも力が漲っている気がするわ、これなら当てればただでは済まさない!)

 少女がさらに腰を落とし、剣をひき、刀身から全身まで魔力を循環さえ力を高めていく。
 少年を殺すつもりで全力を込める。ついには全身からも闘気のように、白い魔力光が奔った。

(目にもの見せてあげる!)
「いくわよ」

「いつでもどうぞ」

 魔力光が太陽の如く輝き、目が焼かれそうなほど強まった光が一瞬で弾けた。

「《シャインスラッシュ!!!》」
 ――ガキーン、ドンッ!!

 光速の斬撃。
 音速を超えた空気の衝撃と共に、光の塊となったプリズマシャインが征司にぶつかる。
 並の魔法少女、どころか大抵の魔獣や魔人族ならば防ぎようもなく一撃で斬り飛ばされる、少女が持つ最強の一撃。

 もしかしたら魔界にいるという魔人族の王、魔王にすら傷を負わせられるかもしれない。技を放った少女自身がそう思えるほどの完璧な一撃だった。

 だがしかし、少女は愛剣を最後まで振り抜くことはできなかった。

 上段から振り下ろされたその刃は、征司に手のひらで刃を受け止められ、それ以上動くことがない。

(うそっ!?…ならっ!!)

「――フッ!!」

 止まっていたのは一瞬。
 諦めずに剣を引き抜き、踊るように次々と斬撃を繰り出すプリズマシャイン。

 乱撃乱撃乱撃。

 目にも止まらぬ連撃が幾重にも繰り出されるが、その全てが征司の右手一本で止められる。

(全部右手の魔法障壁で防がれてる!?…ならっ)

 連撃の最中に魔法を展開。術式を組み上げ、発動と同時に後方へと飛び退く。

「《アークライトレイン!!》」

 不可視の光線が全方向から焼き貫かんと征司に迫る。

 ――カキーン

 しかし、それらも全て障壁に阻まれ征司の肌に傷をつけることができず霧散する。

(これもだめっ!?なんでっ…前より威力が上がっているはずなのに)

 不本意ではあるが、征司に捕らえられてからの調教でプリズマシャインの魔力は増加していた。日々魔法少女姿で限界近くまで嬲られたおかげ (?)で、保有魔力量、魔力制御といった魔法技術が格段に向上していたのだ。また昨日の懸垂拷問のような辛すぎる責めで、肉体面でも強化されていた。それに加えて、征司から受け取った奴隷タグによる能力強化も生きている。

 初めの斬撃も、続く光線魔法も、征司に捕まる前に放てたものの倍以上の威力が出ていた。
 だが、それでも少年の表情を崩すことすらできない。

(だったらこれで!)

 両手を前に突き出し、空中に五重の魔法陣を出現させる。そこに込められるだけの魔力を込めると、中心から猛烈な光の波動が迸る。

「《シャイニングライザー!!》」

 レーザーの様な光魔法だ。魔法陣から一点集中型の光線が放たれ続ける。

(一点突破で障壁を削り破る!)

 キーーーーーンと甲高い音を立てながら、レーザーが征司の魔法障壁を削ろうとする。
 しかし、魔法障壁で止められた位置からレーザーは一向に先へ進む気配がない。

(これでも、だめなの…!!?)

 魔法を止め、大きく息を吸い呼吸を整える。

(高威力の魔法をこんなに使っても、まだこんなに魔力が残ってる…前よりすごく強くなっているはずなのに)

 深呼吸によって体内の魔力循環も整え、次の攻撃方法を考えるプリズマシャイン。
 その様子を、征司は繭一つ動かさない涼しい顔で眺めていた。

(光魔法が効かない…?単一属性でだめなら、今度は!)

 プリズマシャインの立つ場所を中心に、床に光り輝く巨大な魔法陣が現れる。
 続けて、プリズマシャインの背後を覆うかのように多数の魔法陣が現れ、少女の姿が魔力光で覆われる。

 先程までとは違い、光に赤みが混じる。
 少女は極限まで集中し、術式を展開する。
 最後に、プリズマシャインの前に一際大きな魔法陣が描かれると、これまでで一番多くの魔力が注がれた大魔法が発動した。

「《シャインクラスタエクスプロージョン!!!》」

 ――ドゴーーーン!!

 征司を中心に、あたりに無数の光球が生まれ、それら全てが大爆発を引き起こした。
 あまりの衝撃に、拷問部屋が大きく揺れる。

(くうぅー、威力高すぎた!?)

 爆風に目を閉じ、左手で覆い、吹き飛ばされないように堪える魔法少女。
 予想以上の威力に部屋が崩れるのではないかと不安がよぎった。

 プリズマシャインが放った魔法は、小さな山くらいならば吹き飛ばしかねない威力を発揮した。
 当然、広いとはいえ部屋の中でこんな魔法を放てば人も建物も無事ですむわけがない。

 爆風が収まり、うつむき気味の姿勢から目を開けると、床に赤い液体が飛び散っていた

「やったっ!」

 歓喜の声を上げるプリズマシャイン。
 血が飛び散るほどに錬金魔道士を傷つけたと思い、爆発の中心地へ目をやる。

 最初に目に入ったのは拷問部屋の床。あれ程の爆発にも関わらず、傷一つ付いていない床面。

 ドクリと心臓が大きく脈打つ。

 目に入ってくる光景が、信じられないと小刻みに震えながら視線を床から上へと上げていく。
 
 そこに立っていたのは無傷の征司、そして何も変わらない様子の拷問部屋。

 よく見れば、机の上に置かれた道具なども、一切動いていない。
 飛び散った液体は征司の血液ではなかった。
 しゅわしゅわと白い煙を立てて消え始める赤い液体に、周囲への爆発ダメージも全て無効化されていたのだ。

「そん…な…!?」

 征司なら、この異様なほどに強い錬金魔道士なら、今の強力な魔法でも死ぬとは思っていなかった。だが、少しくらい傷をつけられたのでは、あわよくば重症程度は負わせられているのではないか、そう彼女の中に期待があったのも事実だ。

 それがまさかの無傷、どころか周囲への被害すら完全に防がれていた。

 少女の身体から力が抜ける。
 化け物だ、こんなものどうにかできるはずがない。
 魔法少女は悟ってしまった。
 そして、自分の行動を後悔したその時。

「1分だ。やはりどれも効かなかったな」

 少年の口から、冷淡に少女の敗北が告げられる。

「ぇ…あぁ……いや……うそ……………」

 体が震え、今にもへたり込んでしまいそうだ。以前であれば、高威力の魔法をこれだけ連打すれば魔力枯渇による身体能力低下が起きていた。しかし、今のプリズマシャインにはまだ体を支えるには十分な量の魔力が残っている。

 だがそれでも、両手両足に力が入らず震えが止まらない。
 この感覚が恐怖だと気がついたのと、プリズマシャインの身体が宙に浮いたのはほとんど同時だった。

 ――ドスッ!

「――――グハッ!!げっほおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!!?」

 征司の拳が、プリズマシャインの柔らかな腹に突き刺さる。
 後方へ吹き飛びそうになるが、頭を捕まれ少女はその場に固定されていた。
 続けて今度は蹴りをもう一撃。

 ――ドスンッ!

「ぐげあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああッ!!うげっ、おげぇぇ……!」

 大型トラックに正面衝突されたかのような衝撃を、少女の腹部が偏に受け止める。
 全身の骨がばらばらになり、内臓が弾けてもおかしくない威力。
 少女は、自分がまだ壊れず痛みを感じれる程度に型をとどめているという事実が奇跡に思えた。
 それでも、平気で耐えているわけではない。

 体の中から弾ける激痛。

 湧き上がる嗚咽を抑えることができず、何度も胸を限界近くまで上下させ、胃酸を吐き出していく。

「壊すとめんどくさいからかなり手加減したが、わかっただろ?これが俺とお前の実力差だ」

 少年の動きは、プリズマシャインにも辛うじて見えた。だがその拳は吸い込まれるように少女を捕らえ、とても避けたり防いだりと対抗できるようには思えなかった。

「うぐっ…げぇ……ほっ、げほぉ……」

 頭を離され、地面に足をついたプリズマシャインは、そのまま崩れ落ちた。
 おげおげと膝を折った体勢で両手を地面につきながら、しばらく腹の中身を吐き続ける。

(動きがほとんど見えなかった…こんなの、勝てるわけない……わたしは…なんて化け物を……)

 吐くものがなくなるまで吐き続け、傷ついた体内を癒そうと反射的に回復魔法を自分にかける。
 その体は小刻みに震え、心は圧倒的な力の前に恐怖で満たされていた。

「まぁ、でも最後のはなかなか良かったぜ。俺にこいつを使わせたことは褒めてやる」

 顔をあげられるまで回復した少女の瞳に、くるくると指の間で試験管を回しながら見下ろす少年の姿が映る。

(あの試験管…それにさっきの液体…魔道具で私の攻撃を防いだの?)

 ひたすら吐き続けた故の酸欠に頭がぼーっとする中、回る試験管の動きを少女の瞳が追い続ける。

(魔法で防がれたわけじゃぁなかった…道具を使わないと防げなかったと考えていいのかしら…。でも、使ったところも見えなかった…やっぱり私では……)

 ゆっくりと、自分の体に回復魔法をかけながら、プリズマシャインが思案する。

(ううん、だめ、弱気になったら!今はだめでも、いつかなんとかする…じゃないと…一生、奴隷のままだわ!!)

 圧倒的な実力差に絶望し、屈して全てを諦めそうになる心を必死に奮い立たせる魔法少女。

 そこに征司が次なる絶望を与える。
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