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第1章
新生活(2)
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渡された銀のタグの効果に驚く茉莉香に、俺にかかればそんなもの朝飯前よ、と征司が嘯く。
「それと、お前の部屋を用意した。一通り茉莉香の家からそのまま持ってきて適当に配置したが、確認してくれ」
「はああぁっ!?家から持ってきたって…!?ちょっと、待ってよ!」
先程よりも大きな驚きの声があがる。
そんな茉莉香に、ついて来いと促し征司は廊下へでる。
ついていくと、茉莉香の自室よりも二回りほど大きな部屋に、彼女の自室にあったものがそのまま運び込まれていた。
「……広い」
机や椅子の傷を見て、普段自分が使っているものであるとわかる。
部屋の大きさは違うが、家具の配置もほとんど同じだった。
「ほんとに私の部屋の物だわ…」
「これからここで俺の奴隷として暮らすんだ、部屋くらいいるだろう」
「一緒に暮らすって、なんで!?そんなの…」
呪印を刻まれ奴隷にされた以上、これまでどおりの自由は無いと考えていたが、茉莉香の想像では、必要なときに強制的に呼び出される程度の認識だったのだ。
自分の甘い思い違いに気づくと同時に、もう一つ重要な事に気がついた。
「はっ、これを持ってきたってことは私の家に行ったのね!!お母さんにっ、もしかして家族に何かしたんじゃ!!」
茉莉香は掴みかからんばかりに詰め寄る。
「いやいや、落ち着け。別に大したことはしてねぇよ」
「そ…そう」
「お前の家族は全員無事、傷一つ付けちゃいねぇ。敢えて何かしたかって言えば、茉莉香が俺の奴隷として一緒に暮らしているっていうことに何の疑問も持たなくなって、周囲になにか言われても問題なく取り繕うように意識誘導と記憶操作をかけただけだな」
「十分大したことしてるじゃない…ッ!!?」
自分が寝ている間に家族全員の脳みそを弄くり、それを何事もないかのように語る征司に憤り、突っ込みをいれつつ、肉親に差し迫った生命の危機などはなさそうなことに、茉莉香は安堵を覚える。
「そう言えば、お前がこの街に引っ越したのがこの間の4月だったんだな」
「えぇ、お父さんの仕事の都合で引っ越してきたの」
「どおりでプリズマシャインなんてこれまで見たことがなかったはずだ」、と征司は納得したように独り言ちた。
「それにしても、広い部屋ね。他の部屋も同じような大きさなの?廊下に来る途中にも何個か扉があったし、いったいこの家どれくらいの広さなのよ?」
「確か、11SLLDDKKとかだったかな。部屋の大きさはまちまちだ」
「えっ、ちょっと待って、多すぎるわよ意味がわからない。何、あなた一体何人家族で住んでいるの?」
この時茉莉香が征司に向けたのは、完全に真顔でよくわからないものを見る目だった。
「俺一人だぜ?」
「ありえないでしょ!広すぎるわよ!!」
茉莉香は堪えきれず、つい反射的にツッコミを入れてしまう。
「いやまぁ、俺のアトリエと倉庫も兼ねてるしな。このタワーマンションが建つとき、最初に最上階1フロアまるごと買い取って使いやすいように設計してもらったから、結構気に入ってるんだぜ」
タワーマンション1フロア買いという豪気な金の使いみちと、それを可能にした征司の財力に軽い目眩を覚える茉莉香だった。
「大まかに、西側が住居、東側がアトリエだ。東側の鍵がかけてある部屋は、倉庫か作業部屋だ。鍵がかかっていない部屋は好きに使って構わないぞ」
豪勢な部屋の使い方に、茉莉香はもう意味がわからないと頭を振る。
「それと、何か必要なものがあったら言ってくれ。金とクレジットカードも渡しておく。ここの下にショッピングモールがあるから大抵のものはそこで買える。でかい物だけ言ってくれれば、後で用意しておく」
言って征司が財布を渡してくる。受け取った財布の厚みに、茉莉香は恐る恐る中身を確認した。
(1万円札が1,2,3…50枚くらい入ってる。しかもなんか当然のようにすごく高級感のある黒いクレジットカードが入っているし…もうなんなの!?)
「こ、これ本当に使っていいの…?私はあなたの…その、奴隷、なんでしょう?」
「あぁ、当然好きに使え。別に奴隷だからってひもじい思いをさせて精神的に責めるとかは趣味じゃねぇんだ。必要なもんや、欲しいもんには好きに使え」
「えっ、あの、でも…『私が吹き飛ばしたものの損失が』、とかすごい怒っていたじゃない!?」
「あぁん?そりゃ他人にあんなことされりゃ怒るだろうがよ。だがお前はもう俺の奴隷だ、俺の所有物(もの)だ、ならベストな状態で俺が使えるようにきちんと整備しておくのは当然だろう」
征司は茉莉香に詰め寄るように、宣言する。壁に手を当てくっつきそうなほど近くで『俺のもの』宣言をされて、不覚にも少しドキッとした茉莉香は、「そ、そう…」と力なく答え、目をそらした。俗に言う壁ドンというものを、茉莉香が人生で初めて体験した瞬間である。
「あぁ、それと飯も食ってないだろ。朝飯用意しておいたからリビングに行くぞ」
「はっ、はい!」
茉莉香は上ずったような、大きさを調整しそこなった返答をして、征司の後へ続いて部屋を出る。
次に案内された部屋は、30畳はあろうかという大きなリビングダイニングだった。カウンターキッチンのそばに置かれた大きめのダイニングテーブルに、和洋様々な料理が並べられていた。
「作るときにお前が何を食いたいかってのは分かんなかったから、適当に色々作っておいた。食えないものはないと思うから好きに食ってくれ」
奴隷の状態がわかる呪印でも、未来のことまではわからない。
そのため、茉莉香の好物を記憶から読み取り、それらを調理したのである。
「えっ、これ全部松崎君が作ったの?すごい…」
「あぁそうだ、俺くらいの錬金術師になるとこれくらい大した手間でもねぇよ」
(錬金術師関係あるのかなぁ…)と心の中でツッコミを入れながら、茉莉香は遠慮がちに手近な椅子へ座る。
「これもメンテナンスの一環だ。せっかく可愛い顔に良い身体してるんだから、ガリガリになったりされても面白くないからな、しっかり食っとけよ」
「ふえっ、は、はいぃ」
不意に自身の容姿を褒められ茉莉香が情けない声を上げる。
「じゃぁ、俺は行くぞ。夕方までは適当に部屋の片付けや買い物とか、生活の準備をしておけ」
「えっ、松崎君は食べないの?」
俺はもう食った、と茉莉香の方を振り向くこと無く言い、征司は部屋を出ていった。
征司がどこへ行ったのか気にならないわけではなかったが、目の前に美味しそうな朝食の誘惑には勝てず、早く食べさせろと言わんばかりにキューと可愛らしい音を鳴らすお腹の促すままに、茉莉香は食事の準備を始める。
何を食べようか、種類がありすぎて逆に悩んでしまい、結局朝食にはパンという普段の習性からか洋食中心に選んでいく。
(残ったものはどうしましょう…冷蔵庫に入れておけば良いかしら)
などと庶民的なことを考えながら、食卓につく。
「このクロワッサンも、松崎くんが作ったのかな…」
焼きたてのようにホカホカしているクロワッサンを一口。
サクッとした食感にほのかな甘味と芳醇なバターの香りが口いっぱいに広がる。
「なにこれすっごい美味しいんだけど!?」
(…あれ、好きなものを自由に買えて、広い自室、美味しいご飯も食べさせてもらえる…もしかしてここって実家にいるより快適なのではないかしら…?)
湧き上がる思いに、いかんいかんと首を振る。
「でも松崎くん、顔は悪くないし、むしろクラスの中では結構カッコいいほうだし、学園では別にそんなに嫌いって言うわけでもなかったし。こんなに甲斐性がある人にならもういっそ奴隷でも……ってぇぇ、この屈し方はだめ!絶対、絶対ダメなやつ!!あいつは悪人!鬼畜!外道!」
『これを受け入れたらすごい絶対ダメな人間になる』とブンブン首を振る。
美少女過ぎて周りが勝手に牽制しあい、かつ本人も男子にそれほど積極的な興味がなかった茉莉香は、これまではお一人様人生を送っており、以外に初心な乙女なのである。
複雑な思いに悶々としながら、茉莉香は一人、初めての奴隷飯を食べるのであった。
「それと、お前の部屋を用意した。一通り茉莉香の家からそのまま持ってきて適当に配置したが、確認してくれ」
「はああぁっ!?家から持ってきたって…!?ちょっと、待ってよ!」
先程よりも大きな驚きの声があがる。
そんな茉莉香に、ついて来いと促し征司は廊下へでる。
ついていくと、茉莉香の自室よりも二回りほど大きな部屋に、彼女の自室にあったものがそのまま運び込まれていた。
「……広い」
机や椅子の傷を見て、普段自分が使っているものであるとわかる。
部屋の大きさは違うが、家具の配置もほとんど同じだった。
「ほんとに私の部屋の物だわ…」
「これからここで俺の奴隷として暮らすんだ、部屋くらいいるだろう」
「一緒に暮らすって、なんで!?そんなの…」
呪印を刻まれ奴隷にされた以上、これまでどおりの自由は無いと考えていたが、茉莉香の想像では、必要なときに強制的に呼び出される程度の認識だったのだ。
自分の甘い思い違いに気づくと同時に、もう一つ重要な事に気がついた。
「はっ、これを持ってきたってことは私の家に行ったのね!!お母さんにっ、もしかして家族に何かしたんじゃ!!」
茉莉香は掴みかからんばかりに詰め寄る。
「いやいや、落ち着け。別に大したことはしてねぇよ」
「そ…そう」
「お前の家族は全員無事、傷一つ付けちゃいねぇ。敢えて何かしたかって言えば、茉莉香が俺の奴隷として一緒に暮らしているっていうことに何の疑問も持たなくなって、周囲になにか言われても問題なく取り繕うように意識誘導と記憶操作をかけただけだな」
「十分大したことしてるじゃない…ッ!!?」
自分が寝ている間に家族全員の脳みそを弄くり、それを何事もないかのように語る征司に憤り、突っ込みをいれつつ、肉親に差し迫った生命の危機などはなさそうなことに、茉莉香は安堵を覚える。
「そう言えば、お前がこの街に引っ越したのがこの間の4月だったんだな」
「えぇ、お父さんの仕事の都合で引っ越してきたの」
「どおりでプリズマシャインなんてこれまで見たことがなかったはずだ」、と征司は納得したように独り言ちた。
「それにしても、広い部屋ね。他の部屋も同じような大きさなの?廊下に来る途中にも何個か扉があったし、いったいこの家どれくらいの広さなのよ?」
「確か、11SLLDDKKとかだったかな。部屋の大きさはまちまちだ」
「えっ、ちょっと待って、多すぎるわよ意味がわからない。何、あなた一体何人家族で住んでいるの?」
この時茉莉香が征司に向けたのは、完全に真顔でよくわからないものを見る目だった。
「俺一人だぜ?」
「ありえないでしょ!広すぎるわよ!!」
茉莉香は堪えきれず、つい反射的にツッコミを入れてしまう。
「いやまぁ、俺のアトリエと倉庫も兼ねてるしな。このタワーマンションが建つとき、最初に最上階1フロアまるごと買い取って使いやすいように設計してもらったから、結構気に入ってるんだぜ」
タワーマンション1フロア買いという豪気な金の使いみちと、それを可能にした征司の財力に軽い目眩を覚える茉莉香だった。
「大まかに、西側が住居、東側がアトリエだ。東側の鍵がかけてある部屋は、倉庫か作業部屋だ。鍵がかかっていない部屋は好きに使って構わないぞ」
豪勢な部屋の使い方に、茉莉香はもう意味がわからないと頭を振る。
「それと、何か必要なものがあったら言ってくれ。金とクレジットカードも渡しておく。ここの下にショッピングモールがあるから大抵のものはそこで買える。でかい物だけ言ってくれれば、後で用意しておく」
言って征司が財布を渡してくる。受け取った財布の厚みに、茉莉香は恐る恐る中身を確認した。
(1万円札が1,2,3…50枚くらい入ってる。しかもなんか当然のようにすごく高級感のある黒いクレジットカードが入っているし…もうなんなの!?)
「こ、これ本当に使っていいの…?私はあなたの…その、奴隷、なんでしょう?」
「あぁ、当然好きに使え。別に奴隷だからってひもじい思いをさせて精神的に責めるとかは趣味じゃねぇんだ。必要なもんや、欲しいもんには好きに使え」
「えっ、あの、でも…『私が吹き飛ばしたものの損失が』、とかすごい怒っていたじゃない!?」
「あぁん?そりゃ他人にあんなことされりゃ怒るだろうがよ。だがお前はもう俺の奴隷だ、俺の所有物(もの)だ、ならベストな状態で俺が使えるようにきちんと整備しておくのは当然だろう」
征司は茉莉香に詰め寄るように、宣言する。壁に手を当てくっつきそうなほど近くで『俺のもの』宣言をされて、不覚にも少しドキッとした茉莉香は、「そ、そう…」と力なく答え、目をそらした。俗に言う壁ドンというものを、茉莉香が人生で初めて体験した瞬間である。
「あぁ、それと飯も食ってないだろ。朝飯用意しておいたからリビングに行くぞ」
「はっ、はい!」
茉莉香は上ずったような、大きさを調整しそこなった返答をして、征司の後へ続いて部屋を出る。
次に案内された部屋は、30畳はあろうかという大きなリビングダイニングだった。カウンターキッチンのそばに置かれた大きめのダイニングテーブルに、和洋様々な料理が並べられていた。
「作るときにお前が何を食いたいかってのは分かんなかったから、適当に色々作っておいた。食えないものはないと思うから好きに食ってくれ」
奴隷の状態がわかる呪印でも、未来のことまではわからない。
そのため、茉莉香の好物を記憶から読み取り、それらを調理したのである。
「えっ、これ全部松崎君が作ったの?すごい…」
「あぁそうだ、俺くらいの錬金術師になるとこれくらい大した手間でもねぇよ」
(錬金術師関係あるのかなぁ…)と心の中でツッコミを入れながら、茉莉香は遠慮がちに手近な椅子へ座る。
「これもメンテナンスの一環だ。せっかく可愛い顔に良い身体してるんだから、ガリガリになったりされても面白くないからな、しっかり食っとけよ」
「ふえっ、は、はいぃ」
不意に自身の容姿を褒められ茉莉香が情けない声を上げる。
「じゃぁ、俺は行くぞ。夕方までは適当に部屋の片付けや買い物とか、生活の準備をしておけ」
「えっ、松崎君は食べないの?」
俺はもう食った、と茉莉香の方を振り向くこと無く言い、征司は部屋を出ていった。
征司がどこへ行ったのか気にならないわけではなかったが、目の前に美味しそうな朝食の誘惑には勝てず、早く食べさせろと言わんばかりにキューと可愛らしい音を鳴らすお腹の促すままに、茉莉香は食事の準備を始める。
何を食べようか、種類がありすぎて逆に悩んでしまい、結局朝食にはパンという普段の習性からか洋食中心に選んでいく。
(残ったものはどうしましょう…冷蔵庫に入れておけば良いかしら)
などと庶民的なことを考えながら、食卓につく。
「このクロワッサンも、松崎くんが作ったのかな…」
焼きたてのようにホカホカしているクロワッサンを一口。
サクッとした食感にほのかな甘味と芳醇なバターの香りが口いっぱいに広がる。
「なにこれすっごい美味しいんだけど!?」
(…あれ、好きなものを自由に買えて、広い自室、美味しいご飯も食べさせてもらえる…もしかしてここって実家にいるより快適なのではないかしら…?)
湧き上がる思いに、いかんいかんと首を振る。
「でも松崎くん、顔は悪くないし、むしろクラスの中では結構カッコいいほうだし、学園では別にそんなに嫌いって言うわけでもなかったし。こんなに甲斐性がある人にならもういっそ奴隷でも……ってぇぇ、この屈し方はだめ!絶対、絶対ダメなやつ!!あいつは悪人!鬼畜!外道!」
『これを受け入れたらすごい絶対ダメな人間になる』とブンブン首を振る。
美少女過ぎて周りが勝手に牽制しあい、かつ本人も男子にそれほど積極的な興味がなかった茉莉香は、これまではお一人様人生を送っており、以外に初心な乙女なのである。
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