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第1章-出撃編-

着装、アースガーディアン!

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『怪人警報発令!怪人警報発令!S県美女見市原馬瀬町に人型怪人が多数出現しました、付近の住民の方は速やかに避難してください!繰り返します――』

「そんなっ、原馬瀬町ってすぐ近くじゃないか!」
「どうしようゆーた、わたしたちも避難しないと……!!」
「ううん、大丈夫。この研究室はシェルターにもなっているから、下手に動くより安全だよ。まずは情報を集めよう!」

 椅子に座り直した雄太が、高速でキーボードを叩くとディスプレイに現地の映像が映る。
 街中に設置された監視カメラと、自衛隊が情報収集に飛ばしているドローンからの映像だ。
 ほとんどは混乱し逃げ惑う人々の姿を映すだけだが、そのうちいくつかには件の怪人達と思われる人影が写っている。

「あぁっ、その画面戻して!……やっぱり、弥生!!弥生だよ!!優香子と久留美もいる!?」

 叶海が画面の中にクラスメイトを見つけ、名前を叫ぶ。
 怪人に狙われ、必死に逃げているようで一つのディスプレイに留まらず、いくつかのディスプレイを跨いでその姿が映る。

「救助は!?変身ヒロインはまだなの!!」
「数十秒前に転移波長を検知してる、奴ら本当に今現れたばっかりだよ。しかも数分前に都内でもっと大規模に怪人が出現してる。だめだ…そっちに主戦力が割かれてて救助がくるまで早くても20分はかかる!!」
「そんな……!」

 叶海は手を口に当て、真っ青な表情で画面を見つめる。
 人型怪人の複数地点同時出現、これまでにない異常事態だった。

 人型怪人は変身スーツを装着していても、個体によっては対処が難しい。
 とにかく強く、知恵もある。

 現場に居合わせた警察官が必死に避難誘導をしている姿がディスプレイに映っていた。彼らの腰には警察官支給の拳銃が見えるが、悠々とワゴン車を持ち上げ放り投げてくる怪人にはそれですら牽制にもならないだろう。

「なんとかならないの、ねぇゆーたぁ!!」
「今やってる!…でも…だめだ、少しでも逃げられるルートを彼女たちの携帯に送ったけど、見てくれてない!!空自にスクランブルがかかったけど、それでも後5分はかかる!!」

 逃走中のクラスメイト3人の携帯がブルブルと震えている。なりふり構っている余裕はないと、ドクターKが秘匿されているOSの裏コードまで使ってマナーモードを解除し最大音量で着信音を鳴らしているが、パニックになった少女3人は誰も携帯を手にしない。

「くそっ、だめだ!せっかく新型スーツもできたっていうのに…これの、適応者が今ここに入れば……!!」

 勢いよくキーボードを叩いていた手を止め、悔しげに机を叩き、雄太も少女たちが逃げ惑うディスプレイを見つめる。

「変身スーツ…それを、わたしが着られれば!!」
「待って叶海、確かにこのスーツ、アースガーディアンに叶海が適合すれば戦えるかもしれないけれど…そんなの確率的にありえない!」
「そんなのやってみないとわからないじゃない!お願い、アースガーディアン!力を貸して!!」

 祈るように手を合わせ、叶海が叫ぶ。

「ちょっと待って、叶海!!例え適合者でもマスター登録をしないと――」

 雄太が言い終える前に、叶海の姿が光に包まれる。
 その光が部屋中を覆い尽くし、たまらず雄太が目を閉じる。
 光が収まり、目を開けた雄太の視界に映るのは、際どい変身スーツに身を包んだ叶海の姿。

「そんな、マスター登録もしていないのに…スーツが叶海の願いに答えたとでも言うのか!!」

 開発調整用の姿とは違う、装着者の叶海に合った形へと姿を変えた変身スーツ。
 手は腕まで、足は太ももまで覆うぴっちりとしたスーツ。新体操部の叶海に合わせたのだろう、靴はハーフシューズというのか、雄太には上履きのように見えたが、バレーシューズに羽が生えたような形状をしていた。胴体部分はワンピースタイプのレオタード、かなりハイレグで毛の処理をしていないと見えてしまいそうなほど切れ込みがきつい。おっと、ディスプレイに反射する後ろ姿を見ると、背中はほとんど丸見えでX字にクロスしている、競泳水着のような形状だ。

「雄太!これならわたし、戦えるよ!!」

 身体のシルエットが丸わかりのピッチリスーツを身に着け、少し恥ずかしそうだがやる気満々で握りこぶしを作る叶海。ほとんど裸のように身体の線や形が丸見えで、一見するとコスプレ痴女のような格好だが、正体を知っている雄太以外には誰だかわからないのでこの際気にしてもいられない。

 (というか、そのゆーたに見られるのが一番恥ずかしいんだけど…でも、まぁゆーたなら……)

「ちょっとまって、叶海!!」

 一瞬正気に戻って顔を赤面させた叶海の手を、雄太が引き止めるように握りしめる。

「ひゃぁっ!?ゆーた?」

 突然近づかれ、自分の格好を振り返り更に赤面。
 一方多くの変身ヒロインを見てきて慣れているのか、雄太の方はそれほどでもない。

(もう、ゆーたってたまにこういう事するんだから…びっくりしちゃう)

 反らしがちな叶海の瞳を見つめ、ドクターKは諭すように語りかける。

「奇跡的に適合できたけど、何の訓練も無しにすぐに実践なんて無茶だ!少しだけ待って」
「でもっ、今行かないと皆が!!」
「大丈夫、ほんとに少しだけ、1分で済む!せめて説明を聞いてから行って!!」

 手を振りほどこうとする叶海に、絶対にこのままでは行かせない、と半ば抱きしめるように引き止める雄太。
 至近距離、唇が合わさりそうな近さで見つめ合い、お互い一瞬凍って動きを止める。

 直ぐに解凍された雄太が、ごめん、と言いながら叶海を離す。
 顔を赤くし、下を向いた叶海は無言で小さく首を振る。

「と、とにかく!いきなり実践なんて無茶が過ぎるよ、調整やシステムへの登録ができていないから、スタンドアローンで戦わないといけないんだ。こちらからの援護もほとんどできない。だから怪人を倒そうとしたらだめだ。現場に行っても極力直接の戦闘は避けて、皆を守るように牽制だけするんだ!」
「う、うん分かった」

 雄太の言葉に赤い顔のまま頷く叶海。

「いいかい、叶海。アースガーディアンの基本武装はメインウェポンと遠距離用の汎用エネルギー銃だ。まずは銃で牽制して、皆を逃がす時間を稼ぐんだ!」

 コクコク、と叶海が頷く。

「メインウェポンは、装着者のイメージに沿って形成される。多分叶海なら近接武器だ。メインウェポンは使いこなせばすごく強いんだけれど、いきなりは危険だ!近接戦は避けて、そっちはできるだけ使わないで」
「分かった、わ」

「細かいことは、スーツに搭載されたAIが教えてくれる。神経伝達システムだから、頭の中に直接声が響くよ、命令も考えるだけで大丈夫。最初はやりづらいと思うけど、すぐに慣れるよ。試しに、エネルギー銃を出したいって念じてみて!」
「こ…こう…?」

(アースガーディアン、エネルギー銃を出して!)

 言われるままに頭の中でスーツに命令をすると、叶海の右手に一丁の銃が出現した。

「そう、その調子!よし、行けそうだ!!落ち着いていけば大丈夫、アースガーディアンは防御持久型だから、時間稼ぎにはもってこいだよ。少しくらい攻撃を受けても、スーツが防いでくれるから慌てないで。防御型にしては出力も高いから雑魚怪人だったらいざとなればパンチ一つでも倒せるはず!でも、まだ相手の強さも構成もわからないから、絶対に油断はしちゃダメだよ!危なくなったらすぐ逃げて!!」

「は、はい…!」

 一息に説明しきった雄太が、情報を整理しきれずに下を向いてアワアワしている叶海を優しく抱きしめ、背中をトントンと叩く。

「大丈夫、落ち着いて…」

 叶海が顔を上げると、それを覗き込む雄太と視線が混じり合う。
 見つめ合うことほんの数秒、ぼーっとして少し目を閉じた瞬間、雄太の唇が叶海の唇に触れた。
 唇を合わせるだけの、優しいキス。
 お互いに短い硬直の後、雄太ががばっと叶海を引き離す。

「そのスーツならテレポートもできるから、行きたい先を念じて!」

「うん、任せて!」

 程よく緊張の解けた叶海は満面の笑みを浮かべ、直後少女の姿がかき消えた。
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