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1章
第6話 Sideミオ=ハートフィリア
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「はぁ……。つまんない……」
私─ミオ=ハートフィリア─は、学院の廊下を歩きながらため息を着く。
今はレイシェレム学院の入学式。この学院に属する全生徒がこの講堂へと集められている。
「いやー、今年も様々な素晴らしい加護を持つ生徒が入閣を果たすことが出来ました。巷では混沌の世代などと呼ばれることもあるそうですねー。君たちは加護を貰えなかった落ちこぼれと違い、特別です!胸を張って頑張ってもらいたいですねー。あぁ、失礼…。無加護がいたんでした!それでは最後に"英雄"と呼ばれるファナ先生からお言葉を頂こうと思います」
今年も編入生がやってきたんだ…。目的は内部生への刺激らしいけど私達Sクラスにはほとんど関係なのよね…。
レイシェレム学院は実力によってクラスが別れている。上からS、A、B、C、D、そしてEクラスという順だ。私や、そして不服だけどアルスもSクラスだ。Sクラスは特別と言われるほどにレベルが高い。
だから編入生がSクラスにやってくることは無い。なので私たちが編入生と関わることは無いのだ。
あれから8年──
ソツ村を出てからかなりの月日が経った。今でもゼノンのことは覚えている。
王都に来てから苦しいことも少なくなかった。寂しく感じることが多かった。そんな時にはゼノンとのことを思い出して頑張っていた。
『大丈夫。絶対守ってあげるからね』
今でもミオの目的はあの日と変わっていない。無加護のゼノンでも幸せに暮らせるよう守りたい。
「おい、ミオこのめんどくさい入学式終わったら王都に遊びにいこうぜ?」
「嫌よ、今日は教会に用事があるんだから」
「なんだよ?俺の彼女だろ?教会も勇者の頼みだって言ったら聞いてくれるって」
「アルス…。私はあなたの彼女じゃないわ。何度も言ってるでしょ?」
「どうせ同じだろ??魔王を倒したらそうなるんだからよ!」
はぁ…。8年経ってもアルスは変わらない。他にもどれだけの女の子がいるのよ。ゼノンの爪の垢を前じて飲ませてやりたい…!
ファナ先生が前に立つことでみんなの雰囲気に変化が生じる。さっきあんなにうるさかったアルスさえ、黙って前を見ていた。
"ファナ先生"。それは私たちSクラスの担任。自慢じゃないけど私たちSクラスの加護は全部すごい。私も"聖女"ですごいと思ってたけど、ほかのみんなもかなりレアな加護ばかり。混沌の世代というのもうなずけてしまう。
っていうか、これ誰が言い始めたんだろう?結構恥ずかしいのに…。
だけどファナ先生はそんな私たちよりはるかに強い。「勇者」のアルスはSクラスでも1番強いけど、魔法を使っても傷一つどころか触ることも出来ずに負けてしまう。加えてスキルの使い方も魔法の使い方も上手い。
ファナ先生は様々な加護や魔法、スキルをもつSクラスを一人で教えている。
決して手抜きなどではなく、指示も的確だからすごいわよね。
"英雄"と言われるのも納得できる。
っていうかあの人でも魔王って倒せないの?そんなもの私たちが討伐できるの?今のところあの先生を超えるなんて考えられないけど……。
それにしても…美しいわね。同棲の私ですら彼女に魅力を感じてしまう。
アルスも浮かれちゃってるし…。アルスだけじゃなく、周りの男子は浮かれてるし、女子でも彼女を見て頬を染めている。
そんな中ファナ先生の挨拶が始まった。
「昇学生の皆さんはお久しぶり、編入生の皆さんは初めまして、そしておめでとうございます。ここまで簡単な道ではなかったでしょう。しかし、ここはゴールではありません。新たなスタートであることを忘れないでください。
私は"過程"求めない。"結果"のみを求めます。才能があるものはそれでいい。努力するならご自由にどうぞ。そもそも努力とは足りない者がすることです。だから私は過程を見ない。目標が高いものは才能だけでたどり着けず努力する。どうしても努力を見て欲しいと言うなら結果を示してください。あなた達のまだ見ぬ成長と才能を期待しています。それではよい学校生活を」
パチパチパチ!
ファナ先生が礼をすると自然と拍手が舞い上がった。私も自然と手を叩いていた。
やっぱりすごい!憧れの女性だぁ!私もああなりたいなぁ。
私はずっとファナ先生を尊敬している。それはSクラスの女子なら珍しいことではなく、ほとんど全員が尊敬している。何人かは涙も流しているようだしね…。
「これにて入学式を終わります……」
入学式も終わり、私たちは新しい講義棟を目指す。隣には私のパーティーメンバーが一緒に歩いている。
パーティー。
それはこの学院のひとつの特徴で、同じ学年(別に違う学年でもいいみたいだけど組む人はいない)でグループを組み、課題に一緒に挑んだりするいわば仲間ね。ここを卒業したもののほとんどは騎士団や魔法師団に入団することになると思う。そこでは小隊を組むことは少なくない。
魔族は人間より強くて、1VS1なら絶対に魔族が勝つ。魔力量も多いし、近接だって強い。その人間が魔族に唯一勝るものが数なのだ。
"数"の有利を生かすための戦略は学生の頃から叩き込まれる。そしてより実践的に行うためにパーティーが組まれるの。
それだけでなく、私たちのパーティーはアルスがいる勇者パーティー。
近い将来、人間族の先頭に立ち、魔王を討伐することが期待されてる…。
今は勇者のアルス、賢者の…、聖騎士のキリル、そして聖女の私の4人。
「おい、アレ見てみろよ!」
アルスがグラウンドの方を指すのでそちらを見るとそこには、中等部生が必死に魔法の鍛錬をしている様子が伺えた。先生もいないし、周りに人もいない。きっと自主練かな。
「はっは!なんだ、あの魔法は!?初級魔法か!?才能ねぇな!!」
「そうですね。私たちがあのころはもう中級魔法は使えてましたからね」
「うむ。俺もだ」
「そうかな…?私たちは使えてたけどやっぱり努力とかそういうのは大事だと思わない?その過程は自分のためになるわけだし…」
「はっは!冗談だろ?ミオ。結局この世界は才能が全てなんだよ!」
そう言ってアルスは笑いながら歩いていく。
加護が全て……か……。
アルスは自分より強い敵が現れても勇敢に立ち向かえるのな?あの絵本の勇者みたいに。
『ぜったいにまもるから!!!』
あの日…、嫌という程加護の差を見せつけられた少年は今どうしているんだろうか?
会いたい…。私の中に1人の少年との思い出が蘇る。
今、どうしているんだろうか?ソツ村で畑仕事でもしてるのかな?施設に新しい子は入ってきたかな?その子の世話でもしてるのかな?
それとも───……。
わかってる。
私は『守る』側の人で彼は『守られる』側の人。
どう足掻いたって加護がないゼノンじゃ私を守ってくれるなんてことはないんだろうね。
私もゼノンを守ることがモチベーションになってる訳だし。
はぁ。っていうか今よく考えてみたら私はあの時、確かに子供だったけどゼノンが好きで告白したのに、アイツはなんの返事もくれない!最ッ低ね!!私の勇気とあの時の純情を返して欲しいわ!
アイツから見て私は何なんだろう?
私はゼノンのことが好き。……一応…今…でも。
わ、忘れよう!!こんなこと考えたって仕方ない!
そう思って私は頭を振って別のことを考える。
…はぁ~。いつか私のピンチに駆けつけてくれる王子様に助けられたらなぁ~……なんて……ね……。
その瞬間私の目には黒髪の少年が見えた。
!!!今のは!!
「お、おい!?ミオ!!」「ミオさん!?」
私はすぐに走り出した。聖女なんて言う役を放り出して、ただがむしゃらに走った。
勘違いかもしれない。幻覚かもしれない。でも一瞬!!その人がゼノンに見えた。
あの頃とは違って髪も伸びてたし、身長も違う、体格も違う! あの頃みたいにヒョロヒョロじゃなかった…けど!!!
「ゼノン!!」
複雑な校舎を曲がり、私は想い人の名前を叫ぶ。
「………あれ?」
でもそこには誰もいなかった。
おかしい。確かにさっき人はこっちに来たと思ったのに。……見間違い?いや、でも……
「あれ?もしかして……ミオ?」
不意に後ろから声が聞こえてきた。
昔とは違って声も低くなってる。だけどその声は不思議と私を安心させてくれる。
私はゆっくり振り返る。そこにいたのは……
「やっぱり…ミオ…だよな?ん~。一応…久しぶり?あ、もしかして俺の事…覚えてない……?」
「覚えてない…わけないじゃない……!」
どれだけ思い出したと思ってるのよ…!
自然と瞳か涙が溢れそうになる。いつか絵本で見たようなものとは全く違うけど…
『いつか絶対に守るから』
「久しぶりね…ゼノン!」
「久しぶりね…ゼノン!」
「おー。そうだな。一応今はゼノン=スカーレットになってるんだ」
「スカーレット…。リル先生の?」
「うん。ソツ村を出る前にリル先生がくれた」
「ソツ村…。懐かしいわね」
「そうだな…。あれから家族も増えたんだぜ?」
「そうなの!?」
それから私たちはちょっとした思い出と現在の故郷についての会話に花を咲かせた。
「それでね…ゼノン……。8年前のことなんだけど……」
「おーい!ミオー!!」
遠くからアルスの声が聞こえた。
そういえば本当は新しい教室に向かうんだった。
後ろを振り向くとそこには私のパーティーメンバーがいた。
それになんだがいつの間にか周りが騒がしい。
「あ、アルス!それにキリルさん!マーリンさんも!」
え?なんでゼノンがみんなの名前を知ってるの?もしかしてどこで会った?
「あ?誰だお前!俺は"勇者"だぞ!!気安く呼ぶな!それに…てめぇ俺のミオに何してるんだ!?」
俺のって……。私はアルスのものじゃないんだけど!!
「私も彼に会った覚えはないんですけど」「俺もだ」
やっぱりふたりとも会ったことないんだ。
「あっ!え、えとー、ゆ、有名だから名前だけ聞いたことがありまして……本当にごめんなさい」
ゼノンが罰を悪そうに頭を掻きながら頭を下げて謝るけどそこまですることかな?
「で!?お前は誰で俺のミオに何してるんだ!?」
だからアルスのものじゃないって!!何度言ったら分かるのよ!?
「俺だよ。ソツ村のゼノン。覚えてない?同じ施設で育った……」
ゼノンがそう説明すると、アルスはゼノンを指さして口をパクパクとさせている。ちょっと面白いわね。
「あの…聖女様……」
周りの生徒の1人が私に話しかけてきた。直ぐに私は聖女モードにきりかえる。
「どうしたのですか?」
私は柔らかい笑顔を浮かべて答える。
こうでもしないと聖女や協会のイメージに関わるから大変なんだよね…。
「あの……失礼なんですが、あの方と聖女様のご関係は…?」
「彼は私、そして勇者アルスと同じ村で育った同郷です」
そして私の初恋の相手なんです!とは言いたいけど言えない。
「はっ!そうだ!!てめぇは無加護だろ!?なぜここにいる!!」
そういえばそうだ。ここは王国で最難関の学校なのに。ゼノンが無加護だということで周囲がさらにざわつき始めた。
「いや、ここにいる理由なんて1つしかないだろ?ここに通うんだよ。生徒として」
「は!?なんでお前が!!?」
アルスが声を荒らげて威嚇するけどゼノンはまったく億しない。
「いや、編入試験…受かったんだよ」
「「「「え!!?」」」」
ゼノンの発言をきっかけに周りから様々な声が上がる。
「ってことはあの噂は本当だったのか!?」
「無加護が編入試験で貴族のユリアムを倒したって言う!?あの!?」
え!?今…なんて……。
「いや、まさか!」「それ以外に考えられんのかよ!?」
「それでEクラスってとこ探してんだけど知ってるか?」
ゼノンは周りのことなんて気にもせずに私たちに話しかけてくる。
「え、えぇ。ここの真上よ」
「そうか。ありがとなミオ!会えて嬉しかった。またな!」
「え!?ゼノン!?」
嘘でしょ…。行っちゃった……。え!?行く!?告白の返事は!?
でも…、さっき触れたゼノンの手すごくマメだらけでボコボコで硬かった。
本当に無加護で特別な力もなく合格したと言うならゼノンはどれぐらい努力したんだろう?
「~~~!!!行くぞ!!!」
「あ、うん」
アルスの声でそれぞれが自分たちのクラスへと入っていく。私達も再びSクラスを目指す。
「ゼノン~~!!」
この時の私は気づかなかった。アルスの顔が歪んでいることに。
私─ミオ=ハートフィリア─は、学院の廊下を歩きながらため息を着く。
今はレイシェレム学院の入学式。この学院に属する全生徒がこの講堂へと集められている。
「いやー、今年も様々な素晴らしい加護を持つ生徒が入閣を果たすことが出来ました。巷では混沌の世代などと呼ばれることもあるそうですねー。君たちは加護を貰えなかった落ちこぼれと違い、特別です!胸を張って頑張ってもらいたいですねー。あぁ、失礼…。無加護がいたんでした!それでは最後に"英雄"と呼ばれるファナ先生からお言葉を頂こうと思います」
今年も編入生がやってきたんだ…。目的は内部生への刺激らしいけど私達Sクラスにはほとんど関係なのよね…。
レイシェレム学院は実力によってクラスが別れている。上からS、A、B、C、D、そしてEクラスという順だ。私や、そして不服だけどアルスもSクラスだ。Sクラスは特別と言われるほどにレベルが高い。
だから編入生がSクラスにやってくることは無い。なので私たちが編入生と関わることは無いのだ。
あれから8年──
ソツ村を出てからかなりの月日が経った。今でもゼノンのことは覚えている。
王都に来てから苦しいことも少なくなかった。寂しく感じることが多かった。そんな時にはゼノンとのことを思い出して頑張っていた。
『大丈夫。絶対守ってあげるからね』
今でもミオの目的はあの日と変わっていない。無加護のゼノンでも幸せに暮らせるよう守りたい。
「おい、ミオこのめんどくさい入学式終わったら王都に遊びにいこうぜ?」
「嫌よ、今日は教会に用事があるんだから」
「なんだよ?俺の彼女だろ?教会も勇者の頼みだって言ったら聞いてくれるって」
「アルス…。私はあなたの彼女じゃないわ。何度も言ってるでしょ?」
「どうせ同じだろ??魔王を倒したらそうなるんだからよ!」
はぁ…。8年経ってもアルスは変わらない。他にもどれだけの女の子がいるのよ。ゼノンの爪の垢を前じて飲ませてやりたい…!
ファナ先生が前に立つことでみんなの雰囲気に変化が生じる。さっきあんなにうるさかったアルスさえ、黙って前を見ていた。
"ファナ先生"。それは私たちSクラスの担任。自慢じゃないけど私たちSクラスの加護は全部すごい。私も"聖女"ですごいと思ってたけど、ほかのみんなもかなりレアな加護ばかり。混沌の世代というのもうなずけてしまう。
っていうか、これ誰が言い始めたんだろう?結構恥ずかしいのに…。
だけどファナ先生はそんな私たちよりはるかに強い。「勇者」のアルスはSクラスでも1番強いけど、魔法を使っても傷一つどころか触ることも出来ずに負けてしまう。加えてスキルの使い方も魔法の使い方も上手い。
ファナ先生は様々な加護や魔法、スキルをもつSクラスを一人で教えている。
決して手抜きなどではなく、指示も的確だからすごいわよね。
"英雄"と言われるのも納得できる。
っていうかあの人でも魔王って倒せないの?そんなもの私たちが討伐できるの?今のところあの先生を超えるなんて考えられないけど……。
それにしても…美しいわね。同棲の私ですら彼女に魅力を感じてしまう。
アルスも浮かれちゃってるし…。アルスだけじゃなく、周りの男子は浮かれてるし、女子でも彼女を見て頬を染めている。
そんな中ファナ先生の挨拶が始まった。
「昇学生の皆さんはお久しぶり、編入生の皆さんは初めまして、そしておめでとうございます。ここまで簡単な道ではなかったでしょう。しかし、ここはゴールではありません。新たなスタートであることを忘れないでください。
私は"過程"求めない。"結果"のみを求めます。才能があるものはそれでいい。努力するならご自由にどうぞ。そもそも努力とは足りない者がすることです。だから私は過程を見ない。目標が高いものは才能だけでたどり着けず努力する。どうしても努力を見て欲しいと言うなら結果を示してください。あなた達のまだ見ぬ成長と才能を期待しています。それではよい学校生活を」
パチパチパチ!
ファナ先生が礼をすると自然と拍手が舞い上がった。私も自然と手を叩いていた。
やっぱりすごい!憧れの女性だぁ!私もああなりたいなぁ。
私はずっとファナ先生を尊敬している。それはSクラスの女子なら珍しいことではなく、ほとんど全員が尊敬している。何人かは涙も流しているようだしね…。
「これにて入学式を終わります……」
入学式も終わり、私たちは新しい講義棟を目指す。隣には私のパーティーメンバーが一緒に歩いている。
パーティー。
それはこの学院のひとつの特徴で、同じ学年(別に違う学年でもいいみたいだけど組む人はいない)でグループを組み、課題に一緒に挑んだりするいわば仲間ね。ここを卒業したもののほとんどは騎士団や魔法師団に入団することになると思う。そこでは小隊を組むことは少なくない。
魔族は人間より強くて、1VS1なら絶対に魔族が勝つ。魔力量も多いし、近接だって強い。その人間が魔族に唯一勝るものが数なのだ。
"数"の有利を生かすための戦略は学生の頃から叩き込まれる。そしてより実践的に行うためにパーティーが組まれるの。
それだけでなく、私たちのパーティーはアルスがいる勇者パーティー。
近い将来、人間族の先頭に立ち、魔王を討伐することが期待されてる…。
今は勇者のアルス、賢者の…、聖騎士のキリル、そして聖女の私の4人。
「おい、アレ見てみろよ!」
アルスがグラウンドの方を指すのでそちらを見るとそこには、中等部生が必死に魔法の鍛錬をしている様子が伺えた。先生もいないし、周りに人もいない。きっと自主練かな。
「はっは!なんだ、あの魔法は!?初級魔法か!?才能ねぇな!!」
「そうですね。私たちがあのころはもう中級魔法は使えてましたからね」
「うむ。俺もだ」
「そうかな…?私たちは使えてたけどやっぱり努力とかそういうのは大事だと思わない?その過程は自分のためになるわけだし…」
「はっは!冗談だろ?ミオ。結局この世界は才能が全てなんだよ!」
そう言ってアルスは笑いながら歩いていく。
加護が全て……か……。
アルスは自分より強い敵が現れても勇敢に立ち向かえるのな?あの絵本の勇者みたいに。
『ぜったいにまもるから!!!』
あの日…、嫌という程加護の差を見せつけられた少年は今どうしているんだろうか?
会いたい…。私の中に1人の少年との思い出が蘇る。
今、どうしているんだろうか?ソツ村で畑仕事でもしてるのかな?施設に新しい子は入ってきたかな?その子の世話でもしてるのかな?
それとも───……。
わかってる。
私は『守る』側の人で彼は『守られる』側の人。
どう足掻いたって加護がないゼノンじゃ私を守ってくれるなんてことはないんだろうね。
私もゼノンを守ることがモチベーションになってる訳だし。
はぁ。っていうか今よく考えてみたら私はあの時、確かに子供だったけどゼノンが好きで告白したのに、アイツはなんの返事もくれない!最ッ低ね!!私の勇気とあの時の純情を返して欲しいわ!
アイツから見て私は何なんだろう?
私はゼノンのことが好き。……一応…今…でも。
わ、忘れよう!!こんなこと考えたって仕方ない!
そう思って私は頭を振って別のことを考える。
…はぁ~。いつか私のピンチに駆けつけてくれる王子様に助けられたらなぁ~……なんて……ね……。
その瞬間私の目には黒髪の少年が見えた。
!!!今のは!!
「お、おい!?ミオ!!」「ミオさん!?」
私はすぐに走り出した。聖女なんて言う役を放り出して、ただがむしゃらに走った。
勘違いかもしれない。幻覚かもしれない。でも一瞬!!その人がゼノンに見えた。
あの頃とは違って髪も伸びてたし、身長も違う、体格も違う! あの頃みたいにヒョロヒョロじゃなかった…けど!!!
「ゼノン!!」
複雑な校舎を曲がり、私は想い人の名前を叫ぶ。
「………あれ?」
でもそこには誰もいなかった。
おかしい。確かにさっき人はこっちに来たと思ったのに。……見間違い?いや、でも……
「あれ?もしかして……ミオ?」
不意に後ろから声が聞こえてきた。
昔とは違って声も低くなってる。だけどその声は不思議と私を安心させてくれる。
私はゆっくり振り返る。そこにいたのは……
「やっぱり…ミオ…だよな?ん~。一応…久しぶり?あ、もしかして俺の事…覚えてない……?」
「覚えてない…わけないじゃない……!」
どれだけ思い出したと思ってるのよ…!
自然と瞳か涙が溢れそうになる。いつか絵本で見たようなものとは全く違うけど…
『いつか絶対に守るから』
「久しぶりね…ゼノン!」
「久しぶりね…ゼノン!」
「おー。そうだな。一応今はゼノン=スカーレットになってるんだ」
「スカーレット…。リル先生の?」
「うん。ソツ村を出る前にリル先生がくれた」
「ソツ村…。懐かしいわね」
「そうだな…。あれから家族も増えたんだぜ?」
「そうなの!?」
それから私たちはちょっとした思い出と現在の故郷についての会話に花を咲かせた。
「それでね…ゼノン……。8年前のことなんだけど……」
「おーい!ミオー!!」
遠くからアルスの声が聞こえた。
そういえば本当は新しい教室に向かうんだった。
後ろを振り向くとそこには私のパーティーメンバーがいた。
それになんだがいつの間にか周りが騒がしい。
「あ、アルス!それにキリルさん!マーリンさんも!」
え?なんでゼノンがみんなの名前を知ってるの?もしかしてどこで会った?
「あ?誰だお前!俺は"勇者"だぞ!!気安く呼ぶな!それに…てめぇ俺のミオに何してるんだ!?」
俺のって……。私はアルスのものじゃないんだけど!!
「私も彼に会った覚えはないんですけど」「俺もだ」
やっぱりふたりとも会ったことないんだ。
「あっ!え、えとー、ゆ、有名だから名前だけ聞いたことがありまして……本当にごめんなさい」
ゼノンが罰を悪そうに頭を掻きながら頭を下げて謝るけどそこまですることかな?
「で!?お前は誰で俺のミオに何してるんだ!?」
だからアルスのものじゃないって!!何度言ったら分かるのよ!?
「俺だよ。ソツ村のゼノン。覚えてない?同じ施設で育った……」
ゼノンがそう説明すると、アルスはゼノンを指さして口をパクパクとさせている。ちょっと面白いわね。
「あの…聖女様……」
周りの生徒の1人が私に話しかけてきた。直ぐに私は聖女モードにきりかえる。
「どうしたのですか?」
私は柔らかい笑顔を浮かべて答える。
こうでもしないと聖女や協会のイメージに関わるから大変なんだよね…。
「あの……失礼なんですが、あの方と聖女様のご関係は…?」
「彼は私、そして勇者アルスと同じ村で育った同郷です」
そして私の初恋の相手なんです!とは言いたいけど言えない。
「はっ!そうだ!!てめぇは無加護だろ!?なぜここにいる!!」
そういえばそうだ。ここは王国で最難関の学校なのに。ゼノンが無加護だということで周囲がさらにざわつき始めた。
「いや、ここにいる理由なんて1つしかないだろ?ここに通うんだよ。生徒として」
「は!?なんでお前が!!?」
アルスが声を荒らげて威嚇するけどゼノンはまったく億しない。
「いや、編入試験…受かったんだよ」
「「「「え!!?」」」」
ゼノンの発言をきっかけに周りから様々な声が上がる。
「ってことはあの噂は本当だったのか!?」
「無加護が編入試験で貴族のユリアムを倒したって言う!?あの!?」
え!?今…なんて……。
「いや、まさか!」「それ以外に考えられんのかよ!?」
「それでEクラスってとこ探してんだけど知ってるか?」
ゼノンは周りのことなんて気にもせずに私たちに話しかけてくる。
「え、えぇ。ここの真上よ」
「そうか。ありがとなミオ!会えて嬉しかった。またな!」
「え!?ゼノン!?」
嘘でしょ…。行っちゃった……。え!?行く!?告白の返事は!?
でも…、さっき触れたゼノンの手すごくマメだらけでボコボコで硬かった。
本当に無加護で特別な力もなく合格したと言うならゼノンはどれぐらい努力したんだろう?
「~~~!!!行くぞ!!!」
「あ、うん」
アルスの声でそれぞれが自分たちのクラスへと入っていく。私達も再びSクラスを目指す。
「ゼノン~~!!」
この時の私は気づかなかった。アルスの顔が歪んでいることに。
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