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0回目〈5〉side Y
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2011年3月22日、木曜日。
今日は6年生の先輩達の卒業式だ。
一組から出席番号順で呼ばれる。みんなスーツや袴を着て、緊張した顔で卒業証書を受け取っている。
(あ、春ちゃん。)
黄緑色の袴を着た春ちゃんの番になった。じーっと見ていたらふと目が合った。
気のせいじゃなかったらこっちを見て笑ってくれた気がした。
笑った顔が晃人君にそっくりだ。
(この式が終わって、明日登校したら春休み。このクラスとも本当にお別れだなぁ。)
そんなことを思いながらボーっとしていたらいつの間にか合唱が終わって式が終了していた。
ゾロゾロ背の順で教室に帰る途中、万理華ちゃんに話しかけられた。
「結ちゃん、今日このあと何か用事ある?」
「…ないけど。」
「じゃあ、放課後、ちょっと待ってて。」
「…?」
なんだか心がモヤモヤする。
私の無視のキッカケになった万理華ちゃん。女子でどういうやり取りがあって、そうなったのかわからないけれど何だかちょっと怖い。
もう明日で学校も終わり。そのあとすぐ引越しだから、待たないで帰ることも出来る。
どうしよう。
帰りのホームルームの間、頭の中でぐるぐる考えて、帰ろうか帰らないか迷っていたら万理華ちゃんに声をかけられてしまった。
「行こっか。」
クラスの何人かがギョッとした目でこっちを見ていた。
◇◇◇
ああ、ここ、私が過呼吸になった公園だ。
サワサワサワ。
桜の木が風に吹かれて花びらを撒き散らしている。そして、一際大きい風がざぁっと吹いた時、万理華ちゃんが口を開いた。
「ずっと話したいと思ってたんだけど。」
「うん。」
「あんな事になっちゃってごめんね。私、皆があんな事するとは思ってなくて。」
嘘だ。
だって、クラスの中心は万理華ちゃんだから。例え無視し始めたのが他の子だとしても、万理華ちゃんがやめるように言えば皆逆らえないはず。
黙っていたら、万理華ちゃんがこう言った。
「だから、私のせいじゃないからね。」
は?それを言いたくて、わざわざ呼び出したの?
「ところで、結ちゃんって、晃人と春先輩と仲良いんだね。」
万理華ちゃんはいつもクラスの何人かの男子を呼び捨てにする。ちょっと目立っていて、カッコイイ男の子。それ以外の子の名前は苗字すら呼んでいるのを見たことがない。
「え。別にそんなことないけど。」
何となく。
何となく万理華ちゃんに言ってしまったら、3人で過ごした大切な時間が塗りつぶされちゃうような気がして、咄嗟にそんなことないと言ってしまった。
「ふーん、そうなの?この前駄菓子屋さんで3人でいるのを見かけたけど。」
「たまたま会って、少し話しただけだから。」
何でこの子にそんなこと話さなきゃいけないんだろう。なんだかイライラした。
「えー、良かった。私が昔から晃人のこと好きなのは勿論知ってるよね?だから、あんまり近づかないで欲しいの。」
ああ。なるほどね。
この子、これが言いたかったのか。
「先生が明日言うと思うけど。私、6年生から違う町に引っ越すから。だからもう会う機会もないと思うよ。」
すると、明らかに万理華ちゃんの顔色が変わった。少し興奮して、すごく嬉しそうだ。
あー、私、この子に心底嫌われていたんだな。
「えー、そうなの?残念。そっか、わかったよ。じゃあ明日でお別れだね。」
と全然残念じゃなさそうに言われた。
そう。先生も私が虐められていたのを把握していたから、ギリギリまで転校する事を言わないつもりだったらしい。
「うん。そろそろいいかな?あんまり遅くなると、ママが心配するから。」
本当はまだ心配しないだろうけど、早くここから去りたい。
「もちろん。じゃあバイバーイ。」
万理華ちゃんはなんだかテンションがいつもより高く満足そうだった。
◇◇◇◇
翔は生後4ヶ月になった。ずっとフニャフニャだったけれど最近やっと首が座ってきて、うつ伏せで動けるようになった。生まれたばっかりの頃は痩せてたけれど、今はプニプニしててとても可愛い。
ママは夜間に授乳をしているから最近いつもグッタリしている。
今日はママが疲れていたので夕飯は私が大葉とシラスのパスタを作ってあげた。
フライパンでパスタに塩とオリーブオイルを入れて茹でて、大葉と釜揚げシラスと大根おろしを載せて醤油をかけるだけだからとっても簡単なんだけどね。
最近夕飯を担当することも増えてレパートリーも充実してきている。パソコンでレシピ検索して、気に入ったやつは印刷してファイルに入れるようにしている。
パスタを作ったらパパもママもとっても喜んでくれた。食後に食器を洗うのはパパがやってくれた。
ご飯を食べ終わって何となく万理華ちゃんのことを思い出してモヤモヤしたので、パソコンを開いたら晃人君からメールがきていた。
『明日、学校終わったらうちに遊びに来れる? 晃人』
やった!大急ぎで返事を打つ。
『行けるよ! 結』
一気にモヤモヤが吹っ飛んだ。私って単純かも。
今日は6年生の先輩達の卒業式だ。
一組から出席番号順で呼ばれる。みんなスーツや袴を着て、緊張した顔で卒業証書を受け取っている。
(あ、春ちゃん。)
黄緑色の袴を着た春ちゃんの番になった。じーっと見ていたらふと目が合った。
気のせいじゃなかったらこっちを見て笑ってくれた気がした。
笑った顔が晃人君にそっくりだ。
(この式が終わって、明日登校したら春休み。このクラスとも本当にお別れだなぁ。)
そんなことを思いながらボーっとしていたらいつの間にか合唱が終わって式が終了していた。
ゾロゾロ背の順で教室に帰る途中、万理華ちゃんに話しかけられた。
「結ちゃん、今日このあと何か用事ある?」
「…ないけど。」
「じゃあ、放課後、ちょっと待ってて。」
「…?」
なんだか心がモヤモヤする。
私の無視のキッカケになった万理華ちゃん。女子でどういうやり取りがあって、そうなったのかわからないけれど何だかちょっと怖い。
もう明日で学校も終わり。そのあとすぐ引越しだから、待たないで帰ることも出来る。
どうしよう。
帰りのホームルームの間、頭の中でぐるぐる考えて、帰ろうか帰らないか迷っていたら万理華ちゃんに声をかけられてしまった。
「行こっか。」
クラスの何人かがギョッとした目でこっちを見ていた。
◇◇◇
ああ、ここ、私が過呼吸になった公園だ。
サワサワサワ。
桜の木が風に吹かれて花びらを撒き散らしている。そして、一際大きい風がざぁっと吹いた時、万理華ちゃんが口を開いた。
「ずっと話したいと思ってたんだけど。」
「うん。」
「あんな事になっちゃってごめんね。私、皆があんな事するとは思ってなくて。」
嘘だ。
だって、クラスの中心は万理華ちゃんだから。例え無視し始めたのが他の子だとしても、万理華ちゃんがやめるように言えば皆逆らえないはず。
黙っていたら、万理華ちゃんがこう言った。
「だから、私のせいじゃないからね。」
は?それを言いたくて、わざわざ呼び出したの?
「ところで、結ちゃんって、晃人と春先輩と仲良いんだね。」
万理華ちゃんはいつもクラスの何人かの男子を呼び捨てにする。ちょっと目立っていて、カッコイイ男の子。それ以外の子の名前は苗字すら呼んでいるのを見たことがない。
「え。別にそんなことないけど。」
何となく。
何となく万理華ちゃんに言ってしまったら、3人で過ごした大切な時間が塗りつぶされちゃうような気がして、咄嗟にそんなことないと言ってしまった。
「ふーん、そうなの?この前駄菓子屋さんで3人でいるのを見かけたけど。」
「たまたま会って、少し話しただけだから。」
何でこの子にそんなこと話さなきゃいけないんだろう。なんだかイライラした。
「えー、良かった。私が昔から晃人のこと好きなのは勿論知ってるよね?だから、あんまり近づかないで欲しいの。」
ああ。なるほどね。
この子、これが言いたかったのか。
「先生が明日言うと思うけど。私、6年生から違う町に引っ越すから。だからもう会う機会もないと思うよ。」
すると、明らかに万理華ちゃんの顔色が変わった。少し興奮して、すごく嬉しそうだ。
あー、私、この子に心底嫌われていたんだな。
「えー、そうなの?残念。そっか、わかったよ。じゃあ明日でお別れだね。」
と全然残念じゃなさそうに言われた。
そう。先生も私が虐められていたのを把握していたから、ギリギリまで転校する事を言わないつもりだったらしい。
「うん。そろそろいいかな?あんまり遅くなると、ママが心配するから。」
本当はまだ心配しないだろうけど、早くここから去りたい。
「もちろん。じゃあバイバーイ。」
万理華ちゃんはなんだかテンションがいつもより高く満足そうだった。
◇◇◇◇
翔は生後4ヶ月になった。ずっとフニャフニャだったけれど最近やっと首が座ってきて、うつ伏せで動けるようになった。生まれたばっかりの頃は痩せてたけれど、今はプニプニしててとても可愛い。
ママは夜間に授乳をしているから最近いつもグッタリしている。
今日はママが疲れていたので夕飯は私が大葉とシラスのパスタを作ってあげた。
フライパンでパスタに塩とオリーブオイルを入れて茹でて、大葉と釜揚げシラスと大根おろしを載せて醤油をかけるだけだからとっても簡単なんだけどね。
最近夕飯を担当することも増えてレパートリーも充実してきている。パソコンでレシピ検索して、気に入ったやつは印刷してファイルに入れるようにしている。
パスタを作ったらパパもママもとっても喜んでくれた。食後に食器を洗うのはパパがやってくれた。
ご飯を食べ終わって何となく万理華ちゃんのことを思い出してモヤモヤしたので、パソコンを開いたら晃人君からメールがきていた。
『明日、学校終わったらうちに遊びに来れる? 晃人』
やった!大急ぎで返事を打つ。
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