『私』の願いとその代償。

ブー横丁

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0回目〈4〉side Y

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 午前11時47分。弟の翔(かける)が産声をあげた。
 ついさっき、ママがいきんでいる間、パパが何故か手じゃなくて腕に手を置いたら、
 「パパ、重たい!どけて!」
ってママに本気で怒られていて笑ってしまった。

 出産って初めて見たけど不思議だなぁ。ずっとお腹の膨らみは見ていたけれどちゃん小さい目と鼻と口がついていて何だか感動してしまう。
 ママは疲れてぐったりしているが、ホッとした顔だ。

 産湯に入れるために助産師さんが翔を連れていったので3人で団欒する。パパがは会社のお昼休みとかにお見舞いに来ていたみたいだけど、3人で話すのは久しぶりだ。

「ママ、お疲れ様。大変だったね。」

「結。ありがとう。長い間家を空けてごめんね。ママ、あと少しで翔と帰るよ。」
もう少しでまたみんなで暮らせるんだと思うとそれだけで何だか胸がいっぱいだ。

「パパとパソコンでレシピ調べて、ご飯いっぱい作ったんだよ。帰って来たらママに作ってあげる。」
帰って来たら二週間は産褥期でなるべくゆっくりした方がいいみたい。
 この前ネットで調べたレンチンで出来る豚と白菜の重ね蒸しをつくってあげたいな。

「この2ヶ月で随分成長したね。すっかりお姉さんになって。」
なんだかママが涙ぐんでいる。

「この前はお見舞いに友達も連れて来てくれたし。転勤族だから、引っ越しばかりで申し訳なく思ってたけど、本当に嬉しかった。」
その言葉に笑顔で答える。

「うん、困ってる時に助けてくれた、本当に大切な友達なんだ!!」

◇◇◇

 2010年12月24日、土曜日、パパとママと翔とこの日は家族で『みらいなか通り』のクリスマス市に行った。

 翔がベビーカーから不思議そうにキラキラ光るイルミネーションを見ている。
 
 綺麗だなぁ。

 ここ、ずっと来たかったんだよね。パパはホットワイン、ママと私はココアを飲みながら出店を歩く。

 途中の出店で、グリーンのヨーロッパの街並みが掘られた素敵なカップと、可愛い木製のイヤリングがあったので、晃人くんと春ちゃんにお土産で買った。
 パパの車で帰る途中、村永家に寄ってもらった。
『ピンポーン』と呼び鈴を鳴らす。

「え?!結ちゃん?!な、なんで。」
慌てた様子で晃人君が出てきてくれた。春ちゃんはお友達の家でクリスマスパーティーらしい。

「これ。さっきクリスマス市に行ってきたんだ。晃人くんと春ちゃんにお土産。」
そう言って包みを渡すとめちゃくちゃ喜んでくれた。

「ありがとう。本当は俺もこれ、渡そうと思ってたんだけど。」
そう言って可愛い白いクマのぬいぐるみをくれた。 
 首の赤いリボンの真ん中にはハート型の何かの石で作った可愛い飾りがついている。

「可愛い!これ晃人君が選んでくれたの?」
「うん。なんか、真ん中のそれ。パワーストーンなんだって。」
「嬉しい、大事にする!えー、本当ありがとう!」
話し込んでいたらパパとママに車の窓からそろそろ行くよと言われた。よく見たら翔がぐずっている。

「ごめん!本当にありがとう!メールするね。」

車の窓から外を見たら、晃人君が手を振っててくれた。
 車の中でぬいぐるみをギュッとしながらなんだかニヤニヤしてしまった。
 これから毎日この子と一緒に寝ようっと。

◇◇◇◇

 それから、あっという間に3月になった。あれからもずっと週に1~2回、晃人くんと春ちゃんと遊んでいる。

 ママが元気になってから、短い時間だけれど何度かうちにも遊びに来た。
 
 晃人くんと春ちゃんのお母さんが気を遣ってお惣菜を何品かフリーザーバッグに入れて持たせてくれた。チャーシューに、味玉に、茹でたほうれん草とポテトサラダ。ラーメンがこれで直ぐに出来るから嬉しいな。

 二人とも恐る恐る翔に触って、指を握り返してもらうとパッと笑顔になった。

 パパの転勤先は『みらいなか市』から200キロほど離れた、2つ隣の県の海沿いの街、『ときのうみ町』に決まった。

 田舎だけれど、小さい翔の成長はのびのびと見守れそうだ。

 本当は晃人くんと一緒に卒業したかったけれど、色々あったからなぁ。

 この街から離れられて嬉しい気持ちと寂しい気持ちがごちゃ混ぜだ。

 2人はときのうみ町に絶対遊びに行くからねって約束してくれた。引越し先の街をきちんと案内出来るように早く慣れないとなぁ。
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