『私』の願いとその代償。

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 2024年6月29日土曜日。

 今日の『みらいなか市』は透き通るような青空がとても美しい。雲一つない快晴である。

 今日は村永晃人(むらながあきと)と『あの子』の結婚式だ。

 私達が青春を過ごしたこの街。天気予報は雨だったのに、まるで2人の門出を祝福しているようで、胸がちくりと痛む。

 白亜の美しい教会が色とりどりの花で埋め尽くされていて圧巻である。

 『私』は大好きだった彼と、『あの子』がバージンロードを歩くのを笑顔で見つめる。

 真っ白な衣装に包まれた『あの子』は悔しいけれど、とても綺麗だ。

 来賓客が感極まった様子で薔薇の花びらを撒き散らす。

「おめでとう!2人とも!」
「小学校の時から、ずーっと好きだったもんね。」
「本当に良かったね。」

皆一様にお祝いの言葉を囁く。
 その言葉達がボンヤリと『私』の耳をすり抜けて行く。

「本日 私たちは 皆さまの前で 結婚の誓いをいたします。」
 ヒューっと誰かが口笛を吹き、皆が幸せそうに笑う。
 そして、2人が世界一幸せそうな顔で誓いのキスをした。

 その瞬間『私』の中が諦めとどうしようも出来ない気持ちで埋め尽くされる。

 どうして。どうして。どうして。『私』が彼と結ばれるはずだったのに。

 しかし、『私』は弾けんばかりの笑顔でずっと拍手をする。このドロドロとした陰鬱な気持ちなど存在しないかのように。

(ああ。これがきっと、『私』があんな事を願ってしまった本当の代償なんだ。)

 愛おしい人が自分以外の『あの子』と幸せになるのを見つめながら、心の中で絶望する。

 テーブルの上にはとても豪華な料理で埋め尽くされている。

 雲丹のムースにローストビーフ。夏野菜のゼリー寄せに伊勢海老のスープ。シーフードのアヒージョにジェノベーゼのパスタ。生ハムとブルスケッタに数種類のチーズと鮮やかなフルーツ。それに並々と注がれる黄金色のスパークリングワイン。

 とても美味しいはずなのに、どれを食べてもまるで砂を噛んでいるかのようだ。

(『私』は、一生、自分の意志で幸せになるのを諦めながら生きていかなきゃいけないのかな。)

 仕方ないのかもしれない。『私』はそれだけのことをきっとしてしまったのだから。

 だから、悔しいし、悲しいけれど、2人が幸せになることを祈ろう。

 きっと、それが私なりの贖罪となるのならば。

 『私』はようやく幸せになる2人を前に心から諦める事が出来た。

 そして、やっと、2人の幸せを祈る事が出来たのだった。

(どうか彼の事を、幸せにしてあげて。)
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