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閑話 思考を飲み込む宵闇 ウユリ
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窓から見える景色は思いのほか悪い。
それはまあ、昼間に外に出た時にわかっていたことではあった。あの気味の悪い紫色の霧。しかしあれがある程度の人払いになっているのであろうこともまた、事実だろう。人類の敵、殺されかねない存在になってしまった今となってはありがたいことだ。
部屋にいると泣きそうだったから、外に出てきた。立派なお城は石造りで、なんだか冷たくて寂しい。家に帰りたいな。お母さんの料理が食べたい。やっぱり泣きそうだ。
クロエの言っていたことを思い出しながら漏れるため息は重苦しかった。
死ぬのか。
あまり、はっきりと認識ができているわけではないのかもしれない。怖いとは、あまり感じていなかった。
死ぬのと、殺すの。どちらがマシだろうと考えたとき、私はあまり悩まずに殺す方だという答えを出した。ひどい人間だな。自分でもそう思う。だからみんなには、絶対に言わない。みんなに嫌われることは、それこそ死ぬよりもずっと嫌だった。殺して、みんなに怖がられるのも嫌。だけど、みんなが死んでいくのを見るのは、その何億倍も嫌だった。
だけど、みんなは優しいから、きっと殺すなんてことはできないんじゃないかなと思う。なら、やっぱり私がやらなきゃいけない。クーちゃんなら、とか考えないでもないけどそれはなぁ、と思ってしまう。
すごく可愛い子だ、と思う。知識とか、喋り方とか。そういうものは魔王、遥くん先輩の生贄になる時に叩き込まれたと言っていただけあって、大人みたい。だけど、見せる表情は私たちよりずっと幼く見えた。幼く見えて、それがすごく可愛くて、ずるいなぁって思ってしまった。ちょっと、情けない。私たちのせいでこんなところに一人で来させられたのに、私たちを助けようとしてくれている。どうしようもなく、いい子だった。
私は魔法が使えるらしい。向こうにいた時にそうだったなら、飛び跳ねてきゃあきゃあ行っていたと思う。でも、この世界はそんなこと許してくれそうにもない。魔女が使えるのは、攻撃魔法だけなのだという。つまり――殺すための魔法。それならやっぱり、私が汚れ役になればいいかと思う。直接手を下すわけじゃない分、他のみんなよりは精神的に楽なはず。どうしようもなくなったら、覚悟を決めなければいけない。出来るかどうかはわからないけど、やらなきゃいけないんだろう。出来るかどうかじゃない。やるかやらないか。二つに一つ、どこまでも救いのない選択肢だ。
『たとえこの手、汚しても。守りたいものがあるから』
あの歌詞を考えたとき、こんなことになるとは予想もしていなかった。当たり前でしょ? 誰が異世界転生するなんて予想できるのか。していたらそれは重度の中二病で、ヤバい奴だ。
なんで私たちがこんなことに。理由を聞いたところで、納得はできないだろうけど。
霧の中に微かに見える月は、いつも見ていたものと何一つ変わらないように見えた。
それはまあ、昼間に外に出た時にわかっていたことではあった。あの気味の悪い紫色の霧。しかしあれがある程度の人払いになっているのであろうこともまた、事実だろう。人類の敵、殺されかねない存在になってしまった今となってはありがたいことだ。
部屋にいると泣きそうだったから、外に出てきた。立派なお城は石造りで、なんだか冷たくて寂しい。家に帰りたいな。お母さんの料理が食べたい。やっぱり泣きそうだ。
クロエの言っていたことを思い出しながら漏れるため息は重苦しかった。
死ぬのか。
あまり、はっきりと認識ができているわけではないのかもしれない。怖いとは、あまり感じていなかった。
死ぬのと、殺すの。どちらがマシだろうと考えたとき、私はあまり悩まずに殺す方だという答えを出した。ひどい人間だな。自分でもそう思う。だからみんなには、絶対に言わない。みんなに嫌われることは、それこそ死ぬよりもずっと嫌だった。殺して、みんなに怖がられるのも嫌。だけど、みんなが死んでいくのを見るのは、その何億倍も嫌だった。
だけど、みんなは優しいから、きっと殺すなんてことはできないんじゃないかなと思う。なら、やっぱり私がやらなきゃいけない。クーちゃんなら、とか考えないでもないけどそれはなぁ、と思ってしまう。
すごく可愛い子だ、と思う。知識とか、喋り方とか。そういうものは魔王、遥くん先輩の生贄になる時に叩き込まれたと言っていただけあって、大人みたい。だけど、見せる表情は私たちよりずっと幼く見えた。幼く見えて、それがすごく可愛くて、ずるいなぁって思ってしまった。ちょっと、情けない。私たちのせいでこんなところに一人で来させられたのに、私たちを助けようとしてくれている。どうしようもなく、いい子だった。
私は魔法が使えるらしい。向こうにいた時にそうだったなら、飛び跳ねてきゃあきゃあ行っていたと思う。でも、この世界はそんなこと許してくれそうにもない。魔女が使えるのは、攻撃魔法だけなのだという。つまり――殺すための魔法。それならやっぱり、私が汚れ役になればいいかと思う。直接手を下すわけじゃない分、他のみんなよりは精神的に楽なはず。どうしようもなくなったら、覚悟を決めなければいけない。出来るかどうかはわからないけど、やらなきゃいけないんだろう。出来るかどうかじゃない。やるかやらないか。二つに一つ、どこまでも救いのない選択肢だ。
『たとえこの手、汚しても。守りたいものがあるから』
あの歌詞を考えたとき、こんなことになるとは予想もしていなかった。当たり前でしょ? 誰が異世界転生するなんて予想できるのか。していたらそれは重度の中二病で、ヤバい奴だ。
なんで私たちがこんなことに。理由を聞いたところで、納得はできないだろうけど。
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