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雑魚キャラの行動パターンは単純

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 今考えていることや、今日の出来事が消えてしまうかもしれない。

 そう考えた時に、僕はまた更に怖くなり、どうにかして今日の出来事を明日以降の僕に伝えたいと思った。

 まずはパソコンのデスクトップに「明日の僕へ」というファイルを作り、そこに先ほど書き出したものを全部コピペして、更に箇条書きで日記っぽいものを書き足した。
 念の為、無料で利用しているクラウドデータサービスにもアップロードしてくことにする。

 もしかして、先々週からのことを既にアップしてあったりして。少しでも気持ちに余裕を持ちたくて、かっこ笑い、的な気分でクラウドネットワーク上に保存してあるファイルの一覧を確認してみた。
 実際には何の期待もしてなかったのだけど……

「マジですかいなぁ……」

 独り言が、どこの方言だよと突っ込みたくなるような、普段使わない語尾にもなろうというものだ。
 さっき姉ちゃんに見せられた僕のヘンテコな顔の写真が数枚と、「何の意味もないファイル」というタイトルのテキストファイルが金曜日の夜のタイムスタンプで保存されていたのだった。

「何の意味もないファイル」曰く、僕はメガネくんと「世界のバグ」について調べているうちに記憶の一部を失ってしまった可能性がある、というような事が書いてあった。
 その上で、これから「テレビの中にあるものを取り出す」という検証をすると書かれていて、我ながらバカかよと思ってしまった。
 いや、一週間以上の記憶がなくなってしまっている今、その「世界のバグ」というのは本当にあるんだろうなとは思う。今は既にフィックスされてしまってるかも知れないけど。
 僕がバカだなと思ったのは、記憶を失ったかも、という状況認識ができているにも関わらず、更なる検証をしようと思ったその判断だ。
 本当、遠見慧はバカな男だ。

 そう、僕はバカなのだ。
 でも、バカはバカなりに考えて、自分の習性をあてにして、記憶を失った時に備えていたわけだ。
 そう考えながら、カバンの脇にあるポケットに手を突っ込むと、そこには紙でできたメガネと、何枚かのメモが入っていた。
 メモは片面に1から8までの数字が書かれているけど、他には何も書かれていない。でも、光に透かして見ると字が書いてあったような跡が見える。いつかテレビで見たように、鉛筆で全体的に薄く塗っていくと1の裏面には「運営の許可したバグ」と書かれていた事が分かったのだった。

 僕はもう、色々と思い出していた。欠けていたものがカチッとはまって……なんというか、無くしてたピースが見つかってジグソーパズルが完成した感じと言えばいいだろうか。
 だから、当然のようにバグ技を試し、まだ使えることを確認しておいた。
 運営かみはこの不具合を修正するつもりはないらしい。だけど、不正利用には断罪きおくしょうきょが下る、ということなんだろうね。

 それと、今回のことで分かったのは、運営の人はインターネット技術? で飛ばした先の情報に関して無頓着、または、そこまで見る事ができないのではないか、ということだった。
 今回僕が記憶を取り戻したことによって、次からはクラウドに保存してるデータも、メールで誰かに送った内容も消されるようになるかも知れない。
 そんな懸念材料もあるけど、それでもバグを知ってしまった以上、このバグでどんなことができるかとか、他にも「世界のバグ」があるんじゃないかとか、この期待感への好奇心は止められそうにない。

 でも、だ。
 テレビの映像から物を取り出すのは禁忌だということはさすがに覚えた。
 今回の記憶消去は二回目だからかなり強めに行われたんだろうと思う。次は記憶じゃなくて、僕自身が消されてしまうかも知れない。それは失踪として扱われるのかも知れないし、神隠しと呼ばれるかも知れないし、それとも、そもそも僕という人間がいたという事実ごと消されてしまうのかも知れない。
 前回、今回の記憶消去を鑑みるに、きっと色々と僕の痕跡が残ってしまって神隠し的な消え方になるんじゃないだろうか、と予想する。
 そんな消え方をしたら、残った人に迷惑というか心配をかけてしまう。だから、やったらダメなこと、ダメそうなこと、の線引きは重要になりそうだ。

 とりあえず、テレビから物を取り出すことがダメな件について考えてみる。が、これは何となくだけど分かる気がしている。

 思うに、テレビから物を取り出すという行為は、本来は物理的に存在しないものを、現実に、物体として創り出してしまう・・・・・・・という結果が問題なんじゃないだろうか。
 例えば録画放送の番組があったとして、その番組が表示してるものは、番組放送時には既に現実世界に物理的に存在していない場合、それを僕がテレビの画面から取り出したなら、僕はテレビの一瞬の画像から、物理的な何かを創造してしまったことになる。
 よくよく考えてみれば、これは神の所業だ。
 目に見える範囲に存在しているものを手元の空気と交換する、というのと比べると、その結果に大きな違いがあることがわかる。

 この世界には、一応、質量保存の法則とか言って、化学反応や、エネルギーでさえも総質量は変化しない、というルールが見つかってる訳で、例えば、火を起こすのだって何もないところに火が生み出されてる訳じゃなくて、発火する条件きっかけ酸素ざいりょうがあって、その結果、酸素が消えて二酸化炭素が生み出されたり、何かに火を着けたのなら、火が燃えたということに対して、焼けたという焦げ跡が作られる。
 正直なところ、全部が全部、完全に等価交換的に世の中の質量がずっと同じに保たれているとは思えないのだけど、やはり、存在しない物を生み出す、というのはバランスが取れてなければ認められないんだろうと思う。
 生放送ならどうだろうか、という思いは残るけど……試すのはやめておこう。

 で、このバグの恐ろしいところは、たぶん、テレビから物が取り出せてしまう、という所にあるのだと思う。
 まったく記憶に残ってないけど、僕の記憶が消された、というその事実が、映像に対するバグが成功したという証拠になるからだ。
 できないのなら、試したところで何も取り出せない訳だから記憶が消される理由がない訳だしね。
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