20 / 24
雑魚キャラの行動パターンは単純
しおりを挟む
今考えていることや、今日の出来事が消えてしまうかもしれない。
そう考えた時に、僕はまた更に怖くなり、どうにかして今日の出来事を明日以降の僕に伝えたいと思った。
まずはパソコンのデスクトップに「明日の僕へ」というファイルを作り、そこに先ほど書き出したものを全部コピペして、更に箇条書きで日記っぽいものを書き足した。
念の為、無料で利用しているクラウドデータサービスにもアップロードしてくことにする。
もしかして、先々週からのことを既にアップしてあったりして。少しでも気持ちに余裕を持ちたくて、かっこ笑い、的な気分でクラウド上に保存してあるファイルの一覧を確認してみた。
実際には何の期待もしてなかったのだけど……
「マジですかいなぁ……」
独り言が、どこの方言だよと突っ込みたくなるような、普段使わない語尾にもなろうというものだ。
さっき姉ちゃんに見せられた僕のヘンテコな顔の写真が数枚と、「何の意味もないファイル」というタイトルのテキストファイルが金曜日の夜のタイムスタンプで保存されていたのだった。
「何の意味もないファイル」曰く、僕はメガネくんと「世界のバグ」について調べているうちに記憶の一部を失ってしまった可能性がある、というような事が書いてあった。
その上で、これから「テレビの中にあるものを取り出す」という検証をすると書かれていて、我ながらバカかよと思ってしまった。
いや、一週間以上の記憶がなくなってしまっている今、その「世界のバグ」というのは本当にあるんだろうなとは思う。今は既にフィックスされてしまってるかも知れないけど。
僕がバカだなと思ったのは、記憶を失ったかも、という状況認識ができているにも関わらず、更なる検証をしようと思ったその判断だ。
本当、遠見慧はバカな男だ。
そう、僕はバカなのだ。
でも、バカはバカなりに考えて、自分の習性をあてにして、記憶を失った時に備えていたわけだ。
そう考えながら、カバンの脇にあるポケットに手を突っ込むと、そこには紙でできたメガネと、何枚かのメモが入っていた。
メモは片面に1から8までの数字が書かれているけど、他には何も書かれていない。でも、光に透かして見ると字が書いてあったような跡が見える。いつかテレビで見たように、鉛筆で全体的に薄く塗っていくと1の裏面には「運営の許可したバグ」と書かれていた事が分かったのだった。
僕はもう、色々と思い出していた。欠けていたものがカチッとはまって……なんというか、無くしてたピースが見つかってジグソーパズルが完成した感じと言えばいいだろうか。
だから、当然のようにバグ技を試し、まだ使えることを確認しておいた。
運営はこの不具合を修正するつもりはないらしい。だけど、不正利用には断罪が下る、ということなんだろうね。
それと、今回のことで分かったのは、運営の人はインターネット技術? で飛ばした先の情報に関して無頓着、または、そこまで見る事ができないのではないか、ということだった。
今回僕が記憶を取り戻したことによって、次からはクラウドに保存してるデータも、メールで誰かに送った内容も消されるようになるかも知れない。
そんな懸念材料もあるけど、それでもバグを知ってしまった以上、このバグでどんなことができるかとか、他にも「世界のバグ」があるんじゃないかとか、この期待感への好奇心は止められそうにない。
でも、だ。
テレビの映像から物を取り出すのは禁忌だということはさすがに覚えた。
今回の記憶消去は二回目だからかなり強めに行われたんだろうと思う。次は記憶じゃなくて、僕自身が消されてしまうかも知れない。それは失踪として扱われるのかも知れないし、神隠しと呼ばれるかも知れないし、それとも、そもそも僕という人間がいたという事実ごと消されてしまうのかも知れない。
前回、今回の記憶消去を鑑みるに、きっと色々と僕の痕跡が残ってしまって神隠し的な消え方になるんじゃないだろうか、と予想する。
そんな消え方をしたら、残った人に迷惑というか心配をかけてしまう。だから、やったらダメなこと、ダメそうなこと、の線引きは重要になりそうだ。
とりあえず、テレビから物を取り出すことがダメな件について考えてみる。が、これは何となくだけど分かる気がしている。
思うに、テレビから物を取り出すという行為は、本来は物理的に存在しないものを、現実に、物体として創り出してしまうという結果が問題なんじゃないだろうか。
例えば録画放送の番組があったとして、その番組が表示してるものは、番組放送時には既に現実世界に物理的に存在していない場合、それを僕がテレビの画面から取り出したなら、僕はテレビの一瞬の画像から、物理的な何かを創造してしまったことになる。
よくよく考えてみれば、これは神の所業だ。
目に見える範囲に存在しているものを手元の空気と交換する、というのと比べると、その結果に大きな違いがあることがわかる。
この世界には、一応、質量保存の法則とか言って、化学反応や、エネルギーでさえも総質量は変化しない、というルールが見つかってる訳で、例えば、火を起こすのだって何もないところに火が生み出されてる訳じゃなくて、発火する条件と酸素があって、その結果、酸素が消えて二酸化炭素が生み出されたり、何かに火を着けたのなら、火が燃えたということに対して、焼けたという焦げ跡が作られる。
正直なところ、全部が全部、完全に等価交換的に世の中の質量がずっと同じに保たれているとは思えないのだけど、やはり、存在しない物を生み出す、というのはバランスが取れてなければ認められないんだろうと思う。
生放送ならどうだろうか、という思いは残るけど……試すのはやめておこう。
で、このバグの恐ろしいところは、たぶん、テレビから物が取り出せてしまう、という所にあるのだと思う。
まったく記憶に残ってないけど、僕の記憶が消された、というその事実が、映像に対するバグが成功したという証拠になるからだ。
できないのなら、試したところで何も取り出せない訳だから記憶が消される理由がない訳だしね。
そう考えた時に、僕はまた更に怖くなり、どうにかして今日の出来事を明日以降の僕に伝えたいと思った。
まずはパソコンのデスクトップに「明日の僕へ」というファイルを作り、そこに先ほど書き出したものを全部コピペして、更に箇条書きで日記っぽいものを書き足した。
念の為、無料で利用しているクラウドデータサービスにもアップロードしてくことにする。
もしかして、先々週からのことを既にアップしてあったりして。少しでも気持ちに余裕を持ちたくて、かっこ笑い、的な気分でクラウド上に保存してあるファイルの一覧を確認してみた。
実際には何の期待もしてなかったのだけど……
「マジですかいなぁ……」
独り言が、どこの方言だよと突っ込みたくなるような、普段使わない語尾にもなろうというものだ。
さっき姉ちゃんに見せられた僕のヘンテコな顔の写真が数枚と、「何の意味もないファイル」というタイトルのテキストファイルが金曜日の夜のタイムスタンプで保存されていたのだった。
「何の意味もないファイル」曰く、僕はメガネくんと「世界のバグ」について調べているうちに記憶の一部を失ってしまった可能性がある、というような事が書いてあった。
その上で、これから「テレビの中にあるものを取り出す」という検証をすると書かれていて、我ながらバカかよと思ってしまった。
いや、一週間以上の記憶がなくなってしまっている今、その「世界のバグ」というのは本当にあるんだろうなとは思う。今は既にフィックスされてしまってるかも知れないけど。
僕がバカだなと思ったのは、記憶を失ったかも、という状況認識ができているにも関わらず、更なる検証をしようと思ったその判断だ。
本当、遠見慧はバカな男だ。
そう、僕はバカなのだ。
でも、バカはバカなりに考えて、自分の習性をあてにして、記憶を失った時に備えていたわけだ。
そう考えながら、カバンの脇にあるポケットに手を突っ込むと、そこには紙でできたメガネと、何枚かのメモが入っていた。
メモは片面に1から8までの数字が書かれているけど、他には何も書かれていない。でも、光に透かして見ると字が書いてあったような跡が見える。いつかテレビで見たように、鉛筆で全体的に薄く塗っていくと1の裏面には「運営の許可したバグ」と書かれていた事が分かったのだった。
僕はもう、色々と思い出していた。欠けていたものがカチッとはまって……なんというか、無くしてたピースが見つかってジグソーパズルが完成した感じと言えばいいだろうか。
だから、当然のようにバグ技を試し、まだ使えることを確認しておいた。
運営はこの不具合を修正するつもりはないらしい。だけど、不正利用には断罪が下る、ということなんだろうね。
それと、今回のことで分かったのは、運営の人はインターネット技術? で飛ばした先の情報に関して無頓着、または、そこまで見る事ができないのではないか、ということだった。
今回僕が記憶を取り戻したことによって、次からはクラウドに保存してるデータも、メールで誰かに送った内容も消されるようになるかも知れない。
そんな懸念材料もあるけど、それでもバグを知ってしまった以上、このバグでどんなことができるかとか、他にも「世界のバグ」があるんじゃないかとか、この期待感への好奇心は止められそうにない。
でも、だ。
テレビの映像から物を取り出すのは禁忌だということはさすがに覚えた。
今回の記憶消去は二回目だからかなり強めに行われたんだろうと思う。次は記憶じゃなくて、僕自身が消されてしまうかも知れない。それは失踪として扱われるのかも知れないし、神隠しと呼ばれるかも知れないし、それとも、そもそも僕という人間がいたという事実ごと消されてしまうのかも知れない。
前回、今回の記憶消去を鑑みるに、きっと色々と僕の痕跡が残ってしまって神隠し的な消え方になるんじゃないだろうか、と予想する。
そんな消え方をしたら、残った人に迷惑というか心配をかけてしまう。だから、やったらダメなこと、ダメそうなこと、の線引きは重要になりそうだ。
とりあえず、テレビから物を取り出すことがダメな件について考えてみる。が、これは何となくだけど分かる気がしている。
思うに、テレビから物を取り出すという行為は、本来は物理的に存在しないものを、現実に、物体として創り出してしまうという結果が問題なんじゃないだろうか。
例えば録画放送の番組があったとして、その番組が表示してるものは、番組放送時には既に現実世界に物理的に存在していない場合、それを僕がテレビの画面から取り出したなら、僕はテレビの一瞬の画像から、物理的な何かを創造してしまったことになる。
よくよく考えてみれば、これは神の所業だ。
目に見える範囲に存在しているものを手元の空気と交換する、というのと比べると、その結果に大きな違いがあることがわかる。
この世界には、一応、質量保存の法則とか言って、化学反応や、エネルギーでさえも総質量は変化しない、というルールが見つかってる訳で、例えば、火を起こすのだって何もないところに火が生み出されてる訳じゃなくて、発火する条件と酸素があって、その結果、酸素が消えて二酸化炭素が生み出されたり、何かに火を着けたのなら、火が燃えたということに対して、焼けたという焦げ跡が作られる。
正直なところ、全部が全部、完全に等価交換的に世の中の質量がずっと同じに保たれているとは思えないのだけど、やはり、存在しない物を生み出す、というのはバランスが取れてなければ認められないんだろうと思う。
生放送ならどうだろうか、という思いは残るけど……試すのはやめておこう。
で、このバグの恐ろしいところは、たぶん、テレビから物が取り出せてしまう、という所にあるのだと思う。
まったく記憶に残ってないけど、僕の記憶が消された、というその事実が、映像に対するバグが成功したという証拠になるからだ。
できないのなら、試したところで何も取り出せない訳だから記憶が消される理由がない訳だしね。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
サンタの教えてくれたこと
いっき
ライト文芸
サンタは……今の僕を、見てくれているだろうか?
僕達がサンタに与えた苦痛を……その上の死を、許してくれているだろうか?
僕には分からない。だけれども、僕が獣医として働く限り……生きている限り。決して、一時もサンタのことを忘れることはないだろう。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
病気呼ばわりされて田舎に引っ越したら不良達と仲良くなった昔話
宵
ライト文芸
弁護士の三国英凜は、一本の電話をきっかけに古びた週刊誌の記事に目を通す。その記事には、群青という不良チームのこと、そしてそのリーダーであった桜井昴夜が人を殺したことについて書かれていた。仕事へ向かいながら、英凜はその過去に思いを馳せる。
2006年当時、英凜は、ある障害を疑われ“療養”のために祖母の家に暮らしていた。そんな英凜は、ひょんなことから問題児2人組・桜井昴夜と雲雀侑生と仲良くなってしまい、不良の抗争に巻き込まれ、トラブルに首を突っ込まされ──”群青(ブルー・フロック)”の仲間入りをした。病気呼ばわりされて田舎に引っ越したら不良達と仲良くなった、今はもうない群青の昔話。
旧校舎のフーディーニ
澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】
時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。
困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。
けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。
奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。
「タネも仕掛けもございます」
★毎週月水金の12時くらいに更新予定
※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。
※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。
QA高校ラジオの一刻
upruru
ライト文芸
初めまして。upruruです。初めての小説投稿です。ジャンルは、コメディです。異世界に飛ばされてバトルを繰り広げる事も無ければ、主人公が理由もなく何故か最強キャラという事もありません。登場人物は、ちょっと個性的というだけの普通の人間です。そんな人達が繰り広げる戯れを、友人集団を観察している感覚でお付き合いして頂ければ幸いです。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる