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ブランコにて
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「テレビの映像に手を伸ばしてはいけない」
朝、学校の自分の下駄箱に入っていたのは、丁寧に折りたたまれたレポート用紙が挟まれた、無くしたと思っていたスペアのメガネだった。
そして、その紙には意味不明な一文が書かれていたのだ。
朝から少し気色が悪い。
メガネが戻って来たのは有難い。だが、意味の分からない怪文書とも呼ぶべき一文のため、嬉しい気持ちはすぐに霧散した。
そもそも、このメガネが僕のものだと何故分かったのだろうか。
このメガネを拾った人間は、これが伊達メガネだと気がついてしまっただろうか。
意味の分からない怪文のこともあり、メガネが戻ってきた喜びよりも、何か良くないことが起こりそうな不吉さを感じていた。
そもそも、最近の自分は少しおかしい。
何かを忘れているような気がするのだ。
家と学校と塾を行ったり来たりするだけの毎日に、忘れて困るような何かがあるはずもないのだが。
だが、だからこそ、だろうか。この不吉な手紙には、代わり映えのしない毎日に変化を与えてくれるかもしれない。何故かそんな仄かな期待感も感じさせるのだった。
「いらっしゃいませ」
マスターの声を聞くとそれだけでホッとする。自分はコーヒーを一杯しか頼まないのに長居する良くない客だと思うのだが、マスターはいつも暖かい声で迎え入れてくれる。
塾のない日はこの喫茶店ブランコに来て本を読むことにしている。これも半分ルーチンワークのようなものだが、やらされているのではなく、望んでやっていることだ。
どこの喫茶店もそうなのだろうが、特に席に案内されることはない。いつも座っている席に向かって行くと先客がいて少しガッカリする。
しかも、その先客が学校の図書室の司書であることに気がつき、向こうも自分に気がついてしまったのでさらに気不味くなる。
自分は学校の制服を着ているのだ、向こうがこちらを知らないとしても会釈ぐらいはしておくべきだろう。そう思い、軽く頭を下げておいた。
それから、なるべく彼女の視界に入ならそうな席に座る。今日二つ目の想定外の発生に少し気持ちが高ぶる。着席した自分を見てこちらにやってくるマスターを見ながら、いつも無難に頼んでいるブレンドではなく、今日はビターブレンドかマンデリンを頼んでみようかと思うのだった。
今日は有給を取らされていた私は、学校の終わる時間帯を狙ってブランコに来ていた。わざわざこの時間に来たのは、もちろん遠見くんと偶然会えるかも、という期待があったから。でも、昨日飲んだブレンドコーヒーが美味しかったからもう一度飲みたくて、という理由もある。
昨日の夜、スマホでコーヒーの種類を調べてしまったくらい、ここのコーヒーは本当に私にとって美味しかったのよね。
で、昨日はキラちゃんたちにご馳走するだけになっちゃったプリンアラモードも食べてみたくて、それに合うらしいコーヒーと一緒に頼んでみたってわけ。
「美味しい~」
プリンアラモードはシンプルだけど、昔ながらっぽい豪華な脚付きの横に長いガラスの器盛り付けられていて見た目にも美味しそうなものだったけど、メインの焼きカスタードプリンを口にしてみて、コンビニのプリンとは別格の濃厚な美味しさに幸せな気持ちになる。
アイスと生クリーム、サクランボとウサギさんに飾り切りされたリンゴも載っていて、全部が全部、楽しくて美味しい。
そして合わせて頼んでたマンデリンというコーヒー。たぶん、これだけを飲み続けるのは私にはまたまだ早い代物だと思う。でも、プリン、コーヒー、アイス、コーヒー、生クリーム、コーヒー……幸せのサイクルが完成すると、コーヒーの苦味や深いコク? が甘みをリフレッシュさせてくれる。
そして、私はコーヒーをお代わりすることにした。マスターにマンデリンのお代わりをお願いすると、「もしよろしければこちらを如何ですか」とお勧めされたのはキリマンジャロだった。キリマンってやつね。私でも元々知ってる種類だわ。でも、お勧めしてくれるってことには意味があると思って「じゃあ、それをお願いします」ってお願いしてみたの。
そして、それは大正解だったのでしたまる
という感じで一人ブランコぶらり旅は終わるかと思ってたんだけど、そこでうちの学校の制服の子が入ってきてどきりとする。
今日はコンタクトをしてないから顔が見えない。もしかして? 昨日の今日で? なんてちょっとドキドキしていると私のいる方へやって来る。
そして、そのドキドキは別のドキドキに変わったの。
残念なことに、その子は遠見くんではなかったのだけど、でも、まったく無関係とも言えない子だった。
そう、今、会釈してくれたのは、先々週末、遠見くんと一緒に図書室に来てくれたメガネの子だったから。
やっぱり、遠見くんが覚えていないだけで、遠見くんと彼は何らかの関わりがあった、もしかしたら友達だったんじゃないかな。
そう考えないと、メガネの彼がこのブランコに来る理由を偶然って言葉だけで片付けてしまうのは難しい気がしたから。
朝、学校の自分の下駄箱に入っていたのは、丁寧に折りたたまれたレポート用紙が挟まれた、無くしたと思っていたスペアのメガネだった。
そして、その紙には意味不明な一文が書かれていたのだ。
朝から少し気色が悪い。
メガネが戻って来たのは有難い。だが、意味の分からない怪文書とも呼ぶべき一文のため、嬉しい気持ちはすぐに霧散した。
そもそも、このメガネが僕のものだと何故分かったのだろうか。
このメガネを拾った人間は、これが伊達メガネだと気がついてしまっただろうか。
意味の分からない怪文のこともあり、メガネが戻ってきた喜びよりも、何か良くないことが起こりそうな不吉さを感じていた。
そもそも、最近の自分は少しおかしい。
何かを忘れているような気がするのだ。
家と学校と塾を行ったり来たりするだけの毎日に、忘れて困るような何かがあるはずもないのだが。
だが、だからこそ、だろうか。この不吉な手紙には、代わり映えのしない毎日に変化を与えてくれるかもしれない。何故かそんな仄かな期待感も感じさせるのだった。
「いらっしゃいませ」
マスターの声を聞くとそれだけでホッとする。自分はコーヒーを一杯しか頼まないのに長居する良くない客だと思うのだが、マスターはいつも暖かい声で迎え入れてくれる。
塾のない日はこの喫茶店ブランコに来て本を読むことにしている。これも半分ルーチンワークのようなものだが、やらされているのではなく、望んでやっていることだ。
どこの喫茶店もそうなのだろうが、特に席に案内されることはない。いつも座っている席に向かって行くと先客がいて少しガッカリする。
しかも、その先客が学校の図書室の司書であることに気がつき、向こうも自分に気がついてしまったのでさらに気不味くなる。
自分は学校の制服を着ているのだ、向こうがこちらを知らないとしても会釈ぐらいはしておくべきだろう。そう思い、軽く頭を下げておいた。
それから、なるべく彼女の視界に入ならそうな席に座る。今日二つ目の想定外の発生に少し気持ちが高ぶる。着席した自分を見てこちらにやってくるマスターを見ながら、いつも無難に頼んでいるブレンドではなく、今日はビターブレンドかマンデリンを頼んでみようかと思うのだった。
今日は有給を取らされていた私は、学校の終わる時間帯を狙ってブランコに来ていた。わざわざこの時間に来たのは、もちろん遠見くんと偶然会えるかも、という期待があったから。でも、昨日飲んだブレンドコーヒーが美味しかったからもう一度飲みたくて、という理由もある。
昨日の夜、スマホでコーヒーの種類を調べてしまったくらい、ここのコーヒーは本当に私にとって美味しかったのよね。
で、昨日はキラちゃんたちにご馳走するだけになっちゃったプリンアラモードも食べてみたくて、それに合うらしいコーヒーと一緒に頼んでみたってわけ。
「美味しい~」
プリンアラモードはシンプルだけど、昔ながらっぽい豪華な脚付きの横に長いガラスの器盛り付けられていて見た目にも美味しそうなものだったけど、メインの焼きカスタードプリンを口にしてみて、コンビニのプリンとは別格の濃厚な美味しさに幸せな気持ちになる。
アイスと生クリーム、サクランボとウサギさんに飾り切りされたリンゴも載っていて、全部が全部、楽しくて美味しい。
そして合わせて頼んでたマンデリンというコーヒー。たぶん、これだけを飲み続けるのは私にはまたまだ早い代物だと思う。でも、プリン、コーヒー、アイス、コーヒー、生クリーム、コーヒー……幸せのサイクルが完成すると、コーヒーの苦味や深いコク? が甘みをリフレッシュさせてくれる。
そして、私はコーヒーをお代わりすることにした。マスターにマンデリンのお代わりをお願いすると、「もしよろしければこちらを如何ですか」とお勧めされたのはキリマンジャロだった。キリマンってやつね。私でも元々知ってる種類だわ。でも、お勧めしてくれるってことには意味があると思って「じゃあ、それをお願いします」ってお願いしてみたの。
そして、それは大正解だったのでしたまる
という感じで一人ブランコぶらり旅は終わるかと思ってたんだけど、そこでうちの学校の制服の子が入ってきてどきりとする。
今日はコンタクトをしてないから顔が見えない。もしかして? 昨日の今日で? なんてちょっとドキドキしていると私のいる方へやって来る。
そして、そのドキドキは別のドキドキに変わったの。
残念なことに、その子は遠見くんではなかったのだけど、でも、まったく無関係とも言えない子だった。
そう、今、会釈してくれたのは、先々週末、遠見くんと一緒に図書室に来てくれたメガネの子だったから。
やっぱり、遠見くんが覚えていないだけで、遠見くんと彼は何らかの関わりがあった、もしかしたら友達だったんじゃないかな。
そう考えないと、メガネの彼がこのブランコに来る理由を偶然って言葉だけで片付けてしまうのは難しい気がしたから。
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